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幸せな一日

「まぁチェーン店でいいでしょ」

 武蔵小金井につくやいなやヅカヅカとジャージ姿で居酒屋へ入店する怜に続いてゆりと遥も入店する。

 

「なんか地元の良いお店知らない」とか言われなくて良かったなと遥は思う。

 地元なのにそんなお店知らないからだ。


 本日の金主の怜が上座っぽく2人席に一人で座り、反対側にゆりと遥が座る。

「ほら荷物、私の横に置いていいよ」

 ゆりと遥の荷物を怜が受け取る。


「怜先輩の邪魔にって・・・・・・先輩の荷物は?」

「ん?馬券買うのに荷物なんていらないだろ?財布と新聞とボールペンだけあればいいじゃん」

 その言葉に男前だなぁと遥は思うのであった。


「ゆり、私はとりあえずビールと枝豆、奴頼んどいて。小金井は酒弱いなら無理して飲まなくていいからな」

 そういうと怜はスマホをいじりだす。

 そして音量を絞って東京の最終レースの動画を見始めた。

 ゆりが遥を先導しつつメニューを選びタブレットで注文を終えた時

「よしっ!」

 怜が小さくガッツポーズを決める。


「獲れたの?」

 ゆりがまた当たったのかよという顔で尋ねる。

「ふふふ、馬連1点的中よ。今日は冴えてたなぁ。無理して馬券買いに行って良かった」

 そう言って満面の笑顔で画面を見る怜の顔が、突然曇る。


「あらあら、馬券買い間違えちゃったかしら?」

 冷やかすようにゆりが言う。

「あんたじゃあるまいし、そんなヘマしないよ。ただ馬連が870円なのに枠連1040円でやんの・・・・・・」

 ガックシと怜が肩を落とす。

「良くあることじゃないの。勝てて良しとしなさいよ。いくら馬連買ってたのよ」

「え、3000円」

「は?」

 それを聞くとゆりは注文用のタブレットで一応遠慮しておいた刺身の盛り合わせを注文するのだった。


「あの、枠連って何ですか?」

 ゆりから単勝と馬連という馬券の種類は教えてもらっていたが枠連というのは初めて聞く。

「レースの時に馬に番号が振られているんだけど、その上に枠番っていうのがあるのよ」

 ゆりが遥に新聞を見せつつ教える。

「頭数が少ない時は一つの枠に1頭の時もあるんだけど基本2頭から3頭が振り分けられているのよ。でその枠を選んで馬券を買うのよ」

 

「それってなんか意味があるんですか?」

 遥は質問した。勝てる馬を選ぶのに、その狙いの馬の隣にいるだけの馬も含んで馬券を購入することは無意味に思えたからだ。

「あんまりないわね。しいて言うなら時々これは内枠の馬だけで決まりそうとか、新潟直線1000m戦は外枠が基本強いから狙うとかかな。まぁあまり買わないわね。でも狙った馬がちょうど同じ枠にいる時にたまに買うかしら」

