九年前の夜・覚醒
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少年は目を開いた。いつまで眠っていたのかわからない。身体のあちこちが痛む。眠っている間に何処からか転げ落ちたのだろうか。
『痛っ!……何……これ……』
少年の着ている衣服は紅く染まっていた。衣服だけではなく、腕や脚も。顔も。どこか鉄の様な臭いがする。
周りを見ると真っ暗だったが、寝ている感触で今自分がいるのは邸の父親が名付けた、団欒の間という高い天井に大きなシャンデリアというものが光る、縦にも横にも大きい部屋だ。部屋といっても壁などなかったが。
『……そうだ、ミウは』
痛む身体に鞭を打ってフラフラだが、何とか立ち上がる。右足の痛みが強く、立っているだけでやっとだ。どうやら右足の足首を捻挫しているようだった。動かそうと力を入れても、返ってくるのは鈍い痛みだけで動かない。
それでも少年は、前へと進み始める。痛む右足を引きずりながら。
『………………』
しばらく歩いていると何かが聞こえた。声の様なものが聞こえた。
『!ミウ!ミウなの!?』
『……え?ユキ?何処ですか?ユキ!!』
聞こえた声は使用人の声だったようだ。声は父親と母親の寝室から聞こえ、少年は寝室の扉を開く。
なかは同じく真っ暗。ふと少年は気付いた、この部屋は自分と同じ鉄の様な臭いがすると。それに自分よりも臭いがキツい。
『変な臭いだなあ…。それよりミウだ。ミウー!』
『ユキ……私は此処です』
声の方を向くと入り口近く、右側のすみに体育座りをしてブルブルと震えている使用人が少年をみていた。いや睨み付けていた。
『ご、ごめんミウ。気付かなかった』
少年は悪かったと謝るが、使用人の睨みは終わらない。それどころかさっきよりも目が細くなり、まるで自分が天敵に狙われた獲物の様に感じる。
少年が恐怖から苦笑いを浮かべながら後退すると、使用人は目蓋を閉じ、立ち上がる。
『まぁいいでしょう。それよりも大丈夫ですか?』
『えと……何が?』
少年は使用人の頭に怒マークがついたと思った。使用人の目が細くなり、少年を睨み付けながら言う。
『足のことなのですが?』
『す、すいません…痛くて駄目です』
『仕方ないで………』
『?ミウ?』
使用人は少年の方を目を見開きながら見ている。その目は普段見せない恐怖の色だ。
『ユキ…逃げて下さい……』
『え?何言って……』
『はやく!!!』
バンッという音と共に少年は寝室の壁に頭を叩きつけられた。
『かはっ……』
少年は突然のことで何が起こったか分からず、混乱する。頭を強く打ち付けられたため、意識が遠のき、視界がぼやける。
ぼやけた視界で見たのは、
『と…う…さん?』
自分の頭を手に持ち、目蓋を閉じた少年の父親の身体だった。
父親の身体の手から温かさが感じられない。温かいどころか冷たい。まるで死者の手の様に。
『何するんだよ、とう…さん…!』
『何するんだよ、とうさん!…か。アハッ!アハハハハハハハハッ!!!』
少年の父親の身体は不気味に笑い出す。その様子は別の誰かのようで、少年はまたも混乱する。
今まで閉じていた目蓋が開き、口元が歪む。
『僕が君のお父さんなわけないだろ?』
『え…な、何言って……』
『だーかーらー、身体は君のお父さんでも、中身の僕は違うって言ってるんだよ!』
『おぇっ…』
少年は蹴りあげられ、嘔吐する。
『うわー汚ねうおっ!!』
『チッ…簡単にはいきませんか』
少年の父親の身体に、魔力を弾状にして打ち出したミウだったがあっさりとかわされる。
『そういえば君もいたね、その年で魔法とか凄いね』
『あなたに誉められても嬉しくないです。それよりあなたは何者ですか?シフ様はどこですか?』
『あれ?この身体の持ち主のガレンのことより先に夫人のことを気にかけるんだー』
『十中八九もう既に死んでおられると思いますので』
父親の身体はおーっ、と言いながら拍手をする。
『君、頭いいね。その通りガレンつまりクラウンハート家の当主さんは死んでまーす!つか僕が殺したんだけどさー。そうだ質問の答えがまだだったね、そうだねー、一つずつ答えていこうか。まずは僕のことだけど、詳しくは言えないから“侵喰者”(イーター)とだけ言っておこうかな。それと夫人さんのことだけど、察して!』
使用人は怒りで眉間にしわを寄せる。
『怒らないでよー』
『――怒らないでとかよく普通に言えるね』
少年は口を服の袖で拭きながら起き上がる。
『ユキ立てるのなら逃げて下さい。この人は私達を殺すつもりのようですから』
『ねぇ本当に父さんや母さんを殺したの?』
少年の父親の身体は笑いながら答える。
『そうだよ』
『……本当に殺したんだ。あんたは父さんと母さんを。いや、此処に来るまで誰にも会わなかったから邸の者全員殺したんだ。クラウンハートもウルティアも』
『ユキ……?』
少年の父親の身体はまたも笑いながら肯定する。それを見た少年は深呼吸してから一言言う。
『殺す』
そう言った瞬間、少年の父親の身体の両腕が弾け飛ぶ。
『え?ちょっ、はあ!?何だよこれ!』
少年の父親の身体は、先程とは異なる理由で顔を歪ませると少し後退する。
『殺す』
次に少年の父親の身体の眼球が弾けとんだ。
☆
それからも少年が『殺す』と言う度に少年の父親の身体の一部が弾けとんでいき、ついには胸から上以外が全て弾けとんだ。
『アハッ……これ以上は僕の身体にフィードバックがきそうだね。じゃあここらへんで勘弁してお――』
『殺す』
少年の父親の身体は全て弾けとんだ。少年は膝をつく。使用人は少年のもとへ行き、少年の肩を抱く。
『ミウ…僕って悪い人になっちゃったかな?』
『ユキは――』
『悪い人になんかなっていませんよ。私を救ってくれましたから』
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