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槍と氷で頑張ります!  作者: 鹿鹿
2章 修行と克服
19/29

19話 師匠と弟子の喧嘩

2人が寝た後、私はルーンと今日の事について話す事にする。


「2人共どうだった?」

ルーンは読書をやめて答えてくれる。


「ランス君は微妙ですけど、ユキちゃんは魔法の才能がありますね。」

やはりユキには魔法の才能があるか。まぁ、魔族の血も入っているから、当たり前っちゃ当たり前なんだが。


「そうか。どのくらい使えるんだ?」


「ランス君は氷だけで、ユキちゃんは水、風、雷、魔ですね。ただ水は暫く使えないと思います。」

ルーンは少し悲しそうに言う。


多分奴隷時代のトラウマだろう。全てを受け入れたと言っても傷が残らない訳ではない。


「ランスはクソだな。ユキの事は任せる。午後の訓練には暫く参加させるつもりはないからな。」

ただでさえ片腕なのに、魔法も氷しか使えないとなると、この先大変だな。ユキはユキで今はあまり無理させたくない。本人はやる気満々だが、焦っているようにしか見えない。気持ちが分からないでもないが、まだ時間はあるのだから。


「やっぱり焦ってますよね。」

ルーンも気にしてるようだ。ってか心を読むな!


「自分の出来なさが悔しいんだろ。それに捨てられるのが怖いんだろうな。」

もちろんランスが捨てるとは思わない。絶対ないだろう。だが、ユキにはそれが分からない。信じたって捨てられる事はあるのだから。だから焦って、焦って、自分の存在価値を証明しようと必死なのだ。ランスはその辺に気づいてない。だが教えるつもりもない。何でも教えてやる事は出来る。でもそれをすると依存してしまう。私達は居なくなるのだから、いつまでも頼れないのだから。少しづつ私も厳しくして行かないとダメなのだ。


