第5話:実戦Ⅰ(2)
いつも通りの朝食。
――のはずだった。
だが、三人の様子は明らかに違っていた。
一目で分かるほど、張り詰めた空気。言葉はなく、ただ黙々と食事を口に運ぶ。
普段なら他愛もない会話で賑わう食卓は、静まり返っていた。
「昨日も言った通り、貴方たち三人には、今日から実際に宇宙神獣と戦ってもらいます」
セノ爺の言葉に、三人は無言で頷く。
すでに、覚悟は決まっていた。
「食後、家の前に集まってください」
「家の前?」
ジェシカが怪訝そうに眉をひそめる。
「行けば分かります」
それだけを告げ、セノ爺は口を閉ざした。
朝食を終え、片付けを済ませた三人は、そのまま家の前へと向かう。
――そこにあったのは。
大型の輸送車と、その隣に立つセノ爺の姿だった。
「わざわざ車庫から出してきました」
「え、まさか……?」
メアリーの言葉に先回りするかのように、セノ爺が言う。
「そのまさかです。飛ばして行きますよ」
エンジン音が唸りを上げる。
車は荒野を、凄まじい速度で駆け出した。
街の外へ出た瞬間、景色が一変する。
見渡す限りに広がるのは、崩れた建造物の残骸と、かつて何かがあったことだけを示す荒れ果てた大地であった。
その光景を目の当たりにし、三人は言葉を失った。
街の外を知らなかった彼女たちにとって、それは初めて見る“世界の現実”だった。
「ここも昔は都市として栄えていたんですよ」
セノ爺が静かに言う。
「今では見る影もありませんが」
メアリーは何も言わず、ただ窓の外を見つめ続けていた。
一時間ほど走った先に、それは現れた。
形を保ったまま残る、大きな廃墟。
「あそこが目的地です。かつて教会として使われていた場所です」
車はゆっくりと停まり、四人は外へ出る。
「先ほども言った通り、ここは元は教会でした。――ですが今は、宇宙神獣の巣になっています」
「宇宙神獣の巣……」
小さく呟く。
割れたステンドグラスが、どこか不気味な光を落としていた。
セノ爺は三人に武器を手渡す。
ジェシカとメアリーには剣を、リーファには銃を手渡した。
「宇宙神獣は銃では殺せません。体内にある“コア”を破壊してください」
一拍置き、続ける。
「コアは、人間でいう心臓のようなものです。これを破壊すれば倒せます」
「前衛はジェシカとメアリー。射撃が得意なリーファは状況に応じて援護射撃をお願いします。私は同行しますが、基本的に干渉はしません。貴方たち自身で倒してください」
「……うん、わかった」
それぞれが武器を握り直す。
そして、三人は教会の中へと足を踏み入れた。
中は外観通り、ひどく荒れていた。
瓦礫と破片が散乱し、足場も安定しない。
「上です」
セノ爺の声。
三人は同時に顔を上げる。
そこには、天井に張り付く異形の存在が姿をひそめていた。
「あれが……宇宙神獣?」
「そうです」
それは、巨大な蜘蛛のような姿をしていた。
通常の何十倍もの大きさ。
異様な存在感が、空間そのものを圧迫する。
「何あれ〜……気持ち悪い……」
メアリーの声がわずかに震える。
「気を散らしてはいけません。すぐに来ます」
その瞬間。
蜘蛛は天井から落下し、そのまま凄まじい速度で突進してきた。
「ジェシカ、メアリー。迎え討ちなさい」
ジェシカは即座に剣を構え、振り下ろす。
――しかし。
攻撃は空を切る。
蜘蛛は紙一重で回避し、わずかに距離を取った。
「メアリー、続いてください」
「え、う、うん!」
メアリーも剣を振る。
だが、軽く跳ねるような動きで、蜘蛛は容易くそれを避ける。
何度振っても剣は蜘蛛には当たらない。
「闇雲に振るのではなく、動きを読んでください」
「そんなこと言われても……!」
その時、『バンッ』と銃声が響いた。
リーファの放った弾丸が、蜘蛛の脚の付け根を撃ち抜く。
一瞬、動きが鈍る。
「そこだ!!」
ジェシカはその隙を逃さない。
振り抜いた剣が、蜘蛛の脚を切断した。
支点を失った蜘蛛はバランスを崩す。
「メアリー、今!」
その声に、メアリーは迷いなく剣を振り下ろす。
刃が、確かに命中した。
次の瞬間。
蜘蛛の体は崩れ落ち、どろりと溶けるように床へと広がっていった。




