25話 大切と最優先
2ヶ月以上も間を空けてしまい申し訳ありませんでした。
俺は雪に言われた通り、2日間は体調を戻す事に専念した。雪から話しは聞いてると思うが、エリスとルーンは特に何も言ってこない。呆れてるのか、答えを出すのを待ってるのかは分からない。
2日間考えて出した答えはエリス達に頼る事だった。現状では、いや、最初からこれしか方法はなかったのかもしれない。見積もりの甘さと変なプライドのせいで、1人は犠牲になってしまった。もっと早く気付けていれば助けられたのに。体調は良くなっても心の傷は治りそうになかった。
コンコン。
「入っていいぞ。」
許可が出たので、エリスの部屋に入る。
「どうした?」
普段通りに接してくれる。
「お願いがあるんだけど。」
「何だ?」
「お金を貸して欲しい。」
「……分かった。」
「理由は聞かないの?」
「大体の理由は知ってる。」
「ごめん。頼ってばかりで。」
「気にするな。どの道それしか手がないだろ?」
「……うん。最初からエリス達に頼るしかなかったんだよ。そうしてれば救えたかもしれないのに。」
「苦しいか?」
「……苦しいよ。」
「辛いか?」
「……辛いよ。」
本当に苦しくて辛い。誰のせいでもない、自分の罪なのだから。感情を当てられる場所は自分の中にしかないのだから。
「ごめんなランス。」
ふとエリスが謝ってきた。
「なんでエリスが謝るの?」
意味が分からない。エリスが謝る理由などないのだから。
「ルーンが何で黙ってたと思う?」
確かにそれは気になる。ルーンなら早い段階で気づいていた筈だ。なのに口を出してこなかった。
「分からない。エリスはいつ俺の事聞いたの?」
「最初に聞いたのはお前が焦り始めた時だ。その時は理由を教えてくれなかった。次に聞いたのがお前が倒れた時だな。」
思ったより遅かった。尚更分からなくなる。ルーンの性格ならすぐに手を出したくなるだろう。自分で言うのもあれだが、俺の精神状態はまともじゃなかった。それを分かった上で、エリスにも雪にも何も言わず、じっと黙っていたルーンの気持ちが分からなかった。
「何で黙ってたの?」
「ルーンは選んだんだよ。自分が憎まれ役になる事をな。」
「……どうゆう事?」
憎まれ役?黙っている事がなんで憎まれる事になるんだ?
「ルーンが最初から助けに入ってれば奴隷は救えたと思うか?」
「……。」
答えられなかった。でも救えたと思ってしまう。
「ルーンはな、選んだんだよ。奴隷の命より、お前と雪の成長をな。どんなに強くなっても失う事はある。それを乗り越えるには1人じゃ駄目だって事をルーンは良く知ってる。
そして私達は居なくなる。この先辛い事や苦しい事があった時にお前の側に居るのは雪だ。だから2人で乗り越えてもらう為にルーンは黙っていた。自分がいくら憎まれようが、嫌われようがかまわない覚悟でな。今回の件でお前の次に苦しい思いをしてたのはルーンだと思う。何も気づけなかった私が言うのも何だが……出来ればルーンを憎まないでやってくれ。」
エリスは悲しそうな顔をしながら、最後の言葉は弱々しい感じで言っていた。
「……何でそんな……。」
バカだ。
「許せないとは思う。でも憎むなら私にしてくれ。」
「……何なんだよ。」
2人共バカだ。
「……ランス。」
「2人は何も悪くないだろ!!全部俺と雪の事を思ってやったんでしょ?なら謝んなよ!謝んないでくれよ!憎めるわけないだろ!この世界に来て、何も無かった俺に色々な事を教えて与えてくれたのは、エリスとルーンだよ。2人が居なかったら死んでたかもしれないし、雪にも出会えてなかった。どんだけ感謝しても足りないぐらいなのに。」
俺は大声で続ける。隣の部屋にも聞こえるように。
「ルーンは馬鹿だ!心が読めるのに不器用すぎるよ!それにごめん!ルーンの苦しい思いを無駄にしちゃった。結局は2人に頼る形でしか解決方を見つけられなかったよ。本当にごめん。エリス、ルーン。迷惑かけっぱなしで、心配ばっかりかけて、2人の気持ちに応えられなくて本当にごめん。」
俺が言い終わると同時にエリスの部屋の扉が勢い良く開き、開いたと同時にルーンが走って俺に向かってきて、そのまま抱きしめてくれる。
「誰が馬鹿で不器用ですか。ランス君にだけは言われたくありませんよ。それに無駄になんてなってませんよ。ランス君を正気に戻したのはユキちゃんです。それが大事な事なんです。ランス君にはユキちゃんが居て、ユキちゃんにはランス君が居る。片方が苦しい時に支えてあげられる、片方が辛い時に、その心を汲んであげられる。そんな相手が居ると言う事を分かってほしかったんです。心の問題は1人では解決出来ませんから。」
