第二話:勇者扱いは聞いてない
「うわっ!!」
目の前の風景が、急に別世界に変わったので、思わず大声を漏らしていた。
俺は辺りを見渡した──。
(……夢じゃないよな、これ)
石畳の地面。美しい石造りの建物。行き交う人の声。香辛料と焼いた肉の匂い。どう見ても中世の『それ』だ。
「つーか、街のど真ん中かよ……」
俺が飛ばされた先は、異世界テンプレ詰め合わせセットだった。
通りを歩いてるのは、人間だけじゃない。耳の尖ったの、角生えたの、尻尾がついてるのまでいる。
とくに女たちが、女神以上に『攻めてる格好』をしている。
胸の下半分を丸々露出させた魔法使い。布一枚で済ませた半裸に近いエルフ。革ひもしか身につけてないTバック女戦士。
どれもこれも、俺が普段『無料漫画アプリ』で読んでいる、異世界作品の表紙みたいなエチエチさだ!
(最高かよ!)
そんなことを考えていると──。
「おおっ!? まさか……」
ゴツい鎧姿の男が、俺の目の前に滑り込んできた。その後ろから、同じような騎士たちがぞろぞろと集まってくる。
(え、なに、職質? 俺がエッチな目で周囲を観察してたから?)
鎧の男は、言った。
「勇者様……! ついにこの地にお越しくださったのですね!」
「は? いや、待て待て! 俺、まだ何も言ってない」
「女神様からのご神託は、確かにありました! 『白き光の中より、勇者現る』と!」
(あの巨乳女神の雑な転移、もう公式発表済みかよ……)
気づけば、周囲の視線が一斉に俺に集まっていた。
「勇者様だ……」
「本当に来てくれたんだ……」
「これで、世界は……」
やめろぉぉ! みんな、そんな目で俺を見るなー!
俺は咄嗟に、表情と声を変えて別人を装った。
「いえ……ひどぢがいでずよー」
一瞬で空気が固まった。
騎士たち同士が顔を見合わせ、反応に困っている。
(俺も困ってる……)
「あ、いや。声の調子が悪いのかなァー、ハハハ……めんごめんごー」
「め…ンご???」
「メン五ではないか?」
「五人……?」
俺の親父ギャグを、真剣に議論する人たち……。恥ッず! 言ってて、自分でも恥ずかしかったわ!
「あ、うん……。人違いっすよー。俺、おっぱい星人は自覚してますけど、勇者じゃねぇっすからー」
「い、いえ! そんなはずはなでしょう!」
話の通じない人たち……。
(でも『おっぱい星人』は通じてるんだ?)
「しかし、女神様が……!」
くっそぉー! 全部、巨乳女神のせいだ!!
俺は絶っっ対に! 魔王なんかと戦わねーからな! 他人のためなんかに死んでたまるかー!
「いやいや、俺、戦わないって言ったし!」
「……はい?」
今度は、騎士たちが固まった。
まるで、OSアップデートの度に「次なるバグ」に恐怖する、俺たちみたいな反応だ。
「いやだから。勝手に呼ばれて、戦って死ぬとか無理なんで」
周囲がざわつく。
「勇者様……それは、謙遜というもので……」
「覚悟の時間が、必要だ……と?」
まさにテンプレ脳!
どこまでご都合解釈だよ。
「違う違う違う。本気で嫌なんだって!」
「本気を出さなくとも勝てる! そうおっしゃりたいのですね! さすがは勇者様」
通じねぇ……。
まさに異世界テンプレの、お手本! 勇者を凄く見せるためだけに描かれた、ご都合モブキャラたちの反応集だ。
言葉の通じない人たちには、心を鬼にして、イキり散らかすことにした。
「命張るの、割に合わないでしょ? ね、ダサいっしょ? 恥ずいっしょ? 俺、コスパ悪いこと嫌いなんでッ!」
「……コ、コスパ?」
「おお! それはまさしく『コスーパ』と言いたいのでは?」
「なんと! そうであったか」
まるで秘匿された超強力魔法でも言い当てたかの得意顔。
ワカッタ、ワカッタ(あんたらがバカなのは)
説明する気も起きねぇ。
「とにかく勇者とか無理! 俺は一般人。筋トレもしてないし、剣も振れない。女だけはフルけどな(俺の方が)」
沈黙。
誰も、俺がこんな反応を見せるなんて、全く想定すらしていなかったらしい。気まずい沈黙が続く──。
しばらくして、ようやく一人の騎士が咳払いをした。
「……で、では。まずは王都で生活していただく、ということで……」
「え?」
「い、いえ! すぐに戦えとは言いません! 準備期間ということで……」
(あ、折れたな?)
俺は内心ガッツポーズを決めた。
ずっと「気が乗らない」で通せば、しばらくは食いっぱぐれることはないかも?
それに……。
どこを向いても、露出度が半端ない巨乳&巨尻っ娘たちが普通に歩いてるエチエチな世界──。
(うん。そんなすぐに帰ることもないかな……)
とかなんとか思っちゃってる自分がいる。
「じゃあ、それで! 俺、戦わないけど、もしも『戦う気になったら』……ということで」
騎士たちは、納得したのかしてないのか分からない顔で頷く。中には俺に疑心暗鬼の目を向ける騎士までいる。
(よし。とりあえず即死ルートは回避できる)
騎士団長は諦めた顔で、分厚い革袋を俺に手渡した。
「……こちらは、当面の生活費です。勇者様としてふさわしい生活を……。追って今後のことも、随時ご連絡させていただきます」
(フッフフ。これで『こっちの世界』のエチエチなお店に行く資金ができたぜ!)
とね……、この時が転移直後のハイライトだった。
まさかあんな目に合うなんて。
◇
──《ユーマさん。聞こえる?》
(……ん?)
頭の奥に、どこか聞き覚えのある軽い声が響いた。
女の声だ。やけに馴れ馴れしくて、反省してなさそうな声。
──《あー……ごめんごめん。色々バタバタしてて》
「……夢か?」
──《例の件だけどね。ギルドの受付の子には、ちゃんと伝えておいたから》
(例の件? 何の話だよ)
──《あとはもう、現地判断でいいかなーって。あの子、仕事はできるし》
「いや、だから何を──」
問い返そうとした瞬間、声は急に遠のいていった。
──《じゃ、あとはよろしくー》
「ちょ、待て! 何をよろしく──」
そこで、完全に意識が途切れた。
(あぁ、もう!)
せっかく昨晩は、ムチムチ天国で、巨乳お姉さんと楽しくやってたのに──。
つまんねェ夢で、台無しだよ!!




