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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第88話 結婚式

【前回までのあらすじ】


アルスを背後から引っ張ったのは兵長だった。

なんとジルの作戦で、大広間を見張っているのは全員ラオンダール兵なのだという。

アルスも兵になりすまし、見張りをすることになった。

そこへ現れたのは真っ黒な姿をしたカストルとギルア。

“黒鷲ブラザーズ”というコンビを組んで、大広間に侵入するのだった。


やがて大広間の扉が開き、ジャラーハが現れる。

しかしその姿は痩せこけており、別人のように変わり果てていた。

 大広間に現れた王は、痩せこけて生気(しょうき)を失い、別人のように変わり果てた姿をしていた。


 会場中が波を打ったようにシーンと静まり返り、声を発するものは誰1人としていなかった。

 その様子をみて、先頭を歩く従者の顔からサーっと血の気がひいた。


「こ、これ……! 何をしておる! 陛下のご入場であられるぞ!

は……拍手をせんか、拍手をっ!! 」


 従者の叫びにハッと現実に戻されて、1人、また1人と思い出したように拍手を打ち始めた。


 従者は冷や汗をぬぐい、「さあ、陛下。参りましょう」と先陣(せんじん)を切った。

 後ろに続く王は足取りもおぼつかなく、右にふらり、左にふらりという状況だった。

 危なっかしくて、とてもじゃないが見ていられない光景だった。

 招待客たちも困ったような視線を投げかけている。

 一体、王の身に何が起きたというのか……?


 アルスは王の右手に、しっかりと杖が握りしめられていることに気づいた。


 ――杖だ。きっと杖のせいなんだ。


 アルスは背筋にゾクっと寒気が走った。

 地下牢で王に杖を奪われたときに、王の様子が瞬時におかしくなったのを思い出した。


(王はあの後も杖を手放さなかったから、こんな姿になってしまったんじゃないか?

でも、どうして手放さないんだろう? 手にしている限り、おぞましい目眩(めまい)や幻覚に襲われるだろうに。

何か、手放せない理由があるんだろうか……?

いや、そんなことはどうでもいい。この場で杖を取り戻せるのなら、なんだっていい。

奇襲(きしゅう)をしかけるタイミングが来るのを、待つだけだ……)


 アルスが早く杖を取り返したい気持ちを抑えていると、後ろの扉がコンコンコン、と小さくノックされた。

 兵長が扉を細く開き、向こう側の兵と小声で話をしている。


「……うん、うん。わかった。


アルス様、リン様がお越しになられました。

従者が数人付き添っています。どうか素知らぬふりをして、扉を開けてください」


「!! ……わかりました」


 アルスは胸の鼓動(こどう)が一層高鳴るのを感じた。

 リンが来た……。ついに、リンと会えるんだ……!!


「行きますよ」


 アルスは兵長と息を合わせて扉を開いた。


 真っ先に現れたのは、侍女のナツメだった。

 相変わらず無表情でニコリともしていないが、顔に疲れが出ているようだ。

 突然の式の準備に、1人で奔走(ほんそう)していたのかもしれない。


「花嫁のご入場です。皆様、暖かい拍手でお迎えください」


 ナツメが数歩進むと、幼い侍女が2人現れ、花びらを通路の左右に()きながら進んでいく。

 ほのかな花の香りがふわりと会場を包み込んだ。

 その後ろを、床まで届く白いベールをかぶり、純白のドレスに身を包んだ花嫁姿のリンが現れた。

 細かい刺繍(ししゅう)(ほどこ)された絹のドレスを(まと)い、首筋にはトパーズのペンダントが燦然(さんぜん)と輝いている。

 

 アルスは思わず息を呑んだ。あまりの美しさに、しばらく時が止まったかと思った。

 招待客からもため息がもれ、リンの美しさに見惚(みほ)れているのがわかる。

 もしやと思い、隅に身を(ひそ)めているカストルの方を見ると……案の定、鼻の下がのびていた。


(でも、なんか変だな……)

 

 アルスはどこか違和感を覚えた。

 花嫁姿のリンは、ゆっくりと通路を歩いている。前を歩くナツメとずいぶん距離が開いてしまっている。

 一足一足がものすごくゆっくりなのだ。

 

(なんだろう……。いつものリンと違わないはずなんだけど……)


 アルスは今までのリンを思い返してみた。

 笑顔が絶えなくて、その場に花が咲いたように明るいリン。

 “闇の使者”がセイガの街やガルトデウスを襲った時も、真っ先に街の人を避難したり、シナト様をお守りしたりしてた……。


「あ」


 わかった。……目がうつろなんだ。

 まるで眠りについたまま、この場に無理矢理連れてこられたようにも見えた。

 少なくとも、リンが心から望んでこの場にいるわけではないことは明らかだった。

 アルスはふつふつと怒りが湧き上がるのを感じた。

 両手をグーにして力を込め、なんとか耐えようとした。

 

(なんてひどいことを……)


 地下牢でジルから真実を告げられたときは信じられなかったけど、実際()の当たりにするとこうも腹が立ってくるものだろうか。


(よくもリンを……。ジルを……。ガベリー隊長を……。この国を訪れた多くの人たちを……!!)


 しかし、今は何もすることができなかった。

 勢いにまかせて独断(どくだん)で動けば、兵長たちの計画が台無しになってしまう。

 つまり、リンを救うことも、杖を取り戻すことも難しくなってしまう。

 耐えるんだ……。今は動いちゃだめだ……。落ち着くんだ……。


 やがてリンは王が待つ大広間の奥まで進んでいった。

 2人が横に並んだのを見計らい、正面に立つ従者が式を進行した。

 花婿は生気(しょうき)がなく、花嫁は催眠術(さいみんじゅつ)にかけられて意識が定かではない状態だ。

 これほどまでに滑稽(こっけい)で見ていられない式が今までにあっただろうか?


