第四十話:TS転生? 屈辱の魔化粧、バッシュの女装が完成
バッシュと対峙するミラと女神。彼女たちの手にある物は無数の小瓶と筆。
二人ではじめたバッシュ女装化計画だったが、騒ぎを聞きつけて、ユーマとクロムが物陰から「まるで公開処刑だな」とヒソヒソ囁き合い、カガミはデータ分析と称して無表情で動画を撮っていた。
そこへティアラとシルフィも加わり、無責任な馬鹿騒ぎが始まろうとしていた。
「さあ、バッシュ。観念してね、これも作戦のためです!」
ミラの有無を言わさぬ声に、バッシュは青い顔でソファに縛り付けられていた。屈強な肉体を誇る彼も、乙女たちの本気の「おめかし」からは逃れられないらしい。
「ぐっ……私はこの肉体で、幾多の戦場を駆け抜けてきた男だぞ! なぜこのような辱めを……!」
「はいはい、無駄口はそこに置いといてっと……まずは魔肌整備からですよ」
女神が妖しい笑みを浮かべた。その表情は完全に楽しんでいる。
バッシュの顔に、ひんやりとした液体が塗りつけられる。
「あひぃ!」
普段は鋼鉄の鎧に守られた肌が、今は無防備に晒されている。香しいフローラルの香りが鼻腔をくすぐり、バッシュはぶるっと身震いした。肌が吸い付くような感触に、早くも戦意喪失寸前だ。
続いてミラが取り出したのは、陶器のような真っ白なクリーム。
「次はこれ! 魔化粧下地です。バッシュのワイルドすぎる毛穴を隠す魔法よ!」
ぺたぺたと、容赦なくバッシュの顔に塗られていき呻き声を上げるが、時すでに遅し。あっという間に顔全体が不自然なまでに白く変わっていく。
「次は、魔魔(BB)クリームだけど……」
ここは女性陣、かなり迷ったようだ。というのもメーカーによって商品名と明るさが一致せず、実際の仕上がりに相違があるためだ。男性のバッシュを、白く強調するか、血色で攻めるかで意見が分かれた。
「誰かピンクベージュ系、持ってませんか? バッシュの肌を、もう少し血色良くしたいので」
ミラがそう言うと、色白のシルフィが、ポーチから私物の魔魔(BB)クリームを取り出す。
「ピンクしかないんですが、これでいいかしら?」
「ふふ、いい感じ。シルフィお願いね」
ミラからシルフィへと、バトンタッチされる。
「はい。バッシュさん、魔魔(BB)クリーム塗りますわよ!」
シルフィがチューブから出したクリームを、これまた大胆に顔に乗せていく。クリームを丁寧に広げながら、シルフィの爆乳が豪快に揺れる。
「お……っ!」
バッシュが奇妙な声を発する度に、背後のユーマやクロムたちは、吹き出すのを必死でこらえていた。
「この色むらを、均一にするのがポイントよ」
ミラが小さな筆を使い、魔色均一でバッシュの顔の赤みやムラや小じわをピンポイントで覆っていく。みるみるうちに生活感あふれる男らしさが失われ、まるで作り物のようなツルンとした質感になっていく。
「仕上げは、これでパパッとね!」
女神がポンポンと大きなパフで白い粉を叩きつけ始めた。魔顔粉が舞い、バッシュはくしゃみをしたくなる衝動を必死で抑える。呼吸するたびに粉っぽさが口に入ってくる。
「はい……。これで、とりあえず人間に見える下地は完成ね。次はお待ちかねの造形作業です」
ミラの言葉に、バッシュは恐怖で目を瞑った。
お次は、シルフィが担当するらしい。
「まずは眉毛からね。バッシュさんの凛々しい眉を、もっと柔らかく、魔眉整頓しますわ!」
シルフィが細いペンで、バッシュの濃い眉を器用に描き足していく。普段は一直線に切り揃えられた無骨な眉が、曲線を描くたびに顔から精悍さが薄れていく。
「よし、次は目元で遊ぶわよ。魔眼陰影いきまーす!」
女神が取り出したのは、虹色に輝くパレットだった。筆で数色を混ぜ合わせ、バッシュの瞼にそっと乗せる。紫、ピンク、水色……。普段なら絶対につけない鮮やかな色が、その瞳に宿る。
「ちょっと足りないわね……。よし! これでデカ目効果よ! 魔眼盛増!」
続けて女神が、細い筆でバッシュの目尻をすっと跳ね上げた。まるで猫のような、艶やかなラインが描かれるたび、バッシュは「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。背後のユーマたちが、もう耐えきれないといった様子で肩を震わせている。
特に目尻と目頭を入念に縁取り、デカ目効果を狙っていく。
元が男のバッシュの場合、より自然に強調するには、縁全体にやらないのがポイントらしい。
「まだよ、目元の仕上げはこれ!」
ミラが冷たい金属製の道具を、バッシュのまつ毛に押し当てた。魔睫毛曲だ。
「ぬぐっ……なんだこれは! 目が、目が取れる!」
「大丈夫だってば。そして、とどめはこれです!」
女神が黒い液体をたっぷり含んだブラシを、バッシュのまつ毛に丁寧に塗りつけていく。魔睫毛彩によって、短いまつ毛が長く、量も増えたように見えてくる。
「くっ……視界が、いつもと違う……」
「次は血色を足していくわよ!」
ミラが赤い粉を大きなブラシで取り、バッシュの頬にクルクルと円を描くように乗せていく。魔頬紅によって、彼の顔に健康的な赤みが差す。
「ずいぶん人間らしい表情になったわね。最後の仕上げはこれよ、魔口紅!」
女神が真っ赤な口紅を手に取った。バッシュは嫌がるように口を閉じようとするが、ミラの素早い手つきで無理やりこじ開けられる。
「んむぐっ……!」
鮮やかな赤色が、バッシュの唇を彩る。普段は血の気がなく、硬く引き結ばれた唇が、見る間にツヤツヤと妖しく輝き出した。
「完璧! ……と言いたいけど、このままだと汗で流れちゃうわよね」
女神がスプレーを取り出した。今度こそ本当の最後の仕上げ。魔化粧維持だ。顔に霧状の液体が吹きかけられ、ひんやりとした感触が全身を駆け抜ける。
「ふふ、これで完成ね!」
ミラがバッシュの縄を解くと、彼は恐る恐る目を開いた。目の前に置かれた手鏡には、見慣れない「女性」が映っていた。大きな瞳、くるりと跳ね上がったまつ毛、紅い唇。そして、どこか悲壮感を漂わせた表情。
バッシュは鏡の中の自分を見て、一言。
「……誰だ、貴様は」
その声に、ユーマとクロム、そしてカガミが堪えきれず、盛大な爆笑をリビングに響かせたのだった。
さぁ、バシュ美よ!
女の戦場へ、今、羽ばたけ!!




