15話 二人の決意二人の決心
家に着くと、雪がビックリしていた。多分宿屋を想像していたのだろう、実際はやたら広い庭に一軒家だ。誰だって驚く。
「今から半年間はここが雪の家だから!」
俺は雪に笑顔で言う。
「半年後わ?」
少し不安そうに聞いてきた。
「俺も分かんない。多分宿屋かな!」
ここが誰の家なのか分からない。でもエリスとルーンが借りているのは確かなので、この二人が出て行く時には俺達も出る事になるだろう。
「ここは私達の家だ。半年後にどうするかはお前らで決めろ。ずっと居たきゃ居ていいからな。」
エリスが言ってきた。
「えっ?エリス達の家なの?」
まさか持ち家だったとわ。この世界の家の価値は知らないが、こんだけ広い庭があるのだから、安い筈はない。俺は驚きながらも聞いていた。
「あぁ、そうだ。だから居たけりゃ、ずっと居ていい。宿代もかからないし、良い家だろ!」エリスも気に入ってるらしく、鼻が高そうだ。
金がかかりそうな事を計画してる俺としてはかなり助かる。宿代が浮くのは大きいだろうし。
「この街から出るつもりもないし、ずっと居たいかな。」
「そうか。そうゆう事も含めて、今後の話しは後でするから、中に入るぞ。」そう言ってエリスは家の中に入っていった。
この家の特別ルールなのか、家の中は土足厳禁で、靴を履き替えないとダメだった。何か異世界って靴のまま部屋に入るイメージがあるんだよな。そう思いつつも靴を履き替え、中に入っていく。ちなみに脱ぐ時は1人で出来る!結ぶのは無理だが、ほどくのは簡単だ。
雪は靴自体が慣れてないのか、脱ぐのも大変そうだった。まぁ、そうゆう時はルーンが助けてくれるから大丈夫だけど。
全員中に入るとエリスから声がかかる。
「とりあえずソウト、お前は風呂入ってこい。ルーンと雪は私の手伝いな!」何かお父さんって感じだな。女性だけど。しかし俺はもう槍人ではない。
「エリス、俺はランスだよ!槍人は死んだ。」自分で言って悲しくなるが、これが現実だ。もう受け入れたのだ。
「外ではな。家の中でまで殺す必要ないだろ?まっ、お前がいいならランスって呼ぶけど。」この言葉は凄く嬉しい。名前は重要な物だと思う。色々な意味や想いが込められた物だから。俺にとっては大好きな爺ちゃんが付けてくれた大切な名前。
でも俺は決めたから、新しい名前で生きて行くって。この人達を信じて行くって。
「気持ちは嬉しいけど、俺は決めたから、だからランスでいいよ。雪が付けてくれた名前だし!」それを言うと、エリスとルーンは頷いてくれた。雪はちょっと気まずそうな顔をしてたが。
「分かった。じゃ、風呂へ行ってこい!」
「場所分かんない。」
何とも締まらない会話である。
ルーンは爆笑していた。よっぽどツボだったのか、お腹を抱えて笑っているのだ。
その後エリスが風呂の場所まで案内してくれ、ついでにタオルなども用意してくれた。
「体1人で洗えるか?」もちろん即答で洗えると返す。変な事を言うと洗ってくれる流れになってしまう。朝の着替えのように。
実際は少し大変だった。まずは泡が立てづらい。そして左腕が洗えない。左腕に関しては諦めたので、後でルーンにタオルで拭いてもらおう。
「ランス大丈夫?」扉越しに聞いてくる。なんと雪だった。絶対ルーンが来ると思ってたのに。
「だっ大丈夫だよ。ってどうしたの?」慌てながら聞く。
「そろそろ困ってるだろうから、見てきて下さい。ってルーンが。」ルーンの口調を真似て言っている。少し可愛い。
「やっぱりルーンか!大丈夫だから、戻っていいよ。」大体予想はしてたが、ルーンの差し金だった。雪に腕の事はまだ話していない。気づいてるかも知れないが、この事についてはゆっくり話たいのだ。
「分かった。」そう言って雪は風呂場から出て行った。
湯船に浸かり少しまったりする。今日は濃い1日だったなぁーと。ルーンの話だと3日くらい寝てたらしいから、この世界に来てから4日か。色々あり過ぎてめっちゃ長く感じたな。まっ、これから先も大変なんだけどね。
少しのぼせそうになったので、上がる事にする。体を拭くのも少し面倒で改めて片腕って大変だと思った。ユン婆がくれた服に着替え、頭を適当に拭きながら、外に出ると、なぜか雪が立っていた。
「腕無かったんだね。」気づいては無かったが違和感はあったのだろう。雪は少し苦しそうに言ってきた。
