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第六十三話:召喚か、転生か、そして第三の経路…その名は『ゲート』

「しかし……まぁ。先生とユーマ殿。異世界こちらのせかいの常識が通用しない特殊な方が、同時に二人も現れるなど前代未聞ですな」


(……二人。そう、普通ならありえないわ)


女神の視線が、ユーマに向けられた。


「……ね、ねえユーマさん。しつこいようだけど、本当に……本当に、車に跳ねられたとか、階段から落ちたとか、そういう『死んだかも』って瞬間、一秒もなかったの?」


「だから、ねーって言ってんじゃん。お前が勝手に、あの白い空間に引っ張ってきたんだろ」


ユーマは、うんざりした顔でそう言った。


(……じゃあ、あの日、本来死んで天界に来るはずだった魂は、どうなったのよ?)


女神の視線が吸い寄せられるように、一人静かにお茶を啜っている佐藤へと向いた。地上で召喚もされていない。天界も通っていない。もう一人の他世界人。


(……まさかね?)


「……さ、佐藤さん。……失礼だけど、佐藤さんはこっちに来る直前のこと、何をしてたか覚えてる?」


唐突に水を向けられた佐藤は、カップを置いて、生真面目な顔で記憶を辿った。


「憶えているのは……。そうですねェ、深夜まで残業をしていました。そして……オフィスを出て────そこから憶えてないんですが。……その時に凄まじい衝撃音を聞いた気がします。で……気づいたら、あの村の広場にいました」


ガタッ! とソファを蹴上げる勢いで、ティアラが立ち上がる。


「何で、それ、先に言わないのよ!!」


「ひゃっ!」


飛び上がる佐藤。


「い、いえ! き、聞かれませんでしたし」


「あんた! それ! 転生じゃん!!」


ティアラが叫び、ユーマが絶叫する。


「キターーーー!! テンプレ通りの事故死かよ!!」


女神の顔から、一気に血の気が引いていく。


(本物は、こっちじゃない!)


一連のやり取りを黙って聞いていたゼノンが、困惑した顔で会話に割り込んだ。


「……失礼。私には、今、あなた方が何の話をされているのかが、よく分からないのですが……」


一人蚊帳の外のゼノンに、シルフィが丁寧に、勇者候補の謎について掻い摘んで説明した──。


「……そうでしたか。しかし、不思議なものですな」


ゼノンが感慨深げに溜息をつく。


「話を聞く限り、佐藤殿は『死』の後に天界を経由せず、こちらの世界へ現れ。ユーマ殿は死んでおらぬのに天界を経由した。そして我が城の先生もまた、召喚されず天界も経由せず、現れた」


ここで話を引き継ぐようにシルフィが、チート勇者の現れた場所が「王宮の召喚の間」であったことまでは突き止めたが、実行犯も目的も不明のままに終わった話をゼノンにした上で。


「そのへんの話を……、ゼノン様は、何か聞いていませんか?」


一応、秘匿情報である可能性も考えたが、滅多にないこの好機。逃す手はないと判断し尋ねた。しかしゼノンは隠し立てする様子もなく「構いませんよ」とケロッとした顔で頷いた。


「……といっても、私も先生本人から聞いた断片的な情報しか持ち合わせておりませんが……。先生は儀式や魔法陣による召喚ではなく、なにやら『ゲート』を通ってこちらの世界に来た。などと仰っていました」


「「「「「「ゲート!?」」」」」」


皆の声が重なった。


「ゲートって、何ですか、それ? 転移魔法の一種?」


ティアラが身を乗り出して聞くが、ゼノンは困ったように首を振る。


「いや……詳しくは聞いていません。ただ『ゲートから来た』としか……」


(ゲートって何!? そんなの天界どころか、神界の上位神ですら知らないわよ……。聞いたこともないわ!)


女神の内心は、新たな謎にさらにかき乱された。

「召喚」でも「転生」でもない、「ゲート」とは一体? 第三の経路??


もしユーマが……そしてチート勇者が、その「ゲート」に関係しているのだとしたら、自分の事務ミスどころではない、世界の根幹を揺るがす事態かもしれない。


「……さて。大変心苦しいのですが」


ゼノンが申し訳なさそうにシルフィを見た。


「そろそろ先生が、戻られる時間になりますので──……。見つかると、先生ご本人に直接説教を食らうリスクがあります。ユーマ殿、シルフィ殿も、今日はここまでにしましょう」


ゼノンが席を立ち、一行を促した。


「いいところだったのに~!」


悔しがるティアラ。その視線は佐藤に向けられていた。まるで「あんたが余計なウンチクばっかり話すから、時間を損したじゃない!」とでも言うかのように、睨みつけていた。


「す……すみません」


ティアラの殺気に気づき、佐藤が謝る。


「この度は貴重なお話を、ありがとうございました」


シルフィが深々と頭を下げる。


「いえいえ。こちらの方こそ、色々と聞けて有意義な時間でした。大したおもてなしも出来ぬまま……」


そう言いかけて、視線がバッシュに向かう。途中から難しい話に飽きたのか、ぐーぐーいびきをかいて寝ていたのだ。


「ほら! 起きろバッシュ! 帰るぞ」


「んあァ……? お、おぅ」


こうして一行は、これまでの情報を整理しきれないまま、地下回廊へと撤退を開始した。二人の能力の酷似。佐藤の死の証言。そして「ゲート」という未知の言葉。


「ひとまず今の話を持ち帰り、屋敷の皆さんとも情報を共有しましょう」


そう言って、いつの間にやら学校の先生のように、皆を引率するがごとく先頭を歩くシルフィ。


いつもはふわっとしていて、前に出るタイプではないけれど、今回もしシルフィがいなければ、ここまでたどり着けなかったかもしれない──とティアラは思った。


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