20話 ルーン
私は夜中に尻尾に違和感を感じて目を覚ます。見てみるとランスが私の尻尾をモフモフしながら寝ていた。起こす時も変なのに寝てる時も変だとわ。
起こさないように、尻尾からどけ、頭をひと撫でして、部屋を出る。誰も起きてないと思っていたが、ルーンが椅子に座り読書をしていた。この前の件もあって少し気まずいが、話したい事もあるので、声をかける事にした。
「随分遅くまで起きてるね。」
ルーンは気づいていたのか、驚きもせず、普通に返してきた。
「色々やる事がありますからね。ユキちゃんはどうしたんですか?」
本を読んでるんだと思っていたが、違うみたいだ。
「目が覚めちゃって。ランスを起こしたら可哀想だから。」
多分尻尾のせいだ。
「そうですか。じゃぁ、少しお話ししましょう。」
そう言って自分の横にある椅子をポンポンする。
私は言われるがまま、椅子に座る。さっきも思ったが少し気まずい。
「私も気まずいですから、でもちゃんとお話ししないと。このままでは駄目ですからね。」
顔に出てたんだろうか?心を読まれてしまった。
確かにこのままなのは嫌だ。前みたいに普通に話せるようになりたい。あの時は完全に私が悪かったんだから、しっかり謝ろう。
「ルーン、あの時はごめんなさい。」
素直に頭を下げる。
「いいんですよ。私も少し意地悪しちゃいましたし。それに解決したんでしょう?」
何で分かるんだろう。ランスにも言葉では伝えてないのに。本当に心が読めるんだろうか?
「うん。ルーンの言う通りだった。ランスにも言われたし。」
それは信じてないと、信じていたらそんな事は考えないと。2人は分かっていた。でも私とランスは分かっていなかった。1人で暴走し、迷惑をかけてしまった。2人共私の事を思って言ってくれてたのに。
「あの時のヒントが無かったら、ランスとも話せて無かったと思う。私自身はランスを信じてるって疑わなかったから。だから、ありがとう。ルーン。」
謝罪もしたいが感謝もしたい。特にルーンは気を遣っていてくれたし。
「いいんですよ。それが大人のあり方ですから。ちゃんと考えて解決したんですから。頑張りましたね!」
隣にいる私を抱きしめながら言ってくれた。本当に本当にルーンは優しい。私はまだ分からない事がいっぱいある。間違えてる事に気づけない時だってある。それを正してくれる存在は大きい。正直半年後に居なくなってしまうのは不安だ。でもルーンはその甘えを許してくれない。だから、しっかり学んで行こう。
「そうですよ。いつまでも側には居ません。最初の内はヒントをあげますが、徐々に徐々に減らして行きますから。いっぱい考えて学んで下さいね。」
「うん!頑張るから。」
明るく返す。と共に確信する。ルーンは心が読めると。
「ランス君には内緒ですよ?面白くないですから!」
少し呆れてしまった。でもルーンはこうゆう人だ。
「分かった。でもあんまり叩かないでね。」
「あのお馬鹿が悪いんです。私も叩きたくないんですよ。」
「そんなに酷いの?」
「悪魔だの、魔女だの、ママだのって。前2つはまだいいですけど、ママではありませんから!!」
「えっ?前2つの方が酷いと思うよ。」
私はルーンと顔を見合わせ笑う。元に戻れて良かったと思いながら。
「大分遅い時間ですし、寝ましょうか。私の部屋に招待しますから。一緒に寝ましょう。」
ルーンの提案を受け入れ、2人で部屋に戻る。ルーンの部屋はいい匂いがして、とても落ち着く部屋だった。ベッドも大きかったし。
ーー翌朝4時30分ーー
日頃の癖は抜けないもので、今日は何するか分からないが、いつもの通り起きてしまった。しかし、いつもより布団の中が寒い気がして中を見てみる。雪が居なかった。先に起きて下の階に行ったんだと思い。俺も下に行く。居ない。風呂にもトイレにも。少し焦りだす。もう一度部屋に戻り、くまなく探す、やっぱり居ない。また下の階に行き探すが見つからない。昨日の夜は頷いていたが、やっぱり納得してないんだろうか?
