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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第96話 砂漠の攻防戦

【前回までのあらすじ】


ギルアの元に戻されたアルスは、リンを連れてくるために砂漠へ向かう。

一方ギルアもジルを救うために“闇の使者”に対峙する。

戦闘狂と化した鷲が、フレイを圧倒する。


その頃アルスは街の中を走っていたが、ミーミルにより行手を阻まれそうになっていた。

強引に道を開くため杖の力を使うと、その場に倒れてしまう。

酸が降り注ごうとしたそのとき、リンが現れるのだった。

「アルス君、長い間1人で戦わせてごめんなさい! 私も一緒に戦うわ! 」


 リンは花嫁衣装のドレスの(すそ)をキュッと結び、動きやすいように整えた。

 アルスもリンの力で回復し、立ち上がれるようになった。


「本当にありがとう、リン。

リンがいなかったら、酸に溶かされていたところだったよ」


「私が眠ってしまってる間に、こんな状況になっていたなんて……。

話は全部カストル君から聞いたわ。

そうそう、カストル君も途中まで一緒にきてくれてたんだけど、街の様子がおかしかったから、兵長と一緒にみんなを守って、って行ったの」


「そうだったのか……。リン、ぜひ一緒にきて欲しい場所があるんだ。

この国の神の像が、オアシスの方で見つかったんだ。

だけど、僕では加護を受けられなくて……。

リン、君なんだよ。大地の女神イレニア様の加護を受けるのは……!」


「えっ……、私、なの……?」


 リンは目を丸くした。リンもアルスが加護を受けるものだと信じて疑わなかったようだ。


「そうなんだ。それで一旦引き返そうとしたときに、“闇の使者”が現れて……。

ジルとギルア……あ、ハヤブサ大会で1位を取った人なんだけど。

今2人だけで必死に食い止めてくれてるんだ。

リンが来るのを待っているんだよ」


「そうなのね! ……わかったわ、行きましょう!

アルス君、歩ける? このバリア、私が動くのに合わせて移動できるのよ」


「すごいね! これなら、溶かされずにいけそうだ」


 アルスとリンは酸を弾きながら、急いでオアシスの中心部へ向かった。


◇◇


「あああ……素晴らしい!」


 一方オアシスの中心部で、フレイは歓喜の声をあげていた。


「330号! やはり私の目に間違いはない! ……最高傑作(さいこうけっさく)の誕生だ!

このままこの国を溶かし尽くしてしまえ!!! 」


 すかさずエスペルの攻撃が入る。続いてジルの矢も飛んできた。

 しかしフレイは攻撃パターンが読めたのか、さらりとかわすとナイフをジルに向けて投げた。

 エスペルが盾となりナイフをはじくと、フレイに襲いかかった。

 

「エスペルさん、ありがとう! ……今度は外さないわよ! 」


 ジルは矢を数本続けて放った。

 1本はフレイの肩に、2本目は外し、3本目はフレイの足に命中した。

 よろめいたところにエスペルの鉤爪(かぎづめ)が刺さる。


「ぐはっ…… 」


「ギヤアアアアア!! 」


 エスペルはフレイをおもいきりひっかいた。

 ローブが敗れ、仮面も粉々に砕け散った。赤い目の男性の顔が(あら)わになった。


「くっ……このままわたくしを殺すつもりですか?

残念ながら、わたくしを倒せたとしても。330号は止まりませんよ。

あの核を壊さない限り、動き続ける存在ですからね」


 ミーミルはもはや巨人の姿ではなく、国中を覆い尽くすドームのような姿になっていた。

 こちらにも酸の塊がボトボト落ちてきており、あちこちで地面が溶かされ始めていた。

 ドームの中心部分、つまり一番高い場所には、赤くて丸い核が見える。

 なるほど、あれを破壊しないことには、酸のドームを消すこともできないわけだ。

 しかし、ずいぶん高くて遠い場所に移動してしまった。

 あの核を壊すためには、空を飛んで近くまで行く必要があるだろう。

 地上からの攻撃ではまったく歯がたたないに違いない。


「大丈夫よ。新しい加護を受ければなんとかなるわ」


 ジルは己を奮い立たせるために言った。


「一体その自信はどこから来るのでしょうね。

さて、同じような攻撃もそろそろ飽きてきましたね。

顔も見られてしまったことですし、このまま生かしておくのもわたくしのプライドが許しません。

(いさぎよ)く散ってもらいますよ! 」


 フレイはナイフを次々と投げつけてきた。

 

「え……? 」


 ジルは避けられない。


――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク……ッ!!


