6歩目
メキシコのセノーテ、その静寂な水鏡のほとりでマーモットは目を覚ました。
顔を覗き込んでいたのは、吸い込まれるような瞳をした、白い肌の女性、あいこだった。
「大丈夫? 綺麗な毛並みね……」
彼女の手が背中を撫でる。鳥類やげっ歯類に精通してる、愛でる彼女の指先は、驚くほど優しく、そして迷いがない。これほどまでに全身を「しこたま」触れられたのは、マーモットの人生で初めての経験だった。動物に慣れしたしんでるのがわかる。この人は人より動物のが好きなのだろうと、マーモットの脳で偏見が働く。その心地よさに、彼は思わず彼女の右足にギュッとしがみついた。一目惚れだった。
傍らでは、もう一人の女性、きょうかがダイビング機材を整えている。彼女は日本でインストラクターを務めるプロだったそだ、動物には一切興味がなく、魚に詳しい。特に小魚
「あいこ、そんなネズミ放っておきなよ。見て、この透明度とネオンテトラたちが踊ってる」
二人は洞窟ダイビングの最中だった。
「ねえ、きょうか。東京に帰ったら、まずは築地で新鮮な魚を食べようね」
「賛成。やっぱり日本の味が恋しいわ」
スペイン語しか解さないはずのマーモットだったが、不思議と彼女たちの言葉が理解できた。「東京」――何度も交わされるその響きに、彼は新たな世界の存在を確信する。
「この人と一緒に、トウキョウへ行きたい」
淡水の冷たさに洗われた体で、マーモットは好きな人の足にしがみついたまま、未知なる東の空を想った。




