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第七十三話:ユーマの父親は「宿敵チート勇者」だった!? 凍りつく屋敷と動き出す精鋭たち

漆黒のノアが屋敷の庭に降り立つや否や、ユーマは背中から飛び降り、まっすぐ玄関へと駆け込んだ。


その後ろを、ドレスアップしたままのティアラとミラが追い、さらには、その後ろを女神が慌ただしく追う。さらに顔面を蒼白にしたゼノンとルージュも続く。


庭では、巨大な魔獣の肉を焼いていたクロムが手を止め、怪訝そうに振り返る。


「……龍だと?」


クロムが目を細める。


「あれ……あの龍は?」


シルフィが、何かを思い出したように呟いた。

縁側で茶を啜っていた他の仲間たちと、庭で筋トレ中だったバッシュも動きを止めた。


「みんな安心してくれよ。敵じゃないから」


ユーマが説明する。


「以前ダンジョンで会ったやつだ。今は味方だ」


仲間の中には、あのダンジョン騒動を知らない者もいる。ユーマは、この龍がその時に遭遇した相手であり、今は事情あって協力関係にあるのだと簡単に説明した。


──どうやら皆の警戒も、解けたようだった。


「まずは聞いてくれ。王宮で、とんでもないことが起こったんだ」


ユーマの珍しく改まった態度に、皆が固唾を飲む。


「……あの、チート勇者のことなんだけど。……実はあいつは」


居残り組が固唾を飲む。。


「俺の、本物の親父だったんだ」


その衝撃的な告白に、空気が一瞬にして凍りついた。


クロムの手から、肉串がぽとりと地面に落ちる。

かつて死闘を繰り広げ、その理不尽な力の前に煮え湯を飲まされた宿敵。その男が、今、目の前にいるユーマと親子であるという事実に、クロムは言葉を失ったまま立ち尽くした。


「な、何だと、ユーマ! お前があの男の……息子だとォ?」


バッシュが声を絞り出す。

その眼光にはかつてない動揺が走っていた。


「……信じられない。ユーマさんの、お父さんが……」


縁側では、カガミがぽつりと呟き、


「まあ……。あの方とユーマさんに、そのような繋がりがあったなんて……」


シルフィもまた驚きを隠せない様子だ。

一方、咲は、いつもの調子で口を開いた。


「ユーマさんのお父さん、あの、生態系を無視した暴挙を繰り返していると噂の、個体がですか?」


「咲! 言い方!」


ティアラが慌てて咎める。


「あ……失礼しました」


咲は小さく頭を下げた。

その隣で、佐藤だけは普段通りだった。


「統計的に見ても、同一世界から転移した二名が親子である確率は極めて低いはずです。にもかかわらず成立している以上、偶然というよりは構造的な因果関係を疑うべきでしょうね」


いつものウザい口調で、淡々と能書きを垂れる佐藤。


「ちょっと佐藤さん! こんな時まで、何ブツブツ理屈こねてんのよ! ムカつくわね!」


空気を読まない佐藤に、豪華なドレス姿のまま、毛を逆立て怒るティアラ。


「……悪い、今はそういうの、あとにしてくれ! 本題に入るぞ。実はその親父が、今、王宮で監禁されてるんだ。相手は田中さん……あっちの世界で隣の家に住んでたジジイだ」


ようやく本題である「現在の危機」へと、会話が向かった。


ユーマは、屋敷のメンバーがまだ知らない「田中さん」という存在と、そのパワーバランスについて簡潔に説明した。


異世界のことわりを変えられる自分や親父でも、逆に現世人の田中さんだからこそ、その能力が通用しないこと。

ゆえに、純粋な体力差と喧嘩の強さで、親父は完敗してしまったことなどを、事細かに説明した。


「俺も親父も、あっちの世界じゃ『凡人以下』だった。だから『平均的凡人』の田中さんにさえ勝てねぇんだよ……。でも、この世界の住人であるお前らなら、田中さんなんて、ただの人間だ。頼む、力を貸してくれ!」


