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第六話:無罪です。たぶん。

「俺は無実だーッ!!」


石造りの冷たい尋問室で、俺の声が虚しく響く。


正直に言う。俺は一ミリも悪くない。なのになぜ、こんな薄暗い尋問室なんかに拘束されているんだ?


「ただ落ちた荷物を、拾おうとしただけだろ! 困ってる女の子がいたら、助けるのは当然じゃん! むしろ褒めたたえるべきだろ?」


「……すみません……」


俺の隣で、猫族の少女が耳をペタンと伏せて縮こまっている。


「なぁ。いつまでも凹んでるなよ。こいつらは俺の善意を、汚らわしい色眼鏡で見るようなやつらなんだからな!」


俺が励ます(?)と、彼女は恐る恐る顔を上げた。


そういえば、ラッキースケベ(未遂)の衝撃が強すぎて、まだこいつの名前を聞いていなかったな……。


「ところで、名前。まだ聞いてなかったんだけど?」


「……私、ティアラっていいます……」


「ティアラね。いい名前じゃん。俺は悠真ユーマ。まあ、俺くらいのVIPになると、この程度のトラブルは日常茶飯事……ん?」


ティアラ……。


さっきからずっと、俺はこのティアラという、猫族の少女に違和感を覚えている。

顔は可愛い。正直言ってタイプだ。


だけど。


ラッキースケベの時もそうだったけど、今も、胸の谷間がくっきり見える服を着ている。なのに、大のどスケベを自負するこの俺が、無意識にムラムラを制御している。


まるで年端もいかない幼猫を見ている気分だ……。


意味不明だ。

猫族だからか?

それとも俺の好みが変わったのか?


「どうしました?」


ティアラが心配そうに、俺を見つめる。


「ん……いや、なんでもない。それより!」


俺は向き直り、徹底抗戦の構えを見せた。


「とにかくだ!! 俺は無実なんだから、今すぐに──」


そこへ被せるような声。


「少しは静かにしてください! あなた方は今、裁かれる身なんですよ」


机を挟んで座る補佐官ウォーデンが、分厚い書類の束を置き、指先でこめかみを強く押さえていた。


「俺はずっと言ってるよ? 一貫して無実を主張してんじゃん」


「無実かどうかを決めるのは、あなたではありません。王宮です」


「なんだよ……、王宮に来た途端、真面目ぶって! 仕事してるアピかよ?」


そう言って煽っても、ウォーデンは乗ってこない。ただ重々しい空気を携えているだけだ。


「いくら無実と主張しても、あなたが盗品の流通に関与したことは変わりありません。意図があったかどうかは、法の前では些末な問題なのです」


今日のウォーデンは、いつもと雰囲気が違う。いつも以上に『仕事の鬼』と化している。このままでは『異世界転移たった数日で、獄中生活 End』という、やろう小説でも類を見ない超スピード・バッドエンドが待っている。



しばらくして、俺とティアラは別室に通された。

石壁に囲まれた、いかにも『密談用』といった作りの小部屋だ。


しばらく待っていると、扉の向こうから、ヒソヒソと話し声が漏れ聞こえてきた。俺はその声に聞き耳を立てた。


「……しかし団長、あのアホ勇者を有罪にするのは……」


「分かっている! だが、あの有様だぞ!? 勇者が街中で堂々と盗品を運ぶ姿など、前代未聞だ!」


「ですが、女神様が直々に送られた勇者を、即時、犯罪者にしたと知られたら……」


「ああ、教会が黙っていないな。というか、神罰が下るかもしれん。クソっ! あのポンコツめ」


「公式記録に『勇者、窃盗幇助で逮捕』と書くわけにはいきませんしね……」


……ん?


俺は、思わず「わッ!」なんて、大声をあげて『そのボクだよぉぉ!』と壁を叩いて、ここにいるよアピールしてやろうかと思った。


(なるほどね。女神様という特大のバックがついてる俺を、下手に裁くと自分たちがヤバいってわけだ)


つまり──俺は、誰も逆らえないVIP様! ってことじゃね?