 ジルはおそるおそる目を開けた。

 目の前でギルアが盾になっており、ナイフをすべて受けていた。

 顔、両腕、胴体、両足……。全身にくまなくナイフがささり、出血がひどかった。

 ほんの少しかすった程度でも(おびただ)しい出血量だ。

 ギルアは今全身に激痛が広がり、意識が飛びそうになるのを必死にこらえている様子だった。


「ギルアさん……!! 」


「ジルさん……、怪我は、ありま、……せん、か? 」


「ギヤアアアアア!! 」


 主人(あるじ)の怪我をみて激昂(げっこう)したエスペルが反撃にでる。

 フレイの首を(つか)みとると、ギチギチと絞め上げた。


「ぐっ……う……あああっ……」


 フレイはだんだん足が宙にうき、抵抗もできずにいた。

 首を絞める力があまりにも強く、下手に動けば(のど)を握りつぶされて死ぬ流れだろう。

 何か策はないか、と必死に考えを巡らせていたが、だんだん意識が遠のいていくことに気づいた。

 なるほど、意識を失うと考えることもできなくなるのですね。発見です……。

 

「ジルさん……。僕は、大丈夫です……。それよりも、矢を。

矢を、止めてはいけません。

エスペルが動きを封じている、今のうちに……っ」


 ここまで言い切ったところで、ギルアは血を吐いた。


「……ギルアさん!! あなたが大丈夫じゃないわ!

待って! かばんに薬があったはず……!」


「いいんですっ。さあ、はやく……」


「っ……」


 ジルは言われた通りに弓を構えるが、やはり気が動転(どうてん)して狙いを定められない。


「できないわ……。目の前で死にそうな人がいてるのに……」


「はや、く……」


 そこまで言って、ギルアは仰向けに地面に倒れた。


「ギルアさん……!? 」


 ジルはギルアに駆け寄り、両肩をゆすった。

 砂がじわじわと赤く染まっていくのがわかる。


「僕にも……、限界が、来て、しまった……ようです……」


「待って! まだ間に合うわ! 今薬を出すから……! 」



「ふふ……はは、ははは。どうしたのですか、鷲よ。

主人(あるじ)が倒れたとたん、力が弱まりましたよ」


 フレイのしわがれた声が響き渡った。


「え……!? 」


 今度はエスペルの勢いがなくなり、フレイの首をつかむ腕を、フレイが握り返していた。

 足も地についており、一気に形勢逆転(けいせいぎゃくてん)したことを物語っていた。

 フレイは1本の注射針を取り出すと、エスペルの腕に何かを投与した。


「エスペルさん……!? 」


 謎の液体がエスペルに打たれると、エスペルは激しい痙攣(けいれん)を起こした。


「ギ……ギギギギギ……」


 非常に苦しそうにもがいている。


「あともう少しでしたのに、残念ですね。

魔力の消えた魔導師(まどうし)など脅威(きょうい)ではないということが証明されましたね。

そうだ。あなたが死んだあと、主人(あるじ)解剖(かいぼう)してあげましょう。

“光の使者”と魔導師(まどうし)とそこの一般人。

組織の違いさえわかれば、我々にも有利になるというものです」


 フレイはエスペルを強く引き離した。

 エスペルはズサーッと地面に倒れ、そのまま動かなくなった。


「さあ、これで邪魔者は皆いなくなりました。

……あとは、()()()()()()だけです」


 フレイは不気味な笑みを浮かべながら、ジルに歩み寄った。


「ギヤアアアアア!! 」


 その言葉に反応してか、エスペルが残った力をふりしぼって、フレイの足を(つか)んだ。

 しかし(つか)んだ指先から、ぼろぼろと石のように崩れていく……。


「まだ生きていたか……」


「エスペルさん、もうやめてください。

私のことは大丈夫です! ……あなたが死んでしまいます!! 」


 フレイはもう片方でエスペルを何度も何度も蹴り続けた。


「ギヤ……ッ!! 」


「ほら、どうしたのですか? やれるものならやってごらんなさい。

あなたの主人(あるじ)を殺したやつが目の前にいるんですよ??

(かたき)を打つなら、今しかありませんよ?


…………ま。無理でしょうね。

今のあなたには、細胞が少しずつ死滅(しめつ)していくのを、黙ってみていることしかできませんからね」


 そのとき、一本の矢がフレイの足元につきささった。ジルが矢を放ったのだ。


「今すぐエスペルさんから足をのけてください……! 今すぐに、です!

これ以上、私の大切な人を侮辱(ぶじょく)するのはやめてください。

次はあなたの頭を射抜きますよ!! 」


 ジルは次の矢を構えた。

 2本目がフレイの太ももにストレートに当たった。3本目も。


「ほおう。……あなたは、どうやら(しゃく)に障る存在のようですね。

今、はっきりと断言できます 」


 フレイはエスペルを一際(ひときわ)強く踏みつけたあと、ジルに向き直った。


「本来であれば“光の使者”を殺すときのために取っておくつもりでしたが、まあいいでしょう。

どの道結果に変わりはありません 」


 フレイは黒い剣を取り出した。黒く長い剣で、竜の紋章が入っている。


「これはわたくしたちが“処刑(しょけい)用”に用いている剣で、いざという時にしか使いません。

つまり、この剣を目にした時点で、あなたの死は予定よりも早く確定したというわけです! 」



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