第3話:記録
彼らは突如として我々の星に現れ、そのすべてを奪っていった。
最初に確認されたのは、蜘蛛のような形状をした個体だった。
無論、我々人類も抗った。あらゆる武器と兵器を動員し、徹底的に迎撃した。
その甲斐あってか、当初は互角に渡り合えていた。
しかし、侵攻してきた宇宙神獣はそれだけではなかった。
鳥。鹿。熊。蜂。多種多様な形状を持つ個体が次々と現れたのだ。
その数はあまりにも多すぎた。
やがて我々はなす術もなく押し潰されていった。
そして――
気づけば、この星はすべて奪われていた。
その後、わずかに生き残った人類は彼らについての研究を進めた。
ある者がこう言った。
これは他の動物を蔑ろにし、この惑星を独占してきた我々人類に対する神の憤怒ではないか。
そうして我々は、この存在を「宇宙神獣」と呼ぶようになった。
だが、彼らはそこで止まらなかった。次第に進化を遂げ、やがて動物の枠をも超え、様々な形態へと変化していった。彼らに、人の感情など理解できない。いや、理解する必要すらないのだろう。
ただひたすらに愉悦のままに殺戮を繰り返す。
もはや我々人類の手に負えるものではない。見つからぬよう、隠れて生きるしかないのだ。
「……記録は、ここで途切れてる」
読み終えたジェシカがぽつりと呟いた。
三人は、しばらく何も言えなかった。
言葉を失ったまま、ただ沈黙だけが流れる。
やがて自然とそれぞれの部屋へと戻っていった。
そのまま、静かに床に就く。
――だが。
メアリーだけは、なかなか眠ることができなかった。
先日のセノ爺の言葉が、頭から離れない。
「……」
目を閉じても、思考は止まらないまま――
夜は、ゆっくりと更けていった。
※
翌日。
ジェシカ、メアリー、リーファの三人はいつも通り街へと向かっていた。
夕飯の買い出しだ。他愛もない会話を交わしながら、手早く買い物を済ませる。
そして模擬決闘をしようと、いつも通り広場へと足を運んだ。
だがそこに広がっていたのは、いつもとどこか違う光景だった。
いや、正確には広場そのものは変わっていない。
見慣れた、いつもの場所。
けれど――
その「いつも通り」の中に、“何か”がいたのだ。
「あれ、なんだろう?」
ジェシカが指をさす。
リーファも目を細める。
「ここからじゃよく見えない」
「そんなに大きくはなさそうだけど〜」
「だね。小型の野良犬とかかな?」
ジェシカがそう言うと、三人は慎重に歩み寄った。
一歩ずつ。
距離を詰めていく。
――そして。
「あっ!やっぱり野良犬だ!!」
そこにいたのは、小さな犬だった。
この街で育った三人にとって、それは“初めて見る存在”だった。
写真や絵本の中でしか知らなかったものだ。
「かわいい〜」
正体が分かった瞬間、三人は一斉に駆け出していた。
年頃の女の子である三人とも、可愛いものには目がないのである。
三人は模擬決闘のことなどすっかり忘れ、夢中で犬とじゃれ合った。
普段戦闘訓練と家事しかやっていない彼女たちにとって、この時間はあまりにも新鮮だった。
「せっかくだから、この子に名前を付けよう!」
「賛成」
「いいと思う〜」
ジェシカの提案に、二人はすぐに頷く。
「じゃあ……ベルとかはどうかな?」
「う〜ん……」
反応はいまひとつだ。
「じゃあ次は私ね〜」
メアリーが一歩前に出る。
「エリザベートなんてどう〜?」
「オシャレ!!」
「……華やかすぎる」
ジェシカは目を輝かせたが、リーファは渋い顔をした。
「じゃあリーファはどんな名前がいいの〜?」
「ポチ……とか……」
『………………』
一瞬の沈黙。
――そして。
「ポチって……そのまますぎるでしょ!」
「リーファ、そういうところだけ抜けてるよね〜」
二人の笑い声が弾ける。
リーファはむっとした表情を浮かべた。
その時。
「ワン」
犬が小さく鳴いた。
そして、すり寄るようにリーファの足元へと近づいていく。
「……」
リーファは一瞬驚いたが、すぐに顔を上げる。
そして、どこか誇らしげに言った。
「この子も……ポチって名前が気に入ったみたい」
『……』
それから三人は、しばらくポチと遊び続けた。
「日が暗くなってきたよ。そろそろ帰らないと」
「だね〜。そろそろ帰るよ〜リーファ〜」
メアリーが声をかける。
リーファは名残惜しそうに、ポチの頭を撫でていた。
「リーファがあんなに目をキラキラさせてるの、初めて見たかも」
ジェシカが、小さく囁く。
「だね〜」
二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
その視線の先では、まだ少しだけ名残を惜しむようにリーファがポチを撫でていた。




