16話 槍の心で雪解けを迎える
ランスと雪の視点が混ざってます。
俺はポカーンとしたまま、雪に手を引かれ部屋に向かう。
「ねぇ、部屋どこ?」
何か聞こえる。
「ランス聞いてる?」
誰かが呼んでる。
「ランス!!」
「えっ?何?ここはどこ?」俺はやっと戻ってこれた。
「何言ってんの?部屋が分かんない。」
雪は少し呆れていた。
正気に戻った俺は雪を部屋に案内し、一緒に入る、流石に電気は通ってないので、ランタンをつける。
しかし中に入って気づいたが、ベッドが1つしかない。雪の事だから、私は床でいいとか言いそうだし、どうしようかなぁ?
「ランス座って。」
雪から声がかかる。ここに座ってとばかりにベッドをポンポンしていた。
「分かったよ。雪も隣に座ってね。」床に座られたら嫌なので、そう言うと俺の横に腰をかけてくれた。
「聞いてほしい事がある。」真剣な目だ。
「分かったよ。ちゃんと聞く。」
さっきの事だろう。まさか雪の口からあんな言葉が出るとは思わずビックリしてしまったが。
「私はさっきも言った通り、ランスと戦う事にした。」
決意に満ち溢れている。嬉しい気持ちがあるが、少し急ぎ過ぎじゃないかとも思う。戦うと言う事は死ぬ可能性もあるのだ。
「何でそう思ったの?」理由が凄く気になる。何で戦おうと思ったのか、いつ思ったのか。
ランスが私に理由を尋ねてくる。当たり前だ。私は自分の事に対しては、分からないだの難しいだのしか彼には言ってない。即答で了承しない辺りも彼らしい。
私は今日の気持ちを素直に彼に伝える。
「正気言って、最初にランスの謝罪を聞いた時は腹がたった。何も知らないのに、あんただって奴隷を欲してるくせにって。他のやつらと何も変わらない。奴隷を買う人間にマトモな奴は居ないと思ってたから。」
ランスは少し苦しそうな顔をしている。でも私は言葉を続ける。
「でも少し冷静になって思い返してみたら、あれは異常な事なの。奴隷を買うのに言葉なんて要らないんだから。ましてや謝罪なんてあり得ない。制約の事もそう。あんなに少ないんじゃ意味ないし、本当にランスの考えが分からなかった。でも他の人とは違うと思った。」
ランスが何か言いかけてるが、手で抑制する。
「その後は服を買いに行ったよね。あの時初めて触れたランスの手は暖かくて。今まではずっと冷たい手しか知らなかった私にはとても不思議な感じだった。その後も店で色々言い合ったよね?私は汚い。雪を汚いとは思ってないとか、とても無駄な言い合いだと思ってた。でも綺麗な物をつかむだけなら簡単って言ったのは本当だったね。私が難しくしてただけで、本当に簡単だった。あの時の命令は嬉しかったんだよ。あの服を着たいって私は思ってたから、ランスが背中を押してくれて、着てみたら本当に普通の女の子みたいで、今なら思える。嬉しかったんだってね。」
彼の目が少し赤くなっていた。
「でもあの時の私はずっとランスが言ってる事が分からなかった。何を考えてるのか分からなかった。でも少しづつ少しづつ、ランスの言葉で、行動で、私の心は動いてたんだと思う。服を貰ったとき、笑顔を貰った時、助けてくれた時。私の心はポワッてしてたの。自分でも何だか分からない、でも嫌ではない気持ち。」
ランスは少し泣きそうだ。私も目頭が熱くなってくる。
「だから、モトノリ様の所でエリスに叱られた時、ランスに謝られた時、私は決めたの。出来る事は何もない。どうせ次で最後だと思ってたし、それなら今までにない気持ちを優しさを、人形で居る事を許してくれない、ランスをランス達を信じようって思ったの。」
彼はここで泣いていた。
「信じるとは決めたけど、戦えるかどうかは分からなかったんだ。」足手まといになるのは嫌だったから。
