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第五十二話:「ちょっと観察してただけです」絶賛捕食され中の謎少女に自覚無し

ルージュとゼノンが去り、ダンジョンには女神とユーマ一行が残された。


「さっきのルージュって人、めっちゃ美人だったよなぁ。あの落ち着いた大人の色気、最高だわ!」


ユーマがデレデレしていると、ティアラがすかさず、その脛に蹴りを入れた。


「また鼻の下伸ばしてー! あんたのそういうとこが嫌い!」


「痛いな! ……つーかさぁ『お前のは』全然成長しねーよな?」


そう言って、これみよがしにティアラの胸元をジロジロ見るユーマ。


「べ、別に……、あんたの趣味に合わせて、私の体は成長してるんじゃないだからね!!」


その言葉を聞き、隣にいたシルフィが苦笑する。


「ユーマさん、いいですか。あの龍はあなたが擬人化させたのですから、きっとあの姿は、あなたの趣味なのではないでしょうか?」


「なんだそれ?」


ユーマはきょとんとした顔で、シルフィを見上げる。言っている意味を一ミリ足りとも理解していない顔つきだ。


(やはりユーマさん自身、龍を擬人化させたことに気づいていないようね……)


ミラは心の中で、静かに確信を得た。


そんな会話をしながら、一行はダンジョン内の通路を歩いていた。女神の指示で、ユーマはひたすら壊れた魔導具の残骸を回収させられている。


「ったく、こんなガラクタを運ばせやがって……」


そう言って愚痴るユーマの目に、奇妙なものが飛び込んで来た。


「うわッ!? な、なんだあれ!」


通路の脇に、ひときわ目立つ大きな箱が転がっている。


(これって……俺の見間違いじゃないよな?)


ユーマは目を疑った。それはとても奇妙な光景だった。箱から足が二本の伸びていて、その足が交差させるようにバタバタ暴れていたのだ。


(いくら俺がスケベだからって、お尻だけの魔物なんていないよな……)


よく見ると箱に上半身を突っ込んだ女の子が、お尻だけを奇妙に突き出して、足をバタつかせていた。その姿はまるで”頭隠して尻隠さず”という言葉そのままの状態だ。


「……いや、何してんの?」


ユーマが思わずツッコミを入れる。

箱の隙間から、か細い声が聞こえてきた。


「たーすーけーてー……」


箱の中で反響するような、こもった声だったが、確かに助けを求める人間の声だ。


「現実的に考えて、箱に食われる人間って、やっぱいるもんなんだなァ……。さすが異世界! でも箱だよ!?」


ユーマがそう口にした瞬間、それまでヌルリとした生物的な気配を放ち、牙が蠢いていたミミックは、一瞬にしてただの「古い木の箱」へと変質した。粘液は消え、どろりとした質感が、ごく普通の木肌へと変わる。


蓋が軽くなり、中から一人の女性が這い出ようとしている。ユーマはそれを雑に手助けしてやった。そのはポニーテールに、動きやすい服を身に着けた、元気はつらつとした女子大生風の女の子だった。


ユーマは「大丈夫か?」と手を貸そうとするが、女性は無言で立ち上がり、何事もなかったかのように服の埃をポンポンと払った。


「ちょっと、観察してただけです」


ユーマは目を見開いた。


(いやいや、メッチャ喰われてたやん! 絶望的な姿勢でバタバタしてたやん!)


女の子はユーマへの感謝よりも先に、箱だったミミックを無表情でじっと見つめている。


「……中、見ていいですか?」


「ん? ま……ご自由に」


ユーマはもちろん、ティアラもミラもシルフィも、女神ですら呆気に取られていた。


「牙の退化速度が予想以上に……あ、これただの木材ですね。おかしいですね、さっきまで私の頭蓋を咀嚼しようとしてたはずなんですけど」


ペラペラとよく喋る。


「あの……ちょっと開いててくださいね!」


女の子は当たり前のように、そう言った。


「あ、うん」


思わず即答してしまうユーマ。


(なんだこいつ……)


女の子は、今まさに食われかけた箱の内部構造を調べるため、ユーマに蓋が閉まらないよう図々しいお願いをした。


呆れ返りながら、ユーマはこれ以上関わらないでおこうと、珍しく女の子相手なのに興味を示さず背を向けた。


周囲は皆、困惑した顔で、その女の子を見ていた。


「あ、もう、ちゃんと開いててくださいよぉー」


ユーマは何も言わずに歩き出す。

そんなユーマの背中を、じっと見つめる奇妙な女の子。


「あれ? そう言えば! ……皆さん、こんなところで何をなさっていたんですか?」


(((((はぁぁぁぁぁ???)))))


女の子はダンジョンの天井を見上げてから、次に周囲をキョロキョロと観察した。


「さっきから聞いてれば、あんたさーっ! 助けてくれたユーマに、お礼言うのが先じゃないの!!!」


猛烈に怒りを爆発させるティアラ。


しかし女の子は、そもそもミミックに喰われていたことすら、気づいていないんじゃないかって穿ってしまう程の鈍さだ。


違和感を覚えるも説明が付かない。そんな表情だった。


「……全く。ミミックに食われるレベルで、どーやってここまで来れたのよ!?」


ティアラは心底呆れ果ててた。


「ダンジョン、危ないですからね。気を付けてくださいね」


一応ギルド職員らしく、ミラが優しく忠告をした。

しかし、それだけだった。

これ以上こんな訳の分からない女の子に構おうとは誰も思わなかった。


「あれれれ? ちょっと皆さーん! 置いてかないでくださーい!」


彼女は、慌ててユーマたちのあとを追った。


「なんなのよ、あの子……」


ティアラだけが、一度だけ、振り返って怪訝な目で女の子に視線を送った。



ダンジョン探索から、数日が経った。


魔王城とユーマの屋敷、それぞれの場所に平穏な日常が戻っていたが、そこには目に見えない「小さな波紋」が広がり始めていた。


朝食の席。


ユーマがパンをちぎりながら、ふと思い出したように言う。


「そういえば、ダンジョンで箱に食われてた子。どうなったんだ? 出口まで後ろを付いてきてた気がしたけど」


ティアラが紅茶を飲み干しながら、呆れたように答える。


「あの子? あの後もダンジョンの入口で、光る苔を夢中でスケッチしてたわよ。声かけたら、早口で『今は忙しいっす!』って走ってったわ。ほんっと失礼な子だった」


「元気な子でしたね。ユーマさんに助けられたあとも、泣いたり怯えたりせず、目を輝かせていましたしね」


シルフィが微笑む横で、ユーマは「変な奴もいるもんだよな」と、それ以上話を広げることもなくテーブルのお皿を片付けた。

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