28話 エリスとギン
ーーー午前SIDEエリス、ギンーーー
私はギンと話す為にギルドに来ていた。家で話しても良かったのだが、ランスとユキに聞いて欲しくない会話もあるし、他の場所だと誰に聞かれるか分からない。刻印の事は信頼できる人にしか話したく無かったので、それならギルドしかないと思い、こうやって足を運んだのだ。
ゴーにはある程度の説明をして、機密生の高い部屋に案内してもらった。何故か「過保護だな」と言葉がついて来たが、そんなつもりは全くない。
「んで、お前はどの程度の獣なんだ?」
私はソファーに座っているギンに話しかける。
「今はただの獣だ。この姿も分身みたいな物だしな。」
「今わか。どうゆう状況でそうなったのか、全部話せ。あんな不完全な刻印は見たことない。」
私はそう言ってギンに事の経緯を話させる事にする、ランスとユキが言うには夢の中から連れてきたらしいが、そんな馬鹿な話しは聞いた事がない。
「我にも良く分からぬのだ。本来なら繋がりが足りず、あの場所へ来る事は出来ない筈なのだ、それなのに来た、しかも2人でだ。それだけで驚きはしたが、来てしまった物はしょうがないので、なるべく早く帰ってもらう為に2人の願いを聞いたのだ。」
「願い?あの2人は何を願ったんだ?」
「最初は角が欲しいと言われ、それは無理なので断った。次に小さくなれないかと言われたが、意図が分からないので何故か聞いてみたら我を飼いたいと。それも無理だと思ったが、あまり長居させたくも無かったので、本体に力を残し、分裂して小さくなったのだ。
そして最後に我に抱き着きたいと言うので、それならば可能だから許可した。そして気付いたらあの場所に居たのだ。」
………場に少し変な空気が流れる。ギンはいたって真面目に話しているが、願いの内容がアホ過ぎるのだ。それでもあの2人なら言いそうなので困ってしまう。
「まてまて、それで何故刻印の契約が結ばれてるんだ?お前はそれをしない為に願いを聞いたんじゃないのか?」
ギンの話しを聞く限りでは刻印を渡すのは早いと言う事だろう。
「そうだ。今の主では我の本来の力には耐えきれん。暴走するのは目に見えているからな、だから刻印を渡すつもりは無かったのだ。恐らくだが、我の本体とでは無く、分裂して力の大分弱まった今の状態の我と契約してしまったのだろう。刻印の紋様もハッキリとして居なかったしな。」
我は自分のなりの答えをエリスに伝えた。エリスからは少しだけ嫌悪の香りがしてくるのを感じる。それもそうだろう。彼女は獣が嫌いな筈だ。15年前の事を思えば当たり前だ。
「本体のお前との再契約は可能なのか?」
「可能だ。我が本体に戻ればいいだけだからな。だが今はするつもりはない。」
「そうか。ならお前はもう本体に戻るな。ずっとそのままで居ろ!これはお願いじゃなく、命令だ。受け入れないなら本体の封印をする。分かったな?」
エリスの目はとても真剣で本気だった、我としては受け入れ難い物ではあるが、断ると言う選択肢はないのだ。それほどまでに刻印を嫌って憎んでいる。我が主よりもずっとずっと。
「分かった。だが我の意思だけでどうにかなる物でもない。今回のケースように主とユキには不思議な繋がりがある、あの2人が強く願えば、止められないかもしれん。」
そう、いくら我が与えるのを拒否しようが主の心が強く願えば何が起きるかは分からないのだ。
「なら本体には封印をかける。ランスには上手く言って誤魔化すから、お前も協力しろ。」
「分かった。すまないなエリス。」
ギンは何故か謝っていた。無理な事を言ってるのは私の方なのに、だが仕方のない事だ。刻印の力などない方がいい、あれは奪う力なのだから、何度も何度も刻印に奪われてきた。愛する人も子供も弟も。そんな思いをランスにはさせたくない。
とりあえずの事情と今後の方針も決まったので、私とギンはギルドを後にする事にする。
「あっ、エリス様。ランス君達はどうですか?」
部屋から出て歩いているとミシャから声がかかってきた。
