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第九話:またオレ、何かやっちゃいました?(※やってない)

いざギルドに入ると、俺の予想を裏切る光景が広がっていた。壁に貼られた依頼書を指差しながら、ティアラが畳み掛ける。


「見て。探し物、荷物運び、薬草の採集……。ほら、これは街の見回り。こっちは……草むしりね」


「草むしり?」


「そうよ。魔王と戦う人なんて一割もいない。九割はこういう地味な仕事で食いつないでるの。……これなら、あんたでも死なないでしょ?」


(草むしり……。採集……)


「うーん……。そうかぁ。ま、その程度なら皿洗いより楽そうかな?」


「ね! そうでしょ!」


ティアラは、またあの上目遣いだ。今度は尻尾を俺の太ももに擦りつけている。お尻もぷにょぷにょ当たっている。


「よっし! 決めた! 冒険者、やってやろうじゃねーか!」


そう意気込んで一歩踏み出した俺の背後で、せっかく覚悟を決めた俺をあざ笑うかのいうに、またあの妙な噂話が聞こえてきた。


「森喰らいを追い払った化け物……この街に潜んでるって噂だぜ」


「どんな恐ろしい奴なんだろうな……」


俺はティアラに、もっと男らしいとこを見せようと、噂話なんか気にもとめないタフな男を気取りつつ、軽快に口笛を吹きながら鼻歌も歌った。(む、むつかしい……)


「へ、へぇー……。ほんと物騒な街だな。な……なぁ、ティアラ?」


ティアラは、何も答えなかった。だが俺は分かっている。きっとこう思ってるはずだ。「そんなに危険な街だったんだ……」そして「でも、アタシにはユーマがいるもん♪」とも。


へへ。困ったジャジャ猫だよ。



──ということで、俺はギルドの受付の前までやってきた。


目の前に、ムッチムチの制服に身を包んだ、ど定番の巨乳受付嬢が立っていた。


(年上だ! よぉーし!)


「……あ、あの、と、登録をお願いしたいんですが……」


俺は可愛らしくアヒルぐちを作り、お目目メメをパチクリさせて、超キュートな少年っぽさを演出しながら──至近距離でその豊満な胸元にもパチクリさせた。


(パチクリ。パチクリ)


俺の鼻の下は伸び放題。鼻の長いアヒルだ……。


(今日はこれでいくぞ!)


なのに、お姉さんは。


「はい、承知いたしました。私は当ギルドの、受付担当のミラと申します」


メッチャ事務的に対応されてしまった。


(パチクリ! パチクリ!)


ん? あれ? ミラ……。どっかで聞いたような名前だな。まあいいや。(巨乳だし)


「では、こちらの水晶に手をかざしてください。あなたの能力を測定します」


(き、きた! 異世界テンプレ、ステータス測定!)


俺はワクワクしながら水晶に手を置いた。これで「測定不能」とか「カンスト」とか出て、お姉さんが腰を抜かして俺に惚れる……そんな光景が目に浮かぶ。


水晶が、神々しく光りだす──。


「……え?」


お姉さんの眉がピクリと動く。


「あの……すみません。もう一度、いいですか?」


(おっ、驚いてるな? 隠しきれない王者の風格が出ちゃったかー!? ぱちくり)


二度、三度。お姉さんは首を傾げながら、水晶を叩いたり、裏側を覗いたりした。


「おかしいわね……故障かしら……」


「またオレ、何かやっちゃいました?」


俺はこの場に一番ふさわしい言葉を、さらりと言ってのけた。


「……あのォー、全ての項目が、一の位までぴったり『標準値』なんですが……」


(無視か~ぃ)


お姉さんは、不思議そうな顔をした。


「標準値?」と隣でティアラが、怪訝な顔で聞き返す。


「はい。筋力、魔力、運、他、全てにおいて、この街の成人男性の平均データと寸分違わず一致しています。……こんなこと、確率的にあり得ないんですけど」


それを聞いたティアラは、チラリと俺を一瞥した。


「当然でしょ。こいつ、いつも変な妄想ユメばっかり見てるくせに、その割に何の取柄もないし、悪い意味で現実的なのよね」


「堅実で何が悪い!」


言い返す俺。

すぐさまティアラも反撃する。


「堅実じゃなくて『現実的』つまり平均的で、つまらないオトコって意味ね」


俺たちのやり取りを聞いていたお姉さんが「……現実的……ですか」と呟いた。そして、なぜか俺の顔をまじまじと見つめてきた。


(もしかして! お目々パチクリ作戦が成功してる!?)