「はぁ……」


ティアラは溜め息をついていた。


「お前、隣の部屋で『ポンコツ』って言われてんぞ?」


超親切でメッチャ紳士な俺は、ティアラが今まさに『隣の部屋で噂になっている』ことも、ちゃんと教えてあげた。


「……」



それから俺たちは、再び元の部屋に呼び戻された。


そこでウォーデンが書類を抱えて立っていた。

その顔はまるで、サキュバスに精気を吸われた成れの果てのような、疲労困憊したしぼりカスのようだった。


「結論が出ました。勇者様、おめでとうございます。あなたは──無罪です」


「よっしゃあああ!! ほら見ろ! 正義は勝つんだよ!」


俺が歓喜のガッツポーズを決めると、ウォーデンは「皮肉を言ったんですよ……」と苦い虫を噛み潰したような顔で、俺を凝視した。


「正確には、女神様の手前、王宮があなたを『裁けなかった』だけです。本来なら重罪ですが、あなたを罰すると『女神様が選んだ男は犯罪者だった』という公式記録が残ってしまう。それを上層部が恐れただけです」


「だーかーら、それを世間ではVIP待遇って言うんだよ!」


「いいえ。王宮が出した最終結論があります。それは『もう金輪際、関り合いたくない』とのことです」


ウォーデンが、一通の書類を突き出してきた。


「勇者様には、王都を離れていただきます」


「え、そうなの?」


「はい。表向きは『勇者巡礼の旅』です。各地を巡り、民を助け、経験を積む冒険の旅……」


「なんか面倒くさそうだね? あ、でも自由にしてくれんなら、それもいいかもね♪」


とかなんとか、一応ウォーデンの話に合わせてやったが、さっき隣の部屋で聞き耳を立てて、事の顛末を知ってる俺は、今更驚かない。


しかし、少なからず世話になったよしみで、ここはあえて、何も知らないふりをしてやることにした。


「実際は『厄介払い』です。王都にいる限り、あなたはまた問題を起こす。ならば目の届かない遠くへ放り出せと、そういうことです」


そう。これで晴れてウォーデンの監視からも、グッバーイ♪


「いいね、それ受け入れます! その『ハーレム旅行』の件、了解しましたー!」


「ハ、ハーレ……なに? 物分かりが良すぎて不気味ですが、ま、いいでしょう。そして──ティアラ」


ウォーデンが、ティアラを見る。


「あなたは盗品の運搬を命じられた被害者でもあります。よって罪は問いません」


「良かったじゃーん! お前も自由の身だな!」


「……はい」


「完全な自由ではありません。代わりに──勇者様の『同行者』として、共に旅をしてください。監視役、兼、保護対象です。家族の医療費は、王宮が最低限保証しましょう」


ティアラの瞳に、見る見る涙が溜まっていく。


「はい。私……頑張ります。勇者様を見張ればいいんですよね?」


「おいティアラ、見張るとか言うな。サポートって言え」


こうして、俺の「王都追放」という名の「自由への逃走」が決定した。

取り合えず一晩だけここに泊まり、翌朝の出発だそうだ。



──《……ねえ、聞こえてる、ミラ? ええ、そう。例の子、そっちに行ったでしょ?》


(ミラ? 誰だよ)


──《え!? まだなの!! もう……なにやってるんだか。まあいいわ。ちょっとアホでスケベで能天気な子なんだけど、本人は自分のことについて、何も分かってないから。そのままでいいからね》


(あ、今、完全にディスってたな?)


──《あの子、ちゃんと“使えるように”してあるから。でも下手に説明しなくていいわ。だってあの子、調子に乗りやすい感じでしょう?》


(は? 俺をそんな目で見てたのか!?)


──《クロムさんの件も、あなたの判断でいいわ。前みたいな面倒な勇者は、もう懲り懲りなの。今度は私が恩恵にあずかる番よ》


(クロム? 判断? なんの話だよ……)


──《あー、やっぱり混戦してる? まあいいわ……、あの子にだけ聞かれなければ》


──《じゃあ、よろしくね、ミラちゃん》


(……あんのクソ女神! なんか俺に色々隠してんだな!?)



──翌朝。


耳の中で女の蝉が鳴いているようだった──。


寝起き早々に思ったのは『誰かに雑に扱われた気がする』という、理由わけの分からない不快感だった。


せっかく昨日は、晴れて監視の目から離れて、やっと自由の身になれたというのに──。


つまんねェ夢見て、また台無しだよ!!

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