表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/88

第十話:巨乳受付嬢 ミラさん、般若になる

地図を頼りにたどり着いたのは、街外れにある、やけに広くて薄暗い屋敷だった。


「依頼主いねーな……。まぁいいか、ここだろ?」


俺たちは勝手に敷地内に入り、生い茂った奇妙な模様が施された草を引き抜き始めた。


「これ、抜きにくいな。なんか地面に模様が彫ってあるぞ」


「いいから、サッサとやりなさいよ。お腹空いたんだから」


その時だった。


「ゴぉらああああーーー! クソガキ共ぉぉ! なぁーにをやってんだぁぁぁ!!」


地鳴りのような怒号と共に、一人の強面のオッサンが、物凄い勢いで突進してきた。その形相は、まさに鬼か悪魔かって顔だ。


「ぎゃああああ! 逃げろティアラ! なんか知らんけど殺されるぅぅ!!」


「ほ、ほら言ったじゃない! あんた場所を間違えたのよーっ!!」


俺たちは必死で路地裏を駆け抜け、なんとかオッサンを振り切った。


それから一時間後──。


「……まだ、あそこにいるかな。あのオッサン」


「怖くて近づけないわよ……」


俺たちは時間を潰すために、広場の噴水で泥だらけの手を洗ったり、公園でかくれんぼしたり、高鬼たかおに低鬼ひくおに色鬼いろおに泥警どろけいなど様々な遊びにトライし、童心に戻ってはしゃぎまくった。


更に一時間経過して、ふと我に返り「こんなとこで、現実逃避してる場合じゃない!」と覚悟を決めて大通りに出たら、もうあのオッサンの姿はどこにもなかった。



程なくして、ギルドへと帰還。


扉を開けた瞬間、俺は凄まじい殺気を感じて足を止めた。


受付カウンターで、さっきまでニコニコしていたムチムチお姉さんが、俺たちの顔を見るなり、般若のような形相でペンを握りしめた。


「……おかえりなさい。ユーマ様、ティアラ様」


静かな威圧感。


「あ、はは……ただいま戻りました」


俺が愛想笑いを浮かべると、お姉さんは机をドン! と叩いた。


(パチクリ)


「あなたたち、一体何をしたんですか!!」


そう言って、お姉さんは再度、机をドン! と叩く。

その衝撃で大きな”たわわ”が、上下にぶるぶる揺れて──時間差で”ピタリ”と止まる。


「ひぃぃぃ!」


めっちゃ怒ってはる……。


「さっき、魔……じゃなかった、クロム様が血相を変えて、怒鳴り込んできましたよ!」


「クロム? 誰っすかぁ……それ」


「今日! あなた達から、多大な被害をこうむった方の名前です! 『あのガキどもを連れてこい、地獄を見せてやる!』って息巻いていますよ」


「はぁぁ!? 返り討ちにしてくれるわ!」


「あはは……『帰りぎわに行ってやるわ!』ですって。うちのユーくん、もう謝罪する気満々で、張り切っちゃってマス。はは」


(何、体裁してんだよ、このドラ猫!)


お姉さんの話によれば、かつては相当な実力者だったらしく『知ってる人なら、誰でも知ってる!』らしい。(そりゃそーだろ!)


「あの方は、再起をかけて庭に十年がかりで『超巨大魔法陣』を草の配置でえがいていたそうよ」


お姉さんは、虚ろな瞳で俺たちを見た。相当絞られたんだろうな。(かわいそうに)


(つか魔法陣なんて何に使うんだよ! 狂ってんなあのイカれ魔法オタクめ)


「それを、あなたたちが『ただの雑草』だと思って、根こそぎ抜いちゃったそうですね?」


「……」


「……」


俺とティアラは、無言で視線を逸らした。間違いなく俺たちじゃん……。


「あの……つかぬことをお伺いしますが、お姉さん?」


「……はい。なんでしょう?」


「何で話を聞いただけで、それが俺たちだって分かったの?」


「クロム様から聞いた外見の特徴で、絶対にあなた達だって、ピンときました」


「あ、そうなんだぁ……。で? 因みに俺のことは、どんな外見だって言ってた?」


俺はドキドキしながら、返答を待った。


どれだけ俺がイケメンだったとしても、逆上している奴の口から出る言葉なんて、どうせろくなもんじゃない。いちいちムキになって反応したりしない自信は、ある!


