第8話:リーファと愛犬
店を出た三人は、ポチのいる広場へと向かった。
ポチが普段どこで何をしているのか、三人は知らないのだが、この時間になると決まって、待っていたかのように広場に現れる。
いつの間にか、ポチはすっかり三人に懐いていた。
広場に着いた。
案の定、ポチが尻尾を大きく振りながら駆け寄ってくる。
「昨日は行けなくてごめん」
リーファはそう言いながら、ポチの頭を撫で、そのまま抱き上げた。
「今日はポチにプレゼントがある」
肩にかけていたポーチから、ゴム製のボールを取り出す。
「とってこい」
軽く放り投げた。
すると、ポチは腕の中から飛び出し、一目散にボールを追いかけていく。
そしてすぐに咥え、リーファの元へと戻ってきた。
『すごい』
思わず、ジェシカとメアリーの声が揃う。
「さすがポチ」
リーファは当然のように言い、再びその頭を撫でた。
その手つきからは優しさが感じられた。
「しばらく、あのまま遊ばせてあげよっか」
ジェシカが言う。
「そうだね〜」
メアリーも頷く。
あまりにも楽しそうなリーファの様子に、水を差す気にはなれなかった。
「じゃあ、私たちはいつも通り模擬決闘しよっか」
ジェシカは剣を抜く。
「やる気満々だね〜」
メアリーもそれに応じるように剣を抜いた。
「じゃあ行くよ」
「じゃあ行くね」
ほぼ同時に、剣が振るわれた。
*
「いやー、負けた〜」
広場の草むらに寝転びながら、ジェシカが声を上げる。
「今日は私の勝ち〜」
メアリーはどこか誇らしげに言った。
「悔しーい!!」
ジェシカは大げさに手足をばたつかせる。
「ふふ、まだまだ訓練が足りないね〜」
メアリーもふざけて返し、二人は自然と笑い合った。
「それにしても……あれ、どう思う〜?」
メアリーが指さす先。
そこには、まだポチと遊び続けているリーファの姿があった。
「ふふ。よっぽど好きなんだね」
ジェシカがくすりと笑う。
「あのリーファに、こんな一面があるなんてね〜」
メアリーも苦笑する。
三人の中で最も強く、最も落ち着いている。
それが、二人にとってのリーファのイメージだった。
――その彼女が。
今は、犬相手に夢中になっている。
しばらくして、ポチから離れたがらないリーファをなんとか説得し、模擬決闘へと引き戻す。
ジェシカに勝った勢いのまま、メアリーはリーファにも挑むが――
結果は、惜敗だった。
その後、三人はいつも通り帰路につく。
「今日のメアリー、すごく良かった」
帰り道。
ぽつりと、リーファが言った。
「でしょ〜? どうやら私の時代が来たみたいね〜」
軽口で返しながらも、メアリーは内心で驚いていた。
リーファが人を褒めることはほとんどないからだ。
「リーファ、リーファ。わたしは?」
ジェシカが期待に満ちた目で尋ねる。
「普通」
あっさりと返された。
「がーん」
大げさに肩を落とすジェシカ。
そのやり取りに、メアリーは思わず笑みをこぼした。
――そんな穏やかな時間が、静かに流れていった。