「私は枠連なんて買ったことないし、もうこういうのずるい」

 怜はそういうと生中をキューっと一気に飲み干すのだった。


 ゆりと怜の回答に遥は、こんなプロみたいな二人が買わないなんて不思議な馬券だなぁと思うのだった。

「まぁレガシーね。大昔は馬連がなかったらしいのよ。単勝と枠連だけだったかしら」

「なんにでも歴史ってあるんですね」

 遥はまだまだ知らないことだらけだなと思いつつ、それを嬉しく思うのだった。


「そういえばさ、私は小金井に聞きたいことがあるんだけど・・・・・・」

 そう言われて遥は背筋がぞくっとする。

 仕事の説教かと思ったのだ。だがそうではなかった。

「なんで今日、お前、競馬場行くのにスーツ着てんの?」

 怜はもっともな疑問をぶつけた。競馬場であった時からずっと気になっていたのだ。

「私も気になってたのよ。なんで小金井さん今日スーツ着てきたの」

 ゆりにもまた言われた。


「あの。三鷹さんが正装で来いっていったからです・・・・・・」

 遠慮がちに遥が言う。

「え、私そんなこと言ったかしら?」

 ゆりは本気で覚えていないようだった。

「小金井。一つだけ教えてやる。競馬の予想屋とゆりの言葉は基本聞き流せ」

 怜はこれからの人生のためになることを遥に教えるのだった。


「ところで三鷹さんは競馬場よく行かれるんですか」

 遥は気になっていたことを尋ねてみた。 

「毎週とまでは行かないけれど東京開催の時は月に2、3回かな」

「結構行かれるんですね。そのぉ・・・・・・どんな方と」

 遥は梅酒のソーダ割のアルコールの力を借りて思い切って聞いてみた。

 憧れのゆりに付き合っている男性がいるのは残念ではあるが、地味な性格ではあるがお年頃ではあるので興味はある。


「ああ、こいつよこいつ」

 ゆりが眼前の怜を箸で指し示しつつ言う。

「え?男の人とか言ってませんでしたっけ・・・・・・」

「胸ぺったんだし、ほとんど男みたいなもんでしょう。ねぇ。へへへ」

 ゆりも梅酒のソーダ割だが軽く酔っているようだ。頬がほのかに赤く染まっている。

 怜は手に持った生中をまた飲み干すと、ガツンとゆりの頭に落とすのだった。

 結構、容赦なかった。

 遥は普段、怜先輩厳しいなぁと思っていたがかなり優しくされていると痛感するのだった。


「そういえば、怜。プリンシパルいくら獲ったのよ」

 頭を擦りつつ刺身の盛り合わせに手を出しゆりが聞く。

「馬連2点買いで各5000円。2番人気と3番人気の組み合わせで1320円はラッキーだったねぇ。私、天才ね」

 怜が三杯目の生中を今度は上機嫌で一気に飲み干し、ジョッキをテーブルに叩きつける。

「小金井さん、この刺身の盛り合わせ二人で食べちゃいましょう」

 目が据わった表情でゆりは刺身の盛り合わせを遠慮なく食べる。


「ちょっと、これ私の奢りだろ」

「いや、あんたはしその葉かつまだけ食べてなさい。罪深い!」

 それをみて、遥は楽しいなぁと思いながら梅酒のソーダ割をクーっと飲むのだった。


 宴もたけなわではあるがそろそろいい時間となって来た。

 怜が支払いを済ますため席を先に立つ。

 ゆりと遥が自分の荷物をまとめている時にゆりが遥に声をかける。


「小金井さん、今日は楽しかった?」

「はい。競馬場も面白かったですし、飲み会も楽しかったです。本当に三鷹さん、誘ってくれてありがとうございます。そのまたご迷惑でなければ誘っていただけると嬉しいです」

 いつも遠慮がちな遥だが、程々に入ったアルコールのせいで上機嫌のためとても素直にお礼とお願いが言えた。


「そう良かった。また一緒に競馬場行きましょうね。ところで実は私、お願いがあるのぉ」

 ちょっと酔っているゆりはふにゅーって感じで言う。

「怜だけ怜先輩ってずるくない。私の事もゆり先輩って呼んで欲しいな」


「え、え、よろしいんですか。馴れ馴れしくないですか」

「私、部署で一番年下だから後輩いないのよ。小金井さんがそう呼んでくれたら嬉しいな」


 ちょっとだけ逡巡したが遥は決心した。

「ゆ、ゆり先輩」

 同性同士なのにものすごく照れ臭い。

 それを聞いてゆりは

「えへへ、遥ちゃんはいい子だねぇ」

 そういうとゆりは遥に抱き付き、頭をなでなでするのだった。


 こんな風に人と接する機会がなかった遥は戸惑いつつも今日は人生で一番幸せな一日だと思うのであった。

ここで終わってもいいかなとも思いましたが、もう少し続けます。

よろしくお願いします。

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