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第六十四話:嘘に嘘を重ねる駄女神、上位神を相手に特大のハッタリをかます

屋敷の広間には、魔王城から帰還した面々と、留守組のメンバーたちが顔を揃えていた。

最初に口を開いたのは、ミラだった。


「先ほど女神が、いきなりギルドに飛び込んできて『大変なの!』『ゲートが!』『佐藤さんが!』って騒いでいたのですが……。天界に報告しなければいけないと言って、詳しい説明もないまま戻ってしまいました。『ゲート』とは、一体何のことなんでしょうか?」


ミラが困惑した顔で問いかけると、皆の視線がシルフィに向いた。


「……その件でしたら。魔王城でゼノン様と話をしていたのは主に私です。よろしければ、私から説明いたしましょう」


「ええ、お願いします」


ミラが、シルフィを促す。


「……今までずっと不明のままだった、チート勇者の転移経路が判明したのです」


「え!?」


早速ミラは驚きの声を上げた。


「それで、端的に申し上げますと、ゼノン様の証言によれば、チート勇者は『ゲート』なるものを通って、この世界にやって来たという話でして────」


話の途中にも関わらず、ミラは驚きのあまりつい口を挟む。


「ゲートなんて、聞いたこともないわ! それは、一体どういう仕組みなの?」


「ゼノン様曰く、チート勇者本人がそう言っていたそうなんですが、ただ、その『ゲート』が何なのかまでは、分からないと仰っていました……」


「ゲート。……そんなものギルドですら把握していない、初めて聞く言葉です。それを通ってこの世界に現れたとなると、普通の転移とはまったく別の仕組みですね」


隅で膝を抱えていたカガミが、消え入りそうな声で反応した。


「……ゲート。世界に、穴が……開いてる、ってこと? そんなの……ありえない」


未知の経路の話に、一瞬、広間はしんと静まり返った。

確かに「ゲート」という新たな謎が判明し、不明のままだった話に動きがあったのは前進と言えるが、しかし情報は何もない。あるのは「ゲート」という言葉のみである。


何とも言えない空気の中、ミラがふと思い出したかのように「あっ」と小さく声を漏らした。


「……ところで。女神が去り際に『佐藤さんが本物だった、誤認逮捕だ』とか何とか、物騒なことを口走っていましたが……魔王城で何かあったのですか?」


その問いには、バッシュが答えた。


傍らに座るクロムに向き直り、事の経緯──佐藤が語った事故の記憶と、それを聞いた女神の狼狽ぶりを、静かに伝える。


クロムが、鼻を鳴らした。


「ふん。要するに、あっちの佐藤マヌケが『本物の死んだ魂』で、こっちの阿呆ユーマは『生きたままの迷い込んだ』だけかもしれん、ということだろう? なるほど、女神らしい反応だな」


クロムの身も蓋もない要約に、ミラは苦笑した。


「完全に理解しました。つまり女神は、生存者を無理やり拉致して、本来呼ぶべきだった魂を見落とした……。ギルドなら即クビ、天界なら消滅モノの放送事故級のやらかし(不祥事)ですね。あの慌てよう、合点がいきました」


ミラの要約に、佐藤が他人事のように、お茶を啜りながら付け加えた。


「ええ。死の直前の記憶は鮮明ですから。……私がここにいる以上、女神様が仰った『誤認逮捕』という表現は、行政上の手続きミスとしては、極めて的を射ている表現だとも言えますね」


ティアラが「チッ!」と舌打ちし、鋭い眼光を佐藤に向ける。いちいちドヤ顔で語る佐藤のことが、どうにも癇に障るようだ。


「……あわわわわ」


佐藤が借りて来た猫のように、小さくなる。


「ふーん。まあ、ユーマさんが偽物バグでも、この家でダラダラしてるのは変わらないし、私には関係ないかな。あ! 私、拾った魔物の爪の分析しなくっちゃ!」


そう言い残して、咲はさっさと立ち上がった。

きっと長話に飽きたのだろう。


「ああ、おれも何か疲れたなぁー。くっだんねー話ばっかで、腹減って来たわ」


ユーマのその言葉に、ここぞとばかりにティアラのツッコミを入った。


「あんたのその小さな脳みそで、どこらへんが疲れたって言うのよ? あんたはいつも他人事じゃない」


「んだとー!」


「ちょ、ちょっとあなたたち」


すかさず二人の間に割って入るミラ。


「今の話を聞いてよくそんなに元気でいられますね! 自分の立場を心配してください!」


結局、真面目に話を聞いて疲れているのは、ミラだけだった──。



一方、女神はというと。


天界へ戻ると、ほどなくして神界から呼び出しがかかった。玉座の間には、以前と同じく上位神たちが居並んでいる。


「女神よ」


「ひっーっ! は、はいっ!」


「例の件の報告だ。サトスなる男、そしてお前が召喚した勇者……現状はどうなっている」


女神は一瞬だけ視線を泳がせたあと、取り繕うように胸を張った。


「じゅ、順調ですわ! ええ、ええ! とっても順調です!」


「勇者は?」


「今、熟成中です」


上位神たちの眉がぴくりと動く。


「……熟成?」


「ええ、地上でじっくりと……」


女神は咄嗟に手振りを交えて説明する。


「勇者というのはですね、こう……焦って使うものではありませんの。じっくり育てて、いざという時にポンと世に出すものです」


「ポンと出す?」


「……いえ。まぁ、熟成肉みたいなものです!」


「熟成肉?」


「え……とォ」


広間がしん、と静まり返る。


「お前は、一体、何を言っているのだ?」


(あわわわわ)


やがて、中央に座する上位神が低く言った。


「うむ。ならば……勇者を直接激励してやろう」


「えっ!!」


女神の顔が引きつった。


「我々神々の言葉は勇者の力となる。下界へ赴き、我らが言葉を授けてやろうではないか」


「だ、大丈夫です!」


女神は慌てて手を振る。


「その、あの子、メンタル弱いので!」


「勇者がか!?」


「はい、さ、最近の勇者は繊細なんです! プレッシャーに弱いといいますか、その……上位神様がズラッと並んで現れたりしたら、ほら、ショックで折れちゃうかもしれませんし!」


上位神たちは互いに顔を見合わせた。


「……妙な勇者だな」


「ですが、その分、今は精神面を鍛えていまして。それはそれは、もう!」


「今しがた、プレッシャーに弱いと言わないかったか?」


(いやぁぁぁぁ……!)


「ええ、ええ、そうです、そうなんです! だから今鍛えている最中なのですよ」


女神は必死に言葉を重ねる。


「地上で生活しながら、人々を見て、世を知り、ゆっくりと……そう、熟成している段階なのです!」


「ふむ……」


納得したのか、していないのか? 上位神は腕組したまま続けた。


「まあよい。だが忘れるな、女神」


視線が鋭くなる。


「サトスの件は未だ不明のままだ。正体不明の魂が迷い込んでいる以上、見過ごすわけにはいかぬ」


女神の背筋に冷たい汗が流れる。


「は、はい……」


「引き続き監視を続けよ。そして勇者の成長、サトスの動向を、逐一報告するのだ」


「も、もちろんです!」


深々と頭を下げながら、女神は内心で叫んでいた。


(やばいやばいやばい! 熟成って言っちゃったけど、あの子ただ屋敷でダラダラしてるだけじゃない!?)


トボトボ回廊を歩きながら、独り言を言う。


「……ゲートの話も、結局言えずじまいだし……」


女神はがっくりと肩を落とした。


(こ、このままじゃ、本当に見に来られちゃうかもしれない!)

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