第86話 大広間へ
【前回までのあらすじ】
ジルはココの本音を引き出すため、何度もココに問うのだった。
最初は反発していたココだったが、お香を吸い込みだんだ限界を迎えていく。
ようやく本音を聞き出せたジルは、
「私たちが、苦しみから解放してあげるわ! 」といい、その場を去る。
階段を降りていたときに、ジルは意識を失い、倒れそうになる。
そこへ駆けつけたのは、王宮へ戻ってきたカストルだった。
「……う、うそ……。どうし、て……戻ってきた、の……? 」
目の前に現れたカストルは、ジルを間一髪で救えたこと、そして無事再会できた喜びから、にこやかに微笑んでいた。
「ジル、ただいま! 遅くなってごめん。
ジルに言われた通り、隊長にも会えたし、ハヤブサ大会で優勝したギルアにも会えたよ! 」
カストルの隣に、カストルと同じくらいの歳の少年がいた。
視界が霞んではっきりと顔は識別できないが、黒い髪で目元がくっきりしているのが印象的だ。
腕に黒い鷲を留まらせている。
「はじめまして。僕はギルアと申します。
あなたがジルさんですね。カストルからいろいろと事情は聞きました。
あなた1人で、随分と苦労をされたことでしょう。
僕もあなたたちに協力させていただきます。
ひとまず、この場所は人目につくので危険です。
具合が悪そうなので、どこかに休ませられるところがあればいいのですが……」
ジルはこの少年が、カストルよりも大人びている印象を受けた。
丁寧な言葉で相手を気遣うことができ、なおかつ冷静に状況を読み取ろうとしている。
温室育ちのカストルとは対称的に、何らかの場数を踏んできているかのようだ。
ハヤブサ大会に鷲で挑み、優勝したというのも興味深い。
一体、この少年は何者なんだろうか……?
「ありがとう……ギルアさん。
あなたを、巻き込んでしまったことは、申し訳なく思っているわ……。
カストルから聞いたとは思うけど、今大変な状況になっているの。
……カストル。私は地下牢で、アルスと兵長たちを救出したわ。
地下で見張りについていた兵は、すべて兵長たちが、捕らえてくれたの。
途中で、ガベリー隊長が地下牢に連れてこられたんだけど、今はもう無事よ……」
「……よかった。アルスも兵長も、そして隊長も無事なんだね!
ジル、本当にありがとう! 」
「……それでね、リンは今、大広間の隣の部屋にいるみたいなの。
アルスが、先に大広間に向かってるわ……」
「わかった! ちょうど僕らも大広間へ行く予定だったんだ!
……でも、ジルを放っておくことはできないよ! 一体、何があったの? 」
「さっき、アルスと2人で、王の部屋に行ったら、侍女のココが来て……。
お香を、吸いすぎてしまったみたい……。
しばらく風に当たれば大丈夫なはずだけど…… 」
ジルはまたもや目眩を起こし、ふらついた。
「……ジル!! 」
「……大丈夫よ。しばらく休めば、すぐに動けるわ……。
この近くに、誰もいない部屋があるみたい。少しの間、そこに隠れることにするわ。
あなたたちは、先に大広間に行ってて。
……そうだわ。先に伝えておくわね。実は…………」
「……え……? ええっ、そうなの? ……それなら安心だ!
実は、僕らにも作戦があるんだよ。うまく中に入れたらいいんだけど……。
ジルも、どうか気をつけてね」
「ありがとう。あなたたちも、気をつけて……」
カストルとギルアは大広間を目指した。
ジルは2人の姿が見えなくなるのを見届けてから、壁をつたいながら、近くにある部屋の中に入った。
質素な作りのベッドが6つ並んでいる以外には、家具らしいものは何もない部屋だった。
客室ではなく、ここで働く従者たちの部屋のようだ。
一日中働いたあと、寝るためだけに戻ってくる場所なのだろう。
(従者たちの部屋……。式が終わるまでは、誰も戻ってこないはずだわ……。
気分がよくなるまで、しばらくの間、ここに身を潜めていましょう)
ベッドの縁にもたれかかりながら、奥の壁にある窓まで近づいていった。
窓の向こうには、満天の星空と、遠くまで広がる砂漠が見えた。
ここは街とは反対側、すなわち王宮の裏側にあたるのだろう。
手前には “北の遺跡”があると思われる渓谷も見える。
窓を開けると、心地よい風が入り込んできた。
パラパラパラ……。
どこからかページを繰るような音が聞こえてきた。
(何の音かしら……? )
音のした方を探してみると、窓際に近いベッドの下に、一冊の本のようなものが落ちていた。
表紙は立派なカバーだが、ずいぶん月日が経っているのかボロボロに破れている。
破れているというよりも、火が燃え移ってしまい、必死に鎮火させて守り抜いたようにも見える。
ページをめくると、ところどころ焼け跡などで読みにくいが、日記のようなものが書かれていた。
「……こ、これって……!? 」
◇◇
一方、カストルとギルアは、大広間を目指してそろりそろりと進んでいた。
ありがたいことに従者や兵とは一度も遭遇しなかった。
ここでカストルは、気になっていたことを口に出した。
「……ギルア。一緒に協力してくれるのはありがたいんだけど、本当に大丈夫?
