第七十六話:親子三代、全員勇者!? 作者都合すぎる定番作品のような世界観に絶句
「誰って? 俺の『おばあちゃん』だよ」
ユーマのその一言で、ティアラは固まってしまう。
「「「「え……っ!」」」」
周囲にいた皆も、同様に驚愕した。
「ん、どうしたティアラ!? つーか、お前らも……」
「こ、こんなに物凄い魔力を持った人が……、ユーマのおばあちゃんなの?」
「そうだけど?」と頷くユーマ。
バッシュが絶句し。シルフィが息を飲み。ミラとカガミは、ユーマとアンを交互に見比べた。
だが四天王たちの驚きは、ティアラの驚きとは、また別の意味合いがあった。
「アン様が、不憫でならぬ……」
バッシュが無念そうに唇を噛む。
「おい! 不憫とか、意味が分かんねーよ。どういう意味だよ」
ユーマが訝し気に尋ねる。
「…………」
ミラは言葉も出ない様子だ。
「……全然……似て、ない」
カガミは、アンの顔を見入る。
「いえいえ。そんなことは……似ていま」
シルフィは途中まで言いかけて、諦めた。
本当に、全く似ていなかったのだ……。
それどころか魔族は年齢の進み方が人間よりも遥かに遅い。二人が並んでも、決して祖母と孫には見えなかった。
「あーっ! テメェーら。ッんだよ! 何が気に入らないんだよ!?」
たまらず、ユーマが吠える。
そんな中、クロムは感慨にふけっていた。
「ということは……アンの、孫……か」
クロムの口から、掠れた声が漏れた。
数ヶ月間、屋敷で共に飯を食い、口喧嘩を繰り返してきた少年の顔を、まるで初めて見るように見つめる。
「……すなわち、こやつが息子……」
クロムの視線が、チート勇者へと移る。
「アン様が、不憫でならぬ……」
またもバッシュが、先程と全く同じ言葉を吐いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? その反応……。みんな知ってるみたいだけど、アンさんって、そもそも一体何者なの?」
「……私の妹だ」
クロムが、静かにそう告げた。
「え!?」
ティアラの顔が、みるみる変わっていく。
「……じゃあ、ユーマって」
「ああ、そうだ」
クロムが低い声で頷いた。
「……」
どうやら天界の女神でさえも、アンの存在自体は把握してる様子だったが、ユーマとの関係までは知らなかったみたいだ。
しばらく黙っていた咲が、ここで核心に触れる言葉を吐いた。
「あれ? クロムさんと『おばあちゃん』が兄妹…………ってことは! ユーマさんは」
「大甥だな」
「…………」
少し間があった。
「……うわ、最悪」
ユーマが実に残念そうに呟く。
「最悪とはなんだ! 最悪とは!」
ユーマを睨みつけるクロム。
祖母が魔族であり、しかも元魔王クロムの妹。
ユーマから見ると、クロムが大伯父で、ゼノンが大叔父。
しかし、そんなことを知っても、ユーマは驚きはしても大して気にもとめていない様子だ。
「さて。私の紹介は、もう終わりましたか?」
この大騒ぎの中心にいることも、どこ吹く風で片眉を上げるアン。
「兄さんもゼノンも。久しぶりに見るけど、何も変わってないのね」
微笑んだあと、アンは床に突っ伏したままのチート勇者に、冷ややかな視線を向けた。
「そうそう……、この子が二十年前に、初めて異世界へ来た理由も、大した理由じゃなかったのよ」
その瞬間、皆が一斉に耳を傾けた。
それはこれまでずっと、チート勇者転移の「謎」の部分だったからだ。
二度目(今回)の転移は、ゼノンが言うには「ゲート」なるものを通って来たとのことだが、最初に異世界に転移した経路は一切明かされていない。そこには、それ相応の理由があるはずだと皆は考えていた。
「──恥ずかしい話ね、この子(チート勇者)は定職にもつかずに、いつまでもプラプラしていたから、私も堪忍袋の緒が切れちゃって『一度、故郷の厳しさを知って来なさい!』って、穴に突き落としてやったのよ!」
”はぃ?”