「様はやめろって言ってんだろ?いい調子だよ。待たせて悪りーけど、もう少しだと思うから。」
「無理ですよ。私にとっては女神様なんですから!そうですか。じゃ、期待して待ってますね!」
それだけ言うと可愛い笑顔のまま手を振って仕事に戻っていった。
その後もギルドを出るまで色々な人に話しかけられる、思ったよりも時間を取られてしまった。
「人気者なのだな。」
横を歩く犬型の獣から声がかかる。あまり外では喋って欲しくはないが、まぁいいだろう。
「まぁな。この国には馴染みが深いからな。」
そう言ったエリスの目は何処か遠くを見ているような気がした。
「この後はどうするのだ?」
「とりあえずお前用の物をいくつか買って、武器屋に行く。」
「武器屋?ユキの武器でも買うのか?」
主に武器が必要ないのは中から見て知っている為、不思議になったので聞いてみた。
「ちげーよ!ランスの為の物だよ。いい魔石を用意しといたんだけどな、お前に協力してもらう事にしたから。覚悟しとけよ!」
エリスは我を見ながらニコニコとしていた正直に言えば恐ろしい。何をされるんだろうか。
その後は2人で街を歩き、エリスは色々な物を買っていた主に我に関する物だったので、少し申し訳なくなるが、気にするなと笑顔で言っていた。だがその笑顔も我の心を苦しくするのだ。我が知っているエリスの笑顔とは何処と無く違う気がして、それが我のせいだとわかっているから。
ギンとの買い物がほとんど終わり、後は武器屋に向かうだけとなった。ギンは街に慣れているのか、あまり驚いたりせずに私の横にピッタリと着いて歩いていた。今まで動物などを飼った事は無かったが、これはこれで良いものなのかもな。
少し歩き、武器屋に着いたので、中に入る。この北の国では唯一の武器屋だが、店主の腕は良く、外の国からも良く人が来ている。
「いらっしゃいませ。あっ、エリス様。親方なら後ろの工房に居ますよ。」
中々良い体つきをした若い男性がエリスを見るや、そう声をかけた。
「様はやめろって!分かった。入らせてもらうな。」
相変わらず様呼びは嫌なのか、そう返事をして、裏にある工房に入っていく。
工房の中には色々な武器や魔石、さらに魔物の部位なども置かれていた。その中で上半身裸の状態で鉄か何かをハンマーで打っている男の背中が見えた。
「ダダン!例の物はどうだ?」
エリスに声をかけられ、ダダンと呼ばれた男は作業をやめ、こちら見る。
「おー、大体の型は出来てる!後は魔石と色々な調整だな。」
「そうか見せてもらっていいか?」
そう言われるとダダンはニカッと笑い、奥にかかっていた布をとった。その中から現れたのは右腕の義手だった。一目見て分かってしまうほどに使われている素材は上質な物ばかりだった。
「一体どれくらい金をかけたのだ?」
あまりの物に驚いたので、聞いてみた。
「私も知らん!金に糸目を付けずに作れって言ったからな!」
事も無さげに言っていた、いくら何でも限度があるだろうと思うが。
「んで、魔石の方はどうなった?準Aクラスの魔物狩るって言ってたが?」
「それは狩ったんだけどな、それよりもいい物が手に入ったから、そっち使う事にした。」
エリスはそう言うと我の方を指差していた。さっき言ってたのはこの事なのか。
「へー、そんな強い魔物には見えねーが?こいつから魔石とんのかい?」
それは困ると思い、我は一生懸命に首を振った。魔石とは魔物の核だ。これが無くなれば死んでしまう。それに今の我の体には魔石はない。
「んー、魔石取ると死ぬからな、他の素材でも大丈夫か?ランスとの相性は間違いなく良いはずだからよ!」
我を使うと言ってはいたが、どう使うかはまでは決めて無かったらしい。流石に魔石を寄越せと言われるのは困るが。
「なら何か魔力が凝縮した物がいいな。それがこの腕の核になるからな!」
「何かねーのか?」
エリスはダダンにそう言われ、我に問いかけてくる。