「そうですね。その辺の問題は二人で解決させたいですもんね。」


「あぁ、なるべく口は出さないようにするさ。ってか心を読むな!疲れるんだから、あまり使うなよ。」

ルーンはテヘって顔をしている、多分分かってないだろう。まっ、次やったらゲンコツしてやるからな。


「すいませんでした。もう使いません。」

何だかランスみたいな誤り方だ。


「とにかくユキの事は頼むぞ。午後はお前に任せるからな。」

私より、ルーンの方が色々と都合がいい。それにランスの事もしっかり見てやりたい。


「分かりました。ギルドの仕事はどうするんですか?」

ユキも連れてくのか?って事だろう。


「ランスにだけやらせる。ギルドの方にも暫くは連れて行かない。」

ユキは納得しないだろうが、仕方ない。現状では危険だ。


「ユキちゃんもですが、ランス君も納得しないと思いますよ。」

それも分かってる。


「私が言えば納得するだろう。本当は駄目なんだけどな。まぁ、そうゆう事だから、明日から頼むな。私も寝るから。おやすみ。」

私はそう言って自分の部屋に戻る事にする。


「ランス君も男の子ですよ。」

ルーンが背中越しに言ってきたので、手をヒラヒラさせながら、部屋に戻る。





「起きて、ランス。」

私はそう言って彼を揺さぶる。


「B定食でお願いします。」

訳の分からない事を言っていた。


「もうすぐ5時だよ。起きないとエリスに怒られる。」

尚も強く揺さぶる。


「B定食には尻尾付いてないだと!?ふざけんな!!」

全く意味が分からない。怒っているのは分かるが。


「訳分かんない事言ってないで起きて。」

さらに強く揺さぶる。


「こんな店2度とくるかー!潰れちまえ!」

起きない。意味が分からない事ばっかり言って全く起きない。時間もギリギリなので、最終手段に出る。


ゴツン!!「イテッ。」



朝の目覚めは快適だった。訳の分からない夢は見たが、尻尾は大事なんだと言う事は理解出来た。ちなみに俺の頭にはタンコブがある。ユキ曰く寝相が悪くてぶつけたんだとか。


起きた時間も結構ギリギリだったので、急いで準備し、外に向かう。


「エリスおはよう!」

もう外で待っていた。少し怖い。


「おはよう。ユキ、ランス。昨日と同じようにやれ。」

怒られるかと思ったが大丈夫だった。


俺達は言われた通り、昨日と同じメニューをこなす。筋肉痛が少し酷い。雪も筋肉痛らしく、辛そうだった。でも無理にやるとは言い出さなかったので、昨日の事が分かってくれたんだと思う。朝のメニューが終わり、朝食を食べ、ルーンの修行に入る。


俺は相変わらず的当てをしていた。


「ランス君、魔法は手以外からも出せますよ。」

ルーンの一言は意外だった。


「そうなの?手のイメージしかないけど、他はどこから出せんの?」


「例えば足とか、口とか、目から出せる人も居ますよ。危ないですが。」

それって最早曲芸では?しかし手以外から出せるなら、戦略の幅は広がるな。


「とりあえず足で試してみるよ。」

俺はそう言って足に集中する。まずは氷の粒だ。すると足から氷の粒が出た。靴の中にだが。

「痛い、痛い、痛い。」

氷の粒が靴を圧迫してくる。めっちゃ痛い。俺は慌てて魔法を止め、靴を脱ぐ。血だらけだった。ルーンは口を押さえている。心配してる訳ではない。笑いそうなのだ。


「ランス大丈夫?」

誰かと違い、優しいユキは近づいてきて、心配してくれる。


「丁度いいから、ヒールーの練習しましょう。」絶対確信犯だよ、この人。


そう思いつつもルーンは説明してくれる。ヒールーは込める魔力量や、想いが多い程、良く治る。後は水と聖の特性を持つ人に凄いヒーラーが多いのだとか。


「ユキちゃん。ランス君を治したい想いをイメージしながら、傷口に手をかざして下さい。」

雪はそう言われ、少し考えた後に俺の傷口に手をかざす。すると緑の光が出てきて、傷があっという間に治ってしまう。


「凄いですよ、ユキちゃん。やはり、ランス君への想いはピカイチですね!」

ルーンは少し興奮しながら言っている。それにピカイチって。

でも本当に凄い。もしもの時に安心出来るからな。


「本当すごいよ雪!ありがとう!」

俺が言うと雪は少し照れていた。可愛い。


「足から使う時は靴を脱ぎましょうね!当たり前の事ですよ!」

やれやれとしながら言ってくる。確信犯のくせに、何て白々しい魔女ママだ!!

この後は定番である。



俺は靴を脱ぎ、また足に集中する。地面を踏んだら出てくる、氷の壁をイメージする。

足に魔力が流れるのを感じると地面を踏む。


キンッッッッ!冷たい音がなり、目の前に氷の壁が出来た。


これはかなり使えるな。早く出せるし、形とか変えれば攻撃に使えそうだ。しかし、裸足じゃなきゃダメなのがネックだ。


「ねぇ、靴履いたままで出来るようにならないかな?」

ルーンに聞いてみる。


「無理ですね。いいじゃないですか。裸足で。」

キッパリ否定されてしまった。ルーンの事だから、面白がってる可能性もあるが。まぁ、一応エリスにも聞いて見よう。


俺はその後も色々な物を足で作ってみた。これなら槍を持ちながらでも戦えるかもしれない。色々問題はあるんだけどね。





私はさっきのヒールの感覚が忘れられなかった。初めて役に立てた気がしたからだ。でもヒールが目的じゃない。一緒に戦う事が目的なのだから、強くならなきゃ。


「さっきのヒールは凄かったですね。」

ルーンが声をかけてくれる。


「でも戦うのが、強くなるのが、一番彼の助けになるから。」必要とされるから。

ランスが昨日の夜言った事は嘘じゃないと思う。でももし、他に戦える奴隷が、私より使える奴隷が手に入ったら私は必要無くなるかも知れない。そんなのは絶対に嫌だ。ランスに捨てられたら私は生きて行けない。今までは優しさを知らなかったから、大丈夫だった。でも知ってしまった今は、もう耐えられない。壊れてしまう。だから、絶対に強くなって、必要とされる。いつまでもランスと居たいから。


