17話 筋肉と紅狼が向かいます。
豪田視点です。
氷室が城を追放されてからすぐに、王は国民に俺達の事を紹介した。国民は暖かい声や声援で迎えいれてくれた。紹介が終わると訓練が始まった。
もちろん氷室は紹介されない。俺は思う。あれはあいつがやった事では無いと、向こうは俺の事を忘れているが、幼い俺が引っ越しをするまでは、良く遊んだ中だ。あいつの祖父も知っている。あの人があんな事をする奴に育てる筈がない。でも俺は天原には逆らえない。天原を守る事が家族を守る事に繋がる。せめて無事でいてほしい。そう願うだけだった。
訓練と言っても最初から戦う訳ではない、まずはこの世界の事や、歴史などを教わる。
大まかに言えば、西の王国、南の帝国、東の獣国、これらの国が三大国だ。小さいイザコザはあるが、戦争状態にある訳でもない。冷戦に近い感じだと思う。
北には小さい国が1つだけあり、その国には手を出さない事が三国の決まりらしい。
なぜ手を出して行けないのかは教えてくれなかった。
では魔王は何処にいるの?って話になるが、海に囲まれた大きな島に居て、力を蓄えているらしい。
別に部下を寄越す訳でもなく、ただ1人で力を蓄えている。実に変な魔王だと思った。
そして勇者召喚の事だが、100年前に初めて行われ、魔王が10年周期で復活するので、その都度新しい勇者が召喚されてきた。
10年間魔王を倒せなかったら、もう一体魔王が生まれ、勇者も召喚される。その前例はないが、そうなるんだとか。
これがこの世界の大体の事情だ。
この後は歴史の事を教えてくれた。
最初に召喚された勇者は1人で、女神と3人の仲間で6体の獣と魔王を倒し、世界を救った。ありきたりだが、今の国の王達はその人達の血を継いでいる。勇者と女神は銅像にもなっていて、国の主要な場所にはほとんど置いてある。ウェスタンっぽい服を着た男性とワンピースっぽい服に鎧を纏った女神が抱き合っている変な像が。
それが100年前の出来事で、それより前の記録はないらしく、100年で国がこんなにも発展するのかと疑問に思い聞いて見たが、召喚された勇者が新しい技術を持ち込んだのと、魔王を倒しても帰らない勇者も居て、その人達が色々発展させていったらしい。
その後も名を残した英雄の話しや、優れた技術を持った人の話し、国がどう成り立ったのかなど、色々教えてくれた。
最後には今も生きている英雄の話しをしてくれた。
10年前に6匹の魔獣が現れ、各地の街や村を無差別に蹂躙して行った。三国間で協力して、討伐を試みるも上手く行かず、勇者も召喚されたてなので、戦力にはならなかった。
困った三国は、当時北のギルドで名を馳せていた5人とそこの領主。最強の傭兵と呼ばれていた男に莫大な報酬金を渡し、これの討伐に当たらせた。
なぜ、最初から依頼しなかったかは謎のだが。
戦いは壮絶だったが、1人の勇敢な少年による、自己犠牲で終結し、残った6人は各国から名誉を与えられた。領主である男は三国に頼み、自分の領を国にしてもらった。
4人はその戦いぶりから『四滅』と呼ばれ。
1人は王国の王と密談を交わした。
自己犠牲を払った少年は敬意を込めて皆からこう呼ばれた『獣滅の勇者』と。
この人達は今も生きている。会う事はないだろうが。
受ける人によっては退屈な話しが終わると、昼食をとる。天原の周りには王女とその護衛、それにクラスの女子が群がっている。
今までは常に側にいたが、この世界に来てからは距離が離れている。俺より強いだろう王女の護衛が近くに居るのだから。天原の中で俺の存在価値は下がっている事だろう。むしろ邪魔になっているかも知れない。彼の二面性を知っている俺の存在が。
昼食が終わると各自得意な武器を使った訓練を行う。特殊な力が宿っていると言っても武器の扱いなんて初めての者ばかりなので、騎士団の人にあれこれ教えてもらいながらやってる状況だ。
夜は好きなように使っていいので、街に出る者もいる。
大体1日の流れはこんな感じだ。その内魔物の討伐にも行くらしいが、暫くは先だろう。
ここまでで誰も氷室の話しはしない。少し気持ち悪さを感じる。
そんな風に数日過ごすと王から、全員が呼び出された。
「皆に知らせがある。ヒムロは死んだ。」
無事を願った数日後にこれだ。あまりにも残酷過ぎる。もし、誰かが信じてあげてれば、俺が天原では無く、氷室を信じていれば……あいつは死ぬ事なんてなかったのに。深い罪悪感に苛まれる。無意識に下唇を噛んでいた。血が出るほど強く。氷室を殺したのは俺だ。
「豪田君どうしたの?唇から血が出てるよ?」声をかけて来たのは姫野だ。
学園のアイドルで、誰にでも分け隔てなく接する、そんな彼女を悪い意味で崇拝する物も多く。何度かトラブルになっている。
「……。」何も言わなかった。
「でもさ、氷室君も自業自得だよね。あんな事したんだもん、バチがあったたんだよ。」その姫野が、死んで当たり前のように言っていた。死んだ事に対して少しも悲しんでいない。
それは姫野だけでなく、他のクラスメイトも同意だったのか、誰1人として、彼の死を悔やむ物は居なかった。当然の報いだと。
確かにあいつは浮いていたが、人とはそこまで薄情な物なのだろうか?
