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第十五話:巨乳メイドさんは、どこですか…?

今日は朝早くから、俺とティアラ、受付のミラさんの三人で、クロムの屋敷へと向かった。


屋敷が視界に入った瞬間、俺の頭の中に「これ、ハメられたんじゃねーの?」っていう不吉な予感がモクモクと湧いてきた。


「……ねえ、ミラさん。ここ、前に俺が掃除させられた場所だよね? 豪華な客間でハーレム三昧って話はどこに行ったの?」


「何を言っているんですか。元魔王様の邸宅なんですから、十分豪華でしょう? さあ、入りましょう」


ミラさんは、俺の切実な訴えをスルーして、さっさと玄関の扉を開けやがった。


中に入ると、そこには無駄に威張り散らかしたクロムのおっさんと、その後ろで、今にも剣を抜きそうな殺気を振りまく、バッシュが待ち構えていた。


「また貴様か、無礼な小僧め! 昨日の今日で、よくも我があるじの前に顔を出せたものだ!」


バッシュがうるさく吠える。俺はミラさんの背中に隠れて、耳を塞いだ。


「ミラさん、やっぱりここ治安悪すぎ。こんな怒鳴り散らす甲冑野郎がいる家で安眠なんて無理だよ。もっとこう、癒やし系のメイドさんとかいないの?」


「バッシュ、静かに」


ミラさんが冷たく言い放つと、バッシュは一瞬で黙り込んだ。ミラさんはそのまま、クロムのおっさんをジロッと睨む。


「クロム様。ギルドの決定により、本日よりユーマ様とティアラ様がこちらで同居し、あなたの監視を行うことになりました。これは決定事項です」


「監視だと!? 私を誰だと思っている!」


「元魔王という強大な力を持つ方が、人間界で不穏な動きを見せないか……それを見極めるためです」


ミラさんはそう言ったけど、俺にはそれが本心だとは思えなかった。理由はわかんないけど、なんか別の思惑があるような気がする。まあ、俺の勘なんて当てにならないけどね。


「これを受け入れなければ、あなた方は即座にこの街から追放。……いいですね?」


「ふん。私に恐れをなして、わざわざ監視をつけたというわけか。いいだろう、受けて立とうではないか」


クロムのおっさんは鼻を鳴らして、またソファーに深く沈み込んだ。おっさんの中では「俺が怖すぎるから監視がついた」ってことで納得したみたいだ。おめでてー頭してるな。


ミラさんはコクリと一度頷くと、部屋を出る直前、俺にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。


「……ユーマ様。くれぐれも、普通に過ごしてくださいね」


(いや、俺はいつも普通だろ?)


