第94話 思わぬ宣告
【前回までのあらすじ】
砂漠に避難していたカストルは、ミーミルの咆哮を聞き、アルスたちの安否を心配していた。
そのとき、ようやくリンが目を覚ます。
現状を知ったリンは、オアシスに向かって駆け出すのだった。
一方、ミーミルの様子を遠くから眺めていたフレイは、
ミーミルに向けて注射針を放つ。
ミーミルは酸の巨人に変貌し、攻撃を繰り出していたギルアにとって不利な状況に陥ってしまう。
そのとき、アルスは神の像がオアシスに捨てられていたことを思い出すのだった。
〈残念ながら、女神イレニアの加護を受けるのは、あなたではありません〉
「……ええっ!? ……ど、どういうことですか? 」
突然の宣告にアルスは頭が真っ白になった。予想外の出来事に言葉が出てこなかった。
ドクン、ドクン、ドクン――……。
心臓が早鐘のように鳴り響き、むなしく消えていく。
「……どうしたの? アルス」
ジルが不安げにアルスの顔をのぞいた。
イレニアの精の声はアルスにしか聞こえていないらしく、急に取り乱したアルスの様子に心配したようだ。
アルスはゆっくりとジルの顔をみて、絞り出すように言葉を発した。
「……イレニア様の、加護を、受けるのは……。僕、じゃない、みたいなんだ……」
「……えっ!? どういうこと、なの? アルスが加護を受けられない……? 」
ジルも状況を把握できないらしく、少々取り乱した様子だった。
「え、何かの間違いじゃないの?
ここまできて……。オアシスの真ん中で、ようやくイレニア様の像をみつけたのに……? 」
ジルの言葉を聞いて、アルスはなおも聞き間違いではないのかと信じて疑わなかった。
「そ、そうだよな。やっぱり、何かの間違いだよな…… 」
アルスは一度深呼吸をし、頭の中を整理しようと努めた。
手始めに、今までに神の像で得た力をおさらいすることにした。
廃墟と化した故郷のエルディシアでは、最高神「アンクの光」を得た。闇を祓う光だ。
協力を仰いだラオンダール帝国では、太陽神「ロレヌの導き」を得た。周囲の闇を晴らす光の矢だ。
聖都ガルトデウスでは、風神「アイオールの守り」を得た。闇に囲まれたときに強力な防壁となる風だ。
どれもこの杖に新しい力を吹き込んで、強化してくれた。
……だから、イレニア様の加護も得られるはずじゃないのか?
……いや、まてよ。“光の使者”は僕だけじゃない。
「僕、だけじゃない。……加護を得られるのは、僕の杖だけじゃないんだ」
「え、どういうこと? 」
「“光の使者”は全員で6人いる。
宝石の持ち主によって、与えられる加護が決められているのかもしれない……! 」
――ああ、僕はなんて馬鹿なんだ。なんで気づかなかったんだ!
「……リン。……ここで加護を得られるのは、リンに違いない!
リンを、ここに連れてこよう!! 」
『ぐおおおおおおおお!』
その時ミーミルの咆哮がこだました。2人は我にかえった。
「向こうにはギルア1人だ! ……一旦戻って作戦を練り直そう!」
「……ええ! 」
「そこで何をしているのですか? 」
「……!!? 」
背後から突然声がした。振り返ると “闇の使者”フレイの姿があった。
黒いローブと仮面をつけており、冷徹な雰囲気をまとっている。
「……!! “闇の使者”…… ! 」
(そんな…….。このタイミングで現れるなんて……!?
まだイレニア様の加護を得られてないのに……。僕の力もあまり残っていないのに…… )
アルスは杖を握る手に力を込めた。
(ここでやりあうには分が悪すぎる。ひとまずギルアのいる方へ戻らないと。
僕の持てる力を出し切ってあいつの気をそらしてるうちに、エスペルの近くに行けさえすれば……)
「330号にこの国とあなた方をまとめて処分させようかと思いましたが、この状況はむしろ好都合です。
今はあの魔導師も遠くにいる。そこの鷲も主人の命令がない限り動けない代物でしょう」
フレイがじりじりと2人に近づいてくる。
「あなたがた2人、ここでまとめて殺してやりましょう。
片方は330号との戦いでずいぶん消耗しているようですし、そこまで手を汚さずに済むでしょう。
過剰に汚れるのは御免ですからねえ。
そうですね、まず “光の使者”のあなたには……。真っ先に実験サンプルになってもらいますよ。
そこの一般人と体の作りがどう違うのか? 何が“光の使者”と“それ以外”を分けている?
頭の中は? 心臓は? 筋肉は? 神経細胞は?
あああああああ……!! 解剖したくてウズウズする!
頭から指先まで細かく切り開いて、わたくしの好奇心を存分に満たしてもらいますよ! 」
フレイは細くて鋭いナイフを数本ジャキッと出した。
2人は無意識に背筋に寒気が走った。今まで会った“闇の使者”もそうだけど、この人も相当やばいらしい。
特にこの人物、医者か研究者気質が相当強いのだろうか?
解剖……? 実験サンプル……? そんなものはまっぴら御免だ!!
「……アルス、今のうちに逃げて! 」
ジルはアルスを力いっぱい突き飛ばした。
「わっ! 」
アルスはエスペルにぶつかった。その拍子にエスペルがアルスを抱き抱え、ジャンプして戻って行った。
「ジル……ッ!!? 」
「私なら大丈夫だから! あなたは逃げて! 」
「ほお……? どういうつもりかわかりませんが、まずはあなたから、ということでしょうか?
ま、どのみち2人とも解剖するのです。私の計画に狂いは生じていませんからねえ 」
ジルも負けじと弓矢を構えた。
「ごちゃごちゃとうるさい人ね! 私は一般人だけど、足止めくらいにはなるでしょうよ」
弓を持つ手がふるふると小刻みに揺れている。
(怖くない、といえば嘘になるわ……。
アルスたちでさえ苦戦する“闇の使者”が目の前にいる。
いくら私の矢が100%命中したとしても、致命傷を負わせるのは不可能に近い。
アルスがリンを連れてくるまでの間の足止めになれば十分だわ。
最悪、私の命がなくなろうとも……。
お願い、アルス。私、どれだけ保つかわからない。でも、あなたたちを信じてるわ……)
――自らを犠牲にしてでも時間を稼ごうとするジル……。果たしてその運命やいかに!?
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