第92話 ギルアの過去
【前回までのあらすじ】
ミーミルに対峙したギルアは、圧倒的な強さをみせつける。
「……ギルア……。君は一体、何者なんだ……? 」
アルスの質問に、今は答えられないというギルア。
一気にたたみかけるということで、なんと鷲が人間に変身する。
その姿を見て、ギルアは幼い頃を思い出すのだった。
ギルアとエスペルの相性は、おそらく一族史上と言っても過言ではないほど、最悪だった。
アルドール一族は、古来より1人1人に“神鷲族”と呼ばれる鷲のパートナーがついており、普段は鷲狩りで生計を立てていた。
パートナーになる鷲は主人となる人物が6歳の誕生日を迎える時に、天から遣わされて現れるのだという。決まって主人とは異性の鷲がやってくる。
鷲が現れた次の日から、鷲と心を通わせる修行の日々が始まる。
それは決して容易なことではなかったが、お互いの意思を疎通できた時に、ようやく一人前としてみなされるのだ。
◇◇
ギルアは幼い頃から両親や祖父の鷲の話を聞いては、自分にはどんな鷲が来るのだろうかと、胸を踊らせていた。
両親は常に狩りで家を留守にしていたので、必然的におじいちゃん子になった。
祖父は狩りの仕方から鷲の生態まで何でも知っていたので、ギルアは祖父と過ごす時間が大好きだった。
そんな祖父の鷲は、祖父に似て誠実なメス鷲で、祖父を信頼していることが側から見てもよくわかった。
だからこそ、自分にも同じような鷲が来るのだと、信じて疑わなかった。
そうして迎えた6歳の誕生日。
ギルアは太陽が昇る前に自然と目が覚めた。そして「鷲が来る」と叫んで、家の外に飛び出した。
外は少し寒かったが、鷲が来るのを今か今かと待ち続けた。
太陽が昇るのと同じ東の空から? いや、西の空かもしれない。いやいや、もしかしたら、真上から……?
ギルアはあらゆる方向に首を向けて待っていた。
しかし、陽が登れども、昼になれども、そして夕方になれども、鷲の姿は一向に現れなかった。
「ギルア、もうすぐ暗くなるから、中に入りなさい。風邪をひくぞ」
祖父は、いつまでも外で待つギルアを見かねて声をかけた。
「ねえ、おじいさま」
「どうした? 」
「おじいさまの鷲は、いつ飛んで来たの? 」
「わしの時は、朝早くに来たなあ。
まだ寝ていたから、しばらく待たせてしまって、ちょっと怒らせてしまったなあ」
祖父は当時のことを思い出したのか、ふふっと笑った。
「僕の鷲は……? 」
ギルアは絞り出すように言った。祖父は笑うのをやめた。
「まだ、来てないようじゃのう…… 」
「……来ないのかなあ? 」
ギルアは少し涙声になった。
「ギルアよ。まだ1日は終わっておらんから安心せい。
……ほら、中にお入り。飯が冷めてしまうぞ 」
「はい…… 」
そしてとうとう陽は沈み、夜を迎えてしまった。
普段なら8時頃にはベッドに入っているのだが、頑張って9時頃まで起きていた。
それでも、鷲は現れなかった。
積もり積もった不安は、やがて確信に変わりつつあった。
「僕のところに、鷲は来ないんだ……。僕は、選ばれなかったんだ…… 」
ギルアはとうとう泣き出してしまった。
狩りから戻った両親も祖父から話を聞き、「おかしいなあ」と首を傾げるばかりだった。
これほど長く鷲が登場しなかったことは、今までに聞いたことがなかったのだ。
やがてギルアは泣き疲れて、いつの間にか寝てしまった。
両親も祖父も、「今日は来ないのだ」と諦めかけた、まさにそのときだった。
日付が変わる数分前に、窓を突き破って鷲が飛び込んできたのだ。
家に入るやいなや眠っているギルアの耳をひっぱり、「私が来たのを歓迎しなさいよ」とでも言わんばかりの気迫のこもった登場だった。とても気の強いメスの鷲だった。
「いたたたたたたた……! わ、鷲だ! 鷲が飛んできた!
