第87話 黒鷲ブラザーズ
【前回までのあらすじ】
カストルは結婚式が行われる大広間へ向かって急ぐ。
ジルも少し休むため、侍女たちの部屋に入るが、そこであるものをみつける。
一方大広間の近くまでやってきたアルスは、何者かに後ろから引っ張られるのだった。
アルスは何者かに背後から引っ張られ、近くの部屋に連れて行かれてしまった。
おそらく王宮内の警備にあたっている兵に見つかったのだろう。
ただでさえ結婚式のために見張りを増やしているのだ。見つからない方がおかしな話だ。
(不覚だった……。牢から出られたから、安心しすぎてた。
短剣で隙をつけば、逃げ出せるだろうか…… )
短剣を強く握りしめ、意を決して後ろを振り向いた瞬間、予想外の言葉がかけられた。
「アルス様、私です! 兵長Cです! 」
「……え、ええっ……? 」
拍子抜けしたアルスは体勢を崩してよろめいた。
アルスの目の前には確かに王宮を守る兵がいたが、その声は兵長だった。
まだ疑わしい視線を投げかけていることに気づいてか、兵長は慌てて顔の布を外した。アルスのよく知る兵長の顔が現れた。
「……え、えええ? 兵長 !? ……ど、どうしてここに? 」
「アルス様こそ、ご無事でなによりです。
まずは今し方のご無礼、お許しください!
我々はジル様からのご指示で、大広間を守る兵になりすましているところです」
「な、なりすましてる……? どういうことですか!? 」
「地下牢でジル様に助けていただいたあと、我々はそこにいる兵を皆牢の中に入れました。
その時に、着ていたものを拝借したんです。
これで、この王宮内を自由に動けるわけです」
確かに、兵長はこの王宮を守る衛兵の姿そのものだった。
顔に巻いている白い布からは目元しか見えず、腰には湾曲した剣を下げている。
頭からつま先まで王宮を守る兵と寸分も違わず、パッと見る限り全く判別がつかなかった。
「す、すごいね……。ぜ、全然気づかなかった……」
アルスは今も心臓がバクバクしていた。
連れ去られたり暴力を振るわれたりした兵の姿が重なって見えているからだろうか、まだ落ち着きを取り戻せなかった。
「いえ、本来であれば事前にお伝えすべきでしたが、このような形でのカミングアウトになってしまい、申し訳ございません。
現在、大広間周辺と内部の警護に当たっているのは、皆ラオンダール兵です。どうぞご安心ください。
滅多に話すこともないので、そうそう気づかれることもありません」
アルスはホッと胸を撫で下ろした。
これで気兼ねなく大広間の入り口まで行くことができる。周りにいるのは、全員味方なのだ。
「……大広間は、どんな状況なんですか? 」
「はい、もうじき結婚式が始まるようで、陛下の親族たちが100名ほど集まっています。
話を聞く限りでは、大臣や武術指導などの重役にあたっている人から、王宮周辺で優雅な暮らしをしている人たちまで様々なようです。
従者が常に出入りをしていて、食事を運んだり飾り付けを整えたりしています。
リン様は、まだいらっしゃらないようです……」
「そうですか……」
「式が始まり次第、タイミングを合わせて、奇襲をしかけるつもりです。
合図を出しますので、その時にリン様を救出しましょう。
兵の服が余っていますので、アルス様もお着替えください。
これで安心して出歩けるでしょう」
「は、はい…… 」
衛兵の衣装に着替えたアルスは、兵長と共に部屋を出て、大広間の入口に等間隔に並んだ。
兵長の言う通り、従者たちがひっきりなしに食事を運んだり、空いた皿を下げたりしに来ている。
扉の向こう側からは、賑やかな声が絶えず聞こえてくる。
(ようやくここまで来れた。
王宮の陰謀でみんな離れ離れになったけど、再び集まることができた。
あとはリンを助けて、王に奪われた杖を取り戻すだけだ。
……大丈夫。僕は“光の使者”だ。やれると信じれば、うまくいくんだ! )
リンと王の登場を今か今かと待っていると、しばらくして誰かがこちらに近づいてきていた。
横目で姿を捉えたとたん、アルスは心臓が止まりそうになった。
――カストルと、鷲を連れた少年だった。
(カ……カカカ……カストル……? ど、どうしてここに?
隣にいるのは? ……ハヤブサ大会で、優勝した人だ。
……っていうか、どうして2人とも、……黒いんだ? )
アルスは動揺を抑えきれず、不自然に体を動かしてしまった。
兵長はそれをカバーするように、「何用だ」とカストルたちに迫り、問いかけた。
アルスは声をかけるべきかどうか悩んだが、兵のふりを続けることにした。
カストルは少し戸惑った表情をしたが、宣言するようにこう言った。
「僕たちは、結婚式の余興に呼ばれた、“黒鷲ブラザーズ”です。
予定よりも遅れていると聞いたので、皆さんが退屈してるんじゃないかと思って駆けつけてきました。
この鷲は、今朝のハヤブサ大会で優勝しましたが、ただ飛ぶのが速いだけではないんです。
見事な芸を披露して、みなさんを楽しませてみせましょう! 」
シーン……。
耳が痛いほどの静寂に包まれた。
(“黒鷲ブラザーズ”……?
な、何を言ってるんだ? ……カストルは、いつの間に芸人に転職したんだ?
