第五話:ラッキースケベを狙ったら、連行された件
翌朝。
目を開けた瞬間、見慣れない天井が目に入った。
(……低っくぅ)
体を起こすと、固い寝台がぎしりと鳴る。
首を回し、伸びをする。宿屋でやらされた皿洗いの筋肉痛が、まだ残っていた。(二日目が一番ツライ!)
ここは……?
あ、そうだった! 騎士団の詰所だったわ。昨日、噴水のところでホセと再会したあと、奴に無理やり連れ込まれたんだった。(ケダモノ!)
(しかし……妙に落ち着かない)
人の気配が近い。色んな音がして耳ざわり。なによりも視線が気になる。さっきからずっとだ。
「起きましたか」
声のした方を見ると、そこにいたのは補佐官のホセだった。
「あ、ホ」
「ウォーデンです!!」
相変わらず、冗談通じねーな。
このジョークも、これ以上続けていると、そのうちホセのやつも本気で怒りそうなので、惜しまれながらも(誰に?)封印することにした。
「なんでいるの? ウォーデン」
ウォーデンは、淡々と告げた。
「本日から、常に、あなたと同行することになりました。つまり監視です」
「はぁ!?」
声が裏返る。
「聞いてないし! なんで急にそんな話になってんの!? 俺、なんかやらかしたっけ!?」
勘弁してくれよぉ。男同士で四六時中一緒とか、控えめに言って地獄だ。
「それに加え」
「え、まだあんの?」
「あなたの行動は、すべて記録します」
「束縛強っ!!」
常に一緒にいたいだけじゃん? 行動をチェックされ、記録まで取るって、なにそれ束縛彼女気取りじゃん! なんの嫌味だよ?
「気分悪いッ!」
俺は拗ねた恋人ばりに、不機嫌な態度を出し、勢いよく立ち上がった。
そして詰所の扉に、もったいぶって手をかける。
(チラっ)
「どちらへ行かれるのですか?」
「外の空気吸いに行くだけだっての!」
「では、私も同行します」
「……」
拒否権ねぇな、これ。
(どんだけ俺のこと好きかよッ!)
俺は詰所を出ると、早足に王都の裏通りへと向かった。ウォーデンも、ぴったり真横を歩いてくる。
近い。近すぎる。
(今気づいたけど、異世界来てから、俺の周りって男ばっかじゃね?)
そんな最悪の気分の中──。
「……あっ!」
突然、声がした。
(しかも女だ!)
見ると、洗濯籠を抱えた猫族の少女が、ふらついている。
薄着の胸元が、ぎゅぅぅ、ぎゅぅぅ、と実に苦し気に籠に押し潰されそうになっている。
助けなきゃ!(胸を)
これは、あれだ! 異世界あるある、ラッキー・どスケベ・イベントだ! まるで神様が俺に『見ちゃいなよッ』と告げているかのようだ。
(もしかして女神の仕業か? ……いや、それはねーな)
でも、これは完全にセーフだろ。 善意なんだし。
俺はキリリ眉で一歩前に出た。
「お嬢さん。洗濯が重そうだね。どこまで? 途中までなら手伝うけど」
俺が近づいた瞬間、猫族の少女の顔色が急に変わった。なにかに怯えているような目だ。
(いや、俺、女にだけは超優しいっての♪)
「怖がらないでッ(キリリ)俺は『男女区別なく』めっちゃ優しい男だから、安心してよ」
そう言って少女の緊張をほぐしながら、隙あらば胸の谷間を覗き見ようとした、次の瞬間。
「だ、大丈夫です! 離れてください!」
(ま、まだ見てないよォー!)
「いやいや、遠慮すんなってー。俺ってば、困ってる人を見ると、超見過ごせない人なんだよねェー」
しかし、こんなにも警戒を解こうと真摯な態度を見せても、頑なに猫族の少女は警戒を解かない。(俺に一目惚れしたって可能性もあるが)
「ヤ……!」
猫族の少女は、大きくバランスを崩した。その拍子に、洗濯籠を地面に落とす。
洗濯物が散乱する。俺も手伝おうと、腰をかがめた時。
”カタン!”
布の下から、小さな木箱が転がり出た。
「あっ!」
猫族の少女が、息を呑む。
木箱の蓋が外れ、中身が地面に散らばった。
黄金色に乾燥した、いくつもの塊。
(……金?)
「静粛に!」
低く、鋭い声が鳴り響く。
ウォーデンが急に、この場を仕切りはじめたのだ。
「それは王都医療機関の印がついた、領主指定の貴重薬の原料です」
(はぁぁ? ドラマの見過ぎかよッ)
俺は怒ってるわけじゃない。ただ、せっかくラッキースケベ目前だったのに、どスケベ根性丸出しで横やりを入れようとする、ウォーデンに呆れ果てていた。
「なに言ってんの? このお嬢さんに謝りなさい!」
(ま、ホセも『男』だったってことか?)
猫族の少女は震えながら、木箱をしっかりと抱きしめ、怯えた目を俺とウォーデンに向ける。
「ち、違います……私……」
周囲の視線が集まる。
ひそひそ声が聞こえ始めた。
「医療用だってよ……」
「……盗品じゃないのか?」
「あいつ、ラッキースケベ目的だぞ……きっと」
などなど、色んな声が方々で囁かれていた。
「立てるか?」
俺がそっと手を差し伸べると、猫族の少女は。
「私、家族が病気で……」
そう言って、今にも泣き出しそうな顔になった。
ウォーデンを見ると、目をカッと見開いて、穴が開くほど猫族の少女を見つめていた。
(この、どスケベめ!)
猫族の少女は、言葉に詰まりながら続ける。
「……薬を買うお金がなくて……。ある人から安く手に入るって……」
(は?)
頭が真っ白になる。
え、待って。これって、ウォーデンが正しかったって話? その流れは完全にアウトじゃね? 俺の善意とスケベ心が、一瞬で『犯罪幇助』にジョブチェンジしていた?
ウォーデンが、俺の腕を掴む。
「静かに」
ごついオッサンが、俺の耳元で、低く囁く。
「あなたは今、騎士団管轄外の裏取引に関与しました。しかも、複数の市民が目撃している前です」
「うそだろ……」
ウォーデンは猫族の少女に向き直る。
「この件は騎士団案件です」
そして、俺を見る。
「勇者様。もちろん、あなたも同行してください」
「いやいや、待て待て待て待て! 俺は落とした荷物を、拾おうとしただけだよ?」
俺がそう言ってもウォーデンは、無言で首を横に振るだけ。
逃げ場はなかった。
(なんだよ……これ?)
しかも全然、エロくない。
俺の当初の目的、ラッキースケベ狙いが、いつの間にやら、列記とした公式事件へと発展していた。
こうして俺は、泣きそうな猫族の少女と共に、王宮へ連行されることとなった。
俺も同罪? 犯罪者? チンピラ? なんでこうなるんだよぉぉぉ!




