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2話 生徒会長との出会い

放課後。

「……今日もまた、世界は我が監視下において平穏を保ったわね」

 舞彩は誰もいない廊下で呟いた。

 そして、肩の力を抜く。

「……疲れた」

 一日中、堂々とした自分を演じるのは大変なのだ。

 そのとき。

「あっ!」

 階段の踊り場で、女子生徒が大量の書類を落とした。

 床に紙が散らばる。

(……どうしよう)

(……知らない人だし……)

(……でも、困ってる……)

 舞彩は数秒迷い、意を決して歩み寄った。

「……フッ。随分と派手に散らしたものね」

「えっ?」

「……仕方ないわ。我が手を貸してあげましょう」

 しゃがみ込み、書類を拾い始める。

「あ、ありがとう! 助かったぁ!」

「……礼には及ばないわ」

(よかった……ちゃんと話せた……!)

 書類を揃えたところで、女子生徒が笑顔を向けた。

「私、水瀬琴音(みなせ・ことね)。二年生で、生徒会に入ってるの!」

「……立花舞彩よ」

「よろしくね、立花さん!」

 琴音は書類を抱え直した。

 しかし、まだ床には数冊のファイルが残っている。

「あちゃー……一回じゃ運べないかぁ」

「…………」

 舞彩は、残されたファイルを見つめた。

「……仕方ないわね」

「え?」

「……最後まで付き合ってあげましょう」

「本当に!? ありがとう!」

(あぁぁ!! 言っちゃった!!)

(でも、今さら帰れないぃぃ!!)

 こうして舞彩は、琴音と一緒に生徒会室へ向かうことになった。

◇ ◇ ◇

「ただいま戻りましたー!」

 琴音が生徒会室の扉を開ける。

「おかえり、水瀬さん」

 室内から、落ち着いた声が聞こえた。

 大きな机の向こうに座っていたのは、整った顔立ちの男子生徒。

 三年生の校章をつけている。

「あれ? そちらの子は?」

「あっ、会長! この子が書類を運ぶのを手伝ってくれたんです!」

(……会長?)

(……生徒会長!?)

 舞彩の心臓が跳ね上がった。

「それは助かったね。ありがとう」

「……フッ。この程度の労働、我が力をもってすれば造作もないわ」

「……ふふっ」

 男子生徒が小さく笑った。

「面白い言い方をするね」

「……凡人には理解できないでしょうね」

「そうかもしれないね」

(やっちゃったぁぁぁ!!)

(初対面の先輩に何言ってるの私ぃぃ!!)

 琴音が慌てて紹介する。

「会長、この子は一年二組の立花舞彩さんです!」

「立花さんか。よろしく」

「……覚えておいてあげましょう」

「うん。ありがとう」

(何で怒らないの!?)

 男子生徒は、穏やかに微笑んだ。

「君、なかなか面白い子だね」

「…………」

(変な子って思われたぁぁぁ!!)

「また会えるといいね」

「……運命が交わることがあれば、いずれまた」

 最後まで強がり、生徒会室を出る。

 扉が閉まった瞬間、舞彩は両手で顔を覆った。

「……うぅぅ……!」

(恥ずかしかったぁぁぁ!!)

(もう二度と来ない!!)

 一方、生徒会室では。

「立花さん、優しい子でしたね!」

 琴音の言葉に、会長は頷いた。

「そうだね。ところで、来月の学校行事、人手が足りないんだったよね?」

「え? はい……」

「ふふっ。いいことを思いついたよ」

「……会長?」

 琴音は、何となく嫌な予感がした。

◇ ◇ ◇

「……ただいま」

「舞彩ちゃーーん!! おかえりーー!!」

 帰宅した瞬間、母親の元気な声が響いた。

「今日どうだった!? 楽しかった!? お弁当美味しかった!?」

「……一個ずつ聞いて」

「じゃあ卵焼き!」

「……美味しかった」

「やったーー!!」

 母親は両手を上げて喜んだ。

「……お母さん。お弁当のメモ、やめて」

「えー!? 愛情表現なのに!」

「……恥ずかしいから」

「でも、ちゃんと読んでくれたんだね!」

「…………」

(……もう)

 母親は笑っていたが、ふと舞彩の顔を覗き込んだ。

「舞彩ちゃん、今日はちょっと疲れてるみたいね」

「……そう?」

「うん。何か緊張することでもあった?」

「……っ!?」

(何で分かるの!?)

「……お母さん」

「なぁに?」

「……何で、そこまで分かるの?」

 母親は満面の笑みを浮かべた。

「お母さんだからね!」

「……それ、答えになってないわよ」

「えっへん!」

 舞彩は呆れてため息をつく。

(……ほんと、敵わないなぁ)

「そんな舞彩ちゃんに朗報です! 今日の晩ご飯はハンバーグ!」

「……えっ」

「しかもチーズ入り!」

「…………!」

「嬉しいでしょ?」

「……別に」

「じゃあチーズなし?」

「……それは嫌」

「素直でよろしい!」

「……噛み殺すわよ」

「あはは! 怖い怖い!」

 舞彩は階段へ向かいかけて、ふと立ち止まった。

「……お母さん」

「んー?」

「……今日の唐揚げも、美味しかった」

 一瞬、母親が目を丸くした。

 そして。

「舞彩ちゃーーーん!!」

「……ちょっ!?」

 勢いよく抱きしめられる。

「お母さん、嬉しいーー!!」

「……暑い! 離して!」

「大好きーー!!」

「……離してぇぇぇ!!」

 立花家に、賑やかな声が響き渡った。

 少しばかり騒がしくて。

 少しばかり不器用で。

 それでも、確かに温かい日常だった。

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