さらに焦った俺は家の外に出て叫ぶ。
「雪ーー、ユーーキ、ユーーーキ!!」
さらに大声で叫ぶ。
「ユーーーーキーーー!!ユーッ痛っ!」
叫んでる途中で何かが頭にぶつかる。めっちゃ痛い。
「朝ぱらっから発情してんじゃねーよ!うるせーんだよ!!」
二階の窓からエリスが顔を出し、怒っていた。
「エリス大変だよ!雪が居ないんだ!」
怒ってるのも昨日の言い合いも無視し現状を伝える。
「ルーンとでも寝てんだろ?叫ぶ前に部屋に行けよ!!」
全く考えて無かった。最近ギクシャクしてたし。でもその可能性は高いと思い、急いでルーンの部屋に向かおうとしたが、見えてしまった。ルーンが窓から顔を出し、口を両手で抑えてる所が。ちなみに雪は後ろで顔を隠していた。俺は恥ずかしさのあまり、自分の部屋に急いで戻り、布団にうずくまるのであった。
こうして暫くは弄られる早朝事件は幕を閉じた。
コンコン。俺の部屋をノックする音だ。だが出たくない。
ゴンゴン。この音はエリスだ。だが出たくない。
「出て来ねーなら、このドア壊すからな。その後もつけねーからな。」
俺は布団から飛び出てドアを開ける。
「今日と明日は休みにするから、雪と街ん中プラプラしてこい!」
怒ってると思ったがいつも通りだ。
「エリス。怒ってないの?」
少し気になる。
「怒ってたら意見曲げるのか?」
「曲げない。でも嫌いにはならないでほしい。」
言ってる事はワガママ其の物だな。
「曲げないならいい。まぁ、少し下に降りてこい。」
エリスはそう言って、下に向かった。
下に降りると皆いて、俺もいつものポジションに座る。朝爆笑していたルーンは何処と無く体調が悪そうだった。
「何で分かったんですか?」
そっくりそのままお返ししたいんですが?
でも本当に体調が悪いらしい。
「まだ短いけど、一緒に居る時間は長いからね。顔見れば分かるよ!」
ルーンはそう言われ、嬉しいような悔しいような、どっちとも取れる顔をしていた。
雪も凄く心配していて、側を離れていなかった。夜に何かあったのだろう。すっかり元に戻ったようだ。
「ルーンの体調の事もあって、今日と明日は休みにする。だから2人は街で遊んでこい。それとギルドの事だが、ランスが私に一発入れられるまでは許可しない。その日も訓練に回すからな。」
エリスの中ではそれが最低限の譲歩なのか。
なら尚更頑張って早く一発入れなきゃな。俺のやる気はさらに増していた。
「分かった、早く許可もらえるようにするよ!」
ちょっとだけ獰猛な顔をしてみる。似合わないが。
「2人で街行くのはちょっと怖いな。家にいちゃダメ?」
魔物より人の方が怖いのだ。殺しちゃいけないし。
「駄目だ。お前らが居るとルーンが安静に出来ない。2人が嫌ならミシャにでも案内してもらえ。これから世話になるんだし、あいつは信用出来る。」
俺の気持ちが分かったらしく、提案してくれる。確かにギルドの受付嬢なら大丈夫だろう。ルーンが休めないのも困るし、街に行くか!」
「分かった。行ってくるよ!」
「ランス、先着替えていいよ。」
雪がそう提案してくれたので、先に着替える事にする。
「本当に大丈夫?」
私はルーンに尋ねていた。夜は何とも無かったのに、朝起きてから具合は凄く悪そうだった。
「大丈夫ですよ。それよりランス君とのデート楽しんで下さいね!」
相変わらず悪戯な顔で言っていた。デートの意味は分からないが。
「デートとは好きな男性と出掛ける事ですよ。」
また心を読んでいた。それが分かったのか、いい加減にしろとエリスに怒られていた。きっと体力を使うのだろう。しかし好きな男性か。考えているとランスが下りてきたので、私も着替えに行く。ルーンを置いてくのは心配だが、私は密かにワクワクしていた。やっとランスから貰った物を使える時が来たのだ。
俺が着替え終わると雪が着替えに行った。何かあったのか、少しエリスは怒っていた。
「ほら、これで好きな物でも買ってこい。飯も街で食っていいから、6時くらいまでは遊んでていいからな。」
相変わらずのエリスママが発揮し、お小遣いをくれる。しかし結構な額がだ。エリスもルーンもお金持ちなのかな?