「でもね。ランスの腕を見たとき、そんな考えは無くなったの。きっと罪悪感もあったんだと思う。でも自分はそんな状態なのに、1度も戦う事を強要しなかった。側にいるだけでも良いって、自分のやりたい事を見つけてって。本当は戦える奴隷が必要だったのに。ずっとずっと私の事ばかり考えていた。
だから、そんな、そんな優しいランスを1人で戦わせない。死なせたくない。私も強くなって一緒に戦う。そう決めた。」私は決意を込めて彼に伝えた。
俺はいつの間にか泣いていた。雪の気持ちが言葉が色々考えていてくれた事が嬉しくて。後半の方は雪も泣いていて、さらにつられて涙が止まらなくなった。
「ありがとう雪。」そう言って頭を撫でる。
「俺さ、ずっと不安だったんだ。今日はルーンが側に居てくれたから、大丈夫だったけど、1人で街ん中歩くと思うと怖くてさ。街ん中だけで怖いのに、外に行ける訳ないよね。エリスには強がって、1人でも大丈夫みたいな事言ってたけど、どこまで強くなれるのか分かんないし、実際は凄く重荷だったんだ。でも雪を見た時ほっとくなんて選択は出来なかった。罪悪感もそうだけど、俺と似てると思って。もちろん程度は違うけどさ。」
「似てる?私とランスが?」
「うん。王城で誰も信じてくれなくて、理不尽に腕切り落とされて、追い出され、殺されそうになってさ。エリス達に助けられた時もう嫌だって思ったんだ。」
雪は真面目に聞いてくれていた。
「強い力に抗ったってより強い力に支配される。だからもう、諦めて死んだ方が楽だなって。」俺は少し間を置いて続ける。
「そしたらエリス達が前を向けって、希望を持てって優しく言ってくれて、これは内緒だけど、凄い爺ちゃんに雰囲気が似ててさ。もう死ぬつもりだったし、優しさとその雰囲気を信じて見ようと思ったんだ。」
雪は少し顔を傾げている。爺ちゃん辺りが良く分からないんだろうか?まぁ、いいやと思い続ける。
「雪の方が俺よりよっぽど辛い体験してるだろうけど、今日の事で少しでも心が前を向いてくれれば嬉しかった。すぐには難しいだろうけど、少しづつ希望を上げようって。」
「そう思ってた雪がさ、俺の事を考え、自分
で答えを出して前を向いてくれた。一緒に戦って、1人では死なせないって言ってくれた。
それが凄い嬉しくてさ。まだ分からない事や、この先の不安とかもあるけど、2人なら大丈夫だと思うんだ。だから、改めてだけどよろしくね雪!
俺はそう言って手を出す。
ランスの話しを聞いて胸が悲しくなる。さらに彼の為に頑張ろうと思う。自分の所為だと言っているが、ランスこそが一番の被害者だ。私達のは日常である事なのに、彼はそれを利用され罪を着せられ腕を失った。それでも自分の所為だと。多分私がいくら否定しても聞いてくれない。それが彼の優しさだから。ここで私はいままで分からなかった彼の考えが分かる。彼は最初から私を奴隷として見てないのだ。だから、今度はちゃんと握ろう。彼の出した手を。
2人は握手を交わし、パートナーとなる。
この後なぜか心臓が妙に熱くなった。痛いぐらいに。
『 』
握手を交わし少し照れくさくなったので、昼に買ったプレゼントを渡す。
「雪これプレゼント!2人が出会った記念って事で!」ルーンでも居ればカップル見たいですねぇ、とか言いそうだが今は居ないので大丈夫だ。
「エリスにも貰ったのに。こんなに貰っていいの?」プレゼント自体が初なのだろう、戸惑っている。
「大丈夫だよ。あっ、1つだけお願いしていい?」俺がそう言うと雪がおもむろに脱ぎ出した。
「ちょ、ちょ、何してんの?早く着て!」
童貞の俺には雪の体は刺激が強すぎる。
