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第三十七話:地味め巨乳こそ至高! 中学五十二年生が説く、偶然のエロス理論

時間を、チート勇者の映像で屋敷が揺れる、数日前まで遡る──。

魔王ゼノンは一通の「急報」を手に、最悪のシナリオを描き始めていた。



魔王城の執務室で、魔王ゼノンは一通の報告書を手に、今にも卒倒せんばかりの勢いで震えていた。


送り主は、有給休暇を満喫していたはずの『あの隠密』からである。だが、その紙面に踊る文字に、休暇の解放感など微塵もなかった。


【急報。先生が、元四天王カガミ様と接触。時空干渉級の秘儀を伝授中。現場は定食屋】


「な、なんということだ。定食屋だと!? そんな庶民的な場所で、世界の理を壊す密談を交わしていたというのか!」


ゼノンの脳裏には、最悪のシナリオが鮮明に描かれていた。

先生は、魔王城のもてなしに退屈している。それゆえ、かつてクロムの部下であり元四天王のカガミと手を組み、今の魔王軍を転覆させる新陣営を立ち上げようとしているのだ。


などと、また阿呆な妄想に憑りつかれていた──。


「……間違いない。あの方は、私の首を獲るために、時空を割る準備を始めているのだ!」


滝のように流れる冷や汗を拭い、ゼノンは立ち上がった。


「こうしてはおれん! 城が退屈だというのなら、城の外に、あの方のスケベ心を惹くような『地上の楽園』を作るまでだ!」


その日から、ゼノンの「必死の防衛作戦」という名の、あまりに的外れな店舗プロデュースが始まった。



「いいか、まずは先生とカガミが密会に使った、あの定食屋だ! 周辺の店も含めて、即座に買い取れ!」


ゼノンの号令に、魔王軍の財務官たちが色めき立つ。


「ば、買収ですか? 焼き鳥屋や定食屋を!? ……魔王軍が、直営で経営すると?」


「そうだ! あの方は庶民的な場所を好まれる。ならば、秘密会議に使われそうな拠点をすべて潰し、内装を極上に作り変えるのだ。そうすればオープンまでの時間も短縮できる!」


ゼノンは確信していた。

あのスケベなら必ずや、食いつくはずだと。


そうして、かつての質素な飯屋を、魔族が総力を挙げた『至高のお色気遊興場』へと変貌計画がスタートした。


「次はキャストだ! 街のムチムチ美女たちを片っ端から集めろ。私が一人ずつ面接する!」



「異例には異例を、エチエチ面接は私が担当する」との号令で、その日から魔王自らが先頭に立って「接待役キャスト」の選別を開始した。


「不合格だ! 色気が足りん! 先生はもっと、こう……包容力のあるタイプに弱いはずだ。次!」


ゼノンの怒号が飛ぶ。


「次! 次の者を通せ!」


魔王軍が急遽設営した面接会場(元・定食屋の座敷)に、ゼノンの鋭い声が響き渡る。


「……ゼノン様。既に面接は五十名を超えております。サキュバスを中心に、夜妖、魅魔、混血種まで揃えましたが……」


控えていた側近が、分厚くなった名簿を抱えながら進言する。


「まだ合格者は一人もいない、と言いたいのだろう?」


ゼノンは腕を組み、低く唸った。


「当然だ! 相手はあの『先生』なのだぞ。異世界の時空を物理的に破壊し、それを投擲するような御仁だ。だが同時に──肌の露出に釣られ、雰囲気に流され、気分が良ければすべてを忘れる、アホで、スケベで、能天気。とにかく必要なのは特級のエチエチさだ!」


側近は黙って頷くしかなかった。


「だからこそ、種族で絞るなど論外だ。人間基準の色気だけで、先生の思考回路を読み切れると思うな」


そこへ、次の一団が入ってくる。


角と尾がチャームポイントの巨乳サキュバス。

長い耳が敏感などMエルフ。

鱗を部分的に残した、ムチムチ尻の混血竜人。


それぞれが、それぞれの“売り”を意識した立ち振る舞いで場に立つ。

空気が、わずかに華やいだ。


「待て!」


ゼノンは全員を制止した。


「まず勘違いするな。先生は『偶然のエロスに弱い系のスケベ』だ。そんなものは基礎の基礎だ、帰れ!」


「はぁ? 何言ってんだ、このおっさん」

「一体、何に取りつかれてんだ? こいつ……」

「テメェは魔族だろ! エルフじゃねーだろが!」


などなど、志願者たちはもとより、部下の魔族たちまでもが内心でツッコミを入れた。面接美女たちに対して「かわいそうに……」と憐みの目を向ける者までいる。


しかし、ゼノンは止まらない。


「露骨な色気には飽き飽きしているのだ! お前らもそうであろう!? 素っ裸よりも三角形の極小ブラ! すっぽんぽんよりも紐Tパンツ尻だ! そうであろう!? そこで効果を発揮するのが希少種のアピールなのだ!」


周囲は皆一様に”ぽか~ん”と口を開けている。


「希少種の存在は、変な使命感を刺激するものなのだ。つまり、それは──……別の言い方では『性癖』とも言える! 先生には自ら地雷を踏んで貰うのだ!」


益々もって、何を言ってるのか意味が分からない。かなり重症のようだ……。

ゼノンは目をクルクル回しながら、語気を強めて熱弁をふるう。


「求められるのは、おっさんになった先生が、今だったらもっと上手く『初恋のあの子』とも距離を詰められたのに感だ──否! 気づけば『初恋のあの子』が隣にいるのだ! だからと言って早急になるな。主張はしない! 距離が近づいた瞬間に心を奪う必要はない。視界の端にずっと残り続けろ! 常に視界の端でユラユラしていればいい」


最早もはや妄想癖を拗らせた、ただの五十二年生だ……。


「色気があっても、それを分かりやすく向けるな! 好意は見せるが、分かりやすく見せるな。すべては先生自身の勘違いに委ねろ! つまり──なにを言っても『ご主人様、すごーい』だ!」


志願者たちは、完全に理解を超えた表情になる。

本当に魔王様なの? 疑いの目を向ける女子までいる。これでは、ただの性欲の強い魔物モンスターである。強烈な性癖を自慢気に騙る中学五十二年生なのである……。


だがゼノンは、そんなこと気にしない。


接待役キャストは特別であるべきだ。才ある者以外を雇うつもりはない。



こうして現魔王による地獄の面接は、種族を跨いで続けられた。



「エルフ! お前は理想化されすぎている」


「獣人は、可愛さが前に出すぎだろ!」


「ドワーフは幼女に見えるから、コンプラ的に即アウト!」


などと、次々に弾かれていく。


最終的に残ったのは、派手すぎず、地味すぎず。『頼んだらイケそうな系』の『地味目・巨乳美少女』たちだった。


ゼノンは深く頷く。


「……よし。これで布陣は整った」


そして、誰にも聞こえないほど静かに告げる。


「今日、この場所を──先生の『終着駅』にしてみせる」

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