「うん。王にやれた。この話しは後で詳しくするから、今は戻ろう。」俺はそう言って、タオルを首にまいて、雪の手を取り、リビングに戻る。雪が俺の手を少し強く握ってる感じがした。
「あら、お熱い事。」ルーンが茶化してくる。こうなる事は分かっていた。ルーンはこうゆうの大好きだから!分かっていても少し悔しいので、心の中で反抗する。
さすがはルーンマッ!心の中で全部言い終える前に、何かが飛んできて、頭にぶつかる。凄く痛い。恐る恐るルーンを見ると笑ってない笑顔だった。血の気が引く。俺は秒で頭を下げ心の中で何度も何度も謝罪する。頭を上げルーンを見ると普通の笑顔に戻っていたので安心した。
「馬鹿な事やってないで、次はルーンと雪が入ってこい。まだ料理は出来ないから、時間気にしなくていいからな。」エリスが言うとルーンは別の意図も分かったのか、頷いていた。
「ランスは私の手伝いしろ。」料理なんて出来ないけど。
「少し待って。」雪が言う。風呂何か入らないとは言いそうだけど、どうしたのだろう?
「なんだ?風呂は入れよ、風呂入らん奴は飯抜きだぞ。」ますますお父さんだ。女性だが。
「ランスの髪を拭きたい。」小さい声で言う。
皆ポカーンとする。数秒たつと理解できたのか、エリスとルーンは笑っている。俺はまだポカーンとしてる。
「分かりました。拭いてあげて下さい。」
訳も分からぬまま、椅子に座らされ、雪に頭を拭かれる。正直に言えば凄く気持ちいい。だが頭がこの状況を理解出来てない。風呂でのぼせて、夢でも見てるんじゃないかと。そんな感じでボケっとしてたら終わってしまい。雪はルーンと風呂に行ってしまう。
「しっかりしろ馬鹿。」エリスに頭を小突かれ正気に戻る。
「今の夢?」理解できないので聞く。
「お前が与えた優しさだろうな。」エリスはそれだけ言うと早く手伝えと言いキッチンに戻ってしまった。
優しさ?罪悪感はあるが優しくした覚えは無かった。結構命令しちゃったし。考え込んでるとエリスからまた声がかかる。早くしろと。
怒られそうな気配だったので、思考をやめ、すぐエリスの元に向かう。何をするのかと思ったが、テーブルを拭くのと、グラスなど軽い物を運ぶだけだった。
「片腕だからって甘やかしはしないからな。出来る事はやらせるぞ。」
エリスのこうゆう所は凄く尊敬できる。惨めにならないように、自分で自分を駄目だと思わないように、やる事を与えてくれる。
俺も雪にこうやって接したいと思うのだ。
暫くすると雪とルーンが出てきた。元々白くて綺麗だった髪がさらにツヤツヤになっていた。服もユン婆に貰った物を着ていて、白のニットのワンピースだ。凄く可愛い。
「どうですか?私も凄いんですよ。」
ルーンは自身満々だが、本当に凄いと思うと。
「さすが、ルーン先生!服も似合ってるし、凄く綺麗だよ、雪!」大興奮で言う。ちょっとキモい。
「あっ、ありがとう。」また小さい声で言っていた。俺の心は少しドキッとしていた。
「じゃ、最後に私入ってくるから、出来た料理運んどけよ。」エリスはそう言って風呂に向かう。
なんだか、風呂から出た後から、ルーンと雪の距離が縮まった気がする。相変わらず無愛想だが、ルーンと良く喋っているのだ。
「風呂で何かあったの?」
「ユキちゃん、ランス君が嫉妬してますよ。」
「ちっ違うよ、嫉妬何かしてないよ。」
「嫉妬?なんで?」
「私にユキちゃんを取られたと思ってるんですよ。」
「わっ、私のご主人様はランス。」
「良く出来ました。」
ルーンの掌の上だった2人して遊ばれたのだ、満足したのかルーンは料理を運ぶ続きをしていた。ママじゃなくて魔女だ!俺は学ばず頭を叩かれていた。ついでに雪も。
そうこうしてるとエリスが出てきて、皆でテーブルに着く。料理はとても豪華だった、何の肉かは分からないが、ブロックごと焼かれて置いてあった、他にも香草焼きっぽい焼き魚や、やたらデカイトマトの入ったサラダ。謎の植物の天ぷら、スープの中にはお肉と玉ねぎみたいな物が入っていた。主食はパンで、こちらは出来合いの物だった。
「それじゃ食べるぞ!いただきます。」エリスがそう言った。何で知ってんの?風呂もそうだけど、やたら俺が居た世界に似てるんだよね。まぁ、後で聞いてみよう!まずは飯だ飯!
