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第十七話:予知夢確定! 爆乳メイドのシルフィさん降臨

──翌朝。


俺がリビングに行くと、そこにはバケツを前にして、石像のように固まっているクロムのおっさんがいた。


「……ユーマ。貴様、昨晩これで何を捕らえた?」


おっさんがバケツを覗き込んだまま、今にも魂が抜けそうな声で聞いてきた。


「え? 光るトカゲ。夜中にピカピカしてたら眩しくて寝れないだろ。それにミラさんも困ってたみたいだし。だから捕まえたんだよ」


俺がそう言うと、おっさんはガバッと顔を上げ、側にいたミラさんを問い詰めた。


「おいミラ! お前、知ってることを全部吐け! この小僧の正体は何だ!? このバケツの中身は、本来なら次元の隙間に棲み、触れる者の魂を塵にする伝説の厄災ディメンション・リザードのはずだぞ!」


おっさんは必死な顔で叫んでいる。ディメンション……なんだって? 名前だけはやけにカッコいいトカゲだ。


「……分かりました、クロム様」


ミラさんは、困ったように溜息をついた。


「ユーマ様は、女神様が召喚した転移者です。彼には女神様から授かった、特別なスキルがあるのです。その名は現実主義リアリズム


「何だその、政治屋や軍隊が好きそうな名前は? それがどうしたというのだ」


「ユーマ様のスキルは、対象の持つ『不可逆的物理法則』を無効化し、強制的に『普遍的等価性』を付与するものです。恐らくは単一的合理化──結果として、存在定義のダウングレードが発生し、伝説の生命体は生物学的な現実的範囲内へと再定義されました。……原始的なプラスチック容器による物理干渉が成功したのは、そのためです」


ミラさんが何やら専門的な解説を始めた。


その隣でおっさんは「まさか、因果律を直接……」とか何とか震えながら呟いているが、俺には「いんが……?」「しゅくたい……?」と、ただの呪文にしか聞こえない。


とりあえず、ミラさんが俺を褒めてる(っぽい)ことだけは分かったので、俺は分かったような顔をして、深く頷いておいた。


「……なるほど。魔法や呪いそのものを否定するのではなく、自らの認識を世界の上位に置いているのか。……恐ろしい。これではあらゆる法則が、ただのガラクタに成り下がるではないか」


よく分からないが、おっさんは一人で納得している。


(要するに俺が最強で、ミラさんも惚れ直したって話だよな?)


俺は完璧な結論を出すと、おっさんに内緒で、ミラさんにこっそりウィンクを送ってやった。


”パチクリ”


ミラさんは一瞬、俺の目を見て石のように固まり、それから視線を逸らした。


「……ク、クロム様。私は本日ギルドに戻ります……。昨夜の件は、女神様にも正確に報告しておきますね。ユーマ様、また後で……っ!」


最後にもう一度だけ俺の顔を見て、ミラさんは足早に屋敷を去っていった。


(ははーん。俺のウィンクに照れたんだなー)


命の恩人が、こんなにイケメンだから、惚れるのも無理ないよな!?



ミラさんがギルドへ戻った後、俺は暇だったので、ティアラと一緒に屋敷の冷蔵庫を潤すために街へと買い出しに出かけた。


重い荷物を両手に下げて歩いていると、隣を歩くティアラが不機嫌そうに口を開いた。


「……ねえ、ユーマ。あんた、薄々気づいてるでしょ?」


「ん? 何が。今日の夕飯は肉一択だろ」


「そうじゃなくて、あの受付嬢のことよ! 昨日、あのバッシュが一喝されただけで黙り込んだじゃない。それにクロムのおっさんまで『ミラの顔を立てる』とか言ったわよね」


「んあぁ? そうだっけ」


「そうだよォォ! 元魔王とその部下に、そこまで言わせる受付嬢なんて、普通じゃないわよ!」


「……ああ、確かに。さっきも、おっさんと難しそうな話してたしな」


「あれは……あんたが、馬鹿なだけじゃん……」


「な、なんだとー!! じゃあテメーも理解出来たんかよ!?」


「嘘、嘘、もぉ……本気にしないの! 冗談よ。あはは」


時々思う。

こいつ……実は、本気で俺のことを、馬鹿だと思ってるんじゃないか? と。


「でも、まぁ。そんな話はどうでもいいよ。それより俺は不満なんだ! 魔王の屋敷だろ? なんで褐色セクシー系の巨乳メイドさんが一人もいないんだよ。俺の異世界ハーレムリストが全然埋まらないだろ」