……いや、待てよ。カストルなりに考えてのことかもしれない。
うまく中に入り込んで、リンを助けるつもりなのかも……。
でも、一体どうやって……? )
「ああ、そうでしたか。
ちょうど皆様退屈されていたところですので、ちょうどよかった。
どうぞ中へお入りください」
兵長がさも心得ていたかのように返した。
(え……。ええええー!? ……兵長、そしらぬ顔して、中に入れるーーー!? )
うろたえるアルスを見かねてか、兵長は厳しい声で張り上げた。
「おい、何をつったってる? 扉を開けて差し上げろ!
(ひぃぃぃ……アルス様、すみません、すみません、すみません……)」
アルスは言われた通り、兵長とタイミングを合わせて扉を開けた。
扉が開くと、賑わいの声が一層大きく聞こえ、熱気がムワッと外に抜けていった。
「ありがとうございます! 」
カストルと鷲の少年がキビキビと中に入っていく。
腕に留まっている黒鷲が、チラッとアルスを見た。
アルスは見透かされている気がして、思わずドキッとした。
「……アルス様、我々も中に入りましょう。
カストル様たちを見張る形で、内部の様子を確認するのです。
ただ、くれぐれもお気をつけください。……何が起こるかわかりません」
兵長が小声で言った。
「はい」
アルスと兵長は扉を閉めながら中に入った。
大広間は真ん中に通路を通してあり、両側に招待された親族たちが床に座り、食事や会話を楽しんでいた。
従者たちが慌ただしく動き、食事を運んでいる。
扉が閉まると、カストルは声を張り上げた。
「えー、みなさん、僕たちは“黒鷲ブラザーズ”です。
退屈しのぎに、今から素敵なショーをお見せしましょう。
式が始まるまで、どうぞお楽しみください」
カストルの声を聞いて、一斉に100人の視線が2人に向けられた。
「んん? 」
「なんだあれ? あんなやついたか? 」
「おい、あの腕に留まってる鷲。大会で優勝したやつじゃないか?
祭りにいないと大騒ぎしてたのは、ここに来るためだったのか」
「うふふ、速いだけじゃなくて、芸もできるのね。陛下が欲しがるのも無理はないわ〜」
カストルは妙な緊張感に飲み込まれそうになったが、腹をくくって挑むことにした。
「え〜〜、ここにいますのはぁ〜〜、ただの黒い鷲ではございません! 」
独特の語り口調で、ショーが始まった。
カストルの隣にいるギルアは、黒鷲がよく見えるように腕を高く上げた。
「まずは〜〜、こちらにあります、果物を……包丁を使わずに、簡単にスライスして盛り付けてみせます」
カストルは近くのテーブルに置いていたフルーツを数個手に取った。
「それではぁぁ〜〜とくとご覧あれ! 」
「(エスペル、よろしく頼むよ)」
ギルアが小声でささやいた。
エスペルはめんどくさそうに一瞥をくべたあと、カストルの手にあるフルーツを見つめる。
それを合図に、カストルはフルーツを1つ、また1つと天井に高く投げ上げた。
エスペルはヒュンと飛び立ち、フルーツのそばを通り抜けた。
すかさずカストルは空いた大皿を用意する。
フルーツは空中で綺麗にスライスされ、皿にタタタタタタッと盛り付けられた。
「う……うおおおおおおおおおお!! 」
「すげー! 」
「いいぞいいぞ!」
鷲はUターンして腕に戻ってきた。
アルスは2人の後ろからショーの様子を傍観していたが、素直に感動した。
何気なくショーをしているように見えるが、合間に周りを見渡して様子を伺っている。
おそらくリンを探しているのだろう。カストルなりに、良い潜入方法を思いついたものだ。
「え〜〜続きましてはぁ〜〜〜」
その後も2人は鷲を使った芸を披露し続け、客席を沸かせることに大いに貢献した。
気がつけばショーは終わり、拍手喝采に包まれていた。
「ありがとぉ〜〜ございましたぁ〜〜〜〜」
「いいぞー! 」
「チップをあげるからこっちにおいで 」
「その鷲、なでさせてー! 」
「ありがとうございます、ありがとうございまぁぁす!」
そんな時、扉がコンコンとノックされた。兵長が細く開けると、通路側にいる兵から伝達があった。
「ん……わかった。
……アルス様、王がきました。そしらぬふりをして、扉を開けてください。
まだ動いてはいけませんよ。兵になりきって、王を中に入れるのです」
「……っ! 」
一瞬、心臓が凍りつくかと思った。……ついに、王が来たのだ。
アルスは手が震えるのをこらえながら、兵長と息を合わせて扉を開けた。
従者がひょこっと姿を表すと、大広間全体に響くように叫んだ。
「陛下が入場されまーーす! 皆様、盛大な拍手でお迎えくださーーい! 」
王のシルエットが大広間の通路にヌッと現れた。
客席の視線が一斉に王に注がれた。同時に、拍手をするために両手を持ち上げた。
カストルたちも、邪魔にならぬようにそそくさと脇に退けた。
……拍手は、起きなかった。
誰しもが、時が止まったかのように動きを止めたのだ。
それは、アルスも同じだった。
大広間に現れた王は、痩せこけて生気を失い、別人のように変わり果てた姿をしていたのだ。
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