君は一応一般人だし、場合によっては命の保証はないかもしれないし……」
「ああ、そのことなら大丈夫です。
僕とエスペルは小さいときからずっと一緒ですから、ちょっとやそっとじゃ負けませんよ」
ギルアは隊長の家でも言ったことと同じ言葉を返した。
「いや、うーん……。そうかもしれないけどさ……」
この手の話になると、どうも会話が噛み合わない。
ギルアの「大丈夫」と言い切る自信も、一体どこから来ているのかもわからない。
いろいろ不安に思う部分はあったが、これ以上話しても平行線になる気がしたので、カストルは深追いしないことにした。
「……わかった。でも、危ないと思ったら逃げるんだよ」
「はい。カストルも、危険だと思ったら逃げてくださいね。
なるべく僕もお守りするようにしますから」
「う……うん……」
嬉しいようで、でも不安なような……。複雑な気持ちが渦巻くばかりだった。
◇◇
ジルと再会する少し前、カストルとギルアはラクダ小屋の隠し通路を通って、王宮に戻ってきた。
先王の部屋は人気もなく真っ暗で、ほこりっぽさとカビ臭さで満ちていた。
「ここが王宮の中ですね……」
2人は扉の向こう側に誰もいないことを確認してから、部屋を出た。
この時に、お互い真っ黒に汚れていることに気づいた。
「ギルア、君真っ黒だよ」
「ほんとですね……。あの通路を通るだけでここまで汚れるんですね。
でも、これで暗闇に紛れながら進めますね! 」
「……え? どうするつもり? 」
「こうするんですよ」
ギルアは近くに灯っていたろうそくの灯りに息を吹きかけた。
今いる部分がフッと薄暗くなった。
夜だからこそ、真っ黒に汚れている身だからこそ、通用する手段であった。
「この調子で通路の灯りを消していけば、誰にも気づかれずに進めるはずです」
「なるほど、確かにそうだ! 君って賢いんだね! 」
「ありがとうございます」
「ピィ……」
エスペルがささやくように鳴いた。
「カストル、エスペルが大広間の方から声がするって言ってます 」
「え……? 大広間から? 」
「大勢の人が集まってるみたいです。がやがや騒がしい……。
もしかしたら、そこで結婚式が行われるのでは? 」
「そうか! そこにいけば、リンを助けられるかもしれない! 」
アルスとジルのことも気になるけど…… 」
「そうだ、僕にいい考えがありますよ」
「え、なになに……? ……なるほど、それはいい考えかも!
……でも、大丈夫? 」
「なんとかなりますよ。僕を信じてください 」
◇◇
――そんなこんなで大広間へ向かっている途中で、ジルと再会できたわけだ。
「作戦、成功するといいね」
「そうですね。あとはエスペルの機嫌次第でしょうか……」
「な、なるほどね……」
◇◇
一方、アルスは大広間の近くまでやってこれた。
わいわいと騒がしい声が漏れているのを聞く限り、大勢の人が集まっているようだ。
入り口の周辺には、兵が等間隔に立って見張りをしている。
厳重な警備を敷くのは当然だった。なぜなら、これから陛下の結婚式が開かれるのだから……。
「これじゃ近づけないなあ……。何か方法はないかな……」
そのとき、背後からヌッと手が伸びてきて、いきおいよく後ろに引っ張られた。
「!!!(しまった……)」
その力があまりにも強く、抵抗してもほどけないほどだった。
そのまま近くの部屋に強引に引っ張って行かれ、ガチャリと扉が閉められた。
――果たして、アルスの運命やいかに……?
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