第97話 死闘の果てに
【前回までのあらすじ】
無事リンと合流したアルスは、オアシスへ急ぐ。
一方オアシスでは、“闇の使者”フレイとの戦いが激化していた。
ジルに放たれたナイフをギルアが盾となって受けたことで、勢いに乗っていた鷲も弱体化。
一気に形勢が逆転し、ジルとフレイの一対一の戦いとなってしまうのだった。
フレイが剣を高く振りかざしてジルに近寄ってくる。
「先にあの世で“光の使者”が来るのを待っているがいい。
直に“光の使者”も殺してやりますからね」
「くっ。そんなのまっぴら御免だわ! 」
ジルが放った矢が、フレイの左目を貫いた。
「ぐああああああ!! 」
続けてフレイの胸や腕に数本矢がささる。
フレイは左目を抑えながら、よろよろと体勢を立て直した。
「この女……! 八つ裂きにしてやる……ッ!! 」
真っ赤に血走った目がジルを睨みつける。
ジルは臆することなくフレイに対峙した。
「私はアルスたちを信じてる! アルスは必ずここに戻ってくる!
“光の使者”は、必ずあなたたち“闇の使者”を倒すのよ! 」
「遺言はそれで終わりですか? 」
フレイが剣を振りかざす。
ジルも負けじと矢をかまえる。次はどこを狙えば時間稼ぎになるかを考えながら……。
「さあ、死んでもらいますよ! 」
「ギギィ……!! 」
突如フレイの肩にエスペルが飛びついた。
「エスペルさん……!!? 」
「こしゃくな鷲がああああ!! 」
フレイはエスペルを引き剥がそうと暴れた。
しかしエスペルは決して離れようとはしなかった。
【“闇の使者”を攻撃し、ジルさんを守ってください!】
それが主人から下された命令だ。
いかなる厳しい状況であれども、どのような形であれども、主人が力尽きた後であれども……。
決して守るべき対象を死なせてはならないのだ――。
それが、今のエスペルを動かす原動力になっていた。
たとえその体が死に近づこうとも……。
ジルはとまどいつつも、再び狙いを定めた。
せっかくの機会を……。エスペルさんが必死につないでくれたチャンスを……。
――逃してなるものですか!!!!
ジルは弓を引き、一呼吸置き、その手を離した。矢はフレイの頭に命中した。
「ぐっ……!! 」
「やったわ! 」
ジルは思わずガッツポーズをした。しかし、予期せぬ出来事が起きた。
「残念ながら、この程度では死ねないんですよねえ……」
フレイがにんまりと笑う。
「え……? 」
――ここからはスローモーションで何もかもが動いて見えた。
フレイが剣をゆっっっくりと振りかざす。
フレイの肩に掴まっていたエスペルが、剣よりも早くジルの目の前に移動し、盾となって攻撃を受ける。
宙を真っ赤な血が彩り、苦痛に歪んだ悲鳴が響き渡る。
バキッ……。
弓が真っ二つに切られ、地面に落ちる。
「え……」
自然にそう発した瞬間、ジルの脳裏にガルトデウスを出発するときのことが思い起こされた。
それは、シナトたちに見送られている時のことだった。
「ジルさん。あなたは立派な弓の腕で、私たちを危機から救ってくださいました。
お礼として、こちらの弓を授けましょう」
そう言ってシナトが差し出したのは、この国で使われている白い弓だった。
「これは兵たちが使っている弓です。
軽くて丈夫な割に、しっかり的を射ることができるんですよ。
お役に立てるかわかりませんが、どうかこれからの旅で役立ててください」
「まあ、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「……それとジルさん。その弓は、いつか必ず壊れてしまうときがやって来ます。
しかし、それは永遠の別れではありません。次の弓と出会うためのきっかけなんです」
「……きっかけ? 」
「はい。この弓と引き換えに、よりよい弓をひきあわせてくれる。
これは、古くからそんな言い伝えのある弓なんです。
どうか、次に素敵な弓と出会えますように……」
「ありがとうございます……」
「よかったね、ジル。弓を持ったジルがいてくれれば、僕らも心強いよ!」
アルスの屈託のない笑顔が、ジルを少しだけ安心させた。
――ここでジルはふと我に返った。
(今、何が起きたの……?)
