27話 新たな刻印
「んで、その犬はどうしたんだよ?」
朝のトレーニングは中止となり、リビングでの会議に変更される。
ルーンも起きてきて参加する。
「夢ん中から勝手に付いて来た!」
俺自身が理解出来てないので、これしか言いようがない。嘘じゃないし。
ゴチッ!!
ゲンコツを貰いました。嘘付いてないのに。
「んなファンタジーみたいな話しある訳ねーだろ!!」
この一言に唖然としてしまった。まさかファンタジーの住人に言われるとは。きっといつぞやの勇者が世に広めたんだろうなぁ。
ファンタジーな世界にファンタジーの物語を広めるとは、出来る事ならその勇者に会ってみたいもんだ。
などと馬鹿な事を考えている場合ではない。嘘ついてもルーンが居るからバレるし、本当の事は信じてもらえない。それこそルーンが嘘はついてないとエリスに言ってくれればいいんだけど、完全にからかいモードに入っていて、笑いを堪えているだけだ。全く酷い。
でも……。これがいつも通りのルーンだ。昨日の事は納得してくれたんだと思う。だから俺も約束通りに今日からは普通に戻る。まだ心は苦しいけど、支えてくれる人が居るのだから。
そんな事を考えながら、もう一度ルーンを見ると今度は和やかに笑っていた。だから俺も笑みを返す。
「お前ら何笑い合ってんだ?質問に答える気あんのか?」
エリスに言われ、忘れかけていた現状を思いだす。今は獣の説明が最優先なんだった。
でも上手い言い訳は考えつかない。
俺がまた考え込むようになると、痺れを切らしたのか、今度は雪に聞いていた。
「ユキお前は知ってんのか?」
「夢の中から連れてきた。」
微妙にニュアンスは違うがほぼ俺と同じ答えだ。でもこれじゃ、エリスは納得してくれない。
「そうか。このまま飼うのか?」
ほらな、流石に雪にゲンコツはしないだろうが……。ん?
「飼ってもいい?」
「あぁ。色々仕込めば使い魔にもなるしな。」
あれ?話し進んでない?
ユ「使い魔?」
ル「そうです。簡単に言えば新しい家族ですね。」
ユ「家族かぁ。」
エ「名前は決まってんのか?」
あれよあれよと話しが進んでいく。納得いかん!!
ラ「ちょっと待ったー!!」
エ「なんだよ?」
ラ「雪の説明って俺と同じだったよね?」
エ「ぼぼな。」
ラ「何で俺ゲンコツ食らったの?」
ル「分からないんですか?」
ラ「全く分かりません!」
エ「お前と違ってユキは馬鹿な事言わないからな。」
その言葉に何も返す事は出来なかった。日頃の行いって奴だろうか。それでも心が痛んだので、後で雪に慰めてもらうとしよう。
ル「ユキちゃん。ランス君が変な事考えてるので気をつけて下さいね。」
ユ「ランスになら何されても大丈夫。」
ルーンの余計な一言も軽く躱した雪は俺に笑顔でそう言っていた。本当に頼りになるパートナーだ。
ラ「じゃ、尻尾もふもふさせてね!」
俺も笑顔でそう返す。エリスとルーンからはヘタレと言葉が飛んでくるが、そんな物は無視だ!!
そんな感じでいつも通りのやり取りをしていると、今まで黙っていた獣が喋りはじめた。
「我の話しも聞いて欲しいのだが。」
そりゃそうだ。事の張本人と言ってもいいのだから、ってかこっちでも喋れたんだ。
獣が喋った瞬間、部屋全体からピシッと音が聞こえ、一瞬だけだが物凄い圧を感じた気がする。
感じたのは雪も一緒なのか、お互いに顔を見て、気のせいじゃないよね?と確認しあう。
エ「ランス……。服を脱げ。」
エリスから発された言葉は場の雰囲気に全く似つかわしくない物だった。
ラ「へっ?」
言われてる事は分かる。だけど理解出来ない。なぜあの空気から脱ぐ羽目になるのか?だからアホみたいな返事をしてしまった。
エ「いいから脱げ。早く。」
ラ「へっ?」
エ「脱がないなら無理矢理脱がすぞ。」
ラ「自分で脱ぎます。」
結局理解も納得も出来ないまま脱ぐ事が決まってしまった。この世界に来てから脱げって言われたの何度目なんだろう。なんて考えていて時間を使うとエリスに脱がされる羽目になるので、渋々だが上から脱ぎ始める。上が脱ぎ終わり、下も脱ごうとした所でルーンから声がかかる。
ル「自信があるのはいい事ですが、流石に雪ちゃんも居るので控えて下さいね。」
ラ「そんな物ないよ!!普通に下は脱がなくていいって言ってよ!!」
俺は顔を赤らめながらルーンに反論する。全くなんて事を言い出すんだこの魔女ママわ!!