俺もいただきますと言って食べ始める。しかし苦戦する。基本は右利きだったので、フォークでも左では食べ辛いのだ。雪は大丈夫かな?と思い見ると、全く手が進んでなかった。
「どうしたの?食べないの?」
「どっちがいいか分からない。手か口でそのままか。どっちがいい?」
きっと今までは主人の好みでどっちかだったのだろう。手ならまだ分かる、でも口でそのままは理解出来ない。無性に腹がたつ。
「雪。俺の好みはエリスとルーンみたいに食べる事だよ。最初に言った2つは間違ってるから、もうやらないで。」
少し戸惑っていた。
「分かった。ランスが言うならやめる。」
そう言ってエリスとルーンを真似て食べていたが、いかんせん初めてなので上手く行かない。俺も上手く教えられない。見てい
てもどかしかったのか、席を変えられた。
ルーンが教え初めて直ぐに上手く食べられるようになっていた。暫く食べ進めて行くと急に雪が泣き出した。大泣きではない。自然と目から涙が溢れていたのだ。本人も驚いていたが止まらなかった。
料理は人の心を動かす。今日一日の事も含めて、雪の心が少しでも前を向いたんだと思う事にした。
しかし雪が泣くのも分かる!エリスの料理はどれも凄く美味しいのだ。丁寧に作られ、気持ちがこもってるのさえ感じる。それに暖かい。お腹も心も暖かくなる。そんな料理だった。
エリスは意外な人だ。普段は荒々しくて男勝りなくせに、綺麗好きで世話焼き。それに料理も出来る!いつも面白半分でルーンママって思ってるが、家ではエリスの方がよっぽどママっぽい。
「エリスさん、ランス君がママって言ってますよ。」ヤバイ、調子乗った。
「誰がママだ!甘えんな。」ゲンコツされました。
「酷いよ、ルーン!」
「お馬鹿なランス君が悪いんです。」
「まぁ、確かにランスは馬鹿だな。」
「くそ、2人揃って虐めるなんて、グレてやる。」
「そんな事言っていいんですか?」
「えっ?」
「グレてもいいぞ!性根を叩き直すのは得意だ。」
「絶対グレません。真面目に生きます。すいませんでした。」
「フフッ。」
そんな馬鹿なやり取りをしてると笑い声が聞こえてくる。全員で雪の方をみる。
「なに?」無愛想な顔だった。絶対笑ったのは雪なのに、その顔を見逃すなんて、主人失格だ。
そんな感じで食事は進んでいき、結構な量があったが完食した。食べ終わったらすぐ片付けるがエリス流らしく、グダグダする間もなく、皆で片付けにあたった。片付けが終わるとリンゴとミカンっぽいフルーツとお茶を出してくれた。それらをつまみながら、今後の話しに移っていく。
「それで今後はどうするの?」
「明日から修行に入る。」
エリスは修行のスケジュールを話してくれた。この世界でも1週間は7日らしく、5日間は訓練、1日はギルドで仕事、1日は休み。そう行った予定で進めるらしい。1日の内容は朝5時〜7時までランニングや筋トレ。7時〜8時に朝食。8時〜12時までルーンと魔法の練習。12時〜1時までお昼で、1時〜6時までエリスと訓練の予定らしい。意外と優しい内容にほっとしてると。
「慣れたら時間伸ばすからな。」
厳しい一言だ。まぁ、強くなれるならいい。強くなって稼いで罪滅ぼしを少しでも多くの子にしたい。俺は頑張る覚悟を決める。
「雪はとりあえず午前中はランスと同じでルーンと魔法の勉強をしろ。役に立つからな、午後は文字を教えてもらえ、あと家事とかもな。」戦うにしても戦わないにしても魔法は必要だと。文字も読めれば色々役にたつだろう、さすがエリスは色々考えている。
「俺も文字読めないけど?」
「お前は頭より、体鍛えろ。どう考えったってユキの方が賢いしな。」酷すぎるよエリス。俺だって落ち込むんだぜ。
「私が読めるようになったら、私が教える。夜は時間ありそうだし。」雪からの助け船だった。
「ありがとう雪!頼りにしてるよ!!」そう言って雪の肩をポンポンする。
「どっちが主人何ですかね?」
「ユキだろ!」
本当に2人とも酷すぎる!