「ええ……とですねェ、マヌケ面の、見た目アホそうな、馬鹿だと。あ、あと童貞っぽいとかも……言ってたかなぁ?」


「なにをーーーっ!!」


「うん、当たってるね! それじゃ、私のことは何て言ってたー?」


「女とは思えない、胸の平べったい、ドラ猫ですって」


「なによぉぉーー! 老いぼれてんじゃないの!?」


「お姉さん冗談きついって! あの怒鳴り散らしてた短気なクソ親父が実力者? ないない。あんなの血圧が高いだけの、ただの近所のオッサンだろ」


俺がそう言ったら、お姉さんは鬼の形相で、俺たちを交互に睨みつけた。


「「す、すみません……」」


俺たちは身の危険を感じて、一斉に謝った。


(なんでクソ親父をディスったら、お姉さんが怒るんだよ?)


「それと!」


「はい……まだ……、何かありましたっけ?」


恐る恐る訊いてみた。


「私の名前は『お姉さん』ではありません! 『ミラ』です! 一度、自己紹介していますよね」


「「ご、ごめんなさい……ミラさん」」


またしても俺たちの声は、自然と揃っていた。


「……はぁ。本当は、もっとちゃんとした形で、引き合わせようと思っていたのに……台無しです」


ミラさんが、深いため息と一緒にボソリと呟いた。


「はぁ!? なんだそれェ? なんで俺が橋渡しなんてされるんだよ! クロムなんて知らねーし、昨日が初対面だったんだけど? お花畑を出す魔法でも唱えてろよ!」


「まぁ、そう言わず。……あの方とは、その……きっと、あなた方とは気が合うと、私はそう思ったんです」


「うぇー!? あんな短気なクソオヤジと? 気が合うわけないじゃん! 世界が滅亡して俺とあの親父”二人だけ”になったとしても、全く気が合う気がしねーわ! Gの方がまだ心許せそうだわ」


俺がケラケラ笑っていると、再度ミラさんに、般若の形相で睨みつけられた。


「いいから、仲直りしてきてください!!  間違えて草をむしったのは本当の話でしょう? ちゃんと謝りに行くのが筋です!」


「ヤダよォ! だったら手紙か……、あ、そうだ! 念話でも送って済ませばいいじゃん!」


俺がそう言った途端、ミラさんは急に真面目な顔つきに変わった。


「ね……念話? ユーマ様は、念話を使えるのですか」


「はい? あははは、そんなのジョークに決まってんじゃん。俺が使えるわけないでしょ」


もしかしてミラさん……天然?(巨乳?)


「……それもそうですね。いえ、結構です。忘れてください」


「ヤッター! いいの?」


「いいわけないでしょ! ちゃんと謝りに行きますからね。全く……また何かやらかしそうで心配ですから、私もついて行きます。いいですね?」


「えーっ!! 保護者同伴みたいで絶対にヤダ! なんか子供みたいじゃん!? ミラさんと二人きりのデートならともかく……」


俺は必死に駄々をこねたが、ミラさんの目は一切笑っていなかった。


「同行には『監視』という意味も含みますからね。さあ、行きますよ」


「今から!?」


「当然です」


「えぇぇ……ヤダなぁ」


「行きます!!」


こうして俺たちは、ギルド登録初日にして「オッサンのクレーマー対応」という、この上なく現実的な試練を背負わされることになった。


とは言え……。


本心を言えば、十年かけてって言ってたしなぁ……、という罪悪感が無いわけではない。だから無償で働いてやってもいいかな? とも考えている。


(って言っても! 奴の出方次第だけどなッ!)


その後ミラさんは、別の案件を片づけたら”代わりの受付嬢を配置する”ので、少しの間待っててください、と言って、どこかに消えた。


「ねぇ……ところで。あんたが言ってた”アレ”『現実主義』だっけ? もしかしてそのスキルのせいで、魔法陣がただの雑草に見えたんじゃないの?」


「は? 俺のせいかよ。あんなの、誰が見たってただの雑草だろ」


どうして俺の周りって、こうも、怪奇好きな奴らが多いんだよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