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第六十八話:【悲報】シルフィ十歳の時のドレスが、ティアラにピッタリ「見…見えちゃう」

「ちょっ……だから、引っ張らないでってば!」


屋敷の広間。女神に強引に引きずられてきたティアラは、床に広げられた色とりどりの布地と、それを見下ろす女神の爛々と輝く瞳に怯えていた。


「いいですか、ティアラさん。王都の女たちは嫉妬深い生き物です。ユーマさんの隣で『あ、ただの飼い猫ね』なんて思われたら終わりですよ。いいからこれを着てください!」


「嫌よ、何この布きれ! 背中、全部丸出しじゃない! お尻まで見えそうよ。私、こんなの絶対着ないからね!」


確かにこれは酷かった……。

背中がざっくり開いていて、お尻の谷間が見えそうなくらい深い。


「こんなの変態だよッ!」


押し問答が続く中、女神は「餅は餅屋ですわね」と指を鳴らした。


「ミラさーん! いらっしゃいます!?」


「なによ、騒々しいわね……」


階段から顔を覗かせ降りて来たのは、ギルドの制服をびしっと着こなしたミラだった。彼女は床の惨状と、女神の勢いに圧倒されているティアラを見て、全てを察したように溜め息をつく。


「ね、ね、ミラちゃん! 貴女なら社交の場で男の目を釘付けにして、女の嫉妬を買いまくるような、ゴージャスなエッチなドレスの一枚くらい持っているでしょう?」


「はあ? 私がそんな、はしたない服を持ってるわけないでしょ! ギルドの社交界はもっと理性的よ。あんたの考えてる下品な世界観と一緒にしないで」


ミラは冷ややかに言い放ったが、その視線はチラリと床に落ちている『五百周年』のチラシに向けられた。


(やっぱり……この件に食いついたわね)


ミラはギルド職員としての伝手で、以前から知っていたが、面倒を嫌ってユーマには伝えていなかった。

ユーマを旅に出した王宮側が、事務手続きをわざと止めて、ユーマを『勇者未登録』のまま放り出したことを知っていたからだ。


もちろん今回の招待状も、単なるミスではなく意図的だ。わざわざ「王宮の黒歴史」を呼ぶはずもない。だが、それを今ここで説明しても無駄なことも分かっている。


「で、結局ティアラさんに着せる服がないってわけ?」


「もう! 私は、服なんて何んだっていいって、言ってるのにーっ!」


ティアラが悲鳴を上げる。


「ダメです!」


一歩も引き下がらないのは、女神だ。

そんな会話をしていたら、廊下の向こうから、おっとりした声が響いた。


「それなら、私がお力になれるかも……」


そう言って、爆乳を左右にユサユサ揺らしながら現れたのは、シルフィだった。


「私がユーマさんのメイドとして、お屋敷に引っ越して来た際に、荷物の中に紛れ込んでいたドレスがあるんです。デザインだけは、大人っぽくて少し色気のあるものなんですが────」


