第七十話:【衝撃】伝説の勇者は「クソ親父」だった!? 世界で一番醜い親子喧嘩
●ユーマ side
黄金に輝く馬車、スカイ・バブル・キャリアが、王都の巨大な正門前に着地した。
人だかりを割って現れたその派手な馬車から、マントを翻したユーマが自信満々に降り立つ。
続いて、紫のボディコン姿でポロリ寸前の巨乳を揺らし、扇子を広げて優雅に降り立つ女神。ドレス姿で落ち着かないティアラ。そして事務的なスーツ姿のミラが後に続く。
「いやぁ、やっぱり王都は活気があっていいなぁ! ほら見ろよティアラ、みんな俺たちの到着を待ってたみたいだぞ!」
「……いや、あれは単に派手な馬車に驚いてるだけでしょ」
ドレス姿でコルセットに苦しむティアラが溜め息をつくが、ユーマには届かない。
「さあ、勇者様の帰還ですわよ! 扉を開けてくださいな!」
紫のボディコン姿で扇子をバサリと広げる女神に促され、一行は内門の検問所へと向かった。
そこには、重装備の衛兵たちが並んでいたが、ユーマの姿を認めるなり、彼らの顔が目に見えて引きつった。
「(おい……あれ、例の『ポンコツ勇者』じゃないか?)」
二人の衛兵たちが、ひそひそ声で話す。
「(ああ、王宮事務局から『極力接触を避けつつ、適当に波風立てずにやり過ごせ』って言われてる例の……)」
衛兵たちは槍を構えることもできず、かといって通すこともできず、門の前で右往左往し始めた。
「よぅ、ご苦労さん! 俺だよォ、真の勇者ユーマだよー。招待状が郵便の不手際で届いてないみたいだから、直接受け取りに来たぞ。で、事務局はどこ?」
ユーマが爽やかな笑顔で話しかけると、若い衛兵はしどろもどろに応えた。
「え、あ、その……勇者様……。ええと、招待状……ですね。あ、あの、実は今、事務局の方が非常に混み合っておりまして……その、手続きに少々お時間が」
「なんだよ、やっぱり祭りの準備で忙しいんだなッ! 全く、俺が来るってわかってるんだから、先に用意しておいてくれりゃいいのにさぁー」
ユーマは「参ったなぁ」と笑いながら、ちっとも怒る様子がない。むしろ「VIPな自分への対応に追われている」と好意的に解釈している。
その時、衛兵の目にある人物の姿が目に入った。
「(あれは! ……女神様までいらっしゃるぞ)」
衛兵の一人が、女神の姿を見て息を呑んだ。
「(なぁ、おい……どうする?)」
「(どうするって言われても……)」
コソコソと小声で話す衛兵に対し、女神がニッコリと優しく笑いかける。
「あの、宜しいですか? 今回は女神である私自らが、勇者様をエスコートして参りましたの。通してくださるわよね」
いまだかつて見た事のないような、カリスマを意識したような「女神スマイル」で、衛兵たちに微笑みかけた。
(キモ!)
(うわぁー、あざと可愛いスマイルじゃん!)
(久しぶりに見たわ……)
ユーマ側の三者三様の反応。
しかし衛兵たちは違った。
一人は(メッチャ尊し……!)と感激し、もう一人は(神々しいお胸に目が行って、すみませんでした……)と似非スマイルに騙され内心で謝罪までする始末。
だが「それ」は「それ」
「……あの、勇者様。招待状ですが、あちらの『特別来賓ゲート』にて再発行の手続きを……」
衛兵が必死にひねり出した「当たり障りのない嘘」に、ユーマはパッと顔を輝かせた。
「特別来賓ゲート! さすがだな、俺専用の入り口があるわけか。ほら見ろティアラ、やっぱり主役は扱いが違うんだよ!」
「はいはい、そうね……。よくあんなバレバレの足止めを信じられるわね、あんた……」
ティアラが呆れる横で、女神が扇子で自分を仰ぎながら勝ち誇る。
「当然ですわね。だって私が隣にいるのですもの。さあ、案内してくださいな」
そしてまた、似非スマイル。
「は、ははっ! ど、どうぞこちらへ!」
衛兵たちは「早く誰か別の部署に押し付けたい」という一心で、丁重に、かつ全力の胡麻摺り笑顔で一行を門の奥へと招き入れた。
ユーマはそれを「熱烈な歓迎」だと受け取り、沿道の野次馬に手を振り、勇者ムーブ全開で悠々と歩いていく。
「(ふぅ……。なんとか通したが、この後どうするんだよ。あんなの入れたら典礼がめちゃくちゃになるぞ……)」
「(いいんだよ、俺たちの持ち場は通した。あとは上の連中がなんとかするさ……)」
冷や汗を拭う衛兵たちの背後で、ユーマ一行が会場の中心部へと近づいていく。
その時だった。
「ん……? なんだ、急に暗くなったな」
ユーマが空を見上げると、巨大な雲のような影が王都を覆い始めていた。
「うわ……、ちょっと見てよ! 雲の上から何か……龍!?」
ティアラが叫び、街中がパニックに陥る。
上空を裂いて現れたのは、巨大な翼を広げた黒龍。
* * *
●チート勇者 side
──王都上空。
監視魔法が「巨大な魔力」を感知したことで、王宮はパニックに陥っていた。
「報告! 超巨大な魔力反応が接近中!」
「規模は?」
騎士団長が、冷静に尋ねる。
「一つです! 龍種と推定!」
「馬鹿な……この規模の龍など記録にないぞ」
「迎撃準備を──?」
騎士団は既に迎撃態勢に入っていた。それを騎士団長が制止する。
「待て! 背中に人のような影が、三つ乗っている」
「え?」
「一人は全く魔力を持っていないようだが……。一体何者なんだ!?」
平和ボケした王都の騎士団が混乱し、迎撃か歓迎か測りかねている間に、黒龍は王宮の敷地内の広場へと急降下した。
轟音と土煙の中、ノアの背中からチート勇者が飛び降りる。
「さぁ、着いたぜぇ! 歓迎の準備は……あ?」
***
二人のチート持ちが、いよいよ対面することとなる──。
距離にして、わずか数メートル。
片や、王宮に存在を「事務的に抹消」された勇者。
片や、王宮に存在を「恐怖の対象」として遠ざけられてきた勇者。
土煙は、まだ収まらない……。
ユーマは煙の向こうの影を見て、条件反射で嫌悪感を抱いた。
(……なんだ、このおっさん)
場違いなほどラフな態度。龍に乗って参上し、まるで散歩の途中のような所作──。
一方で、チート勇者も似たようなことを考えていた。
(……なんだ、あのガキ)
顔は見えないものの、その所作から青少年だと確信。なのに、まるで自分がこの祭典の主役であるかのような、妙にふてぶてしい態度。
互いに、相手が何者かは知らない。
だが──。
((なんか気に入らない!))
