第89話 魔改のフレイ
【前回までのあらすじ】
ジャラーハの登場のあと、続いてリンが現れる。
しかしその目はうつろで、お香で操られているのだった。
2人が永遠の愛を誓う前に奇襲を仕掛けようとするアルスたち。
しかしその時天井がめくれあがり、“闇の使者”が姿を現す。
“光の使者”を探しているという彼は、ジャラーハが杖を手にしていることに気づいて
こう言うのだった。
「あなたのお命、頂戴ちょうだいしますよ」
「あなたのお命、頂戴しますよ」
フレイはローブの中から細いナイフを数本取り出した。
無駄を取り除いたシャープな形状をしている。わずかに触れただけでも皮膚が切れてしまいそうな鋭さだ。
「お……おい! 貴様! 」
従者が叫ぶ。
「あなたが“光の使者”なら、これくらい簡単に防げるはずでしょう。
まずはお手並み拝見といきますよ 」
「問題ない」
ここで急にジャラーハが杖を構えて対峙した。
「へ、陛下……!? 」
従者は顔をさらに青くし、素っ頓狂な声をあげた。
「俺様は神だ……。そんなもの、きくはずが、ない……」
「おっと! 陛下だけじゃありませんぞ! 」
ここで客席から飛び出してきたのは、70歳ほどの老人だった。
足腰がしっかりしており、筋肉も申し分ない。
「わしはこの王宮で50年に渡り武術稽古をつけてきたんじゃ!
お主の実力、試させてもらうぞ! 」
老人が前に出た際に、リンにぶつかった。
まだ目が覚めていないリンは、そのまま床に倒れそうになった。
(リン……!! )
アルスは柱から飛び出し、間一髪でリンを抱き留めた。
強いお香の香りが漂い、意識がぐらりとゆらいだ。
(なんて強いお香だ……。 早く、リンを安全なところへ……! )
「おい、そこの“黒鷲ブラザーズ” !
リ……じゃなかった、“花嫁”と会場にいる人たちを 、今すぐ広場まで避難させろ! 」
アルスは兵になりすまし、近くにいるカストルに声をかけた。
もはや結婚式のことはどうでもいい。“闇の使者”から王宮と街の人たちを守ることが最優先だ。
「おっ……おう……」
カストルは驚いた様子だったが、リンを引き取ると、ギルアと目配せしてうなずきあった。
「皆さん、この素晴らしい鷲が、皆さんを広場までご案内します!
慌てずに、入口に近い人からついてきてください! 」
招待客たちはジャラーハ達を気にして戸惑っている様子だったが、カストルに従って大広間を出て行った。
衛兵になりすましていた兵長たちも手伝っている。
「さあ、はぐれないように! 外の広場まで逃げますよー。
……ギルアは先頭をよろしく。僕は奥の人たちを見てくるよ」
「わかりました。カストルも気をつけて」
カストルは大広間の中にいる人たちを誘導しながら、ちらりと前方を伺った。
(あれって、“闇の使者”だよね……?
でも、リンは意識が戻ってないし、アルスもどこにいるかわからない……。
そういやさっきの声……。どこかできいたことあるような……? )
カストルは大広間の人を全員外に出せたのを確認すると、扉を閉めた。
大広間には、柱の陰で様子を伺うアルス、“闇の使者”と対峙するジャラーハと老人、従者、そして周りを取り囲む兵達が残った。
「陛下、お逃げください! 危のうございます!! 」
従者の静止を振り切り、ジャラーハは得意げに杖を振った。
「アブラカダブラ! 風よ吹け! 」
シーン……。
従者は絶望の面持ちで王とフレイを交互に見ている。
アルスは柱の陰から様子を伺っていたが、そろそろ本気でやばい気がしてきた。
フレイはふぅ、とため息をついた。
「……なるほど。……所詮その程度というわけですね。
フェンリルもホルンも、本当にこんなやつに深手を負わされたのでしょうかねえ……? 」
フレイがわなわなと肩を震わせる。
「まったく腹立たしい!! ずいぶんなめられたものですね!
いいでしょう! あなたがその程度なら、期待したわたくしが馬鹿でした!
……潔く消え失せろ!! “光の使者”ぁぁああああああ!! 」
フレイがナイフを勢いよく投げた。
「アブラカダ……」
ジャラーハは懲りずに再び唱え始めた。
「無駄だと言ってるでしょう! あなたは “光の使者”の器ではないッ!! 」
「陛下あああああ! 」
突如、暴風が発生した。
ナイフが跳ね返されて、フレイのローブをビリビリと引き裂き、後ろの壁にビィィン、とつき刺さった。
「……なに!? 」
風がひくと、アルスが杖を掲げて立っていた。
杖は主の戻りを心から歓迎しているかのように、まばゆく輝いている。
「僕が “光の使者”だ。……殺すなら、僕をやれ! 」
ジャラーハは腰を抜かし、そのままガクリと意識を失った。
ついでに隣にいた老人も気絶した。
「ふふふふふ……。はははははははははは。
まったく……粋な演出をしてくれますね。
あなたが本物の“光の使者”でしたか。
しかし、わたくしは少々腹が立っているんです。
……くっだらない芝居に付き合わされたことにね!! 」
フレイは左手を挙げ、振り下ろした。
呼応するかのように、頭上のゴーレムが大きな腕を振り下ろしてきた。
「危ない! 」
ドゴシャアアアッ……!!
