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黄泉酒  作者: Nokuamu
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二〇〇四年 四月七日 一六時三〇分


 次にあなたに会えたのは、病院だった。

 白い廊下はどこまでも静かで、足音だけがやけに大きく響く。


 消毒液の匂いが鼻の奥に張りついて、息をするたび胸の奥が冷たくなる。


 どうしてここにいるのか、頭ではわかっていたはずなのに、まるで夢の中のように考えがまとまらない。


 隣を歩く医師と警察官が何かを言っている。


 けれど、その声は水の底から聞こえてくるみたいに遠い。

 視界もどこも焦点があわず、着ている制服の襟元がやけに苦しい。

 まだ癖もついていない紺の布地が、まるで喪服ようだ。 


 案内された先は、まっさらで静かな部屋だった。


 白い壁。


 白い床。


 白い光。


 真ん中に白い布がある。

 医師がその布を優しく捲った。


 そこにあなたはいた。

 眠っているみたいだ。


 そう……思いたかった。


 けれど、違う。


 少し疲れて帰ってきた時みたいに、ただ目を閉じているだけで、声をかければ「ん……なに?」と笑ってくれる気がした。


 肩に触れれば、大好きなあの温もりが返ってくる気がした。


「……お姉ちゃん」


 返事はない。

 近づくほどに、わかってしまう。


 そこにあるのは眠りのものじゃない。


 もう二度と目を開けない人だけが持つ静けさだった。


「……お姉ちゃん」


 もう一度呼ぶ。

 それでも、返事はない。

 昨日の朝、いつものように包み込んでくれた人が、どうしてこんなにも白くて、冷たそうで、綺麗なのか。


 どうして誰も、それをおかしいと言わないのか。

 わからなかった。

 わからないまま、私は少しずつ近づいていく。

 あなたの顔には、薄く化粧がほどこされていた。


 乱れていた髪も整えられていて、まるでちゃんと眠れるように支度をしてもらったみたいだ。

 けれど、目元のあたりに残るかすかな影だけは、何をしても消えなかったのかもしれない。


「幸い、この状態だとわかりませんが、後頭部は――」


 そこからはよく覚えてない。


 ただ、そこからあなたを忘れた日々はない。

 この鼓動が止まる。七十年後も。

 ずっと……。


 あなたに会いたかった。




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