ルーンは俺を抱きしめながら続ける。
「だから……ランス君の考えに気づいた私は今回の件を利用しました。……最初から手を貸してあげれば、奴隷の子は救えたかもしれません。でも私は見殺しにして、与えなくてもいい苦しみを、辛さを、やるせなさを、ランス君に与えたんです。ユキちゃんにも辛い思いをさせました。」
ここまで言うと俺を抱きしめるのをやめて、両肩を掴み、真剣な眼差しで言葉を紡ぎだした。
「私に対する恩は忘れて下さい。今回の件でそんな物は無くなりました。救えなかったのはランス君のせいだけじゃありません。自分ばかりを責めないで、私の事を責めて、憎んで下さい。私はランス君の敵です。王城の人と何ら変わりません。自分の目的の為に奴隷の子を犠牲にしました。私の事を許してはダメなんです。」
ルーンは言い終わると俺から目線を外し、エリスの方を見る。
「エリスさん。私は出て行きます。2人の事をお願いしますね。」
そう言って、俺から離れて部屋を出て行こうとする。だが、そんな事はさせない。俺はルーンの手を掴み離さない。色々な感情が交差していて、上手く言葉に出来ない。でも絶対にルーンを出て行かせる訳には行かない。
暫く沈黙か続く。するとドアの方から聞き慣れた声が聞こえてくる。ここ2日まともに会って話しもしてないが、誰の声かはすぐ分かる。
「ルーンは逃げるんだね。」
雪の言葉は冷たかった。いつから話しを聞いていたかは分からないが、内容は把握しているようだ。
「ユキちゃん……。」
「ランス。ルーンを許しちゃダメだよ。私も失望した。こんなに弱いなんて思わなかった。尊敬してた、大好きだった、たまに厳しくて、おかしな事言うけど、周りに気を配って整えてくれる。そんなルーンが居る事が力強くて、嬉しかったのに。本当に悪いと思ってるなら、逃げないで向き合ってよ。私とランスを見捨てないでよ。」
「私にはそんな風に思ってもらえる資格はありません。遅かれ早かれ2人の前から居なくなる事は変わりません。憎い相手と一緒に居ても嫌なだけですし。」
「誰が憎いって言ったの?ねぇ?誰がルーンを憎んでるの!」
雪の声に少し力がこもっている。
「それは……。」
ルーンは答えに困っていた。きっと心を読んだのだろう。エリスは言わずもがなだが、雪も俺もルーンの事を憎んでなど居ないのだから。少しの沈黙の後に雪が言葉を発する。
「わかったでしょ?誰もルーンを憎んでないし、出て行ってほしいとは思ってない。」
諭すように雪は言葉を続ける。
「ルーンの優しさは分かってるから。自分を憎まないで。」
ルーンは少し同様していた。こんな展開になるとは思ってなかったのだろう。本当に不器用で優しい人だ。駄目な俺の為にここまで心を砕いてくれて、俺の罪の意識すら、背負ってくれようとしている。
「ランス君。そんなに強く握ったら痛いですよ。」
無意識の内に強く握っていた。俺は力を少し弱める。無論放す気はない。
同様していたルーンだが、少し落ち着いたのか、続けて俺に声をかけてくる。
「ユキちゃんが言ってる事も分かります。でも本当にいいんですか?先程もいいましたけど、私は奴隷を犠牲にしたんですよ?ランス君にとっては最優先の問題な筈です。それを邪魔したんですよ?」
雪の言葉に納得はしたが、それでも割り切れない物があるのか、ルーンは再度俺に聞いてくる。
「うん。最優先だよ。その為に焦って無理して大事な人達に迷惑かけた。エリスは俺の事を正しく導いてくれる。間違ったら叱ってくれて、それでも俺の意志が強いと思ったら参道して見守ってくれる。少し恥ずかしいけど、母親みたいだなって思ってた。ルーンは俺に寄り添ってくれる。馬鹿な事にも付き合ってくれる。でも困った事があったらさりげなく助けてくれる。無理して力使ってまで、俺と雪の心を見守ってくれてた。俺には兄弟は居ないけど、姉みたいに感じてた。」
俺は2人を見ながら言葉を続ける。意味が分からないと思われるかもしれない。でもこれが俺が出した答えなんだ。
「雪に言われたんだ。最優先が罪滅ぼしなら、俺の行動はおかしいって。確かにそうだよね、エリスとルーンの言葉を無視して、勝手にやる事だって出来た訳だし。でもそれが出来なかった理由がやっと分かったよ。」
一呼吸置いてから俺は話しを続ける。
