第96話 砂漠の攻防戦
【前回までのあらすじ】
ギルアの元に戻されたアルスは、リンを連れてくるために砂漠へ向かう。
一方ギルアもジルを救うために“闇の使者”に対峙する。
戦闘狂と化した鷲が、フレイを圧倒する。
その頃アルスは街の中を走っていたが、ミーミルにより行手を阻まれそうになっていた。
強引に道を開くため杖の力を使うと、その場に倒れてしまう。
酸が降り注ごうとしたそのとき、リンが現れるのだった。
「アルス君、長い間1人で戦わせてごめんなさい! 私も一緒に戦うわ! 」
リンは花嫁衣装のドレスの裾をキュッと結び、動きやすいように整えた。
アルスもリンの力で回復し、立ち上がれるようになった。
「本当にありがとう、リン。
リンがいなかったら、酸に溶かされていたところだったよ」
「私が眠ってしまってる間に、こんな状況になっていたなんて……。
話は全部カストル君から聞いたわ。
そうそう、カストル君も途中まで一緒にきてくれてたんだけど、街の様子がおかしかったから、兵長と一緒にみんなを守って、って行ったの」
「そうだったのか……。リン、ぜひ一緒にきて欲しい場所があるんだ。
この国の神の像が、オアシスの方で見つかったんだ。
だけど、僕では加護を受けられなくて……。
リン、君なんだよ。大地の女神イレニア様の加護を受けるのは……!」
「えっ……、私、なの……?」
リンは目を丸くした。リンもアルスが加護を受けるものだと信じて疑わなかったようだ。
「そうなんだ。それで一旦引き返そうとしたときに、“闇の使者”が現れて……。
ジルとギルア……あ、ハヤブサ大会で1位を取った人なんだけど。
今2人だけで必死に食い止めてくれてるんだ。
リンが来るのを待っているんだよ」
「そうなのね! ……わかったわ、行きましょう!
アルス君、歩ける? このバリア、私が動くのに合わせて移動できるのよ」
「すごいね! これなら、溶かされずにいけそうだ」
アルスとリンは酸を弾きながら、急いでオアシスの中心部へ向かった。
◇◇
「あああ……素晴らしい!」
一方オアシスの中心部で、フレイは歓喜の声をあげていた。
「330号! やはり私の目に間違いはない! ……最高傑作の誕生だ!
このままこの国を溶かし尽くしてしまえ!!! 」
すかさずエスペルの攻撃が入る。続いてジルの矢も飛んできた。
しかしフレイは攻撃パターンが読めたのか、さらりとかわすとナイフをジルに向けて投げた。
エスペルが盾となりナイフをはじくと、フレイに襲いかかった。
「エスペルさん、ありがとう! ……今度は外さないわよ! 」
ジルは矢を数本続けて放った。
1本はフレイの肩に、2本目は外し、3本目はフレイの足に命中した。
よろめいたところにエスペルの鉤爪が刺さる。
「ぐはっ…… 」
「ギヤアアアアア!! 」
エスペルはフレイをおもいきりひっかいた。
ローブが敗れ、仮面も粉々に砕け散った。赤い目の男性の顔が露わになった。
「くっ……このままわたくしを殺すつもりですか?
残念ながら、わたくしを倒せたとしても。330号は止まりませんよ。
あの核を壊さない限り、動き続ける存在ですからね」
ミーミルはもはや巨人の姿ではなく、国中を覆い尽くすドームのような姿になっていた。
こちらにも酸の塊がボトボト落ちてきており、あちこちで地面が溶かされ始めていた。
ドームの中心部分、つまり一番高い場所には、赤くて丸い核が見える。
なるほど、あれを破壊しないことには、酸のドームを消すこともできないわけだ。
しかし、ずいぶん高くて遠い場所に移動してしまった。
あの核を壊すためには、空を飛んで近くまで行く必要があるだろう。
地上からの攻撃ではまったく歯がたたないに違いない。
「大丈夫よ。新しい加護を受ければなんとかなるわ」
ジルは己を奮い立たせるために言った。
「一体その自信はどこから来るのでしょうね。
さて、同じような攻撃もそろそろ飽きてきましたね。
顔も見られてしまったことですし、このまま生かしておくのもわたくしのプライドが許しません。
潔く散ってもらいますよ! 」
フレイはナイフを次々と投げつけてきた。
「え……? 」
ジルは避けられない。
――ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク……ッ!!
