19話 師匠と弟子の喧嘩
2人が寝た後、私はルーンと今日の事について話す事にする。
「2人共どうだった?」
ルーンは読書をやめて答えてくれる。
「ランス君は微妙ですけど、ユキちゃんは魔法の才能がありますね。」
やはりユキには魔法の才能があるか。まぁ、魔族の血も入っているから、当たり前っちゃ当たり前なんだが。
「そうか。どのくらい使えるんだ?」
「ランス君は氷だけで、ユキちゃんは水、風、雷、魔ですね。ただ水は暫く使えないと思います。」
ルーンは少し悲しそうに言う。
多分奴隷時代のトラウマだろう。全てを受け入れたと言っても傷が残らない訳ではない。
「ランスはクソだな。ユキの事は任せる。午後の訓練には暫く参加させるつもりはないからな。」
ただでさえ片腕なのに、魔法も氷しか使えないとなると、この先大変だな。ユキはユキで今はあまり無理させたくない。本人はやる気満々だが、焦っているようにしか見えない。気持ちが分からないでもないが、まだ時間はあるのだから。
「やっぱり焦ってますよね。」
ルーンも気にしてるようだ。ってか心を読むな!
「自分の出来なさが悔しいんだろ。それに捨てられるのが怖いんだろうな。」
もちろんランスが捨てるとは思わない。絶対ないだろう。だが、ユキにはそれが分からない。信じたって捨てられる事はあるのだから。だから焦って、焦って、自分の存在価値を証明しようと必死なのだ。ランスはその辺に気づいてない。だが教えるつもりもない。何でも教えてやる事は出来る。でもそれをすると依存してしまう。私達は居なくなるのだから、いつまでも頼れないのだから。少しづつ私も厳しくして行かないとダメなのだ。
「そうですね。その辺の問題は二人で解決させたいですもんね。」
「あぁ、なるべく口は出さないようにするさ。ってか心を読むな!疲れるんだから、あまり使うなよ。」
ルーンはテヘって顔をしている、多分分かってないだろう。まっ、次やったらゲンコツしてやるからな。
「すいませんでした。もう使いません。」
何だかランスみたいな誤り方だ。
「とにかくユキの事は頼むぞ。午後はお前に任せるからな。」
私より、ルーンの方が色々と都合がいい。それにランスの事もしっかり見てやりたい。
「分かりました。ギルドの仕事はどうするんですか?」
ユキも連れてくのか?って事だろう。
「ランスにだけやらせる。ギルドの方にも暫くは連れて行かない。」
ユキは納得しないだろうが、仕方ない。現状では危険だ。
「ユキちゃんもですが、ランス君も納得しないと思いますよ。」
それも分かってる。
「私が言えば納得するだろう。本当は駄目なんだけどな。まぁ、そうゆう事だから、明日から頼むな。私も寝るから。おやすみ。」
私はそう言って自分の部屋に戻る事にする。
「ランス君も男の子ですよ。」
ルーンが背中越しに言ってきたので、手をヒラヒラさせながら、部屋に戻る。
「起きて、ランス。」
私はそう言って彼を揺さぶる。
「B定食でお願いします。」
訳の分からない事を言っていた。
「もうすぐ5時だよ。起きないとエリスに怒られる。」
尚も強く揺さぶる。
「B定食には尻尾付いてないだと!?ふざけんな!!」
全く意味が分からない。怒っているのは分かるが。
「訳分かんない事言ってないで起きて。」
さらに強く揺さぶる。
「こんな店2度とくるかー!潰れちまえ!」
起きない。意味が分からない事ばっかり言って全く起きない。時間もギリギリなので、最終手段に出る。
ゴツン!!「イテッ。」
朝の目覚めは快適だった。訳の分からない夢は見たが、尻尾は大事なんだと言う事は理解出来た。ちなみに俺の頭にはタンコブがある。ユキ曰く寝相が悪くてぶつけたんだとか。
起きた時間も結構ギリギリだったので、急いで準備し、外に向かう。
「エリスおはよう!」
もう外で待っていた。少し怖い。
「おはよう。ユキ、ランス。昨日と同じようにやれ。」
怒られるかと思ったが大丈夫だった。
俺達は言われた通り、昨日と同じメニューをこなす。筋肉痛が少し酷い。雪も筋肉痛らしく、辛そうだった。でも無理にやるとは言い出さなかったので、昨日の事が分かってくれたんだと思う。朝のメニューが終わり、朝食を食べ、ルーンの修行に入る。
俺は相変わらず的当てをしていた。
「ランス君、魔法は手以外からも出せますよ。」
ルーンの一言は意外だった。
「そうなの?手のイメージしかないけど、他はどこから出せんの?」
「例えば足とか、口とか、目から出せる人も居ますよ。危ないですが。」
それって最早曲芸では?しかし手以外から出せるなら、戦略の幅は広がるな。
「とりあえず足で試してみるよ。」
俺はそう言って足に集中する。まずは氷の粒だ。すると足から氷の粒が出た。靴の中にだが。
「痛い、痛い、痛い。」
氷の粒が靴を圧迫してくる。めっちゃ痛い。俺は慌てて魔法を止め、靴を脱ぐ。血だらけだった。ルーンは口を押さえている。心配してる訳ではない。笑いそうなのだ。
「ランス大丈夫?」
誰かと違い、優しいユキは近づいてきて、心配してくれる。
「丁度いいから、ヒールーの練習しましょう。」絶対確信犯だよ、この人。
そう思いつつもルーンは説明してくれる。ヒールーは込める魔力量や、想いが多い程、良く治る。後は水と聖の特性を持つ人に凄いヒーラーが多いのだとか。
「ユキちゃん。ランス君を治したい想いをイメージしながら、傷口に手をかざして下さい。」
雪はそう言われ、少し考えた後に俺の傷口に手をかざす。すると緑の光が出てきて、傷があっという間に治ってしまう。
「凄いですよ、ユキちゃん。やはり、ランス君への想いはピカイチですね!」
ルーンは少し興奮しながら言っている。それにピカイチって。
でも本当に凄い。もしもの時に安心出来るからな。
「本当すごいよ雪!ありがとう!」
俺が言うと雪は少し照れていた。可愛い。
「足から使う時は靴を脱ぎましょうね!当たり前の事ですよ!」
やれやれとしながら言ってくる。確信犯のくせに、何て白々しい魔女ママだ!!