ミラさんが退室し、同居する俺たち四人だけがリビングに残った。


「……というわけで、今日から俺が家事全般の監督だ。文句あるか?」


はじめが肝心だ。さっそく俺は、この家のリーダー気取りでふんぞり返ってやった。もちろん監督だから、俺は指示を出すだけだ。


「おい小僧。我が屋敷の床をワックスで滑るようにした前科を、よもや忘れたわけではなかろうな?」


「あー、あれはサービスだっての。……っていうかティアラ! お前は今日からキッチン担当な」


俺が指差すと、ティアラは耳をピクッと動かして、冷めた声でこう言った。


「断るわよ。私はギルド未登録の『ただの付き添い』なんだから。あんたの命令を聞く義務も、この家で家事をする義務も、一ミリもないわ」


ティアラのその言葉に、クロムがジロリと睨む。


「……お、お前、そういう時だけ『非正規』を盾にするよな。あ、そうだバッシュ! お前は甲冑がカチャカチャうるさいから、家の中では忍者のようにコソコソ歩けよ」


「に、にんじゃ!?」


バッシュが声を裏返らせる。


初めて聞く言葉に一瞬戸惑いを見せるも、すぐに我に返り、例によって顔を真っ赤にして剣を抜こうとする。


「貴様ぁぁッ!!」


それを冷めた目で見ていたクロムのおっさんが、ふとティアラと視線を合わせた。


「おい小僧。ミラの顔を立てて、お前が我が屋敷に居候するには同意した。だが、この獣人のことまでは、承知した覚えはないぞ」


また細かいことを……。


そんなグチグチ細かいことばかり言うから、テメェーは今だ独身なんだよ! と禁句を吠え散らかそうかと思ったが、ティアラは俺を制して、クロムの前に一歩進み出た。


「クロム様!」


まるで『掃除機の音に不快感を示す猫』のような不満げな態度で、クロムのおっさんをじっと見つめるティアラ。


「クロムさん……。分かりますか、この感じ? 私、王宮からこのアホを見張れって言われて以来、一度も心休まる日はなかったんです。……お互い、本当に損な役回りですよね」


(掃除機は俺かーぃ!)


その言葉にクロムのおっさんは、一瞬遠くを見つめた後、なんだか「戦友でも見つけたような顔」をしやがった。


(二人して、俺をワルモンに仕立てる気か!?)


「……うむ。貴公の言いたいことは痛いほどわかる。この男の存在そのものが、理解を超えた不条理な悪意そのものだ。察するに余りあるぞ」


「……分かってくれますか。この、何をやっても台無しにされる虚無感を」


「……ああ。よかろう、貴公の滞在を歓迎しよう。阿呆の手綱を握る苦労を知る者が、一人でも多いに越したことはない」


二人の間に流れる、しんみりした空気に俺は肩をすくめた。


「なぁ、二人だけの世界に入るの、やめてくんない?」


俺はこの気持ち悪い空気感をぶち壊すように、鼻歌まじりに冷蔵庫の中身を確認し始めた。


「よしよし、とりあえず今日は、引っ越しパーティーだよな!? 俺の歓迎会を始めようぜーっ」


「誰がそんなもの許可した、この阿呆めッ!!」


クロムのおっさんの、怒鳴り声が響く。


「フン! なんだ、お前らーっ! 新入居者に対する、歓迎のうたげすら開こうとしない、セッコイ魔族どもめ!!」


「なァーにを、人間風情がエラッソウに!」


興奮したバッシュが、またしても剣の絵柄に手をかける。


まったく、これから始まる俺の異世界ハーレムライフ……じゃなかった、同居生活の先が思いやられるわ。



そして、その夜──。

またしても。


──《……あ、聞こえてるわね? うん、ミラちゃん。お疲れ》


(ん? また、あの声だ……)


──《そう。やっぱりダメ? 喧嘩ばっかり? ……ああ、うん。想像つくわ。放っておいたら一生そのままよね、あの二人》


声は軽い。

いつも聞こえる声の主は、誰かと会話しているようだ……。


──《それで? ……なるほど。“公的な監視”ね。うまい理由つけたじゃない》


(監視? 誰のだよ……)


──《うんうん。それで正解。とにかく同じ屋根の下に放り込まないと、始まらないもの》


一瞬、間が空く。


──《そばに置いておけば……。まあ、勝手に噛み合うしょうね。細かいことは気にしなくていいのよ。どうせ、本人たちは気づかないんだから》


(なんだ、この雑な会話……)


──《結果オーライ、私が楽できれば、それでいいのよ。最高でしょ?》


そこで、ぷつりと音が切れた。


「……は?」


何がなんだか分からないまま、意識が沈んでいく──。


(なんだよ……変な夢だ……よ……な)



──また、この既視感だ!


「クッソ、眠ぃ!」


ったく! いつもの事だけど、ほんっっと、異世界来てからつまんねェ夢ばっか見るよなぁ!


「今、何時だよ……」


窓の外は真っ暗。どう見ても「起きるには早すぎる時間」だった。


「……んあぁぁー。喉乾いた……」


妙な夢を見たおかげで、本格的に目が覚めてしまった……。


睡眠不足は美肌の大敵だ。美容とパチクリお目目メメ維持のためにも、とりあえず水分補給をして、さっさと寝直そう!


そう思い、俺はパジャマ姿で部屋を出て、台所へ向かった。


──さっきの夢が妙にリアルだったせいで、俺はまだ夢の続きを見ている気だった。


(ん?)


”カタン”と家のどこかで、乾いた音がした。


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