ル「大事なのは大きさより気持ちですよ。」
もううなだれるしか無い。何で上半身等の状態でこんな話しをしてるんだろう。悲しくなってきたので、ルーンを無視して雪の方を見ると、別に何事もないような顔で俺の方を見ていた。
ユ「私は気にしないから大丈夫だよ。」
この一言で俺は撃沈した。そして悟った。このやり取りを抜け出すにはエリスに頼るしかないと。だから、今度はエリスの方を見る。
エリスは俺の体を見ながら、少し複雑そうな顔をしていた、何か変な場所でもあるんだろうかと思い、自分でも少し見てみると、左胸の辺りにうっすらと何かの紋様みたいな物が出来ていた。昨日までは確かに無かった筈の形すらもハッキリしない紋様が。
エ「ランス……。それは刻印だ。」
自分の体に出来た紋様に戸惑っていた俺にエリスはそう告げた。「刻印だと。」その言葉に俺は更に戸惑ってしまう、刻印は俺にとっては負の象徴みたいな物だ、右腕の刻印さえ無ければ、雪達は傷つかずに済んだのだから。それに右腕の刻印は確かに無くなった。腕を切られた時に何かが無くなるのを感じたから間違いない。だとしたら、この胸の刻印は何なのか?また悪い事が起きるんじゃないか?俺は王城での出来事を思い出し、心が苦しくなる、せっかく信頼出来る人達と出会い、前を向く気持ちになったのに、刻印のせいで色々と壊れてしまうんじゃないかと。エリスに返事も出来ずに俺は悪い思考に嵌っていた。無意識にただ力強く拳を握りしめていた。
そんな思考に嵌っている俺の拳に暖かさが流れ込んでくる。俺は一旦考えるのをやめて、拳を見てみると、両手で優しく包まれていた、そして言葉がかかる。
「ランス。大丈夫だよ。」
その言葉はとても優しく、力強い物だった。
本当に大丈夫なんじゃないかと思えるほどに。
ル「そうですよ。大丈夫ですよ。私達は刻印なんて欲してないですし、刻印が悪い訳ではないですから。」
エ「全く何の心配してんのか知らねーけどな、最初に言ったろ?見捨てないって。お前に何があろうが私達は味方なんだ。ちっとは信頼しろよ!」
あぁ、そうだ。俺はこの人達を悲しませないって決めたんだ。何よりも大切な人達だから、こんなに力をくれる存在なんだから。刻印が何だってんだ!
「ごめん!刻印には悪いイメージしか無かったからさ。正直に言えば刻印がまだ体にあるのは嫌だけど、上手く付き合って行くよ!何たってこんなに心強い味方が居るんだからさ!」
エ「まぁ、上手く使えばお前の力にもなるしな、その辺もおいおい教えて行くから、覚悟しとけよ!」
ラ「うん!よろしくね師匠!」
ユ「結局この獣はどうするの?」
話しが纏まりかけた所で雪がこの会議の本題をぶつけてきた。ぶっちゃけ忘れかけていた。
エ「飼うしかないだろーな。この獣がランスの刻印と関係してるのは間違いないだろうしな。まぁ、その辺の話しは私と獣でするから、とりあえず名前だけでも決めてやれ。」
ラ「えっ?そうなの?」
獣「うむ。我がお前の刻印の獣だ。」
ラ「迷惑なんですけど?」
獣「仕方あるまい。」
エ「さっさと名前決めて、午前中の修行の準備してこい。」
ラ「はーい!雪は何かいい案ある?」
ユ「うーん。ギンってどうかな?」
ラ「ギンかぁ。確かに毛並みも銀色だし、ぴったりかもね!」
ル「じゃぁ、ギンちゃんで決まりですね!二人は準備して来て下さい。その間に朝ご飯用意しときますから!」
俺と雪はルーンにそう言われ二階の部屋に戻り準備をする事にする、銀はそのまま残る事になった。ってか部屋とかどうするんだろう?
ランスとユキが部屋に戻ったのを確認し、ルーンとこの後について話し合う。
エ「ギンを連れて少し出掛けてくる。午前中は頼んだぞ。」
ル「分かりました。刻印の事についてはどうします?」
エ「聞かれたらある程度は説明していい。だけど力として使うのは駄目だ。まだギンの事も分かってないしな、その辺話しは色々聞かせてもらうぞ。」
ギ「分かった。だが主にも話したいのだが?」
エ「それは駄目だ。私が聞いて、話せる内容だけ話す。今はそれで我慢してくれ。」
ギ「……分かった。」
せっかく1つの問題が解決したのにまた新しい問題が出てきた。全く私の弟子は私に似て、やっかいな運の持ち主だ。
めっちゃくちゃ遅くなってすいません。