「……あんた、この状況でまだ、そんなこと言ってるの?」


「当たり前だろ! 巨乳で、献身的で、俺をご主人様って呼んでくれるメイドさん! 先ずはそこから始めよーよ!!」


「は? なにを」


「ハ、ハーレム……」


「……はぁ?」


ティアラは片眉を上げて、首を何度も横に振った。

しばらく会話もなく黙々と歩いていたが、急にティアラが俺の袖を掴んだ。


「んだよ?」


どうせハーレム計画を非難するんだろう。そう思っていたが、


「例えば……。だけどさぁ」


遠慮がちに俺を見る。


「なんだよ? 例えば?」


だけど俺が訊き返しても、ティアラは視線を逸らして黙り込んでしまった。



買い出しを終えて屋敷に戻ると、昨日のトカゲ騒動の寝不足がたたったのか、急に激しい眠気が襲ってきた。

俺はリビングのソファに倒れ込み、そのまま意識が薄れて行った──。


すると、また例の不快な夢が始まった。

頭の中に直接、あの女神のバカ高い声が響いてくる。


──《……あ、ミラちゃん? お帰りー》


(またこの声かよ。今度はなんだよ……)


しかし、はっきりと聞こえたのはそこだけで、しばらくの間、混線した電話のように遠くでゴニョゴニョと声がしていたが、やがて女神の声が再び耳元に戻ってきた。


──《トカゲの件、報告ありがと。ミラちゃん、あの子がいなかったら危なかったんでしょ? 命の恩人ね》


(命の恩人? ……あんなトカゲごときに大袈裟なんだよな)


──《え?  罪悪感? ああ、メイドがいるって嘘ついた件ね。……うん……うん》


(おい! やっぱり”アレ”嘘だったのかよ!!)


──《それで昨夜のお礼も兼ねて、元四天王のシルフィをメイドとして送り込むの? ぷっ、ミラちゃんも律儀ね》


(メイドを送り込む? う、嘘だろ!! マジですかー!!)


──《うそ!? その話ホントなの? ゼノンがクロムさんをねェ……。トカゲの件はそこに繋がるんだ。シルフィが、その話をクロムさんに伝える? ……うん……うん。分かった! ──それじゃ、またねー!》


そこで、いきなり鼓膜が破れるような怒鳴り声がした。


「いつまで寝ているのだ、この愚か者が! 貴様のためだけに、あの人がお見えになったんだぞ!」


「……──ぶはっ!? なんだよバッシュ、うるせえな……」


顔を上げると、甲冑をガシャガシャ鳴らして激怒しているバッシュが立っていた。俺は奴に引きずられるようにして、玄関先まで連れて行かれた。


そこには、クロムのおっさんと談笑している一人の美女がいた。背が高く、落ち着いた雰囲気だが──。


(う、嘘だ……ろ?)


俺は目を疑った!!


何よりも目を引いたのは、服から”はみ出しそうな”くらい強烈な爆乳と、その身体的特徴を遺憾なく発揮する……完璧なメイド服姿!!


「お初にお目にかかります。ご主人様」


その美女が、おしとやかにスカートの端を持ち上げてカーテシー(一礼する)


「……め、めめめ、メイドさんだぁぁぁ!!」


俺は歓喜の叫びをあげた。と同時に、脳裏にさっきの夢がフラッシュバックした。


(待てよ……。今、俺のことをご主人様って呼んだよな!?)


これって……。


(よ、よ、予知夢!!?)


俺は戦慄した。夢で聞いた内容が、一言一句違わず現実になっている。俺が最強な上に未来予知までできるなら、もう無敵すぎるだろ!


もし、このメイドさんの名前が「シルフィ」だったとしたら……。


俺が玄関で一人、感動に打ち震えて拳を握りしめていると、隣でバッシュが「……何をやっているんだ、この男は」と怪訝な目を俺に向けた。


「シルフィと申します。ミラ様に頼まれまして、今日から皆様のお世話をすることになりました。以後、お見知りおきを、ご主人様」


(シルフィぃぃぃ!! 予知夢、確定じゃん!)


「こちらこそ! よろしくお願いします、シルフィさん!」


俺は鼻の下や、色んな所を伸ばしながら、目の前のシルフィさんに歩み寄った。クロムのおっさんが複雑な表情で俺を見ていたが、きっと気のせいだろう。


「……さっそくですが、ご主人様。なんだかお疲れのようですので、お風呂の準備でもしましょうか。うふふ、心を込めて、熱烈にサービスして差し上げますわ」


「おー! さすがメイドの鏡! 仕事の鬼かよ!」


俺は鼻の下を伸ばしながら、彼女に連れられて浴室へ向かった。


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