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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第90話 水の巨人ミーミル

【前回までのあらすじ】


突如あらわれた“闇の使者”フレイと対峙するジャラーハ。

しかし杖の力を使えず、フレイの怒りを買うことに。

とっさにアルスが杖を取り返し、反撃に出る。

フレイはというとその場を離れ、オアシスに近寄る。

ゴーレムは水をまとった巨人ミーミルに姿を変え、街に迫るのだった。

 水をまとった巨人“ミーミル”が1歩、また1歩と街に迫る!


 アルスとジルは王宮の前にある広場に向かった。

 大広間から避難させた人たちの他に、祭りで盛り上がっている最中の人たちも大勢おり、てんやわんやの状況だった。

 王宮を守る兵達も、初めて見る巨人に目を丸くし、人員を集め、攻撃体勢に入ろうとしていた。

 そんな中で、アルスは黒い姿のカストルを見つけた。


「カストル! カストル! 」


 カストルは自分を呼ぶ声の主を探し当て、思わず目を(うる)ませた。


「……アルス!! 」


 2人は駆け寄り、再会と無事を喜びあった。


「良かった! ……本当に良かった! 心配したんだからな……! 」


「うん、心配かけてごめん……。僕はもう大丈夫だよ。

カストルこそ……無事でよかった! 」


 カストルは涙をにじませた。

 アルスは、カストルが自分や仲間のために奔走(ほんそう)していたのだと悟り、非常に申し訳ない気持ちになった。


「……ていうか、その格好! さっき偉そうに指図してきたのは、 やっぱりアルスだったんだ。

なんで兵になりきってるんだよ」


 カストルはアルスの服装をマジマジと見つめた。上から下まで王宮の兵と変わりない。

 

「こ、これには深い訳がありまして……」


「言い訳なら結構です! 」


 カストルはピシャリと言い放った。


「……あ、そうだ! アルスに紹介したい人がいるんだ。

ハヤブサ大会で優勝したギルアだよ。 偶然街で出会ったんだ 」


 カストルは誘導に専念していたギルアを呼び寄せた。

 “黒鷲(くろわし)ブラザーズ”としてコンビを組んでいるもう1人だ。


「ギルアです。お会いできて光栄です、アルスさん。話はカストルからきいてます」


 ギルアは目をキラキラさせながら、握手を求めてきた。


「ど、どうも……」


 アルスは、なぜこの少年が尊敬の眼差しで握手を求めてきているのかわからなかった。

 カストルは、一体この人に何を話したというんだろうか?


「そうだ、カストル。……リンは? 」


「リン様はこちらです」


 兵長が人混みをかけ分けながら現れた。

 リンを腕に抱きかかえている。まだ目を覚ましていないようだった。

 

「リン……」


「強いお香にやられて、意識が戻っていないんだ。……本当に、ひどいことをする人たちだよ」


「でも、良かったわ。こうして、みんな無事に再会できたわけだし」


 ジルもホッと一安心した様子だった。

 アルスはリンの手をとり、強く握った。


(僕にもっと力があれば、リンをこんな目に合わせることはなかったはずだ。

もっと強くならなければ……)


「……兵長は、リンを安全なところへお願いします。

カストルとギルアは、街の人たちを全員街の外へ……。そうだ、砂漠に避難させよう。

僕は、少しでもあの巨人を足止めするよ」


「あ、足止めって……。あんなデカいやつだぞ? 大丈夫なのか!? 」


「……なんとかする! 」


「なんとかって何だよ? 僕にもできることがあればするよ! 」


「気持ちはありがたいけども、これ以上君を危険な目に合わせたくないんだ」


「それって……。僕が皇帝の息子だからだっていうのかよ!?

アルスだって大変な目にあったくせに! 杖の力を使いすぎて、倒れてしまったくせに!

僕がどれだけ心配したと思ってるんだよ! アルスも、ジルも、リンも……。みんなを助けるのに必死だったんだぞ!

それに相手は“闇の使者”だ! アルス1人じゃ太刀打ちできるわけないだろ! 」


「……だけど、僕にしかできないんだよ!! 」


「だーかーらっ! 1人で気負いすぎだって言ってるんだよ!

僕を頼ってくれたっていいじゃないか! 」


「でもカストルは……」


「2人ともやめて! 」


 ジルが叫んだ。


「あなたたちの言い分はよくわかったわ。でも、今は言い争ってる暇はない。

……アルスには、私が同行するわ。

カストルは、兵長達と一緒に街の人たちを避難させることに専念して。

ここにいる数百人の人たちを安全な場所に連れて行くことも、私たち“光の使者” 一向(いっこう)の使命よ。

アルスは、その大切なミッションをあなたにお願いしているのよ。

アルスも……。少しはカストルの気持ち、わかってあげて?