この後は定番である。
俺は靴を脱ぎ、また足に集中する。地面を踏んだら出てくる、氷の壁をイメージする。
足に魔力が流れるのを感じると地面を踏む。
キンッッッッ!冷たい音がなり、目の前に氷の壁が出来た。
これはかなり使えるな。早く出せるし、形とか変えれば攻撃に使えそうだ。しかし、裸足じゃなきゃダメなのがネックだ。
「ねぇ、靴履いたままで出来るようにならないかな?」
ルーンに聞いてみる。
「無理ですね。いいじゃないですか。裸足で。」
キッパリ否定されてしまった。ルーンの事だから、面白がってる可能性もあるが。まぁ、一応エリスにも聞いて見よう。
俺はその後も色々な物を足で作ってみた。これなら槍を持ちながらでも戦えるかもしれない。色々問題はあるんだけどね。
私はさっきのヒールの感覚が忘れられなかった。初めて役に立てた気がしたからだ。でもヒールが目的じゃない。一緒に戦う事が目的なのだから、強くならなきゃ。
「さっきのヒールは凄かったですね。」
ルーンが声をかけてくれる。
「でも戦うのが、強くなるのが、一番彼の助けになるから。」必要とされるから。
ランスが昨日の夜言った事は嘘じゃないと思う。でももし、他に戦える奴隷が、私より使える奴隷が手に入ったら私は必要無くなるかも知れない。そんなのは絶対に嫌だ。ランスに捨てられたら私は生きて行けない。今までは優しさを知らなかったから、大丈夫だった。でも知ってしまった今は、もう耐えられない。壊れてしまう。だから、絶対に強くなって、必要とされる。いつまでもランスと居たいから。
「ユキちゃん。無理はしないでね。」
ルーンはそれだけ言うとランスの方に行ってしまった。
ルーンの修行の時間も終わり、お昼を食べる。昨日と変わらず私はルーンとランスはエリスと午後の修行を行う事になる。不満はあるが、言った所で駄目だと言われるのがオチなので、何も言わない。
「分からない所あったら言って下さいね。」
午後はルーンと文字の読み書きだ。それと家事。必要な事だとは思うけど、私の目的には合ってない。
「ルーン。私もっと魔法の修行がしたい。」
もしかしたらルーンなら分かってくれるかも知れない。人の気持ちを読むのが得意だし。
「駄目ですよ。文字も家事も大事な事です。」
ダメだった。でも諦めない。
「お願いルーン。分かるでしょ、私の気持ちが。」
必死に言う。
「分かります。ユキちゃんは私の気持ちが分かりますか?」
分かってはくれたが、意味の分からない質問をされてしまった。ルーンの気持ちか。
「正直分からない。」
本当に分からなかった。
「私の気持ちは怒ってます。」
意外だった。ふざけて怒ってる事はあるが、本当に怒ってたのはギルドの時だけだ。
「何で怒ってるか分かりますか?」
続けて質問されてしまった。
「私が無茶ばかり言うから?」
この辺は自分でも分かっている。でも時間は限られているのだ。
「違います。ランス君を信じてないからです。」
意味が分からない。私は誰よりもランスを信じてる。だから少し強く言ってしまう。
「そんな事ない!誰よりも信じてる。」
ランスが居たから救われたんだから。
「信じているなら、なんでそんなに焦ってるの?」
「信じてても捨てられる事はあるでしょ?必要じゃなくなる事はあるでしょ?だから焦ってるの!」
ルーンの言葉に自分でもビックリする程感情的になってしまう。
「ヒントはここまでです。後は自分で考えなさい。とにかく今日は文字と家事をやります。それは変えません。」
ルーンはそれだけ言うと。聞く耳持たずの状態になってしまい。勉強の事以外話してくれなくなってしまった。こんなルーンも少し珍しい。特に最後の言葉が気になる。私はまた思考の渦に巻き込まれていく。
エリスとの特訓が終わり、家に入ると、ルーンと雪が少し気まずそうにしていた。いつもは仲の良い2人なので、気になったが、誰に聞いても何でも無いと言われるだけだった。
でも確実に空気がおかしい。しかしこの空気は後3日は続くのだった。
毎日同じ事をすれば多少は慣れてくる。雪も少しづつだが出来るようになっていた。そして修行開始から5日経ち、明日はいよいよギルドでの仕事だ。俺はワクワクしながら明日の予定をエリスに聞いてみた。
「明日は何時くらいに行くの?」
「10時には家を出る。準備をしとけよ。」
エリスはいつも通りだった。
「準備する物って何?」
俺もいつも通りだった。
「特にいらん。お前は武器も必要ないしな。カードだけ忘れるな。」
確かに自分で創れるからな、そういえば雪は何で戦うんだろう?