シルフィの話を最後まで聞かず、即座に声を上げる女神。


「そ、それよ!!」


女神の叫びと共に、ティアラは再び着替え部屋へと拉致された。


三十分後。


「く……苦しい、きつくて、ある……歩けないよ……」


部屋の仕切りが左右に開く。そこには、いつものやんちゃな猫族の少女ではなく、一人の「レディ」が立っていた。


燃えるような深紅の生地に、金色の刺繍が施されたシルクのドレス。色味の割に上品さが漂うデザインが、いかにもセンスのあるシルフィらしい選択だ。


シルフィが「大人っぽい」と言った通りだった。

両肩が大きく露出するオフショルダーデザインのため、胸元が大きく開いている。少し盛ったのか、少女らしい控えめな谷間が浮かぶ。


また、腰のラインが驚くほどタイトに絞られているのは、恐らくコルセットでこれ以上ないくらい絞られているからだろう。


「これ……下に穿いてるの?」


ユーマが心配してしまうくらい、腰の付け根までありそうなスリットからは、歩くたびに、ティアラの白く肉感的な脚がチラチラと見える。


他のメンバーたちも、その姿を目の当たりにして、一斉に息を呑んだ。


そこにに立っているのは、見慣れた猫耳の少女──のはずだった。が、いつもの軽装とはまるで違う、ゴージャスなドレスに身を包んだティアラだったからだ。


肩口から腕にかけての白い肌が柔らかく灯りを受け、揺れるスカートの裾が歩くたびに静かに広がる。

普段は活発さばかりが目立つ少女なのに、今はどこか大人びて見えた。


「ど、どう……? ユーマ」


顔を桜色に染めて、気恥ずかしそうに尋ねるティアラ。


「え……とぉ」


現実的に考えて「口うるさいだけの相棒」でしかなかったはずだ。なのに、今目の前で頬を赤らめて立っている少女は、暴力的なまでに美しかった。


「な、なによユーマ。変なら変って言いなさいよ! こっちだって落ち着かないんだから!」


「……いや、変じゃねーけど」


ユーマは頭を掻きながら視線を泳がせる。


「お前、意外と……」


「意外と……何よ」


ティアラの顔が、さらに赤くなる。


「その……普通に女っぽく見えるな」


言った瞬間、自分で言っておいて気恥ずかしくなったのか、ユーマはそっぽを向いた。耳までほんのり赤くなっている。


その様子を見て、周囲の面々もようやく我に返った。

クロムが顎に手を当て、感心したようにうなずく。


「……ふむ。我が一族の宝物庫から出た服かと思ったが、シルフィのだったか。似合っているぞ、ティアラ」


バッシュは腕を組み、真剣な顔でティアラを見回す。


「むっ! ……これは問題だ。騎士として守るべき箇所が露出しすぎている! どこをガードすればよいのか判断に迷う!」


シルフィはパッと顔を輝かせた。


「わあ、ピッタリじゃない! 私が着た時は胸のところがパツパツで、とても歩けなかったのに!」


ミラがゆっくりと視線を細める。


「……そうね、本当にピッタリ。……シルフィ、それっていつ着たやつ?」


シルフィは懐かしそうに頷いた。


「ええ。私が十歳の頃に一度だけ着た、思い出のドレスなんです」


一瞬で空気が固まる。


(……十歳と、同じサイズって…………)


微妙な沈黙の中、カガミがぽつりと呟いた。


「……ティアラ……綺麗……」


その素直な言葉に、ティアラの耳がぴくっと揺れる。

咲はぱっと駆け寄って目を輝かせた。


「わー! すごいきれい! ティアラちゃん、お姫様みたい! でもあんまり動くとポロリしそうだね!」


佐藤はと言えば──。


「……」


いつもの人をイラッとさせる、理屈をこねるような口調は鳴りを潜め。一言も発することなく、鼻血を拭きながら無言で親指を立てていた。


そして最後に、腕を組んで満足げにうなずく女神。


「さあ! 私も着替えますからねーっ!」


女神はくるりと身を翻し、別室へと消えた。


「……私はただの監視役よ。変な騒ぎを起こされると困るだけ」


そう言い残してミラも消えた。

取り残されたユーマは腕を組んだ。


「……なんか、女子イベント、始まったってないか……」


「当たり前でしょ! あんたも着替えるの!」


ティアラに背中を押され、ユーマも渋々部屋へ引きずられていく。



しばらくして、屋敷の扉が開いた。

先に姿を見せたのはミラだった。


彼女は普段の受付嬢の制服ではなく、細身の黒いスーツに身を包んでいた。

動きやすさを優先した実務的な装いだが、その分だけ整った体のライン──特にお椀型のまん丸な胸が際立っている。


シルフィの爆乳でつい忘れられがちだが、元々ユーマは「ギルドの巨乳ムチムチ受付嬢」として、屋敷の女子メンバーの中で一番最初に、エロい目で見てたのがミラだった。


「……私はただの同行者よ。式典の雰囲気に合わせただけ」


そう言うものの、明らかにギルドの制服よりお洒落度が上がっていた。

そうして次に、満足げな足取りで現れたのが女神だった。


(ゲッ!)


皆の目が点になって……。


紫のボディコンシャスドレス。

金髪巨乳に、くびれたウエスト、少し大きめのお尻。全てがこのピッチリとした服のせいで、体のシルエットがそのまんま浮き彫りになっていた。


まぁ……少し下品なセンスではあるけれど、黙っていれば初対面のユーマが「異世界漫画の表紙のような美女」を思い浮かべるほどには、絵にかいた美人なのである。


「時代は、ボディコンシャスですわ!」


ばさりと扇子を開き、得意げにその豊かな胸を張る女神。

どこから仕入れた情報なのか? きっとユーマからすれば「あの頃の──」やら「プレイバック〇〇年」等のような、昔を懐かしむテレビ番組でしか見た事のない派手な格好に見えるだろう……。


「神が降臨するのですから! 華やかさが足りませんとね!」


最後にユーマが出てくる。


シルフィに無理やり着せられた黒いマントに、妙に飾りの多い勇者風の服。普段よりは多少それっぽく見えるが、本人はどこか落ち着かない様子だった。


「……なんか、コスプレ感がスゲェな、これ」


他の三人の装いを見回し、女神も満足そうにうなずいた。


「宜しいですか!? 勇者の帰還に、歩きなどあり得ませんからね!」


屋敷の前。


女神が扇子をひと振りすると、事前に用意していたであろう魔道乗り物が現れる。

空中に光が収束し、一台の豪華な……しかしどこかバブルの残り香が漂う金ピカの馬車が具現化した。


「うわ……趣味悪ぅ」


ティアラが眉をひそめる。


「目立ってしょうがないだろ!」


ユーマも呆れている。

しかし女神は、


「何を仰います! これこそが神の乗り物、名付けて『スカイ・バブル・キャリア』です!」


と自信満々な表情。


マントを羽織ったユーマ。

シルフィから借りた(十歳の頃の)ドレスに身を包んだティアラ。

そして紫のボディコンに羽扇子という出で立ちの女神。

さらには「……私はただの監視役よ」と事務的なスーツ姿で同行するミラ。


四人を乗せた馬車は、いよいよ王都へと飛び立った。

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