カストルがいなかったら、私は助かっていなかった。

あなたや兵長を助けに地下牢に行くことも、できなかったのよ……」


 しばし沈黙があった。

 その間も周りでは絶えず人々がパニックを起こし、叫び、転びながら、右往左往して逃げ回っている。

 多くの人が今すぐにも助けを必要としていた。


「……わかったよ。僕が悪かったよ」

「僕の方こそ……。ごめん」


 アルスとカストルは互いに固い握手を交わした。

 ジル、兵長、ギルアはほっと胸を撫で下ろした。


「絶っっっ対後で行くから。……死ぬなよ?」

「カストルの方こそ」


「それじゃ、また後でね」


 アルスとジルはオアシスの方へ向かっていった。



「……行こう、ギルア。街の人たちを助けよう」

「……あのさ、カストル」


 ギルアが言った。


「……ん? 」


「街の人たちを全員避難させたら、僕もアルスさんに加勢(かせい)しに行きます」


「ちょ……何いってんだよ? あんな大きな巨人、(かな)うわけないだろ? 」


「それはわかりませんよ。僕とエスペルは小さいときからずっと一緒なんです。ですから……」


「“ちょっとやそっとじゃ負けませんよ”。……でしょ?」


 カストルが半ばあきれたように続けた。ギルアはにこりと微笑んだ。


「はい、そのとおりです」


◇◇


 一方アルスとジルは、オアシスに辿(たど)り着いた。

 かつて大きなオアシスが広がっていたであろう場所に、もはや水は存在しなかった。

 2人の目の前には、湿った砂場が広がっているだけだ。

 その真ん中に、数十メートルの高さの水の巨人・ミーミルが立っていた。

 ミーミルは歩みを止めることなく、1歩、また1歩と安定の歩幅で歩いている。

 地に足を下ろす度に衝撃波(しょうげきは)が発生し、地面に深い足跡を残し、周囲のヤシの木が吹き飛んでいく。

 


「すごい……。なんて大きさだ……」


「あの巨人が街を歩けば、とんでもない被害が出るわ!……せめてこの場で足止めしなくちゃ! 」


 アルスは杖を構えた。


 「“ロレヌの導き”! 」


 杖から光の矢を飛ばし、ミーミルにザクザクと当てた。

 矢が当たったところはぽっかりと穴が開いたが、ズブズブズブと(ふさ)がれていった。


「そんな……。全然効いてない……」


「私の矢ではどうかしら? 」


 ジルが矢を構え、放つ。

 矢はミーミルの中に取り込まれ、体内をぷかぷかと(ただよ)っている。


「だめだわ、全然歯が立たない。

 まるで水そのものに攻撃を当てているような感じだわ」


 そのとき、ミーミルの体内が赤く光った。


「……何だ!? 」


 ミーミルは腕を2本前に向けると、ババババババババ……と弾丸のように水を連射してきた。


「危ない!  “アイオールの守り” 」


 アルスはとっさに風壁(ふうへき)を発動させた。アルスとジルは風壁(ふうへき)に守られ、攻撃を(まぬが)れた。

 

「はあ……はあ……」


「ちょっとアルス、大丈夫!? 」


 アルスは顔色が(すぐ)れなかった。


「う、うん……。平気だよ」


 再びミーミルの体が赤く光る。今度は口を大きく開いている。


「次は何が起きるんだ? 」


 口の奥が怪しく光る。アルスは直感で嫌な予感がした。


「危ない! “アイオールの守り”!! 」


 間髪入れず水が勢いよく発射された。

 それは民家や王宮の方にも攻撃され、あちこちで崩壊する音が聞こえてきた。

 風壁を発動したことで直撃は(まぬが)れたものの、かなりの力を消費してしまった。


「はあ……はあ……」


「だ、大丈夫アルス? すごく顔色が悪いわよ! 」


 その時、王宮の兵達がオアシスに到着した。ミーミルの周囲をぐるりと取り囲んでいる。


「攻撃用意ー!! 」


 合図とともに、一同が「わあああああ」とミーミルの足に剣や槍を突き刺した。

 しかし、まるで手応えがない。しょせんは水の中を闇雲(やみくも)に振り回しているだけにすぎないのだ。


 ミーミルの体が再び赤く光った。アルスは嫌な予感がした。


「危ないぞ! 逃げろー! 」


 兵達は逃げる間もなく、水の中にズブズブと引き込まれていった。


「うわあああああ!! 」


 あちこちから断末魔(だんまつま)が聞こえる。

 やがて体内に取り込まれた兵たちは、“栄養源”として吸収されて、消えてしまった。

 武器や武具の数々は体内をプカプカと漂っている。


「ぐおおおおおお! 」


 ミーミルが咆哮(ほうこう)をあげた。アルスとジルは耳を(ふさ)いだ。


「すごい声だ……」

「耳がちぎれそうだわ……」


 咆哮(ほうこう)が止むと、体内を漂っていた武器が、一斉に体を突き抜けて周囲に飛ばされていった。

 無数の剣や槍がとてつもない速さで飛んでいく。

 ヤシの木は幹を切断されてバラバラと崩れ落ち、民家は破壊され、王宮の壁も穴ぼこだらけになった。

 アルスたちは風壁(ふうへき)でかろうじて攻撃を防いだが、周囲の様子は地獄絵図(じごくえず)そのものだった。

 しかし、大した攻略法も編み出せないまま、体力は限界を迎えていた。


「……なんて威力なんだ。

攻撃を繰り出しても、体内に取り込まれる上に、すべて(はじ)き返される……。

このままだと、攻撃を防ぎきることもできない……」


「……あの巨人、攻撃を繰り出す前に、必ず体が赤く光っているわ。

もしかしたら、巨人を動かしてる“核”のようなものが、中にあるんじゃないかしら?

それを破壊できれば、動きを止められると思うわ! 」


「確かに。光っているのは心臓のあたりだ」


「だけど……。どうすればいいの……?

攻撃をすればするほど、反撃は大きくなるだけだわ。

アルスの体力も限界を迎えてる……。一体、どうすればいいの?」



「……なるほど。体を切り裂いて核を露出(ろしゅつ)させるか、核を(つらぬ)くほどの攻撃をするか、ですね」


「……え? 」

「……え? 」


 2人の後ろに、いつの間にかギルアが立っていた。腕には黒い鷲が留まっている。


「遅くなってすみません、アルスさん、ジルさん。……大丈夫でしたか?

街の人たちは全員砂漠に避難させました!

ここからは、僕も加勢(かせい)させてもらいますよ! 」



 次回、ギルアの技が炸裂(さくれつ)する――!?

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