あの時も異常だった。王の言葉を信じ過ぎていた。誰も意を唱える事なく、証拠を見ただけで、疑う事もせずに彼が犯人だと。俺は考え込んでいたせいで気付かなかった。自分が悲しい顔をしていた事を、それを天原が見ていた事を。
「残念な事だが、この世界は厳しい。城に居る間は出来る事はする。どうか強くなって、ヒムロのようにはならないでくれ。」
王は白々しく言っていた。ここで嫌な妄想が膨らんでくる。氷室を殺したのは王ではないかと。
「王様、彼の死を無駄にしない為にも我々は頑張ります。」天原がこう答えた。
彼に続いてクラスメイトも頑張る意思を固める。この流れがあらかじめ用意された筋書きのように、綺麗にまとまっていた。俺以外が。
その後1人の男性を紹介され、王の間での話しは終わった。俺は考えながら、歩いてる。嫌な妄想は確信に変わりつつある。
「豪田。少しいいか?」
天原だ。
「あぁ、大丈夫だ。」
少し驚いたが冷静に返す。
「お前はもう俺を守らなくていい。」
俺の肩に手を置きながら言った。
「なぜだ?」
理由は何となく分かるが、聞く。
「お前より強い護衛が付いてくれてる。だから必要ない。国を出て行け。」
思っていた通りの答えだった。最後以外は。
「なぜだ?それに約束の事はどうなる?
氷室の件があったから、俺も殺されるかも知れない。理由は不明だが。
「こっちの世界で俺の本性を知ってるお前は邪魔だ。本当に帰れるかも分からないしな。そんな爆弾側に置きたくない。丁度良く王女の護衛が俺も守ってくれるしな。」天原はやれやれと言った感じで続けた。
「もしお互い無事に帰れる事になったら、そん時はまたお願いするさ、だから約束の事は安心しろ。」
笑顔だった、奥にドス黒い欲望が見える。
多分天原は帰るつもりがない。この世界の方が早く上にあがれると思ったのだろう。
向こうの世界ではどんなに頑張ろうとトップになるまでは時間がかかる。親の存在が大きいからだ。反面こちらなら、王女と結婚さえしてしまえば、早く権力が手に入る。おまけに力まであるのだ。王の事など何とでも出来そうな力が。
「分かった。」
帰らないならそれはそれで構わない。俺も帰らなければいいだけだ。こっちと向こうの世界の時間軸が一緒かは分からないが、子供さえ居なければ職を失っても何とか生きて行けるだろう。まぁ、先に俺が死んでしまうかもしれないが、どの道逆らえない。約束の事が大丈夫だと分かっただけでもいい。
「まぁ、お前とは付き合いも長い。無事に生きてろよ。魔王は俺達が倒すから。」
天原はそれだけ言い残し去っていく。
俺は王の執務室に向かう。城を出る事を伝える為だ。
コンコン、「誰だ?」
「ゴウダです。お話しがあり参りました。」
「その件ならアマハラから聴いておる。明日の朝に旅立つとよい。」
先に話していたのか、ドア越しで用件は終了する。
「分かりました。」それだけ言って執務室を後にする。途中で王が紹介していた男性とすれ違う。
「お前の認識は間違ってない。死ぬ気で生きろよ小僧。」
どこで話しを聞いていたのか、男性がそう語りかけてくる。声をかけようとしたが、手をヒラヒラさせながら歩いて行ってしまった。
認識は間違ってない。やはり氷室を殺したのは王。クラスメイトが少しおかしいのは天原の仕業だろう。2人が何かを企んでる。
俺は部屋に戻り、少ない荷物をまとめる。まさか自分まで追い出されるとは思わなかった。最初から追い出してくれれば、氷室と行動を共に出来たかもしれないのに。死なせずに済んだかもしれないのに。俺はそう思いながら、眠りについた。