ミラは心の中で(まるでジャンケンだわ)と思った。


しかし──。


ユーマの必死の訴えに対し、クロムは未だ動かず、厳しい表情で黙り込んだままだった。宿敵と、居候のユーマが親子だったのだ。交錯する感情を整理しきれずにいる。


その横顔に、ミラがそっと歩み寄った。


「……クロム様。今は、ユーマさんのお父様の危機です。貴方とあの男との因縁は、一旦置いておきましょう。今は『屋敷の主』として振る舞うべき時です」


ミラが静かに、だが確固たる口調で告げると、クロムはゆっくりと視線を上げ、真っ直ぐにユーマを見た。


その瞳の奥にある感情は、誰にも読み取れない。

ただ、彼は何も言わずに静かに頷いた。


その光景を見つめていたバッシュが、


「なるほど。理解した!」


と真剣な面持ちで、元気よく頷いた。


「私や閣下のような、この世界の住人であれば、ユーマのようなスキルを持たない田中という男を『ただの人間』として対処できるということだな? ならば話は早い!」


他の仲間たちも、皆、バッシュ同様にユーマを助けるべく、王宮に同行すると言ってくれた。


そんな中、今にも逃げ出しそうなほど、膝を震わせているゼノンの姿に、クロムが気づいた。


二人の視線が交差する。


「あ、あの……兄上……」


蛇に睨まれた蛙のように硬直するゼノン。

だが、歩み寄るクロムの瞳に宿っていたのは、憎しみではなく「熱苦しいまでの感動」だった。


「……おお、ゼノンではないか」


まるで今初めて気づいたような口調だ。


「ひっ! 兄、兄上……!」


クロムは逃げようとするゼノンの肩を、逃がさぬと言わんばかりにガッシリと掴んだ。


「わかっているぞ、ゼノン! 私を魔王の座から引きずり落としたのは、私を逃がすための自己犠牲だったのだな! バッシュとも話していたのだ。貴様が敵に屈したのは、すべて私を、そして同胞を救うための愛であったと! おお、我が弟よ、なんという深い愛だ!」


「……はい?」


ゼノンが、口をポカーンと開けたまま固まってしまう。

ミラは二人のやり取りを見て、内心で深いため息をついた。


(……やっぱり始まったわ。この人、本当に思い込みが激しくてメンドクサイ……)


「なぁ、クロムおっさんよー。感動の再会はそれくらいにして──」


「おぉ……そうであったな!」


「よし、決まりだ!」


ユーマは意気揚々と声を上げた。


「それじゃあ、ルージュ! あんたも元の龍の姿に戻ってくれ! 全員で王宮へ乗り込むぞ!」


だが、しかし……。

そうは問屋が卸さない。


ルージュは顔を真っ赤にして、ユーマに訴えかける。


「戻りたいわよ! でも、無理なのよ!」


「なっ、なんでだよっ!?」


「なんでって! あんたが『龍なんて現実的じゃない』みたいなこと言ったからでしょ!」


「へ? そうだっけ」


厳密には「異世界漫画とかだと、おっぱい大きいグラマーな女の子に擬人化する」と言ったのだが──。


「あんたが変化させた縛りを、どうして縛られている私本人が解除できるのよ! 自分でどうこう出来るなら、今までも好きにしてたわ!」


「あぁ……そうか。ごめんごめん」


そう言ってユーマは、頭を掻いて謝罪した。


「撤回するよ。確かに擬人化は『非現実的』だよな。現実的に考えて、こっちの世界じゃ龍は龍じゃなきゃおかしいよな」


そう言った瞬間、ルージュの体が紅蓮の光に包まれた。


「……ああ……あぁぁ……ン♪ キタわコレ……」


ルージュの体がプルプルと震えだす──やがてドレスの胸元がパンパンに張り、服は膨張に耐えきれず、胸部の布が破れ一瞬だけ白い肌が露わになる。


「……ああ……あぁ……ぁぁぁぁぁあぁっ」


ルージュの体が更に膨張し、異世界のことわりへと戻されていく。


「……来る、来る、……クル~! ンあぁ……」


赤い鱗が浮かび上がる。

巨大な赤龍の姿が形作られていく──骨格があるべき姿へ戻る。背中が裂け、巨大な翼が”バサッ!”と大きな音を立て広がる。


「ハァ……ハァ……やっ、やっと……ハァハァ……戻れたわ」


そこには──禍々しい巨大な赤龍の姿があった。


「よし、これで全員乗れるな! 半分はノア、残りはルージュだ!」


総勢十一名の精鋭たちが分乗する。ゼノンはクロムの暑苦しい視線から逃れるように、大急ぎでルージュの背へ飛び乗った。


黒と紅。巨大な影が二つ、王宮を目指して舞い上がる。


「親父、待ってろ! 今、最強の連中をぶつけてやるからな!!」



その頃──。

監獄ではチート勇者が田中さんの「町内会の常識」についての説教に魂を削られていた。

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