表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
93/134

第92話 ギルアの過去

【前回までのあらすじ】


ミーミルに対峙したギルアは、圧倒的な強さをみせつける。

「……ギルア……。君は一体、何者なんだ……? 」

アルスの質問に、今は答えられないというギルア。

一気にたたみかけるということで、なんと鷲が人間に変身する。

その姿を見て、ギルアは幼い頃を思い出すのだった。

 ギルアとエスペルの相性は、おそらく一族史上と言っても過言ではないほど、()()だった。 



 アルドール一族は、古来より1人1人に“神鷲(ヴェルグ)族”と呼ばれる鷲のパートナーがついており、普段は鷲狩りで生計を立てていた。

 パートナーになる鷲は主人(あるじ)となる人物が6歳の誕生日を迎える時に、天から(つか)わされて現れるのだという。決まって主人(あるじ)とは異性の鷲がやってくる。

 鷲が現れた次の日から、鷲と心を通わせる修行の日々が始まる。

 それは決して容易なことではなかったが、お互いの意思を疎通(そつう)できた時に、ようやく一人前としてみなされるのだ。


◇◇


 ギルアは幼い頃から両親や祖父の鷲の話を聞いては、自分にはどんな鷲が来るのだろうかと、胸を踊らせていた。

 両親は常に狩りで家を留守にしていたので、必然的におじいちゃん子になった。

 祖父は狩りの仕方から鷲の生態まで何でも知っていたので、ギルアは祖父と過ごす時間が大好きだった。

 そんな祖父の鷲は、祖父に似て誠実なメス鷲で、祖父を信頼していることが(はた)から見てもよくわかった。

 だからこそ、自分にも同じような鷲が来るのだと、信じて疑わなかった。

 


 そうして迎えた6歳の誕生日。

 ギルアは太陽が昇る前に自然と目が覚めた。そして「鷲が来る」と叫んで、家の外に飛び出した。

 外は少し寒かったが、鷲が来るのを今か今かと待ち続けた。

 太陽が昇るのと同じ東の空から? いや、西の空かもしれない。いやいや、もしかしたら、真上から……?

 ギルアはあらゆる方向に首を向けて待っていた。

 しかし、陽が登れども、昼になれども、そして夕方になれども、鷲の姿は一向(いっこう)に現れなかった。

 

「ギルア、もうすぐ暗くなるから、中に入りなさい。風邪をひくぞ」


 祖父は、いつまでも外で待つギルアを見かねて声をかけた。


「ねえ、おじいさま」


「どうした? 」


「おじいさまの鷲は、いつ飛んで来たの? 」


「わしの時は、朝早くに来たなあ。

 まだ寝ていたから、しばらく待たせてしまって、ちょっと怒らせてしまったなあ」


 祖父は当時のことを思い出したのか、ふふっと笑った。


「僕の鷲は……? 」


 ギルアは絞り出すように言った。祖父は笑うのをやめた。


「まだ、来てないようじゃのう…… 」


「……来ないのかなあ? 」


 ギルアは少し涙声になった。


「ギルアよ。まだ1日は終わっておらんから安心せい。

……ほら、中にお入り。飯が冷めてしまうぞ 」


「はい…… 」


 そしてとうとう陽は沈み、夜を迎えてしまった。

 普段なら8時頃にはベッドに入っているのだが、頑張って9時頃まで起きていた。

 それでも、鷲は現れなかった。

 積もり積もった不安は、やがて確信に変わりつつあった。


「僕のところに、鷲は来ないんだ……。僕は、選ばれなかったんだ…… 」


 ギルアはとうとう泣き出してしまった。

 狩りから戻った両親も祖父から話を聞き、「おかしいなあ」と首を(かし)げるばかりだった。

 これほど長く鷲が登場しなかったことは、今までに聞いたことがなかったのだ。

 やがてギルアは泣き疲れて、いつの間にか寝てしまった。


 両親も祖父も、「今日は来ないのだ」と(あきら)めかけた、まさにそのときだった。

 日付が変わる数分前に、窓を突き破って鷲が飛び込んできたのだ。

 家に入るやいなや眠っているギルアの耳をひっぱり、「私が来たのを歓迎しなさいよ」とでも言わんばかりの気迫(きはく)のこもった登場だった。とても気の強いメスの鷲だった。


「いたたたたたたた……!  わ、鷲だ! 鷲が飛んできた!