 大きな会場なので、アルスたちには何を話しているかまでは聞こえてこなかった。

 しかし、今は逆に好都合だった。


「アルス様、いよいよ作戦決行の時がきました。

2人が永遠の愛を(ちか)う前に、我々で奇襲(きしゅう)をかけて、リン様を救いますよ! 」


「……! わかりました」


 小声で話していても、前方の従者たちには気付かれない。

 兵長はこのタイミングとばかりに、周囲を警備する兵たちに合図を送った。

 兵たちは横目でそれを(とら)えると、気付かれぬようにうなずきあった。



「……それでは、お互いに永遠の愛を誓い合ってください」

 


 前方から合図とも取れる言葉が聞こえてきた。


「アルス様! 行きますよ! 」

「はい! 」


 兵長は腰の剣を抜きかけた。アルスも短剣の柄に手をかけた。

 王とリンが誓いのキスをしようとしたまさにその瞬間――。



 ゴゴゴゴゴゴ……と王宮全体が揺れた。



「な、なんだ!? 」

「地震か!? 」


 アルスは体勢を崩して、近くの柱にすがりついた。

 立っているのもやっとなくらいの大きな揺れだ。


 客席からも悲鳴があがる。

 やがて揺れがおさまったかと思うと、続いてバリバリバリバリッと天井が(めく)れ上がった。

 美しい夜空が見えた。



 え……? 夜空が、見え……た……?



 何が起きたかわからず、会場はざわついた。

 災害なのか、それとも結婚式の演出の一部なのか……。招待客たちは判別がつかず、困ったように周りを見渡していた。

 みんなが空を(あお)いでいると、(めく)れ上がった天井の上に誰かが立っているのが見えた。


 アルスは様子を(うかが)うために、持ち場を離れ、客席側にゆっくり近づいて行った。

 黒い仮面とローブを(まと)っているのが見える。



「こんばんは。今宵(こよい)は美しい夜ですね」



 ――“闇の使者”だ……!!!


 アルスは心臓が止まるかと思った。


(“闇の使者”だ……! “闇の使者”が現れた……!!

 このタイミングで……!? 杖もまだ取り返せていないのに!? )



「何者だ貴様は!? 」


 司会を進行していた従者が声を張り上げた。

 “闇の使者”はふっと飛び降りると、隣に着地してみせた。驚いた従者は、数歩後退(あとずさ)りした。


「申し遅れました。わたくしはフレイと申します。

この国に“光の使者”がいるときいて、参りました。

……おやおやおや? ……この状況は……。もしかして、結婚式の最中でした?


……これは失礼っ。せっかくの式を台無しにしてしまったようですねえ……。

あはははははははは……」


 乾いた笑い声がこだまする。

 会場はシーンと静まり返り、突如現れた謎の男の言動を(うかが)っているようだった。

 アルスはドキリとし、冷や汗が止まらなかった。

 

(やっぱり……。僕たちを探しに来てる!! 早く杖を取り戻さないと……!! )

 

「“光の使者”? ……なんだそいつは? ……そんなものはおらん!

そんなことよりも、よくも陛下の結婚式を台無しにしてくれたな!

どこの誰だかわからんが、侵入者であることに変わりはない!お前たち、この男を(とら)えろ!」


 従者は周囲を取り囲む兵たちに叫んだ。

 兵たち(もちろん兵長の仲間だ)は言われた通りに駆け寄り、男を取り押さえようとした。


「おっと、待ってください。まだ話は終わってませんよ」


 フレイがパチンと指を鳴らすと、天井の向こう側から岩のように大きな手が現れ、天井がバリバリバリッとさらに(めく)れ上がった。

 天井が完全に取り払われ、数十mもある岩の巨人がこちらを(のぞ)き込んでいた。

 この場にいる全員が、蛇ににらまれたように動けなくなった。


「な、なんだあの岩は!? 」


 従者がかろうじて声を絞り出した。


「“岩”とは失礼ですねえ。私の大切な仲間、ゴーレム506号ですよ。

この国の周りに砂漠があるでしょう。せっかくなので命を吹き込んで差し上げました」


「命……? 一体、何を言ってるんだね」


「そのままの言葉ですよ」

 

 アルスは前方でこのようなやりとりがされている間、どうにかして近づいて、杖だけでも取り返せないかと思案(しあん)した。


(そうだ。王の護衛(ごえい)のふりをして近づこう……)


 アルスは柱の陰に隠れながら、少しずつ前に近づいていった。

 半分くらいまできたとき、すぐ近くにカストルがいることに気づいた。

 声をかけようか悩んだが、今はそれどころじゃない。杖が最優先事項(じこう)だ。


(どうか僕が杖を手に入れるまでの間、何事も起きませんように……)


 その間にもフレイの会話は続いた。


「それで本題なんですが、わたくしは“光の使者”を探しているんです。

ご存知であれば教えていただきたいんですが、その特徴というのがですね……。

……おや、その杖は……!

花婿(はなむこ)、あなたが“光の使者”でしたか。探す手間が(はぶ)けてよかったというものです。

お取り込み中申し訳ありませんが……」


 フレイがにこやかに続けた。


「あなたのお命、頂戴(ちょうだい)しますよ」


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