無い事もないので、我は自分の中で魔力を頭の両端に集中し、澄んだ氷のような角を作りだす。主とユキが欲しがっていたあの角だ。普段は邪魔だからしまっているが、戦闘になった時などに出そうと思っていたのだ。
その角を見て、ダダンは嬉しそうに目を輝かせていた。
「こりゃ凄いな。こんな純粋な魔力の塊みたこねーわ!!」
こんなに嬉しそうな顔をされると我も悪い気はしない。エリスの反応も気になるので、顔を見てみると、無理矢理作ったような笑顔だった。だから何も声をかけられ無かった。
エ「どれくらい必要なんだ?」
そんな我の気持ちを知ってか知らずか、エリスはダダンと話しを進める。
ダ「多いに越した事は無いが、どのくらい取っていいんだ?」
ギ「片方の一本分くらいなら問題ない。」
ダ「そんなにいいのか?ありがてーな!!こりゃ凄い物が出来るぞ!」
ダダンは相変わらず大興奮していた。
ギ「後は我の毛も使うといい。魔力が一緒だから、主も使えるはずだ。」
我の毛は自在に操れる、色々と便利だろうと思い提案した。
ダ「そうかいそうかい!んじゃ遠慮なく使わせてもらうわ!!」
ダダンはそう言うと我の方に来て、毛をむしり始めた。その手つきはとても丁寧で熟練の物だった。その後は片方の角を自分の意思で落とし渡した。毛と角を渡されたダダンは我とエリスの存在も忘れそうな勢いで作業に没頭していた。
エ「どれくらいで出来るんだ?」
ダ「悪りーけど、まだかかりそうだな。色々拘りたいしな!!」
エ「全く。鍛冶馬鹿が。まぁまだ使わせるつもりもないから、ゆっくりやってくれ。」
ダ「了解!また何かあったら連絡するわ!じゃ、帰った帰った!」
ダダンは作業に集中したいからか、我とエリスを追い出してしまった。全く職人と言う物はこういった所が困るのだ。
やる事は全部終わったらしく、家に帰る事になった。
「今日話した事と腕の事はランスに言うなよ。」
エリスは釘をさすかの様に言ってきた。
「刻印の事は分かるが、腕の事もか?なぜ教えぬ?」
「あの腕は武器だからな。武器はいつ壊れてもおかしくない。そしたらランスは片腕で戦わないといけない。だから今はそれが当たり前の状態で居て欲しいんだよ。片腕でどう戦うか、そこにだけ集中して欲しい。だから義手の事は言いたくねーんだよ!分かったか?」
エリスなりに色々考えての事なのだろう。それを我が邪魔するつもりはない。
「分かった。」
だから一言だけ返事をした。
「ギン。お前は幻獣か?」
ふとエリスからかけられた言葉にビクッとしてしまう。
「いや、我はただの獣だ。エリスが思っているような物ではない。」
嘘ではない。今はただの獣なのだ。
「そうか。私の弟はな、刻印の暴走に飲み込まれたんだ。そうなる事は分かっていたし、あの場ではそうするしか無かった。その後は10年間もある場所で封印され続けてる。私はずっと助け出す方法を探していてな、可能性があるとすれば。《一神獣。二天冥獣。四幻獣。六聖魔獣》の刻印持ちだけだ。もしランスが幻獣の刻印の持ち主なら……私はどうすればいい?」
エリスは静かに我に問いかけていた。答えは持ち合わせているが、答えられない。それを答えてしまえばエリスは動くしか方法が無くなってしまうから。」
「我はただの獣だよエリス。我が主が持っているのもただの獣の刻印だ。」
だからこう返すしかなかった。嘘ではない。けどエリスに正体を知られたくはないから。
「そうか。なら良い。あの2人の事をちゃんと守ってやれよ!」
エリスは納得してくれたのか、それ以上は突っ込んで来なかった。
そんな事はあるはずないのに、私は馬鹿な事を聞いてしまった。幻獣の刻印を持つ物はこの世界でしか生まれない。ランスは召喚された勇者だ。今までの例からしても召喚された物が幻獣の刻印を持っている事は無かった。
だからあり得ない。なのにギンの事を見ていてると思いだしてしまう。15年前にある女神に言われた事を。沈みそうになる思考を元に戻し、帰路につく事にする。今はギンが言ってる事を信じるしかない。自分そう言い聞かせながら歩みを進めるのだった。




