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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第98話 生命のエメラルド

【前回までのあらすじ】


ジルと“闇の使者”フレイの攻防が続く中、ついにジルの弓が破壊されてしまう。

弓がなくなったジルは、抵抗することを諦める。

そのとき、不思議な声が聞こえ、言われるままに祈りを捧げるジル。

それに呼応するように神の像から光が溢れ、導かれるように手にしたのは、エメラルド。

そして宝石は弓に姿を変えるのだった。

 手にしたエメラルドは立派な弓に変貌(へんぼう)した。

 ジルは一瞬戸惑ったが、自分に与えられた役目、そしてこれからすべきことを察した。

 もはや迷いは微塵(みじん)もなかった。


「……この弓があれば、“闇の使者”と巨人を倒せるかもしれないわ……! 」


 “闇の使者” フレイは光がひいたことでようやく動けるようになり、再度剣を構えた。


「くっ、なんだったんだあの光は……! つくづくわたくしの邪魔をしてくれる……ッ!!

さあ、これで観念するがいい……! 」


 しかしジルが手にする弓を目にしたとたん、ピタリと動きを止めた。

 フレイは少し驚いたような、かつ興味深そうな顔をし、(しま)いには笑みをこぼした。


「……ほう。あなたも“光の使者”だったってわけですか……」


 ジルは(おの)ずと弓を引いた。


「女神イレニア様が与えてくださった力。……私はまだ戦えるわ! 」


 ジルが弓を引くのに合わせて、矢がまばゆい光に包まれた。

 これは今までになかったことだ。

 この弓が――エメラルドが姿を変えた弓が――、通常の弓とは訳が違うことを証明していた。


 と、ここで予想外のことが起きた。

 フレイが剣をローブに納め、両手を上にあげたのだ。


「おおっと。これ以上あなたとやりあうつもりはありませんよ 」


「……ええっ? 」


 拍子(ひょうし)抜けしたジルは一瞬弓を下げそうになった。


(いや、待って。これも(わな)に違いない。

(すき)をついて攻撃してくるような人よ。

こちらが気を抜いた瞬間に攻撃をしかけてくるはずだわ! )


  ジルは再び弓を構え、フレイの頭に狙いを定めた。

  矢が一層まばゆく光る。

 いつでも矢を放てるように、相手の出を(うかが)うことにした。


「……おやおや。意外と血の気の多い人なんですね。嫌いじゃないですよ、そういう人は。

……ですが先ほど宣言したとおり、わたくしはもう戦うつもりはありません。

わたくしにはまだまだやるべきことが残っていますからねえ。

ここで命を落としたくないだけです 」


フレイは背中を向けると、矢のささった左目を抑えつつ、足を引きずりながら離れていった。


「ちょ、ちょっと……! 待ちなさいよ! 」


 ジルは弓を構えるも、その手は震えていた。

 相手の急激な態度の変化に調子を狂わされ、瞬時(しゅんじ)に結論を出せなかった。


(これだけ戦いあって、ギルアさんもエスペルさんも犠牲(ぎせい)になって……。

私が“光の使者”になったとたんに、この態度……。 

どうしてそんな身勝手なことができるの?

わからない。納得できない。私たちの苦労が報われないわ……!

……何を迷う必要があるの? 相手は今無防備なのよ。剣もないし、背中を向けているのよ。

ここで倒さないと、今まで時間稼ぎした意味がなくなってしまうわ。

それに、ギルアさんとエスペルさんがつないでくれたチャンスを、棒に振ることになるわ……!

だから、矢を放つのよ! 今すぐに。今すぐよ、矢を放って……ジル!! )


 ジルは己の信念に従って矢を放った。

 光を帯びた矢はまっすぐに飛び、フレイの背中につきささった。


「ぐ……うああ……っ……!! 」


 一際(ひときわ)苦しそうなうめき声をあげて、フレイは膝から崩れ落ちた。

 矢が当たった箇所から、黒い煙のようなものが立ち(のぼ)っている。


「おのれ……!!  ()()……!!!! 」


「あなたが勝手に戦闘を解除をしようと、私には関係ないわ。

あなたはこの国の人たちも、私の大切な人たちも傷つけた。

このままおとなしく引き下がる私じゃないってことを、思い知らせてやるわ……!! 」


 ジルはさらにもう1本の矢を構えた。矢が(まばゆ)く光る。


「くっ……。くくくくく……。ふははははははははは……」


「何がおかしいの!? 」


「これはいいデータが取れそうだ。むしろ幸運というべきか…… 」


「……? 何の話をしているの? 」


「この矢は私に悪影響を及ぼしています。この黒い煙がまさにその証拠です。

“聖なる竜の血”にとって誠に相性が悪いということがわかりましたよ 」


「……な、何を言っているの……? 」


「実によい手土産(てみやげ)ができました。これで陛下からもお褒めいただけるに違いない。

意識と体力があるうちに、早めに戻らなければいけませんね。

……それではまたどこかで。あ、330号の処理は頼みましたよ」


 そういうと、フレイはスッと姿を消した。


 ジルはその場にペタリと崩れ落ちた。

 緊張の糸が一瞬で()けたのだろう。今になって恐怖からくる震えがとまらなかった。


「何……。どういうことよ……。わからない。わからないわ。

……いえ、待って。今は気持ちを切り替えなくちゃ! 」


 ジルはゆっくり立ち上がった。

 近くにはジルの盾となってナイフを受けたギルアと、最後まで力を振り絞ったエスペルが倒れている。


「ギルアさん……。エスペルさん……。“闇の使者” はいなくなったわ。

あなたたちの力なしには達成できなかったことよ!