「ユキちゃん。無理はしないでね。」

ルーンはそれだけ言うとランスの方に行ってしまった。




ルーンの修行の時間も終わり、お昼を食べる。昨日と変わらず私はルーンとランスはエリスと午後の修行を行う事になる。不満はあるが、言った所で駄目だと言われるのがオチなので、何も言わない。



「分からない所あったら言って下さいね。」

午後はルーンと文字の読み書きだ。それと家事。必要な事だとは思うけど、私の目的には合ってない。


「ルーン。私もっと魔法の修行がしたい。」

もしかしたらルーンなら分かってくれるかも知れない。人の気持ちを読むのが得意だし。


「駄目ですよ。文字も家事も大事な事です。」

ダメだった。でも諦めない。


「お願いルーン。分かるでしょ、私の気持ちが。」

必死に言う。


「分かります。ユキちゃんは私の気持ちが分かりますか?」

分かってはくれたが、意味の分からない質問をされてしまった。ルーンの気持ちか。


「正直分からない。」

本当に分からなかった。


「私の気持ちは怒ってます。」

意外だった。ふざけて怒ってる事はあるが、本当に怒ってたのはギルドの時だけだ。


「何で怒ってるか分かりますか?」

続けて質問されてしまった。


「私が無茶ばかり言うから?」

この辺は自分でも分かっている。でも時間は限られているのだ。


「違います。ランス君を信じてないからです。」

意味が分からない。私は誰よりもランスを信じてる。だから少し強く言ってしまう。


「そんな事ない!誰よりも信じてる。」

ランスが居たから救われたんだから。


「信じているなら、なんでそんなに焦ってるの?」


「信じてても捨てられる事はあるでしょ?必要じゃなくなる事はあるでしょ?だから焦ってるの!」

ルーンの言葉に自分でもビックリする程感情的になってしまう。


「ヒントはここまでです。後は自分で考えなさい。とにかく今日は文字と家事をやります。それは変えません。」

ルーンはそれだけ言うと。聞く耳持たずの状態になってしまい。勉強の事以外話してくれなくなってしまった。こんなルーンも少し珍しい。特に最後の言葉が気になる。私はまた思考の渦に巻き込まれていく。




エリスとの特訓が終わり、家に入ると、ルーンと雪が少し気まずそうにしていた。いつもは仲の良い2人なので、気になったが、誰に聞いても何でも無いと言われるだけだった。

でも確実に空気がおかしい。しかしこの空気は後3日は続くのだった。


毎日同じ事をすれば多少は慣れてくる。雪も少しづつだが出来るようになっていた。そして修行開始から5日経ち、明日はいよいよギルドでの仕事だ。俺はワクワクしながら明日の予定をエリスに聞いてみた。


「明日は何時くらいに行くの?」


「10時には家を出る。準備をしとけよ。」

エリスはいつも通りだった。


「準備する物って何?」

俺もいつも通りだった。


「特にいらん。お前は武器も必要ないしな。カードだけ忘れるな。」

確かに自分で創れるからな、そういえば雪は何で戦うんだろう?