「酷すぎない?」
「これぐらいで丁度いいだろ!」
「はい。今日1日でどれだけお馬鹿かは分かりましたから。」
もはや何も言えなかった。
そう言えばこの世界って風呂とか普通にあるけど何で?
「前に召喚された勇者が作ったんですよ。」
「えっ?勇者ってそんな召喚される物なの?」
「大体10年に一度くらいですね。」
謎だ。
「その勇者達は帰れたの?」大事な事だ。出来れば返って爺ちゃんに会いたい。
しかし返事は返って来なかった。エリスもルーンも、バツの悪い顔をしている。
「帰った勇者は居ないんだね。」返答がないので、さらに聞く。
「残念だが、居ない。今も帰る方法を探してる勇者はいるがな。」エリスが重く言う。
「そっか。」短く返す。
もう爺ちゃんに会えないのか。それだけがショックだった。心の中でいつかは帰れると思っていた。罪滅ぼしが終わったら帰ろうと。
落ち込んでいたからか、俺はこの時考えていなかった。魔王の存在を王の嘘を。
少し暗い空気になってしまった。ルーンは俺の心が読めるからか、凄く泣きそうな顔をしている。そんな空気を変えようと思ったのか、エリスはある物を渡してくれた。
「お前らにプレゼントだ。」
そう言って、雪とペアのピアスをくれた。
「ランスのは勝手に渡しちまったからな。大切な物だったなら悪い。」エリスはそう言って謝る。今まで全く気付かなかったがピアスが無かったのだ。まぁ、ピアス付けてれば道場が舐められる事ないだろうと思って、付けてただけなので、別にいい。むしろ逆効果だったし。
「大丈夫だよ、大切な物じゃないから。こっちの方がよっぽど嬉しいよ!」
正直気持ちの整理はまだつかないが、いつまでも落ち込んでてもしょうがないし、絶対帰れない訳ではない。この人達から前を向けと言われたのだから、俺は希望を捨てない。
「そっか、なら良かったよ。お前らそろそろ寝ろ。部屋は分かるか?」
「うん、ありがとう!雪も一緒なの?」
「あぁ、一緒だ。嫌か?」何だかエリスが妙に優しい。気にしてるんだろうな。
「私は一緒で大丈夫。エリスありがとう。」
雪がいいならいいや。
「嫌じゃないよ。エリス、ルーン。気にしなくていいからね。正直落ち込んでるけど、2人には感謝してる。それにエリスが言ったんだよ。」俺は自分の胸に手を当てながら言う。
『希望を持てって。』
「だから諦めない。俺を強くして下さい。」
エリスもルーンも驚いていたがちゃんと答えてくれた。
「もちろん、任せて下さい。」
「あぁ、覚悟しとけよ!」
2人共力強く言ってくれた。
それを聞いていた雪からまさかの言葉が飛んでくる。
「私決めたから。信じるって。だから私の事も強くして下さい。」
「ユキちゃん。」
ルーンは本当に泣きそうだ。
「あぁ、お前にも手加減はしないからな。」
エリスは嬉しそうに笑っている。
俺はまたポカーンとしていた。そんな俺の手を取って雪は囁く。
「詳しい事は部屋で話す。」
そう言って俺達は二階の部屋に向かった。
おやすみと言い残し。
「まさか、あいつに励まされるとはな。」全くもって意外だった、あんな事を言うなんて。
「えぇ、凄く嬉しかったですね。」ルーンも同意のようだ。正直に言えば帰れない事は話したく無かった。ズルイとは思うが知ってしまったら、また後ろを向くと思ったからだ。だが違った。諦めないと希望を持つと。私が言った事だが、その私が諦めていたのだ。
「全くどこまでも似てやがるなぁ。」懐かしい人を思い出す。
「エリスさん。私達も諦めちゃ駄目ですよね!ユキちゃんだって希望の方に進んだんですよ!」ルーンも同じ考えか。
「そうだな。私達も希望の方に進もうか。」
殺すしかないと思っていた。でもあいつらが諦めないのに、師匠である私達が諦める訳には行かない。
『私の最愛の弟で、ルーンの恋人を救う道を。』
昨日は投稿出来ずすいませんでした。