「散々掻き回してこんな事言うのも変だけど、奴隷達の命より、エリスとルーンと雪の事が大切だった。だから、エリスとルーンとの約束を破れなかったし、雪を蔑ろにも出来なかった。俺はそれに気付かずに3人に心配かけて、辛い思いをさせた。本当に駄目で情けなくて弱い……何も1人じゃ出来ないくせに強がって、自分の殻に篭って話も聞かない。」
「……そんな俺を見捨てないでくれた3人の事が3人の気持ちが、俺にとっては最優先だったんだ。だから、出て行くなんて言わないで、私の事を憎めなんて言わないで。奴隷の1人が死んだのは俺の責任だから、この罪悪感は誰にも渡さずに一生俺の心に留めておくから。だから……都合が良いかもしれないけど、心が重くなった時は支えてほしい。別れるその日までは俺の事を育ててほしい。」
言い終わると同時に掴んでいたルーンの手を放す。
「分かった。なら私はお前に対して罪悪感は抱かない。ただ全力でサポートしてやるから、出来る限り奴隷達を救え。もう遠慮すんな。母親になったつもりはないが、子供のワガママぐらいは聞いてやる。そして立派な男にしてやるよ!」
いつも通りの口調だ。気を使う訳でもなく、ただ当たり前かのように言ってくれる。本当に強い人だ。
「私は少し難しいですね。自分の事を許せそうにありませんし。」
エリスと違い、最初から俺を見ているルーンだからこその反応だろう。あの場にも居た訳だし。
「ランスは許すとは言ってないよ。」
雪がそう声をかける。確かに憎んではいないが、許すとも言っていない。
「そうだね。ルーンの事は許さない!だから力を貸して。雪の時も心を汲んで色々アドバイスしてくれたのはルーンだし、これから助ける奴隷達も辛い過去をいっぱい抱えてるだろうから。ルーンが相談に乗ってくれると凄い助かるからさ。」
なるべく明るめの声で言う。何様なんだとは自分でも思うけど。
「そうですか。ランス君がそう言うなら力を貸さない訳には行きませんね。私も全力でサポートします。」
ルーンも声だけは明るく返してくれた、まだ心では割り切れない部分があるのだろう、顔はいつも通りの笑顔ではないのですぐ分かってしまう。
「そんなに私の顔見てたんですか?」
少しからかってくる。
「見てたよ。エリスの事もルーンの事も好きだからね。」
「本当にお馬鹿ですね。」
少しだけいつも通りの笑顔に戻っていた。
「とりあえずひと段落って事でいいんだよな?」
エリスが少し呆れ顔で言ってくる。
「うん。明日からは元どおりになるよ。」
「明日からか……なら今日はゆっくり休め。ルーンの事は私に任せておけ。」
そう明日からだ。
「わかった。本当にごめんね。色々迷惑かけて、それとありがとう。」
「いいんだよ。じゃ、明日な。」
エリスと言葉を交わし、部屋を出て行こうとする。
「エリス。お願いがあるんだけど。」
ふと雪がエリスに声をかけた。
「なんだ?」
「明日の午後から私もランスと一緒に修行したい。」
「……分かった。厳しく行くから覚悟しとけ。」
「うん。ありがとう。」
突然の事にボーっとしていると話しを終えた雪に手を掴まれ、そのまま部屋を後にし、自分達の部屋まで戻っていた。
「明日からよろしくね。」
雪は笑顔で言ってくれる。散々酷い事を言ったのに、それでも俺を信じて着いてきてくれる。あまり関わりのない奴隷が死んでしまっただけで、ここまで苦しいのだから、雪を失ったら俺は壊れてしまうんじゃないかと思う。
「うん。色々ごめん。それと天秤さんの所にいてくれてありがとう。あの時雪と出会えたのが、俺にとっては幸運だったよ。だから何があっても雪の事は絶対守るから。ずっと側にいてほしい。」
改めて思いを伝える。雪は俺を抱きしめながら、返事をくれる。
「私の方こそごめんね。偉そうな事ばっかり言って。本当はずっと不安だった。最初が私じゃなければ、こんなに苦しまなかったんじゃないかって。でもその考えは捨てる。ランスが私を守ってくれるなら、私もランスの事を守るから。2人で強くなって行こう。ずっと一緒に居る為に。」
雪の言葉で我慢していた物が溢れそうになる。そんな物を流す資格はないのに。
「我慢しないでランス。今はいいんだよ。辛くて苦しくて悲しくて。自分の事が惨めで情けなくてもいいんだよ。ずっと我慢してたんでしょ?大丈夫だから受け止めるから。」
『泣いていいんだよ。』
俺の心に詰まっていた感情が溢れだし、目からは大粒の涙が溢れていた。何もはばからず、雪の胸の中で子供のように大きな声で泣いていた。
どのようなペースになるかは分かりませんが、完結までは続けたいと思っています。長い目で見ていただけると幸いです。




