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ランチはパスタ

 月曜日に出社した遥はいつもより元気だった。

「はい!営業三課の小金井です!」

 今までも別に電話を取らない訳でもなかったのだが、今日はいの一番に電話を取るなど異様にハキハキと対応しているのだ。

 妙なテンションの高さに、課内が「男でも出来たのか」とざわつく。


 怜はちょいちょいと課長に手招きで呼ばれる。

「なぁ国立。小金井の奴ついに壊れちゃったか?行けると思ったんだが仕事量多かったかなぁ」

 課長が苦渋の表情で尋ねる。

「いや、なんか趣味見つけたらしいですよ。元々仕事は本人が思う以上にこなしてたんでそんなに問題ないはずですよ」

 まぁ確かにあのテンションは何も知らない人間から見たら気味悪ぃだろうなと怜は思う。


 課長にしても怜にしても、臆病なところはあるが真面目が持ち味だろうと厳しい仕事を一つ一つこなさせて自信を持たせれば伸びるだろうという判断ではあったのだがちょっと違ったようだ。

 このように元気な姿を見るともっと伸び伸びと焦らずに育成すべきだったかと怜は反省していた。

 臆病な馬を無理矢理に馬群に突っ込ませるようなレースではなく、横浜成彦騎手のようにぽつんと離れた場所から自分のレースをさせるような育成の方が良かったのかなと思う。

「とにかく今回はゆりに感謝だな、いいタイミングで放牧に出してくれたよ」と怜は思うのであった。


 12時を迎えたころ、営業部のガラスドアの外でゆりが手先をひらひらさせていた。

 営業部の男性社員が「もしかして俺が呼ばれているのか」と妙に浮足立つのを見て怜が席を立つ。


「風紀が乱れるからあまり来ないでくれるかな?」

 怜が素っ気なく対応するが

「遥ちゃんは?ランチ誘いに来たんだけど」

 ゆりはニコニコ顔だ。


 「小金井、客だ、客」

 遥の席からはドアが見えないので怜が呼び出す。


「わ、三鷹さんどうしたんですか」

 遥がゆりを見て驚く。

「みーたーかーさん?」

 ゆりが遥を非難するような表情で言う。


「す、すいません。ゆり先輩」

 ちょっと頬を染めつつ遥が言い直す。

 ふふふと満足げな表情をするとゆりは遥をランチに誘うのだった。


 オフィスの周囲にある飲食店街を歩きながら

「なぁ、ランチって後輩にたかりに来たのか。金ないだろ、お前」

 怜は大変失礼な物言いをする。

「そんなわけないでしょ!あんた私からのラインの着信たまには見てよ」

 ゆりが気色ばむ。

「え?」

 といいつつスマホを見る怜。たしかにアプリに着信がたまっていた。

「私、一週間に一度くらいしかライン見ないからなぁ」

 その不穏な言葉にもういいという表情をゆりはするのであった。


 パスタ屋に入り席に座った怜は

「あんた、足遅いから食い逃げとか無理だぞ?」

 とゆりにまた失礼な言葉を投げる。

「そんな事するか!昨日土曜の負けは取り返しましたから!」

 ゆりは言い返すのであった。


「ゆり先輩。昨日も競馬場に行ったんですか?」

 ちょっと残念そうな表情で遥が尋ねる。

「昨日はネットで馬券を買ったのよ。ネットで馬券を買ってテレビで観戦したのよ」

「ネットで馬券が買えるんですか?ハイテクですね」

 色々と疎い遥が驚く。


「昨日はNHKマイルカップって大きいレースがありましたよね。結構荒れたってテレビで言っていましたけど、ゆり先輩馬券獲れたんですか。凄いですね」

「獲れたのよぉ。まだPATに3000円残金あって助かったわ。ああ、PATっていうのはネットで馬券を買うシステムの事よ、遥ちゃん」

 ウキウキ顔でゆりは遥に説明する。

 勉強になりますと遥がメモを取る。


 ゆりは怜からの賛辞も待っていたが、怜はメニューを見るのに夢中で話を聞いていないようだ。

「よし私はこの特盛スペシャルナポリタンにしよう。小金井はもう決まったのか」

「は、はい。私はミートソースのランチセットで」

「ちょっと怜。少しは人の話を聞きなさいよ」

「ほら注文するよ、ゆりは何?」

「・・・・・・カルボナーラのランチセット」

 食い気が収まるまでこいつは人の話を聞かないなとおとなしくゆりも答えるのだった。


「会社いる時はコンビニ飯ばかりだから、こういう店来るのもたまにはいいな」

「はい、怜先輩」

 怜の言葉に遥もウキウキと答える。二人とも遥の配属日以来の会社近くでの外食であった。

「営業部というか、怜あんたはもうちょっと生活に潤いを持ちなさい」

 忙しいのであろうとは思うが生活が荒みすぎだとゆりは思う。


「ところでなんだっけ、ゆり」

「私が昨日のNHKマイル獲ったって話よ」

「え、凄いじゃん。昨日荒れたじゃん。勝ったの9番人気のラグナセンティだっけ」

 ほう、ゆりにしちゃ凄いじゃんって表情で怜が言う。


「そうよ。外国人騎手の3頭馬連ボックス買いで獲れたのよ。馬連4200円はありがたいわ」

 やっと馬券自慢ができたゆりがえへへという表情で満足げに言う。

「やっぱりG1は外国人騎手から行くのがセオリーなんですね」

 一昨日、競馬を見始めたとは思えない発言を遥がする。


「日本人騎手にも頑張って欲しいけれど、やはり外国人騎手は上手いわよね」

 ゆりの言葉に

「はい。まさかあの直線の長い東京のG1で逃げた馬と追いかけた二番手の馬で決まるとは思いもしませんでした」

 またもや一昨日競馬を見始めたとは思えない発言を遥がする。

 ゆりは遥の学習能力の高さに「見どころあるわね、この子」と思ったが、怜は遥が元気なのは良いが少々はまりすぎているのではないかなと危惧するのであった。

 

「ディアーコ騎手のおかげで今日も美味しいパスタが食べられます。いただきます」

 今日のランチがパスタなのは偶然ではないのだろう。

 9番人気ラグナセンティを勝たせたイタリア人騎手に感謝の言葉を述べると届いたカルボナーラを嬉しそうにゆりは食すのだった。


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