翌朝は起きてすぐに城を出る事にした、転移石は使わせてもらえないので、歩きで別の国に向かわなければならない。一番近い帝国の領でも時間はかなりかかる。途中の街や村で休憩しながら行かなければならないからだ。それに金の問題もある。これは旅の途中の魔物を狩って稼ぐしかない。どのくらいの稼ぎになるかは不明だが。
氷室と違って多少はこの世界の事が理解出来ているそれだけは救いだ。
城の出口に着くと馬車がまっていて、出口の門まで乗せてくれた。勇者が出て行く事を街の人に知られたくないのだろう。
門まで着くと同乗していた兵士の人がお金をくれた。王からの餞別らしい、ありがたく受け取る。
そして俺は門を出た。外に出るのは初めて、壮大な大地が広がっている。転移石があるからか、道などは舗装されておらず、人も居ない。地図は持っているので、次の目的地は分かるが、不安になる。生きて辿り着けるのかと。それでも行くしかないので、一歩を踏み出し歩き始めた。
暫く歩くとゴブリンに遭遇する。4匹程いて、俺に気付いたのか、ギャーギャー言っている。ゲームなどしない俺でもゴブリンぐらいは知っている。ただこの世界のゴブリンは人間にそっくりな顔をしている。殺すのを躊躇いそうになるほどに。
4匹のゴブリンは剣と斧を持っていて、相変わらずギャーギャー言っている。俺も覚悟を決め戦う事にする。多分ゴブリン程度なら余裕だろう、戦った事はないが、そう思えてしまう。
ギャーギャー言うのも満足したのか、4匹が一斉に襲いかかってくる。俺を斬りつけようと、錆びた剣と斧で。だが。
ガキィーーン。俺の体に刃は通らなかった。狼狽えているゴブリン達を睨み付け、まずは二人処理する、右と左で1匹ずつ、ゴブリンの首を掴み、へし折る。残りの2匹は逃げようとしていたので、手に持ってるゴブリンを投げつけ、転ばせる。転んだゴブリンの首を狙い、足で踏み砕く。あっという間に終わった。人間に似てるゴブリンを殺すのは気色悪いが、生かしといても無駄なので、全部殺す。確か証明部位は牙なので、それだけ取って死体は放置する。
これが俺に宿った力の1つ「拳王」の能力だ。
「拳王」
体は鋼鉄のように硬くなり、心は鋼の意思を持つ、体は鍛えれば鍛えるほど硬さがます。心は精神干渉を受け付けない。己の意思1つで強くも弱くもなる。」
ざっとこんな能力だ。正直強い力だと思う。どこまで、ダメージを受けないかは分からないが、ゴブリン程度なら余裕だ。
ゴブリンを倒しおえ、再び歩きだすと、またゴブリンが居た。次は8匹。なぜ倍になった?今度は弓と槍を持ってる奴もいる。弓が気づき俺に向かって撃ってくるが、全部弾かれる。あまり時間をかけるとさらに増えそうなので、俺はガントレットを装備し、一気に距離を詰める。向こうの攻撃は通らないので、無視して殴る。最初の4匹には2発、残りの4匹は1発で片付く。相変わらず簡単に終わる。俺はまた証明部位を取ろうと殺したゴブリンに近づいていく。
グォーーー。一際大きい叫び声が聞こえる。その方向を見ると体調3mぐらいの大きなオーク?が、ゴブリンを大量に引き連れ唸っていた。最初のゴブリンが呼んでいのかも知れない。
流石にこの数は面倒だ。さらに魔法を使う奴もいる。魔法に対してはどの程度大丈夫なのかは分からない。逃げるにしても囲まれてるので、難しそうだ。
「やるしかないか。」覚悟を決める。
すると。
「おーい、そこのゴリラの亜人大丈夫か?」
赤いローブを着た人がゴブリンの囲を突破し、俺の隣に立つ。
「私も手伝ってやるよ。」
そう言うとローブを脱ぐ。やる気満々と言う感じでステップを踏んでいる。