その場にいた全員の思考が、全く追いつかない。
突き落とす? 穴? どういうことだろう──と。
その時、クロムだけは、その意味を理解したようで口を挟んだ。
「つまりだ……こういうことか? こやつは母親に、その『穴』なるものに突き落とされて、こっちの世界に来た──と、そう言いたいのか? 召喚でも転生でもなく……な」
アンは平然とした顔で、こう答えた。
「ええ、その通りよ兄さん。これはね、教育なの! 教育っ!!」
そう言いながら、いまだ床に突っ伏したままでいるチート勇者を見下ろした。
(こやつが……あの『チート勇者』か……全く、情けない)
クロムも同様に、まだ死んだ振りなんてしている、このマザコンFQ勇者の成れの果てを見下ろしていた。
「あのさぁ、おばあちゃん。そんなサラッと恐ろしいこと言ってるけどさ。そもそも、その『ゲート』って一体何なんだよ!?」
ユーマが率直な疑問を口にした。
それは、この場にいる誰もが知りたかったことだった。
アンは、皆が十分に聞き耳を立てるのを待ってから、淡々と話し始めた。
「本来、召喚魔法っていうのは、別の世界から人を呼び寄せるもの。でも私は、異世界から現世へ行く方法として────」
そこでアンは、言葉を切る。
そして周囲を見渡す。
「も……もしや……アン様……、そ、そんな!」
カガミが、いち早く反応を見せる。
同じくゼノンも「……なるほど」と、何かを察した様子だ。
「何が『なるほど』だよ! カガミ、なんの話をしてるんだよ?」
わざわざ誰かが口を挟むのを待つあたり、アンも中々あざとい女である。
「……だから私がね『穴』を開けたのよ! ──それを『ゲート』って呼んでるのかしら? あなたたちは」
そう言って、アンは軽くウインクをした。
「む……無理やり!? 二つの世界を繋げたのか!?」
クロムが、思わず言葉を失う。
まさかとは思っていたが……そのまさかだった。常識外れのやり方を、この妹は平然とやってのけたのだ。
「そ、そんな穴が! うちの納屋にあったってことか!?」
ユーマの叫びに、ティアラや元四天王たちも、言葉にならない衝撃に身を震わせる。自分たちが今まで「召喚者は誰だ」と頭を悩ませていた元凶が、まさかユーマの家の古びた納屋に空いた「穴」だったとは、思いもしなかったのだ。
バッシュは「流石です!」と大絶賛し、
ティアラは「怖い家系……」と青ざめ、
シルフィは「あらあら……」と眉を落とす。
ミラに至っては「私のあの苦労は、何だったんでしょう……」と意気消沈していた。
女神は何も語らず(ハハハ……そりゃあ、天界でも把握出来ないわけだわ……)と、かなり引いていた。
「なぁ、ばあちゃん。一つ疑問があるんだけど……ばあちゃんが、元は魔族で異世界人だったのに、なんで現世の世界に行くために穴を開けたんだ?」
ユーマのその言葉に、アンはどこか遠くを見る目をした。
「……昔ね。わけあって、当時勇者だった人と、自分たちの事を誰も知らない『どこか別の世界へ行こう』って駆け落ちしたのよ」
「か! 駆け落ちーーっ!!?」
思わず絶叫するユーマに、クロムが「シィ……」と唇に指をあてて黙らせた。
「まさに召喚の間で。向こうの世界(現世)へ抜けるために穴を開けたの。それが、あの家の納屋に繋がったってわけ」
「じゃ、じゃあ勇者って、じ、じいちゃんのことーっ!?」
アンが静かに頷く。
どこか微笑んでいるようにも見える。
「じいちゃんって……勇者だったんかよ」
信じられないって顔のユーマ。
「あら。あの人はこっちじゃ有名な『勇者』だったのよ。異世界名は、ケン・モーリー。……ま、中身はお人好しの塊だったけどね」
「マジかよぉ~。じいちゃん……」
ユーマは頭を抱えた。
祖父が伝説の勇者で、祖母が魔王の妹。
そして、二十年前に祖母の愛のムチでこの世界に落とされた、元チート勇者が父親。
「なんなんだよ! このご都合主義のテンプレ設定てんこ盛りは! じいちゃん、親父、俺。親子三代揃って勇者って、作者都合のご都合作品そのものじゃねーか! ウチは代々勇者を輩出する名家か何かなの? カオスすぎんだろッ!」
あまりの衝撃に、ユーマご自慢の例え話も微妙、且つ寒滑りしていた……。
だが、アンはそんな孫の困惑を他所に、不意に鋭い視線をクロムへと向けた。
「ところで、兄さん。二十年前に、そこの女神と協力して、この子(チート勇者)を現世へ送り返したらしいわね?」
その問いに、クロムは微かに眉をひそめた。
「……ああ。あれには多大な魔力を要した。あやつを現世へ送り出すだけで精一杯だったのだ」
「……やっぱりね。どんな方法を使ったのか知らないけど。あなたたちは、私が使った魔法陣からゲートをこじ開けたのよ! それを閉じないまま放置したから、現世側のゲートが開いたままになってたのよ」
アンの言葉に、クロムが「どういうことだ?」と声を詰まらせる。
「いい? 本来、異世界に人を召喚するための魔法陣なの。それを無理やり現世へ『送り出す』なんて逆の使い方をすれば、そこに穴が発生するの。私は穴を開けたあとは、必ず現世側からゲートを閉じる作業をしていたわ」
そう説明してから、アンはムッとした顔をした。
「でも、あなたたちが勝手にこの子を現世へ送り返したことなんて、私は知らなかったわ。だからゲートを閉じる必要があるのに、開いたままになっていたの。……つまり、二十年前からゲートはずっと、開いたままだったのよ」
「……っ、ということは……!」
「そうよ。あんたたちが閉じ方も知らずに穴を放置したせいで、穴は、ずっと開いたまま。そのせいで今回ユーマが巻き込まれたのよ」
「ふざけろよー! ぜ……全部、おっさんのせいじゃねえか!!」
ユーマの怒号が響き渡った。
が、しかし。
ある事実を思い出したユーマは、急にフォロー側に回った。
「いや……まっ、でも。穴って現世側に開くんだよな? だったら、ばあちゃんは気づかないし悪くないよ!」
クロムが責められている場面で、強引に「ばあちゃんは悪くない!」とミスリードしたのは、自分がゲートに落ちた理由が、女の子を納屋に連れ込んでエチエチなことを迫り、それを拒絶された上に突き飛ばされた。
そんな理由でゲートに落っこちたんて、とても言えるわけもなく。ただただ焦るユーマだった。
「ユーマ?」
ユーマの妙な態度に気づいたのは、ティアラ一人だけだった。
「な、なんだい? ティ、ティアラさん?」
ユーマの口調が急によそよそしくなる……。
「あ、怪しい~……」