「分かった、ありがとう!でも何でこんなお金持ってるの?」疑問に思ったら聞く。これ鉄則!
「私達は稼ぎがいいからな!お前も強くなれば稼げるようになるぞ!」
本当にエリス達はどれくらい強いのだろう?ルーンにははぐらかされたが、エリスなら答えてくれるかも知れない。そう思い聞こうと思ったが雪が下りて来たので聞けなかった。
雪はユン婆の所で買った服と俺があげた、革のブレスレットリングをしていた。服のおかけで体の傷は隠れているが、手首にある鎖の痕だけはどうしても見えてしまうので、これで隠してあげたかった。
「相変わらず可愛いね雪!!」
本当にこの服は似合ってると思う。
「これ、ありがとうランス!」
気に入ってくれたのか笑顔だ。
「あらあらカップル見たいですねぇ!」
やっぱり来たかルーンママ。
「良かったな雪!」
エリスも褒めていた。ん?何か足りない。
何かむず痒さを感じながら、俺は雪と街に出る。
「全く無茶しやがって。」
エリスさんが怒ってる。まぁ当然なんですけどね。
「分かってはいるんですが、ついつい。」
これは私に宿る力だ。相手の心を読める、でも発動中は体力を使うので、あまり長くは使用出来ない。それをランス君が初めてこの家に来た時から、ほぼずっと使っているんですから、ガタが来てもおかしくありません。
「全く。でも私も悪いな、お前が無理する性格なのは知ってるけど、止めずに頼っちまった。正直ユキの事は助かったしな。とりあえず今日と明日はその力使うなよ。破ったらゲンコツするからな。」
エリスさんは優しくそう言ってくれた。それに無理をしてでも2人の心は知っておきたかった。ランス君の方は早めに大丈夫だと思いましたが。ユキちゃんはいつ崩れるか分からない階段を歩いてるようで、とても危うかった。ランス君が支えになってからは安定しましたが、まだ完全とは言えません。またいつグラつくか分かりません。それを一番に察知出来る私が無理をしないなんて選択はありません。まぁ、ちょっと楽しんでもいましたが。
それに無理をするなって、今さらですし、何年の付き合いだと思ってるんだか。
心を読める力はあまり人には知られたくありません。ほぼ嫌われます。それに私の場合は自分で操作できるので、余計にたちが悪いんです。
私は少しランス君とユキちゃんに似ています。小さい頃はこの能力のせいで友達もできず、何で出来ないのか分からなくて、能力を使い私への嫌悪感を聞いては落ち込む。今なら使うべき場面と使うべきではない場面が分かりますが。小さい子供にそれを分かれと言うのは無理でしょう。だから、人なんて信用出来ませんでした。上辺で寄ってくる人も私の力を知ると去って行きます。エリスさんと彼に出会うまでは本当に一人だったんです。
そうゆう経緯もあってランス君にはまだ言えてませんが、そろそろ伝えないとダメでしょうね。もしかしたら嫌われるかも知れない。ユキちゃんには偉そうな事言ってましたが、私も怖いんです。読めるかも知れないと、読めるでは大分違いがありますから。
ユキちゃんがすんなり受け入れてくれたのは謎ですが。
私が考えにふけっているとエリスさんがまた声をかけてくれます。
「何かやってほしい事あれば言えよ!ガキ共も居ないし。甘やかしてやるからよ!」
最初からそれが目的だったくせに。だから2人を街に行かせたんです。
でも久しぶりに甘えていいかな。昔みたいに読んでもいいかな。
「じゃぁ、リンゴの甘い奴が食べたい。義姉ちゃん。」
2人には見せられない子供のような顔で言う。
「分かったよ。可愛い義妹様の為に作ってやるよ!」
エリスさんはそう言って台所に向かって行きました。私は久しぶりに言った呼び方にドキドキしていた。