赤と言うよりは紅葉に近い感じの髪をした女性だった。しかも耳と尻尾がある。少し驚いた。だが。
「有難い。」誰だか分からないがこの状況でのスケットは助かる。二人で背を合わせ作戦を決める。
「あんた武器わ?」女性が聞いてくる。
「素手だ。君わ?」腕を突き出しながら言う。
「蹴りだ。」足を上げながら言っていた。タイツを履いているが、スカートなので、中が見えそうになる。
こんな状態なのに、少しドキッとしてしまった。
「分かった。魔法以外の攻撃は多分俺のには聞かない。魔法使ってる奴を頼めるか?」
了解と言わんばかりの獰猛な顔だった。
女性はステップをやめ、魔法を使うゴブリンに狙いを定める。向こうもいつまでも待っててくれないらしく、オーク?以外は全員で攻めてきた。
俺は向かってくるゴブリンを次々と殴り掴み飛ばし、殺していく。途中火の魔法が飛んできたが、受けるのは怖いので、避けた。
そんな感じで蹂躙していると、女性の方が気になるので、目を向ける。彼女も向かってくる、ゴブリンを次々と蹴り飛ばし、凄い速さで魔法を使うゴブリンの元まで行き、殺していた。かなりの手練れだろう、動きに無駄がないし、戦闘経験も豊富だ。俺より強いのは間違いない。
見惚れていると、不意に重い衝撃が体にかかる。
グッ、オークが俺に攻撃していた。持っている棍棒で殴っていたのだ。
流石に力があるのか、俺に少しダメージが通る。一度距離を置いて、間をあける。お互いが睨みあう。他のゴブリンは女性に任せる事にして、この相手に集中する。
オークは俺に向かって走ってくる。俺もオークに向かって走る。
棍棒が振られた、縦に大きく。それを横ステップで躱し、腹に1発叩き込む。しかしあまりダメージはない。近寄られ嫌だったのか、オークは左の手で俺を掴もうとする、それをバックステップで躱し、もう一度距離を取る。
「まだ、足りないか。手数を増やすしかないな。」1人でそう呟き、オークに向かって走り出す。
向こうは接近されたくないのか、棍棒を振り回していた。あまり時間もないので、多少のダメージは無視し、オークの懐に入る。そして連打を叩きこむ。
「ウォォォーー。」声を出しながら、ひたすら連打を叩きこむ。オークはもう動いていない。十分だと思い、力を込めた一撃を放つ。
「ハァッッッ!!」オークの腹には風穴が空いていた。
周りを見渡すと女性もゴブリンを片付け終わったらしく、こっちに向かってくる。
「お前スゲェーな!ゴリラの亜人ってこんなに力あるんだな!」褒めてくれている。失礼な事を言いながら。
「いや、俺は人間だ。ゴリラじゃない。」
ちょっと悲しいが自分で否定した。
「いやいや、嘘付かなくていいから、こんな所をうろついてるって事は訳ありなんだろ?」
なぜか信じてもらえなかった。
「いや、本当に人間だ。城を置いだされてな。次の村を目指してるんだ。」
助けてくれたので、悪い人ではないと思い、現状を話す。
「まぁ、別にどっちでもいいけどな。何やらかしたんだよ?あの城で追放なんてねーぞ、大体死刑だからな。」
この言葉に悪寒が走る。なら、俺も狙われてる……。
「まぁ、そうゆう事だ。悪いが王の為に死んでくれ。」不意に後ろから声がかかる。振り向くと王が紹介した男が立っていた。
「なっ、何でお前がここに居るんだよ?」
女性は狼狽えていた、目の前の存在に。
「言ったろ?そいつを殺しに来たんだよ。」
その瞬間凄い圧力が襲ってくる。体の本能が感じてしまう。この男には勝てないと。
「天原の命令か?」恐怖を隠し聞く。
「それもあるな。だが、王国の勇者は追放=死が決まりでもある。」