目の前では、エスペルがうつ伏せで倒れている。
地面が赤く染まり、血がジルの足元にも届いている。
「エスペルさん……? エスペルさん……!! 」
(私を庇って、エスペルさんが斬られてしまった……! )
「ああ。ことごとく目障りな鷲ですねえ…… 」
フレイの不機嫌な低い声が聞こえる。
「しかし、これで邪魔者は完全にいなくなりました。
おまけにあなたの弓も壊れたようですしね。
これでもう、誰もあなたを守ってはくれませんよ。
あなたの死は、ここで確定したも同然です……!! 」
その時にジルは、弓が壊れて使えないことを悟った。
――弓が、壊れたんだ……。
ここでシナトの言葉が思い起こされた。
【次の弓と出会うためのきっかけなんです】
(シナト様……、ごめんなさい。
私を信頼して素敵な弓を与えてくださったのに……。
私、新しい弓に出会う前に、死んでしまいそうです。
ご期待に添えなくて、本当にごめんなさい……。)
剣を振りかざしたフレイが、目の前に迫る。
もうジルには動ける気力がなかった。
真っ二つに割れた弓を目にすると、余計に動くことができなかった。
もう、ここまでなんだ。
(……ああ。せめて最後に……。アルスとリンに会いたかったわ。
カストルや兵長も、どうしてるでしょう……。
時間稼ぎ、できなくてごめんなさい。
私に十分な力があれば……。アルスとリンを助けられるほどの、十分な力があれば……。
この状況は、多少は変えられていたかしら……??? )
〈よ……〉
〈娘よ……〉
〈私の 大切な 娘よ……〉
どこからか、今にもかき消えそうな声が聞こえてきた。
「え……? 」
〈私に 祈りを 捧げなさい……。
あなたに 新しい 加護を 与えましょう…… 〉
(王宮で聞いた声だわ……! あなたは誰? どこにいるの? )
〈時間が ありません……。早く……。私に 祈りを…… 〉
ジルは戸惑いつつも、両手を胸の前で組み、祈りを捧げた。
「ほお、最後の神頼み、ですか。……安心してください。すぐあの世へ送ってやりますから。
おまえのあとに“光の使者”、そしてあの魔導師です。
あの世で仲良く暮らすがいいさ……! 」
フレイが剣を振り下ろした。
その時、眩い光が差し込んだ。
「え……? 」
「う、なんだこの光は……!? 」
フレイは光に眩み、動けなくなった。
「この光は……? もしかして、あそこから……? 」
ジルは砂漠に横たわる神の像に近づいていった。
緑色の光が彫像の中から漏れ出しているようだ。
「これ、女神イレニア様の……」
ジルは後ろを振り返った。フレイはまだ動けないようだ。
――今しかない!
ジルは何かに突き動かされたように駆け寄り、光を放つ“何か”を手で探した。
やがて硬い感触のものが手の中に収まった。
(これでアルスたちが助かるのなら……!! )
ジルが手にしていたのは、緑色の宝石だった。
「これは、何……? エメ、ラル、ド……? 」
〈さあ 私の……。大切な 大切な 娘よ …… 〉
手の中のエメラルドは形を変え、弧を描きながら上下に伸びていった。
「な、何!? ……何が起きてるの!? 」
やがて光が引くと、エメラルドは立派な弓に変貌をとげていた。
植物のように綺麗な流線の装飾が施されており、中心部分に先程のエメラルドが埋め込まれている。
もうジルに迷いはなかった。
「この弓があれば、“闇の使者”と巨人を倒せるかもしれないわ……! 」
――なんとジルがエメラルドの持ち主だった!? 次回、ついに決着か……!?
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