「お願いって言うから。」少しは変わったかと思ったが雪は雪だ。
「違う!そうゆうお願いはしないから、早く着て。」懇願する。
「やっぱり、傷のある体は嫌?」少し悲しそうに聞いてきた。
「違うよ、逆だよ!雪の体は綺麗だから、直視出来ないんだよ!」うー、早く着て欲しい。見ては駄目だと思うけど、チラチラ見てしまうのが男なのだ。
「じゃぁ、しっかり見て。お願い。」予想外の返答だ。しかし雪は大真面目に言っていた。
「どうしたの?」何かあるんだと思い聞く。
「ランスには知っててほしい。傷の事全部。」
そうゆうと雪は背中を向ける。背中には十字に斬られた大きな傷がついていた。
俺は腹が立っていた。なぜこんな事をするのか、何が楽しいのか全く理解出来なかった。
「やっぱり嫌だよね。でもランスには知っててほしかったから。」雪は寂しげに服を着る。
「嫌じゃないよ。ただ許せないと思って。」
雪は体の傷の事を結構気にしている。テンビンさんの所でもそうだった。だから、あのプレゼントを選んだのに。
「雪。」
俺はそう言うと自然と後ろから抱きついていた。大丈夫だから、大丈夫だからと言いつつ。
「私は本当に体の傷が嫌い。絶対に消えないい。消えてくれない。」吐き出すように言っていた。
「傷は確かに消えないけど、雪は生きてるから、頑張って戦った証だから。俺はそんな雪が大切だよ。だから自分を責めないで。」
雪はその後しばらく泣いていた。なき終わると俺にもたれかかってくる。
「ありがとう。少しスッキリした。そういえばお願いって何?」少しでもスッキリしたなら良かった。
「いや、耳と尻尾が触りたいなぁーと。」
ずっと我慢してたのだ、あのモフモフを触るのを!」
「やっぱり変わってるね。いいよ。」
変わってるんだろうか?結構居ると思うけどな。それでも許可が出たので、触る!雪は俺に背中を向けてもたれかかってるので、尻尾は埋まっている。しょうがないので、耳を触る。まずは裏側を撫でる。次にコリコリする。何か卑猥だが、やってる事は正常だ!
それからも色々な触り方で堪能する。めちゃくちゃ気持ちいいのだ!
「ちょ、ランス。」
夢中で触っていると声がかかる。
「どうしたの?」
「思ったより刺激が強いから、もう少し優しくして。」凄く卑猥な言い方で言ってくる。
雪の言葉に少しドキドキしながらも、言われた通り優しくする。時折頭も撫でながら。
「そういえば爺ちゃん?って何?」
「俺を育ててくれた大切な人だよ。」
「いい人なんだろうね。」
「うん、凄い人だよ!向こう帰れる事になったら、雪も連れてくから!いいよね?」
「いいの?」
「うん、向こうもいい世界だし、爺ちゃんも喜ぶよ!」
「分かった。一緒に帰れるように頑張ろう。」
そう言って雪が笑いかけてくれた。初めてみた雪の笑顔はとても眩しく綺麗だった。
その後も色々と話しをし、時間が過ぎていく。雪も疲れていたのか、いつのまにか寝てしまったので、ベッドに寝かし部屋を後にする。
下の階に降りるとさすがに寝たのかエリスもルーンも居ない。
俺は家から出て庭の上で寝転がる。少し寒いが雪の熱が残っていたのか、丁度良かった。
月を見ながらこれからの事を考える。修行も、修行が終わった後も大変だなと。でも今は1人じゃない。1人で城から追放されて、何も無い、何も出来ない俺ではない!尊敬する2人に守るべきパートナー。大切な物が出来たのだから、前を向いてやるしかないのだ!
「爺ちゃん。俺こっちの世界で頑張るから、いつか必ず帰るから待っててくれよな。」
ここから始まる『新しい人生』が!
一応これで1章は終わりです。次は勇者サイドを書いて2章に入りたいと思います。