おじいさま、鷲がきたよ!」


「な……なんとも気難しそうな鷲が来てしもうたのう…… 」


 祖父は鷲が現れたことに胸を撫で下ろしながらも、一抹(いちまつ)の不安を感じていた。


(優しいこの子とは対称的な性格の鷲だ。この先、うまくやっていけるだろうか……。

しかし、これからこの子の一生を支えていく鷲だ。

しっかり信頼関係を築かないと、一族のためにもならん……)


「ギルア、早速じゃが名前をつけてやりなさい」


「……え、名前? 」


「まだこの鷲には名前がない。 これからおまえは、この鷲と一緒に生きていくんじゃ。

名前をつけてやることが、主人(あるじ)としての最初の仕事なんじゃよ 」


「……でも、なんてつけたらいいの? 」


「それはお前が決めることだ。おまえの鷲なのだから、お前にしかつけられないんじゃ 」


「え、わからないよ…… 」


 ギルアは頭が真っ白になり、今しがた飛び込んできた鷲を見つめた。

 黒くて凛々しい目が、ギルアをにらみつけるように見つめ返している。

 まるで「いい名前をつけないと()み付くわよ」とでも思っているかのようだ。

 気が強くて、何を考えているのかわからなくて、少し怖い。


(だけど……。遅れてきたのには、何か理由があるのかもしれない。

僕に会うために、必死に神様のところから飛んできてくれたのかもしれない。

この子と心を通わせることができたら、きっと一人前の鷲使いになれるはずだ。

そして、僕もおじいさまのような立派な鷲使いになるんだ……)


「エスペル……。 君の名前は、“希望(エスペル)”だよ…… 」

 

 鷲はフン、と顔を横にふった。


「……だめ、だった……? 」


 ギルアは鷲の顔を(のぞ)き込んだ。

 

「どうやら、喜んでいるみたいだのう……」


「良かった……! よろしくね、エスペル! いたたたたたたた」


 エスペルは再びギルアの耳をひっぱった。

 祖父は2人の様子を微笑ましく眺めていた。


◇◇


 翌日から、修行の日々が始まった。

 家の前の草原にでて、基本の動作を1から叩き込むのだ。

 狩りにでている両親の代わりに、祖父が手取り足取り教えてくれるのだが……。


 言うことはきかない、噛まれる、つつかれる……。

 挙げ句の果てに、エスペルは空高く舞い上がり、戻ってこようとはしなかった。

 ギルアは早くも根をあげてしまった。 


 「もう嫌だ! こんなことなら、鷲なんかいなくなってしまえ! 」

 「それじゃあ、一人前の鷲使いにはなれないぞ 」


 祖父はきつく叱ることはしなかった。

 こればかりはどうしてあげることもできないことはわかっていた。

 ギルアとエスペルの双方が心を通わせないことには、解決しない問題だからだ。

 第三者が介入することで解決するのなら、ここまで苦労はしないのだ。


 「そうだ、いいものを見せてやろうか」

 「……何? 」


 ここで、祖父は“神鷲(ヴェルグ)族”の“攻撃形態”、《アタッケ・フォルマ》を唱えたのだった。

 背丈2mはある女性が、祖父の側に現れたのだ。


「う、うわああああ! 」


 幼いギルアは驚いて地面に尻餅(しりもち)をついた。

 祖父は嬉しそうに微笑んでいた。


「驚いたか? 鷲が人間になって? 」


 祖父の横に、長身の黒い女性が立っている。

 ギルアを見下ろすようにして、にやりと笑っているのが、尚更(なおさら)怖かった。

 取って食われるのではないかと本気で思ったものだ。


「大丈夫だ。おまえを襲ったりはせん。見た目はこうだが、案外優しいんじゃよ」


「お、おじいさまは……。こ、怖くないの?」


「何も怖くないわい。この威厳に満ちた姿こそが、“神鷲(ヴェルグ)族”の誇りじゃからな」


「じゃあ、僕のエスペルも、修行を積めばこの姿になるの? 」


 ギルアは頭上を旋回(せんかい)する鷲を指差して言った。


「もちろんじゃ。同じ一族じゃからのう」


「ひいいいい〜」


「今は怖いかもしれんが、そのうちに頼もしく見えるものじゃ。

お前がもっと大きくなったときに、誰かを守り、助けねばならんときが、必ず来る。

その時に心が通じ合っていれば、必ずおまえの力となってくれる。

ま、そのためには修行・修行・修行! 修行の積み重ねほど近い道はないからのう。

わははははははは!」



ーーーーーーーーーー



(今ならわかるよ、おじいさま。こんなに頼もしくて、光栄なことはない。

“光の使者”様を守り、助ける力になれているんだから!)



 ギルアはミーミルに向き直った。


「……この姿になると、飛行(ヴォラドール・)形態(フォルマ)の時にはできなかった攻撃ができるので、非常に重宝します。

その分、魔力の消費が激しいので、長時間は戦えませんけども……。

巨人が弱っている今のうちに(たた)み掛ければ問題ないでしょう。

行きますよエスペル! 核を(えぐ)りだすのです! 」


「キシシシシシシシシシシ!! 」


 エスペルは鋭い歯を見せて嬉しそうに笑うと、ミーミルに飛びかかっていった。



お読みいただきありがとうございます。

少しでも「面白い」「続きが気になる」「応援したい」と思っていただけましたら、

ブックマーク登録をお願いします。


また、広告の下の☆☆☆☆☆を押していただけますと、評価ポイントが入ります。

評価していただけますと、執筆の励みになります^^

応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