だけど、次は巨人を倒さなきゃいけないわ…… 。

一体、どうすればいいのかしら……。

ギルアさん、あなたならどんな策略(さくりゃく)を立てるかしら……? 」


 空を見上げると国中を取り囲むように酸のドームが覆っており、雨のように酸が降り注いでいた。

 地面や周りの木々に落ちると、ジュウウウ、と音をたてて溶かされていった。


「アルスとリンが来るまで、私が守らなくちゃ……! 」


 ジルはギルアの両肩を後ろから持ち上げ、エスペルの側までひきずってきた。

 そして、自分が羽織っている上着を2人の上にかぶせた。


「これなら少しの間は雨を受けなくて済むわ。……いたっ……」


 上着を脱いだことで今度はジルが酸の雨を受けることとなった。

 随所(ずいしょ)に熱湯を浴びたような痛みと、肌がただれていくのがわかる……。

 ジルは弓を抱きしめ、必死に祈りを捧げた。


「大地の女神イレニア様……。私に大切な力を分け与えていただき、感謝いたします。

ですが、私に何ができるでしょうか?

どうか、アルスたちが戻るまでの間、ギルアさんとエスペルさん、それとこの国の人たちが助かりますように……」


 そのとき、頭の中に直接語りかけてくるような声が聞こえてきた。

 優しくて包容力があり、どこか神聖な雰囲気のある女性の声だった。


〈私は大地の女神イレニアの精。あなたが新しいエメラルドの持ち主ですね〉


「え……? 」


 ジルは損壊(そんかい)の激しい神の像のほうに振り向いた。

 

(もしかして、この像から声が……? そういえば、アルスも祈りを捧げてたわ……)


「ええ、そうみたいです…… 」


 ジルはまだ自信が持てなかった。

 本当に自分が宝石に選ばれたのか、今になって疑心暗鬼(ぎしんあんき)に陥ってしまった。

 イレニアの精は続けた。


〈その宝石は、「生命のエメラルド」と呼ばれる代物(しろもの)です。あなたにしか扱うことができません。

宝弓(ほうきゅう)に姿を変えたのがまさにその証拠です。

さあ、時間がありません。あなたにイレニアの加護を授けましょう〉


「え。加護を受けるのは、私……ですか? 」


〈はい、そうです。あなた以外には受けられない加護です。

さあ、弓をこちらに……〉


「は、はい……」


 ジルは弓を前に差し出した。

 弓は(おの)ずと宙に浮き、天からまばゆい光が降り注いだ。

 その光景を目にしながら、ジルはイレニアの精の言葉を心の中で反芻(はんすう)していた。


(イレニア様の加護を受けられるのは、このエメラルドだけ――。

アルスでもリンでもなかったんだわ……。

ああ、なんていう運命のいたずらかしら……)


〈さあ、弓に新しい力が宿りました。『イレニアの息吹(いぶき)』です。

悪しきものを(つらぬ)くだけでなく、命を無くした大地に新しい息吹を吹き込むこともできます。

さあ、まだやるべきことは残っています。これはあなたにしかできないことですよ〉


「はい……。ありがとう、ございます…… 」

 

 ここでふと気になっていたことを尋ねた。


「あの、さっき私に話しかけてくれたのも、あなたですか?

『私の 大切な 娘よ』って……」


 しかし思わぬ答えが返ってきた。


「いえ、私があなたに語りかけたのは、これが初めてです。

それでは、健闘を祈っています。あなたに光の加護がありますように…… 」


 それきり、イレニアの精の声は聞こえなくなった。


「……じゃあ、あの時の声は、誰だったのかしら……? 」


 ジルは無意識に弓を握りしめた。


「でも、私を導いてくれたのは事実だわ。

どこかでお会いした時に、お礼を言わなくちゃ」

 

 そのとき、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「ジルー! ジルーーーー!! 」


 ハッと振り向くと、アルスとリンの姿が見えた。

 リンのトパーズの力でバリアを張っているからか、上から降る酸を回避している。

 ジルは急に安堵(あんど)し、涙で視界がゆらめいていた。


「アルス……!  それに、リンも…… 」


 ジルも思わず走り出していた。



 次回、ついに巨人を倒せる……? 戦いの行方はいかに――!?

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