第八十五話:「それを早く言えよ!」判明した二大チート能力! 駄女神「テヘペロ」
屋敷・大広間
騒動が一段落し、佳代が持参した現世のお菓子を囲んで、屋敷の面々とアンが車座になっていた。
「……ところで姉上」
不意にゼノンが、アンに問いかけた。
「先生の理不尽な力について……身内として、何か心当たりはないのですか?」
アンが首を振る。
「その能力の件ですが、私は知らないし、心当たりもないわ」
「でも……」と言って、アンはふと遠い目をした。
「不思議なものね。あの子、子供の頃からあんなに異世界嫌いだったのに、異世界じゃ無双していると聞くし──異世界ライフを満喫してただなんてね……」
「異世界嫌いーーっ!?」
ゼノンが素っ頓狂な声を上げた。
「にわかには信じがたい話ですね……。あんなにやりたい放題、好き放題やってたましたので……」
本当に”信じられない”といった顔のゼノン。
「あの我慢が利かない先生が、ただの一度も、元の世界に『帰りたい』という言葉を口にしてませんでしたからね……」
ゼノンの言葉に、アンは間髪入れずに返す。
「それは異世界云々の前に、あなたが甘やかしすぎたからじゃないの?」
「いや……まあ、それは否定できませんが……」
ゼノンが口ごもる。
その傍らでティアラが、ある疑問を佳代に投げかけていた。
「あの、お母様! それじゃあユーマにも『異世界嫌い』とかって、昔はあったんですか?」
「なーにが『お母様!』だよ。俺と話す時と全然違うじゃん。猫だけに猫なで声かよ」
傍を通りかかったユーマが、そう言って茶化すと、佳代の拳が即座にその脳天へ落ちた。
「あんたは黙ってなさい!」
「……あだっ!」
そしてティアラにも、顔を引っかかれた。
「いだだだだっ……!」
そのまま退散した息子を無視して、佳代はにこやかに答える。
「ユーマに限って言えば『異世界嫌い』だなんて、そんなこと一切ないわ。むしろ、表紙がエッチな──……異世界漫画っていうの? スマホでいつも、そんなのばっかり読んでたわね」
(((……スマホ?)))
謎の単語に、数人が首を傾げた。
佳代の話を聞いてたゼノンが、不思議そうにこう言った。
「片や異世界嫌い、片や異世界好き。なのに、能力の性質は実に似ている。どちらも異世界の理を無視し、現世の世界の尺度に収まってしまう……」
なのに、親子でありながら、現世では真逆だった二人。
アンは言う。
「それって要するに『異世界を受け付けない』から、理に縛られない能力とも言えるわね」
クロムが深く頷く。
「まさにその通りだ。ユーマの能力も、同じ原理なのだろう」
その時、隅の方で小さくなっていた女神が、消え入るような声で口を開いた。
「あのォ……。大変言いにくいのですが、ユーマさんの能力は、私が天界に呼び寄せた時に授けた加護……というか『特殊なスキル』なんですけど」
一瞬の沈黙。
そして。
「「「「「それを早く言え!!」」」」」
全員の怒号が重なり、女神は「ひぃっ!」と身をすくめた。
クロムは、先程したり顔で知ったかぶりしたことを恥じて、顔を真っ赤にしていた。
「そ、そうか……やはりチート勇者の力は先天的か」
(……で、合っているな??)
ここで、ずっと考え込んでいたミラが、恐る恐る口を開いた。
「もしかして……。仁さんの異世界を受け付けない能力は、アン様のあまりに過酷な『凶育』がトラウマとなり、一種の……その、重度の『異世界アレルギー』として発現したものでは?」
一瞬、時が止まったように、絶句するアン。
「あら……。私のせい……でしょうか?」
アンが戸惑ったように瞬きをした。するとミラは「いえ! 決してそのようなことは!」と慌てて口を濁した。
「まあ、なんだ。二人の能力については大体理解した。だが、まだ一つハッキリしていないことがある」
もちろんクロムが言いたいのは、同時期に二人がゲートを通って来た、二度目のゲート通過の話だ。
「そもそも、ユーマがゲートに落ち、チート勇者がそれを追って飛び込んだと聞いたが。それではなぜチート勇者は正常に王宮へ落ち、ユーマだけが天界という『別ルート』に辿り着いたのか」
一斉に皆の視線が女神に向いた。
「それは……私がそのォ……」
何とも歯切れの悪い女神だった。
「女神よ。お前がポンコツなのは、とうの昔に分かっておることだ。怒らないから、正直に言うんだ」
クロムが優しく促す。
すると女神は、ようやく観念したように白状した
「……それは私が、勇者召喚をした時にですねェ……。同じ頃に時空を彷徨っている者がいることに気づいて『私が召喚した勇者が迷子になっているぅぅ!!』って勘違いしちゃったんですよォ……。それがユーマさんだったんです」
「それでユーマさんを、天界に引っ張り込んだ、と?」
「は……い」
「「「「「それを早く言えよ!!!」」」」」
本日二度目の絶叫が屋敷を揺らす。
「ユーマさんに、転移前後の記憶がないのも、きっと転生ではないユーマさんを、無理やり転生扱いで天界に呼んだ副作用なのかな? えへっ!」
女神のあざといテヘペロに、一同が「イラッ!」としたのは言うまでもない。
怒号と笑い声。そして、いつまでも収まらない騒がしさが、屋敷の屋根を突き抜けていく。
◇ ◇ ◇
最後に──。
この物語は、決して世界を救うような英雄譚ではなかった。
ただ、どこまでも「適当すぎる勇者」たちと、それに振り回された面々の、あまりにも人間くさい日常の記録だ。
結局のところ、全ては「女神のうっかり」と、それに輪をかけた「当人たちの適当ぶり」が招いた結果に過ぎない。
逃げ回る男たちと、それを追いかける面々。
そして、その中心で顔を真っ赤にしながら叫んでいる、一人の少女。
ティアラが窓を開ければ、そこには今日も、これまでと変わらない賑やかな光景が広がっている。
相変わらず、世界の行く末よりも、今日の夕飯や目の前の身内が引き起こす珍事の方が、この屋敷にとっては重大な事件なのだ。
あまりにも騒がしい、新しい日常。
しかし、その騒ぎこそが今のこの屋敷にとって、何より相応しい物語なのだった。
──────終わり?
次回、ティアラが悲劇のヒロインに酔っていた裏で、一体何か起こっていたのか……?