瓦礫が周囲に飛び散り、土埃が舞った。
アルスは風壁を大広間中に張り巡らせ、かろうじて被害を最小限に食い止めた。
「ほう……そんなこともできるのですね。 実に興味深い。
もっと楽しませてもらいますよ! 」
アルスは近くにいる従者に、「今のうちに逃げてください! 」と叫んだ。
「ひっ…ひいいい! 」
従者は兵たちと一緒にジャラーハと老人を運び出した。
瓦礫の散乱する大広間には、アルスと“闇の使者”の2人だけが残った。
天井は完全に破壊され、夜空が広がっている。
頭上にはゴーレムが1体こちらを覗き込んでいる。
「くくく……。これで心置きなく戦えるというものです 」
アルスはここで、1つ気になることを言った。
「おまえたちは、何者なんだ? ……何が目的なんだ? 」
「わたくしたちの目的はただ一つ。……“エシュアの復活”です。
そのためには、邪魔な“光の使者”を殺さねばなりません 」
「……エシュア? エシュアって、神話の……? 」
(確か、三番目に生まれた、竜の姿をした神だったっけ……? )
「くくく……。神話ですか。あなたの中では、神話上の話で完結しているのでしょう。
1ついいことを教えてあげましょう。
エシュアは神話だけの存在ではありません。今も存在しています。
まあそれはさておき、目的のためには、あなたたちをこの世から消さねばなりませんからね。
……おとなしく死んでもらいますよ! 」
フレイはローブの下から注射針を数本取り出し、アルスに向かって投げつけた。
「“アイオールの守り”! 」
アルスは風を発動させ、攻撃を防いだ。
続いて「“ロレヌの導き”」と叫び、光の矢をフレイに飛ばした。
「くくくくく。 楽しくなってきましたねえ。
しかし、残念ながらそろそろ時間がきてしまいました。
あなたの相手はわたくしではありませんよ 」
フレイはゴーレムの腕を伝い、肩に立った。
「そういえば、まだきちんと名乗っていませんでしたねえ。
魔改のフレイ……。これがわたくしの名です。
本来は医師をしておりますが、好きが高じていろんな研究をしております。
そう……。この世は実に興味深いことで溢れている!
ここのオアシスに命を与えることもできるのですよ。
オアシスといえば、このだだっ広い砂漠において、命の源ですからねえ。
それが街を襲うのですから、どれだけ面白いことになるでしょうかねえ 」
「何っ!? ……一体何をする気だ!? 」
「また会いましょう、“光の使者” 」
フレイを乗せたゴーレムは、ズシィン、ズシィン、と移動を始めた。
アルスは大広間を飛び出し、王宮の入口に向かった。祭りで賑わっていた街の人たちの叫び声が聞こえる。
「ああ! 」
岩のような巨躯を動かし、ゴーレムがオアシスに向かっている。
「後を追わないと! なにをされるかたまったもんじゃない!
「アルス! アルスなの!? 」
ジルが階段から降りて駆け寄ってきた。
「……ジル!! 」
「一体なにがあったの? ……さっきすごい揺れがあったけど……。
な、なにあれ……!? 」
ジルはゴーレムの姿を見て唖然とした。
「ジル、手短に話す! リンもカストルも、全員無事だ!
だけど結婚式の途中で、“闇の使者”が現れたんだ。
今、オアシスの方に向かってる! 」
「た、大変! 私たちも行きましょう! 」
◇◇
一方、オアシスにたどり着いたフレイは、ローブから赤く光る玉を取り出した。
「くくくくく……。わたしが長年の研究の末に、ついに完成させた命の核。
これをオアシスと融合させると、どうなるんでしょうかねえ…… 」
フレイは赤い玉をオアシスに投げ入れた。
玉はとぷん、と沈んでいった。続いて、ゴゴゴゴゴ……と地響きが起きた。
水がせり上がって手のようになり、ゴーレムの両足を掴んだ。
「ぐおおおおお!! 」
水はゴーレムの足から上に向かってつたい、ゴポゴポと飲み込んでいった。
「おおお、すばらしい! 我が友、506号の体をのっとっていくぞ!
なんて美しい光景なんだろう……。
もがき苦しむ506号と、悠々と体を奪っていく水のハーモニー…… 」
フレイは地面に着地した。
ゴーレムは頭まで完全に水に飲み込まれ、水の体の巨人となった。
オアシスの水は完全に干上がってしまった。
「すばらしい! 記念に名前をつけてあげなくては。
……そうだ。水の巨人330号、“ミーミル”だ 」
ミーミルは咆哮をあげると、ずしん、ずしんと歩き出した。
歩く度に表面の水がたぷんたぷんと揺れている。体の中心では赤い玉が不気味に光っている。
「さあ、この街を破壊せよ! ついでに“光の使者”も殺してしまえ! 」
――オアシスの水をまとった巨人が街に迫る!
果たしてアルスたちは、巨大な敵を倒すことができるのか!?
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