7歩目
あいこの温もりから離れがたいマーモットだったが、無情にもダイビングの時間はやってきた。彼女たちはウェットスーツのジッパーを上げ、水面へと滑り出す。
「バイバイ、可愛い子。元気でね」
あいこの柔らかな言葉を残し、二人の姿はセノーテの碧い深淵へと消えていった。けれど、マーモットの決意は固い。彼は陸路を必死に走り、彼女たちの滞在先であるバンガローへ先回りした。開いたままのスーツケースを見つけると、彼は迷わず「東京」への切符――きょうかの予備のフィンが詰まった隙間へと潜り込んだ。
数日後、マーモットが目覚めたのは、メキシコの熱気とは対照的な、冷たく澄んだ空気の中だった。
そう東京であった。
2人は羽田から築地のホテルにバスで移動した。
「ちょっと! 荷物の中に何かいるわよ!」
きょうかの悲鳴が響く。築地近くのホテルで、驚愕の表情を浮かべる二人。しかし、震えながらも真っ直ぐに自分を見つめるマーモットの瞳に、あいこの心は再び射抜かれた。
マーモットはスーツケースから頭を出して
キョロキョロしていた。
「嘘……ついてきちゃったのw 遠いところから、私を追って」
あいこは大感激であった。
彼女の優しく背中をナデナデされるマーモット窓の外にはビル群と冷たい冬の陽光。
山脈とは大違いである。
言葉の壁も国境も越えた、前代未聞の冒険が、ここ東京の片隅で幕を開けたのだ。