「雪の武器はどうすんの?」

言った途端にルーンが少し渋い顔をしていた。


「明日はお前だけだ。ユキは連れてかない。」俺が反応する前に雪がしていた。


「私も行く。」

短く。覚悟を持って。


「ダメだ。実戦の訓練してないお前を連れて行ける訳ないだろ。ルーンと家にいろ。」

相変わらず正論だ。でも。


「それでも行く。」

雪も譲らない。


「ユキちゃんは行かせません。エリスさんの言う通り無茶です。」

珍しくルーンも反対していた。最近の気まずさはこれが原因なのかも知れない。


「行かなきゃ。一緒に戦うって決めたから。」

……。


「エリス、ルーン。雪も連れて行く。」

何でも受け入れるな、厳しさを持てと怒られた。でもこれだけは譲れない。雪は俺のパートナーだから。最初の仕事は絶対一緒にやって、一緒に喜びを分かち合うって決めてたから。


「お前この前言った事忘れたのか?」


「覚えてるよ。でもこれは譲れない!」


「ユキが死ぬかもしれねーんだぞ。」


「俺が守るから。」


「大して強くもねぇくせに、どうやって守んだよ!何も分かってねぇーじゃねーか。お前のそれは優しさじゃないって何度言わせんだよ!!」

エリスも熱くなっていた。


「なら強くなるまで俺も行かない!優しさで言ってる訳じゃない。雪のパートナーとして言ってるから。最初に仕事をこなす達成感を2人で味わいたい。それにこれ以上は雪に焦ってほしくない。エリスもルーンもそれは分かるでしょ?だから、2人じゃないと行かない。」

俺はエリスの目を真っ直ぐ見ながら言う。間違えた考えかも知れない。甘いかも知れない。でもこれだけは譲りたくない。


「お前が行かない事が余計に雪を焦らすかもしんねーぞ。それでもいいなら勝手にしろ。ただし、私が許可するまではギルドに行かせねぇからな。」

エリスの言う事はいつも正しい。でも従ってるばかりではダメだ。


「そこは雪とちゃんと話し合うから。分かってくれてありがとうエリス。」

俺はそう言って雪の手をとり部屋に戻る。




「だから言ったじゃないですか。男の子だって。」

ルーンの言う通りだ。私も間違っていたのかもな。あそこまで力強い目を向けてくるとは思わなかった。


「エリスさん口ニヤけてますよ。」


「うっせぇ!」

ルーンにゲンコツをかまし。2人の部屋を見る。

「強くなれよ。2人で。」

1人呟くと掃除を始める。




俺は雪と部屋に戻ってきた。エリスと喧嘩するのも初なので、胸がドキドキしてる。明日からどうしよう。ってか明日何するんだろう?


「ありがとう。嬉しかった。」

雪がボソッと言ってくる。


「いいんだよ。俺的にも譲れない事だったし。」

そう言って頭を撫でる。もちろん耳も。


「私ランスが居ないと生きて行けない。」

ドキッとしてしまう。聞く人が聞けばプロポーズだ。


「ならずっと生きて行けるね!」

離すつもりなどない。


「ルーンに言われた、ランスを信じてないって。」

どうやら気まずい雰囲気だったのはこれのせいらしい。


「信じてないの?」


「信じてる。でも怖い。私より戦える使える奴隷ならいっぱいいる。いつか私は必要無くなるんじゃないかって。もうあの頃に戻りたくない。戻ったら耐えられない。だから、早く強くなって、必要にならなきゃって。」

これが雪の焦っている理由だった。確かにルーンの言うとおり、俺は信じてもらえてなかった。


「雪、それは俺の事を信じてないのと一緒だよ。」

雪は少し苦しい顔をしている。


「本当に俺の事を信じてるなら、そんな事考えない。俺は絶対に雪を見捨てないし、雪も絶対に俺を見捨てない。それに一緒に爺ちゃんの所に帰るって約束したじゃん!だから、焦らないで。俺も全然強くないし、2人でゆっくり強くなって行こうよ!


雪は何も言わず頷いていた。きっと彼女の抱える悪い根はいっぱいあるだろう。でも一本一本抜いて行って、最後には全部無くなればいい。俺はそう思うのであった。


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