ジルはおそるおそる目を開けた。
目の前でギルアが盾になっており、ナイフをすべて受けていた。
顔、両腕、胴体、両足……。全身にくまなくナイフがささり、出血がひどかった。
ほんの少しかすった程度でも夥しい出血量だ。
ギルアは今全身に激痛が広がり、意識が飛びそうになるのを必死にこらえている様子だった。
「ギルアさん……!! 」
「ジルさん……、怪我は、ありま、……せん、か? 」
「ギヤアアアアア!! 」
主人の怪我をみて激昂したエスペルが反撃にでる。
フレイの首を掴みとると、ギチギチと絞め上げた。
「ぐっ……う……あああっ……」
フレイはだんだん足が宙にうき、抵抗もできずにいた。
首を絞める力があまりにも強く、下手に動けば喉を握りつぶされて死ぬ流れだろう。
何か策はないか、と必死に考えを巡らせていたが、だんだん意識が遠のいていくことに気づいた。
なるほど、意識を失うと考えることもできなくなるのですね。発見です……。
「ジルさん……。僕は、大丈夫です……。それよりも、矢を。
矢を、止めてはいけません。
エスペルが動きを封じている、今のうちに……っ」
ここまで言い切ったところで、ギルアは血を吐いた。
「……ギルアさん!! あなたが大丈夫じゃないわ!
待って! かばんに薬があったはず……!」
「いいんですっ。さあ、はやく……」
「っ……」
ジルは言われた通りに弓を構えるが、やはり気が動転して狙いを定められない。
「できないわ……。目の前で死にそうな人がいてるのに……」
「はや、く……」
そこまで言って、ギルアは仰向けに地面に倒れた。
「ギルアさん……!? 」
ジルはギルアに駆け寄り、両肩をゆすった。
砂がじわじわと赤く染まっていくのがわかる。
「僕にも……、限界が、来て、しまった……ようです……」
「待って! まだ間に合うわ! 今薬を出すから……! 」
「ふふ……はは、ははは。どうしたのですか、鷲よ。
主人が倒れたとたん、力が弱まりましたよ」
フレイのしわがれた声が響き渡った。
「え……!? 」
今度はエスペルの勢いがなくなり、フレイの首をつかむ腕を、フレイが握り返していた。
足も地についており、一気に形勢逆転したことを物語っていた。
フレイは1本の注射針を取り出すと、エスペルの腕に何かを投与した。
「エスペルさん……!? 」
謎の液体がエスペルに打たれると、エスペルは激しい痙攣を起こした。
「ギ……ギギギギギ……」
非常に苦しそうにもがいている。
「あともう少しでしたのに、残念ですね。
魔力の消えた魔導師など脅威ではないということが証明されましたね。
そうだ。あなたが死んだあと、主人も解剖してあげましょう。
“光の使者”と魔導師とそこの一般人。
組織の違いさえわかれば、我々にも有利になるというものです」
フレイはエスペルを強く引き離した。
エスペルはズサーッと地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
「さあ、これで邪魔者は皆いなくなりました。
……あとは、あなたを殺すだけです」
フレイは不気味な笑みを浮かべながら、ジルに歩み寄った。
「ギヤアアアアア!! 」
その言葉に反応してか、エスペルが残った力をふりしぼって、フレイの足を掴んだ。
しかし掴んだ指先から、ぼろぼろと石のように崩れていく……。
「まだ生きていたか……」
「エスペルさん、もうやめてください。
私のことは大丈夫です! ……あなたが死んでしまいます!! 」
フレイはもう片方でエスペルを何度も何度も蹴り続けた。
「ギヤ……ッ!! 」
「ほら、どうしたのですか? やれるものならやってごらんなさい。
あなたの主人を殺したやつが目の前にいるんですよ??
仇を打つなら、今しかありませんよ?
…………ま。無理でしょうね。
今のあなたには、細胞が少しずつ死滅していくのを、黙ってみていることしかできませんからね」
そのとき、一本の矢がフレイの足元につきささった。ジルが矢を放ったのだ。
「今すぐエスペルさんから足をのけてください……! 今すぐに、です!
これ以上、私の大切な人を侮辱するのはやめてください。
次はあなたの頭を射抜きますよ!! 」
ジルは次の矢を構えた。
2本目がフレイの太ももにストレートに当たった。3本目も。
「ほおう。……あなたは、どうやら癪に障る存在のようですね。
今、はっきりと断言できます 」
フレイはエスペルを一際強く踏みつけたあと、ジルに向き直った。
「本来であれば“光の使者”を殺すときのために取っておくつもりでしたが、まあいいでしょう。
どの道結果に変わりはありません 」
フレイは黒い剣を取り出した。黒く長い剣で、竜の紋章が入っている。
「これはわたくしたちが“処刑用”に用いている剣で、いざという時にしか使いません。
つまり、この剣を目にした時点で、あなたの死は予定よりも早く確定したというわけです! 」
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