第4話:実戦Ⅰ(1)
それから毎日、三人は昼になるとポチと遊ぶようになった。
二人が模擬決闘をしている間、残りの一人がポチの面倒を見る。そんな役割分担が、いつの間にか自然とできあがっていた。
中でも、リーファはポチと過ごす時間だけはっきりと分かるほど表情が変わった。
目を輝かせ、とても楽しそうに笑う。
「相変わらずリーファはポチが好きだね〜」
メアリーがからかうように言う。
「うん。大好き」
あまりにも素直な返答に、メアリーは一瞬言葉に詰まった。
「ポ、ポチのどこがそんなに好きなの〜?」
「存在全て」
真顔で答えるリーファに、思わず呆れながらも、メアリーは内心で呟く。
(たしかにポチは可愛いけど……あまりにご熱心すぎない〜?)
そんな様子を見て、ジェシカがくすりと笑った。
「どうしたの?最近リーファがポチに夢中で、相手してもらえないから寂しいの?」
「うっ、うるさい」
メアリーは頬を赤く染め、そっぽを向く。
その反応が可笑しくて、ジェシカはさらに笑みを深めた。
その日も、三人はいつも通りの日課をこなしていった。
そして夜。
セノ爺と共に、食卓を囲む。
今日はジェシカとメアリーが、明日の朝食のサンドイッチの具材で揉めていた。
ジェシカはきゅうり派。メアリーは卵派。
「そんなの、両方入れればいいと思う」
リーファがぽつりと呟く。
「……あ、たしかに」
二人は同時に納得した。
「ちょっといいですか」
その時、普段は寡黙なセノ爺が静かに口を開いた。
「どうしたの?」
軽く咳払いをし、ゆっくりと口を開いた。
「貴方たち三人は、今日に至るまで非常によく訓練に取り組んできました。既に生きていくために必要な戦闘力は十分に身についているでしょう」
三人が真剣に耳を傾けるのを確認し、続ける。
「ただ――今の貴方たちに足りないものが、一つだけあります。 何だか分かりますか?」
「はい!!」
勢いよく手を挙げるジェシカ。
「では、ジェシカ。答えてみてください」
「頭の良さ!!」
きっぱりと言い切る。
その瞬間、二人が即座に反応した。
「頭の良さが足りてないのはジェシカだけ」
「私もそー思う〜」
「二人とも、ひどい!!」
「真面目に聞いてくださいね、三人とも」
軽くたしなめるように、セノ爺が言う。
場の空気が、少しだけ引き締まる。
「話を続けます。先ほど聞いた“足りないもの”――それは、経験です。貴方たちは実際に宇宙神獣と戦った経験がない。ですので――」
「明日から、貴方たちには実際に宇宙神獣と戦っていただきます」
『え……?』
三人の思考が、一瞬止まった。
「セ……セノ爺、今……宇宙神獣と戦うって言った〜?」
メアリーが、震える声で問いかける。
「はい。もちろん、最初は弱い個体からになりますので安心してください」
「いやっ、いくら弱い個体って言っても!」
ジェシカの声が裏返る。
脳裏には先日読んだ記録の内容が浮かんでいた。
あの怪物と、自分たちが戦う。そんな現実が、どうしても結びつかない。
「どうしても怖いと言うのなら無理強いはしません。戦う覚悟ができたら、言ってください」
その後、四人の間に沈黙が流れた。
「……わ、わたし!戦うから〜!!」
沈黙を破ったのは、メアリーだった。
思いがけない言葉に、ジェシカとリーファは目を見開く。そしてセノ爺でさえ、わずかに驚いた表情を浮かべていた。
「もちろん、私も戦う」
リーファが続く。
二人は、同時にジェシカの方を見た。
「……分かった!!戦えばいいんでしょ!!」
観念したように、ジェシカが言う。
「無理に戦わなくてもいいんですよ」
「無理なんてしてない!!」
その言葉には、わずかな意地と覚悟が混ざっていた。
セノ爺は三人の様子を見て、静かに頷く。
「では、明日から実戦に入ってもらいます。今日は早めに休んでください」
食後、三人はいつものようにジェシカの部屋に集まっていた。
「メアリーがあんなこと言うとは思ってなかった」
開口一番、ジェシカが言う。
リーファも小さく頷いた。
「実は私も、よく分からない。ただ……ここで逃げちゃダメな気がしたんだ〜」
メアリーは、少し困ったように笑う。
セノ爺との会話を思い出しながらも、それを口にすることはできなかった。
「今の私たちで勝てるのかなぁ……」
ジェシカが不安げに呟く。
「勝てなきゃ死ぬ。それだけ」
リーファの言葉は、変わらず淡々としていた。
「相変わらず厳しいな〜。でも……今まで以上に気は引き締めた方がいいかもね〜」
「うん……そうだね」
明日に備え。
三人は、それぞれ早めに床に就いた。
――その頃。
セノ爺は、自室で一人、静かに考えていた。
今日の食卓での、メアリーの様子。
(この前少し話しただけで……ここまで変わるとは)
静かに目を細める。
(やはり――)
(彼女しかいませんね)
そして、心の中でその名を呼ぶ。
(アリーチェ……)