「雪の武器はどうすんの?」
言った途端にルーンが少し渋い顔をしていた。
「明日はお前だけだ。ユキは連れてかない。」俺が反応する前に雪がしていた。
「私も行く。」
短く。覚悟を持って。
「ダメだ。実戦の訓練してないお前を連れて行ける訳ないだろ。ルーンと家にいろ。」
相変わらず正論だ。でも。
「それでも行く。」
雪も譲らない。
「ユキちゃんは行かせません。エリスさんの言う通り無茶です。」
珍しくルーンも反対していた。最近の気まずさはこれが原因なのかも知れない。
「行かなきゃ。一緒に戦うって決めたから。」
……。
「エリス、ルーン。雪も連れて行く。」
何でも受け入れるな、厳しさを持てと怒られた。でもこれだけは譲れない。雪は俺のパートナーだから。最初の仕事は絶対一緒にやって、一緒に喜びを分かち合うって決めてたから。
「お前この前言った事忘れたのか?」
「覚えてるよ。でもこれは譲れない!」
「ユキが死ぬかもしれねーんだぞ。」
「俺が守るから。」
「大して強くもねぇくせに、どうやって守んだよ!何も分かってねぇーじゃねーか。お前のそれは優しさじゃないって何度言わせんだよ!!」
エリスも熱くなっていた。
「なら強くなるまで俺も行かない!優しさで言ってる訳じゃない。雪のパートナーとして言ってるから。最初に仕事をこなす達成感を2人で味わいたい。それにこれ以上は雪に焦ってほしくない。エリスもルーンもそれは分かるでしょ?だから、2人じゃないと行かない。」
俺はエリスの目を真っ直ぐ見ながら言う。間違えた考えかも知れない。甘いかも知れない。でもこれだけは譲りたくない。
「お前が行かない事が余計に雪を焦らすかもしんねーぞ。それでもいいなら勝手にしろ。ただし、私が許可するまではギルドに行かせねぇからな。」
エリスの言う事はいつも正しい。でも従ってるばかりではダメだ。
「そこは雪とちゃんと話し合うから。分かってくれてありがとうエリス。」
俺はそう言って雪の手をとり部屋に戻る。
「だから言ったじゃないですか。男の子だって。」
ルーンの言う通りだ。私も間違っていたのかもな。あそこまで力強い目を向けてくるとは思わなかった。
「エリスさん口ニヤけてますよ。」
「うっせぇ!」
ルーンにゲンコツをかまし。2人の部屋を見る。
「強くなれよ。2人で。」
1人呟くと掃除を始める。
俺は雪と部屋に戻ってきた。エリスと喧嘩するのも初なので、胸がドキドキしてる。明日からどうしよう。ってか明日何するんだろう?
「ありがとう。嬉しかった。」
雪がボソッと言ってくる。
「いいんだよ。俺的にも譲れない事だったし。」
そう言って頭を撫でる。もちろん耳も。
「私ランスが居ないと生きて行けない。」
ドキッとしてしまう。聞く人が聞けばプロポーズだ。
「ならずっと生きて行けるね!」
離すつもりなどない。
「ルーンに言われた、ランスを信じてないって。」
どうやら気まずい雰囲気だったのはこれのせいらしい。
「信じてないの?」
「信じてる。でも怖い。私より戦える使える奴隷ならいっぱいいる。いつか私は必要無くなるんじゃないかって。もうあの頃に戻りたくない。戻ったら耐えられない。だから、早く強くなって、必要にならなきゃって。」
これが雪の焦っている理由だった。確かにルーンの言うとおり、俺は信じてもらえてなかった。
「雪、それは俺の事を信じてないのと一緒だよ。」
雪は少し苦しい顔をしている。
「本当に俺の事を信じてるなら、そんな事考えない。俺は絶対に雪を見捨てないし、雪も絶対に俺を見捨てない。それに一緒に爺ちゃんの所に帰るって約束したじゃん!だから、焦らないで。俺も全然強くないし、2人でゆっくり強くなって行こうよ!
雪は何も言わず頷いていた。きっと彼女の抱える悪い根はいっぱいあるだろう。でも一本一本抜いて行って、最後には全部無くなればいい。俺はそう思うのであった。




