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第二十一話:説教か? 洗脳か? 魔族が恐れるユーマの奇跡

「──で、結局それが本題なわけね、女神」


俺は居間のソファに踏んぞり返り、目の前で「おしゃれ変装」をしたまま涙目で訴えてくる女神を眺めていた。


「そうなんです、ユーマさん! 王宮が『扱いやすい勇者が欲しい』なんて非公式に、勝手に召喚を繰り返したせいで、現世から多感な年ごろの少年たちが、中途半端に引き寄せられちゃって! 私のボーナス、いえ、管理責任が危ないんです!」


女神はそう言ったあと、俺にチラリと視線を向けて、ぼそりと付け加えた。


「これは、ユーマさんにも、責任の一端はあるんですからね……」


「はぁぁぁぁ!? なんでだよ! 俺、関係ねーじゃん!」


寝耳に水だ!

久しぶりに再会して、こんな裏切りに合うとは思いもしなかった。


「何を根拠に、俺まで道連れにしようとするんだよ!」


「だって、ユーマさん。聞きましたよ?」


女神が上目遣いに俺を見る。


「な、なにがぁ……」


俺は焦りながら訊き返す。


「ユーマさん! あなた異世界に転移した後、色々と”やらかした”らしいじゃないですかぁ。聞きましたよ? た……例えば」


「ああぁぁぁ! いや、もういいから! うん、勇者おれも連帯責任だよな! そりゃそーだわ。うん、分かるわー。だからこれ以上、何も言わないでー!(お願い)」


ティアラが怪訝な目で俺を見る。


「ユーマ。また何かやらかしたの? 私と知り合う前に……」


そう……俺は”かなり”やらかしていた。(記憶がある)


だけど、あまりに多すぎて見当が付かないのも事実だ。もしここで、軽率に思い当たる節を暴露して、万一”それじゃなかった”場合、更なる恥を自ら晒してしまうことになる。


布面積の少ない女の子ばかりの店で、色々しちゃったことなのか?

それとも、宿屋の色っぽい女将さんを口説こうとして旦那に見つかり、一晩中皿洗いをしたこと?


はたまた──。


(心当たりがありすぎるぅ……!)


「ご主人様、もしや!」


シルフィさんが、驚いた声をあげる。


(今度は何……)


「私以外の女の子にも『ご主人様』と呼ばせて、奉仕させていたんでしょうか?」


「あぁ、もう。シルフィさん! これ以上事を荒立てないでください!」



「では、連帯席にということで……」


そう言って女神が、今回の訪問の”本当の理由”を説明した。


(連帯責任の意味、分かってる?)


何でも聞くところによると、王宮の無謀な召喚のせいで、街には「自分を主人公だと思い込んだ」連中が溢れかえり治安が悪化しているという。


「その不完全な召喚のせいで、あちらの世界の『ただのゲーム好きな少年』や、ユーマさんが言うところの『中二病を拗らせた少年』たちが街になだれ込み、今、王都周辺を占拠しているんです」


女神が言った、俺の『責任の一端』とやらは、女関係の”やらかし”ではなく、意外な(?)理由だった。


俺の”やらかしっぷり”に懲りた王宮の偉い人たちが、今後二度とポンコツ勇者を(何だとーっ!!)呼び寄せないために、純真な少年たちをドンドン召喚した結果が、今の惨状らしい。


メッチャ裏目に出てるやん!