という感覚だけは、完全に一致していた。
互いの持つ「不遜な空気」が静かにぶつかり合う。
「……あ?」
「……ん?」
五百周年の祭典を目前に、王都史上「最も招かれざる二組」がついに王宮の広場で対峙した。
土煙が晴れていく────。
互いの視線が交差する。
二人が目を丸くする。
口が大きく開き、唖然とする。
「お……親父ぃぃぃぃ!」
「ユ……ユーマか!」
二人は同時に声を発した。
ユーマにとっては、数ヶ月前──女の子のに突き飛ばされゲートに落ちて以来の再会。チート勇者にとっても、ゲートに落ちた息子を追って、自分もゲートに飛び込んで以来の再会である。
「てめぇ、ユーマ! どこ、ほっつき歩いてやがった!」
「それはこっちのセリフだ、クソ親父!」
「連絡ひとつ寄越さねぇで!」
「スマホも通じない世界で、どうやって連絡すんだよ!」
「うるせぇ! お前がいきなりゲートなんかに落ちてっからだろ! 俺はめちゃくちゃ探したんだからな!」
「はぁぁぁぁ? 吹かしてんじゃねーよ!! 絶対に探してないだろ? つーかゲートって何だよ」
再会の感動など微塵もない。
そこにあるのは、日本にいた頃と全く変わらない、不毛で醜い親子喧嘩だった。
しかし、周囲の反応は違った。
「ち、チート勇者が……。ユ、ユーマさんの……お、お父さん?」
女神はショックのあまり、手に持っていた扇子をポトリと落とした。
チート勇者が、女神に視線を向ける。
「おぅ!! あの時のおっぱいのデッカイ女神のねーちゃんか! 久しぶりじゃねーか。相変わらずボインボインだなァー!」
「おい、女神! 何がどうなんってんだよ? お前、親父と知り合いなのか!? どういうことだよ、説明しろよ!」
「あ……、そっか。そうですね! ユーマさんは水晶の過去映像を、観てませんでしたよね」
「水晶?」
「説明も何もありません……。目の前にいるこの人が、二十年前にクロムさんと共に戦った相手……。あの忌々しき『チート勇者』ご本人なのです!」
「う…………うそだろ!!」
ユーマの顔から血の気が引く。
まさか「チート勇者」として散々話題にのぼっていた、あの不届き者が、自分の親父だったなんて……。
(恥っずッ!!!!)
そこへティアラが、追い打ちをかけるように以前の話を蒸し返した。
「やっぱりこの男、ユーマの親だったの!? 最っ低だよォォ! だってこの人、ゼノンのエッチなお店で、私にセクハラしてきたんだからね!」
「なっ……」
ユーマの視線が、ゆっくりとチート勇者へと向けられる。
「テメェェェェか、親父ぃぃぃぃぃ!! 異世界に来てまで何やってんだ! よりによってティアラにセクハラだと!?」
「ユ……ユーマぁぁぁぁ♪」
感激するティアラ。
しかし。その後、小声で「俺もまだ触ったことねーのに……」と付け加えたのは余計だった。ティアラの感激が秒で冷めた。自分の為に激怒するユーマ──ではなく、ただのエッチな独占欲。
「うっせぇ、ユーマ! 男の性だろうが! お前だって納屋で女の子に迫って返り討ちに遭ったから、今、異世界にいんだろーが! 似たようなもんだろ!」
「一緒にするな、クソ親父! つーか、まだ記憶が戻ってねーんだよ」
ミラの顔が引きつっている。
「……信じたくないけど、納得だわ。水晶で見ていたあのデタラメな立ち振る舞い……。遺伝子は嘘をつきませんね」
再会、そして正体の判明。
場は、感動とは程遠い、呪わしき血の繋がりの証明の場となった。
その時だった──。