と思ったけど、お姉さんは何かを納得したように小さく頷いて、すぐに営業用の完璧な笑顔に戻った。


だけども……。


俺も実は一つだけ、心の中では少しだけ引っかかっていた。


(平均? 女神様がくれたスキル……なんだったっけ。あ、『現実主義』だ)


「──お疲れさまでした。それでは、このギルドカードをお渡します。無くさないようにお願いしますね。再発行には──」


その後も、お姉さんのベロン・ベロンよく回る舌で、あれやこれやと注意事項を並べ立てていたけど、正直そんな話は興味ないし退屈だったので、お姉さんの視線が俺から逸れる度に”たわわ”を盗み見たりしながら時間を潰した。


──滞りなく説明が済み、晴れて登録が済んだ。


いよいよ俺も、本格的な冒険者として、偉大な一歩を踏み出すこととなる。


(結局……、ティアラに上手く乗せられた感は否めないが……)


「やったね! このZ級冒険者ッ。この、このーっ」


「へへへ……、へ? Z級ぅぅぅ!!!?」


慌ててギルドカードを確認する。


「そんなこと書いてないだろーー!」


「あはははは」



ギルドの外に出たところで、俺はティアラにあることを白状した。


「……なぁティアラ。さっきの数値なんだけど……俺のスキルが、何か関係してんのかな?」


「スキル?」


「うん。実は俺さぁ、女神から『現実主義』ってスキルを無理やり押し付けられたんだよね」


「……そういえばあんた、別の世界からの転移者だって言ってたわね」


「そう。で、なんかさー、女神が色々言ってたけど、正直何言ってんだか分かんなかったんだけど……辛うじて理解できたのは、なんでもかんでも『現実的な範囲』に引き戻しちゃう能力らしいんだわ……」


ティアラは一瞬だけ、妙な顔をしたが、すぐに呆れ顔に戻った。


「……へぇ。あんたのその『華のない平凡さ』は、スキルのせいだったのね。納得だわ」


「平凡じゃねェーしッ!!」


「ところで……。まだその、アヒル口とパチクリお目々作戦は続けるつもりなの?」


「知……知ってたのかよ」


(恥ずぃ……)


俺はすぐさまアヒル口とお目々パチクリを止めて、普段のクールなナチュラルイケメン顔に戻した。


「……ねぇユーマ。あの森の魔物に勝てたのも、もしかすると……そのお陰かな?」


すっかりそのことを忘れていたけど、このソレナリスに来る前に、森で遭遇した伝承級の魔物・グラウ=ヴァルムのことを、俺も思い出した。


「いや流石に、それはないだろォォ」


俺は速攻で反論した。


「あら? あんたにしては謙虚じゃない?」


「謙虚? は? 何言ってのお前。違うだろ! 魔物を倒したのはスキルとかじゃなくて、完全に”俺の実力”だっただろー! 憶えてないんか!? ほんっと何言ってんの、お前」


「……」


俺に論破されて、押し黙るティアラ。


そんなバカっぱなしをしながらも、ちゃっかり者の俺たちは、既に初依頼を受けていた。


「初仕事の一発目として『庭の草むしり』って、どうなんだ? これって普通なんかな?」


俺が尋ねると、ティアラは。


「あんたが『戦闘は怖いから、したくないっ!』って”しっこ”チビらせてワンワン泣くから、必然的に”そういう仕事ばかり”になるのは、仕方ないじゃない」


「はぁぁぁぁ!? 漏らしてねーわ! ビビってもねーし!」


(泣いてもねーわ!)


「まぁね。今はまだZ級なんだから、しょぼい仕事でも、それはしょーがないよ」


「……」


「あ、また、ギルドカード確認したでしょ」


「してねーわ!」


さて……と。


俺たちはギルド登録したその足で、早速、依頼のあった屋敷へと向かった。

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