そんな決まりなど知らない。それにこの言い方だと、過去の勇者も消されている事になる。しかし理解出来ない。氷室の場合も殺す必要は無かった。ましてや俺は何も悪さはしてない。王にとって都合の悪い事など……。
「だから悪いが死んでもらうぞ。」
男の声に思考が戻る。
敵わないにしろ、無抵抗で殺されるつもりもない。オークのおかげで大分力を溜められた、時間も残っているし、この一撃にかけるしかない。俺は覚悟を決め2つの能力を合わせる。
「加重打撃」
打撃を加えれば加えるほど、打撃は強く重い物になっていく。但し効果時間は発動から15分間。
「一撃入魂」
魂を入れた一撃を放てる。使うと激しい疲労感。本当に魂が入る訳ではない。」
今の状態ならかなりの威力が出るだろう、これが通じなければ終わりだ。
俺は男に最速で向かって行き。拳を放つ。
「ハァーーーッッッ!!」だが、片腕一本で止められてしまう。
「小僧にしてはいい打撃だが。まだまだ力不足だな。」
男はそう言って俺の腹にパンチを入れる。
グヘェッ。今までにない衝撃が体を走る。俺はその場で膝をつき倒れる。
「悪いな。」男はそう言うとトドメをさそうと拳を振り上げる。
「やらせるか!!」
その瞬間女性が助けに入ってくれた、しかし。
軽くあしらわれ俺と同じように一発もらい、倒れこむ。
万事休すだ。周りに助けもいない。俺ではとうてい敵わない。もう死ぬ以外に選択がない。
男はまた拳を振り上げる。そしてそれが、俺に向かって振り下ろされる。俺は目を瞑って、最後の時を待つ。走馬灯などは無かった。
……。来るはずのその時がいつまでも来ないので、おかしいと思い目を開ける。
「悪りぃな。本当は殺すつもりなんて、無いんだよ。」男は無邪気に笑いながら言っていた。
「あっ、えっ?」
訳が分からず変な声が出る。
「だから、殺すつもりはない。死んだって事にするから、目立たず生きて行けよ。どうせ行くあてもないんだから、その嬢ちゃんにでも着いて行きな。」
男はそれだけ言うと去ろうとした。
訳が分からない。目的も俺を生かす意味も。
「何で生かす?邪魔なんだろう?」
「王はな。別に俺にとっては邪魔じゃない。王国とは関わるなよ!」
結局意味は分からない。王に依頼されて殺しに来た筈なのに。
「分かった。ありがとうギルバートさん。」
意味は分からないが助けてはくれたのだろう。一応感謝を述べると、手をヒラヒラしながら去って行った。
俺は女性の方に駆け寄って状態をみる。ダメージは大きくないらしく、ちょっと休んで回復していた。
「名前わ?」
「私はフェルミナ。フェルって呼んでくれ。」
「俺は豪田拳斗だ。フェルはこれからどこに向かうんだ?」ギルバートの言葉が気になったので聞いてみる。
「私は奴隷だ。マスターの命令で王国に居たが、呼び戻されてな。今からは北の小国に向かう。」
奴隷だと聞いてビックリした。身なりもちゃんとしてるし、普通の亜人にしか見えない。
「そうか、俺も着いて行っていいか?」
1人ではやはり不安だ。それにフェルは俺を助けてくれた。強さも確認してる。どうせ行くあてなどないのだ。だったらこの子に付いて行った方がましだろう。
「別に構わないぜ、お前は強いしな。」
笑顔で了承してくれた。後で聞いた話しだが、フェルは紅狼族との亜人らしく、髪の色などはその影響らしい。
「助かる。よろしく頼むフェル。」
俺はそう言って手を差し出す。
「おう、よろしくなケント。」
2人でガッチリ握手を交わす。
この時の俺は知らなかった。北の小国で何が待っているのかを、フェルが転移石の許可証を燃やしてしまったせいで、歩いて行く羽目になる事を。
遅くなってすいません。