若けりゃ純真ってもんでもねーだろ。


「はぁ……。もぉ! 王宮の人たちって馬鹿なの? 俺以上に?」


と、そこへ。

更なる被害者が、また一人登場……。


憔悴し切ったウォーデンが、フラフラと現れた。


「……勇者様」


うっわ……。

久しぶりに「勇者様」って呼ばれたわ。律儀なホセらしいわ。


「おおーっ! 久しぶりー。ホ──」


俺に最後まで言わせず、言葉を被せるウォーデン。


「ホセではありません! 補佐官ほさかんの『ウォーデン』です!!」


(相変わらず、欲しがるなぁ……)


「なんだよ? 元気あるじゃん!?」


俺がそう言うと、ウォーデンは恨めしそうな目でジロッと睨んだ。


「ごめん、ごめん。そんな怒るなよぉ。で、何? 用があるから来たんでしょ」


「はい。話は既に耳に入っているかと思いますが、王宮は自身の責任を完全に放棄し『召喚は女神の管轄だ』と実務を私に丸投げしました。お願いです、私の胃壁が消滅する前に、彼らを止めてください」


「女神の管轄って言いながら、ウォーデンに丸投げ!?」


俺が疑問を呈すると、横からおっさんが口を挟んだ。


「そりゃ、体裁だな」


「きっとウォーデンさんは、根っから真面目な方なのでしょう」


今度は女神が口を挟む。


「とはいえ、女神わたしの管轄だからと言って押し付けたままなのも、それはそれで体裁が悪い。そこで真面目なウォーデンさん一人に、責任を押し付けたのでしょうね……。すみません、ウォーデンさん」


まるで爆弾の押し付け合いだ。


「いえ! 女神様が、謝るようなことではありません!」


ハハ……。なるほど、”そういうところ”だよね。貧乏くじ引く要因は。


責任感の強さゆえに、いつも厄介ごとを押し付けられるウォーデン。その姿は涙なしには見られない。


(しょうがねーな)


「よっし、分かった! ここで真打ち登場『本物の勇者』の出番だな? 全て俺に任せろ!」


俺は、勇者ムーブをかましつつ、現場に向かった。



王都は想像以上の惨状だった──。


広場では、数人の少年が互いを「右腕」「相棒」と呼び合い演説をぶっていた。


「俺たちがこの世界を変えるんだ!」


「さすが勇者、俺はついていくぜ!」


「俺ら勇者が立ち上がらないと、世界は変わらないよな!」


(なーに言ってんだか……)


見た感じ、中学生くらいの少年たちだったが、ここは心を鬼にして、きっちりと”現実”を見せてやらないといけない


「なあ、お前ら! あのなァ。現実的に考えて、勇者が三人も四人も並んでる時点で、もう違うだろ!?」


俺が背後からそう声をかけると、少年たちは一斉に振り返った。


「何だァーっ、お前!? えらっそうだなー。俺たちの”物語”を邪魔するな!」


「物語ねぇ。いいか、お前ら! 主人公ってのはな、周りに説明しなくても結果出してる奴のことだぞ。お前らみたいに許可取り合ってるうちは、ただのエキストラだ」


「「「……」」」


一瞬で静まり返る少年たち。

俺の一言で、こいつらの「特別な自分」という幻想が、音を立てて崩れてしまったようだ。


「あんたが言うの、それを?」


ティアラの、その小さな胸には、俺の崇高な思想は刺さらなかったようだ。


「何? 私の胸をジロジロ見て!?」


次に訪れた食堂では、花火を持ち、自らの手にその火花を撒き散らしている少年が、衛兵相手にイキっていた。


「俺に触るな、感電するぞ! この魔力、自分でも制御できないんだ!」


(これは酷い……。根性焼きかよ!)


一体どんな妄想をはぐくめば、そんな手品みたいことで『これは魔法だ!』なんてイキれるんだよ。


(マジシャンに謝れ!)


「なぁ、おい! そこの妄想少年モーソーボーイ! 現実的に考えて、その程度の火花で世界を救う気か?」


「そうだよ! 悪いかよ」


「おい、あれを見ろよ──……。な、分かるだろ?」


俺は店の厨房を指差した。


「お前らの『勇者ごっこ』なんて比じゃねーよ。鍋を振りすぎで腱鞘炎に耐える料理人さんたちに謝れ!」


そこでは料理人さんが、火力全開の火魔法・・・で巨大な鍋を振っていた。


「お前が格好付けて『制御できないんだ!』とか言ってる火花より、あそこで炒飯チャーハン作ってる火の方が数倍強いぞ。魔力がどうとか言う前に、あそこで皿洗いでもして修行積んでこい!」