おじいさま、鷲がきたよ!」
「な……なんとも気難しそうな鷲が来てしもうたのう…… 」
祖父は鷲が現れたことに胸を撫で下ろしながらも、一抹の不安を感じていた。
(優しいこの子とは対称的な性格の鷲だ。この先、うまくやっていけるだろうか……。
しかし、これからこの子の一生を支えていく鷲だ。
しっかり信頼関係を築かないと、一族のためにもならん……)
「ギルア、早速じゃが名前をつけてやりなさい」
「……え、名前? 」
「まだこの鷲には名前がない。 これからおまえは、この鷲と一緒に生きていくんじゃ。
名前をつけてやることが、主人としての最初の仕事なんじゃよ 」
「……でも、なんてつけたらいいの? 」
「それはお前が決めることだ。おまえの鷲なのだから、お前にしかつけられないんじゃ 」
「え、わからないよ…… 」
ギルアは頭が真っ白になり、今しがた飛び込んできた鷲を見つめた。
黒くて凛々しい目が、ギルアをにらみつけるように見つめ返している。
まるで「いい名前をつけないと噛み付くわよ」とでも思っているかのようだ。
気が強くて、何を考えているのかわからなくて、少し怖い。
(だけど……。遅れてきたのには、何か理由があるのかもしれない。
僕に会うために、必死に神様のところから飛んできてくれたのかもしれない。
この子と心を通わせることができたら、きっと一人前の鷲使いになれるはずだ。
そして、僕もおじいさまのような立派な鷲使いになるんだ……)
「エスペル……。 君の名前は、“希望”だよ…… 」
鷲はフン、と顔を横にふった。
「……だめ、だった……? 」
ギルアは鷲の顔を覗き込んだ。
「どうやら、喜んでいるみたいだのう……」
「良かった……! よろしくね、エスペル! いたたたたたたた」
エスペルは再びギルアの耳をひっぱった。
祖父は2人の様子を微笑ましく眺めていた。
◇◇
翌日から、修行の日々が始まった。
家の前の草原にでて、基本の動作を1から叩き込むのだ。
狩りにでている両親の代わりに、祖父が手取り足取り教えてくれるのだが……。
言うことはきかない、噛まれる、つつかれる……。
挙げ句の果てに、エスペルは空高く舞い上がり、戻ってこようとはしなかった。
ギルアは早くも根をあげてしまった。
「もう嫌だ! こんなことなら、鷲なんかいなくなってしまえ! 」
「それじゃあ、一人前の鷲使いにはなれないぞ 」
祖父はきつく叱ることはしなかった。
こればかりはどうしてあげることもできないことはわかっていた。
ギルアとエスペルの双方が心を通わせないことには、解決しない問題だからだ。
第三者が介入することで解決するのなら、ここまで苦労はしないのだ。
「そうだ、いいものを見せてやろうか」
「……何? 」
ここで、祖父は“神鷲族”の“攻撃形態”、《アタッケ・フォルマ》を唱えたのだった。
背丈2mはある女性が、祖父の側に現れたのだ。
「う、うわああああ! 」
幼いギルアは驚いて地面に尻餅をついた。
祖父は嬉しそうに微笑んでいた。
「驚いたか? 鷲が人間になって? 」
祖父の横に、長身の黒い女性が立っている。
ギルアを見下ろすようにして、にやりと笑っているのが、尚更怖かった。
取って食われるのではないかと本気で思ったものだ。
「大丈夫だ。おまえを襲ったりはせん。見た目はこうだが、案外優しいんじゃよ」
「お、おじいさまは……。こ、怖くないの?」
「何も怖くないわい。この威厳に満ちた姿こそが、“神鷲族”の誇りじゃからな」
「じゃあ、僕のエスペルも、修行を積めばこの姿になるの? 」
ギルアは頭上を旋回する鷲を指差して言った。
「もちろんじゃ。同じ一族じゃからのう」
「ひいいいい〜」
「今は怖いかもしれんが、そのうちに頼もしく見えるものじゃ。
お前がもっと大きくなったときに、誰かを守り、助けねばならんときが、必ず来る。
その時に心が通じ合っていれば、必ずおまえの力となってくれる。
ま、そのためには修行・修行・修行! 修行の積み重ねほど近い道はないからのう。
わははははははは!」
ーーーーーーーーーー
(今ならわかるよ、おじいさま。こんなに頼もしくて、光栄なことはない。
“光の使者”様を守り、助ける力になれているんだから!)
ギルアはミーミルに向き直った。
「……この姿になると、飛行形態の時にはできなかった攻撃ができるので、非常に重宝します。
その分、魔力の消費が激しいので、長時間は戦えませんけども……。
巨人が弱っている今のうちに畳み掛ければ問題ないでしょう。
行きますよエスペル! 核を抉りだすのです! 」
「キシシシシシシシシシシ!! 」
エスペルは鋭い歯を見せて嬉しそうに笑うと、ミーミルに飛びかかっていった。
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