少年は、本物の「生活の魔力」を目の当たりにして、うつむき、恥じ入るように下唇を噛んだ。


「あんたは、皿洗いしかしたことないでしょ?」


ティアラが横から、茶々を入れる。


「うっせェ」


──路地裏では、座り込んで泣いている少女もいた。


彼女はスキルもなく、理由も分からず連れてこられた「迷子」のようだ。


「……まぁ、現実的に考えて、悪いのはお前じゃねーわな」


俺の言葉に女神は露骨に目を逸らし。ウォーデンは唇を噛んで拳を握りしめた。王宮の無責任さの象徴のような子供だ。


「帰りたいって思えるうちは、まだまともだ。大丈夫だぞ」


「あんたも王宮の尋問室では『もう帰りたいよーっ』って、べそかいてたもんね」


またティアラが、ツッコミを入れる。


「あーも、うるせーよ!」


まだまだ広場には、勘違いを拗らせた、異世界テンプレ少年たちが溢れていた。


こんなの一人一人相手にしても、埒が明かない。


「ああ、もう! そんなに働きたいなら、ハローワークにでも行けよ!」


俺は、彼ら全員を中央広場に呼び寄せて「異世界ファンタジー」から「日雇い労働の現場」へと送り込み、まずは、今日を生きる現実を分からせてやった。



「はぁ……。これでやっと! 街も静かになったな!!」


誰も褒めてくれないから、わざと大きな声で言ったんだが、近くにいたウォーデンは、今回大活躍の俺を完全無視スルーして、ティアラに歩み寄った。


(この女好きめ!)


「ティアラ。あなたの妹の経過は良好です。あなたが勇者様の監視役を続ける限り、王宮が責任を持って全額負担し続けますから、安心してください」


ティアラは耳を伏せ、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます。本当に……本当に」


少し涙ぐんでいる。


「なあユ―マ。あいつ、また猫を被っているのか?」


バッシュは首を傾げる。


「んん………」


正直そんな風には、俺には見えなかった。


「あらあら……」


シルフィさんが優しく微笑む。


「こ、この状況はなんですの?」


事情を知らない女神がオロオロする中、俺は、


「良かったな! ティアラ」


ここぞとばかりに、勇者ヒーローらしい爽やかな笑顔でウインクしてやった。



騒動から数日後──。


俺は、おっさんから屋敷の裏手に呼び出された。


「魔族たちの間で、妙な噂が流れている」


おっさんは珍しく、言いにくそうに目を伏せた。


「噂?」


「人間の勇者候補を『言葉だけで従属させた』と、まことしやかにささやかれているようだ……」


「俺が!?」


「ああ、そうだ。しかも複数を一度に。抵抗も混乱もなく。全員を『現実に引き戻した』とな」


「はぁ? ”アレ”は、ただ説教して働かせただけだろ」


「実際はな。しかし、魔族はそうは思ってないようだ」


「なんで?」


「魔族の間では、精神操作系の術、記憶改変、集団同調、洗脳術……そういう術式だと本気で信じているようだ。戦闘も流血もなく、あれだけの数を一度に無力化した。最も危険な類の支配だと思われているぞ」


「意味が分かんねーよ! ただの職業紹介。ハローワークだぞ!」


おっさんは首を横に振った。俺がどれだけ否定しても、魔族側の恐怖は止まらないらしい。


「恐らくあの現場に、魔族の斥候がいたんだろう」


斥候スパイ……?」


「うむ」


理不尽にもほどがある!

勝手に警戒して、勝手に騒動を覗きに来て、勝手な解釈で噂話を流布する。


「あいつらが、勝手にビビりすぎただけだろ……」


魔族が俺をどう恐れようが知ったことか。

現実的に考えて、俺はただ、静かにハーレム生活を送りたいだけなんだからな。

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