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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第86話 大広間へ

【前回までのあらすじ】


ジルはココの本音を引き出すため、何度もココに問うのだった。

最初は反発していたココだったが、お香を吸い込みだんだ限界を迎えていく。

ようやく本音を聞き出せたジルは、

「私たちが、苦しみから解放してあげるわ! 」といい、その場を去る。


階段を降りていたときに、ジルは意識を失い、倒れそうになる。

そこへ駆けつけたのは、王宮へ戻ってきたカストルだった。

「……う、うそ……。どうし、て……戻ってきた、の……? 」


 目の前に現れたカストルは、ジルを間一髪(かんいっぱつ)で救えたこと、そして無事再会できた喜びから、にこやかに微笑(ほほえ)んでいた。


「ジル、ただいま! 遅くなってごめん。

ジルに言われた通り、隊長にも会えたし、ハヤブサ大会で優勝したギルアにも会えたよ! 」


 カストルの隣に、カストルと同じくらいの歳の少年がいた。

 視界が(かす)んではっきりと顔は識別できないが、黒い髪で目元がくっきりしているのが印象的だ。

 腕に黒い鷲を留まらせている。


「はじめまして。僕はギルアと申します。

あなたがジルさんですね。カストルからいろいろと事情は聞きました。

あなた1人で、随分(ずいぶん)と苦労をされたことでしょう。

僕もあなたたちに協力させていただきます。


ひとまず、この場所は人目(ひとめ)につくので危険です。

具合が悪そうなので、どこかに休ませられるところがあればいいのですが……」


 ジルはこの少年が、カストルよりも大人びている印象を受けた。

 丁寧(ていねい)な言葉で相手を気遣(きづか)うことができ、なおかつ冷静に状況を読み取ろうとしている。

 温室育ちのカストルとは対称的に、何らかの場数(ばかず)を踏んできているかのようだ。

 ハヤブサ大会に鷲で挑み、優勝したというのも興味深い。

 一体、この少年は何者なんだろうか……?


「ありがとう……ギルアさん。

あなたを、巻き込んでしまったことは、申し訳なく思っているわ……。

カストルから聞いたとは思うけど、今大変な状況になっているの。


……カストル。私は地下牢で、アルスと兵長たちを救出したわ。

地下で見張りについていた兵は、すべて兵長たちが、捕らえてくれたの。

途中で、ガベリー隊長が地下牢に連れてこられたんだけど、今はもう無事よ……」


「……よかった。アルスも兵長も、そして隊長も無事なんだね!

ジル、本当にありがとう! 」


「……それでね、リンは今、大広間の隣の部屋にいるみたいなの。

アルスが、先に大広間に向かってるわ……」


「わかった! ちょうど僕らも大広間へ行く予定だったんだ!

……でも、ジルを放っておくことはできないよ! 一体、何があったの? 」


「さっき、アルスと2人で、王の部屋に行ったら、侍女のココが来て……。

お香を、吸いすぎてしまったみたい……。

しばらく風に当たれば大丈夫なはずだけど…… 」


 ジルはまたもや目眩(めまい)を起こし、ふらついた。


「……ジル!! 」


「……大丈夫よ。しばらく休めば、すぐに動けるわ……。

この近くに、誰もいない部屋があるみたい。少しの間、そこに隠れることにするわ。

あなたたちは、先に大広間に行ってて。

……そうだわ。先に伝えておくわね。実は…………」


「……え……? ええっ、そうなの? ……それなら安心だ!

実は、僕らにも作戦があるんだよ。うまく中に入れたらいいんだけど……。

ジルも、どうか気をつけてね」


「ありがとう。あなたたちも、気をつけて……」


 カストルとギルアは大広間を目指した。

 ジルは2人の姿が見えなくなるのを見届けてから、壁をつたいながら、近くにある部屋の中に入った。

 

 質素(しっそ)な作りのベッドが6つ並んでいる以外には、家具らしいものは何もない部屋だった。

 客室ではなく、ここで働く従者たちの部屋のようだ。

 一日中働いたあと、寝るためだけに戻ってくる場所なのだろう。

 

(従者たちの部屋……。式が終わるまでは、誰も戻ってこないはずだわ……。

気分がよくなるまで、しばらくの間、ここに身を(ひそ)めていましょう)


 ベッドの(ふち)にもたれかかりながら、奥の壁にある窓まで近づいていった。

 窓の向こうには、満天の星空と、遠くまで広がる砂漠が見えた。

 ここは街とは反対側、すなわち王宮の裏側にあたるのだろう。

 手前には “北の遺跡”があると思われる渓谷(けいこく)も見える。


 窓を開けると、心地よい風が入り込んできた。

 

 パラパラパラ……。


 どこからかページを()るような音が聞こえてきた。

 

(何の音かしら……? )


 音のした方を探してみると、窓際に近いベッドの下に、一冊の本のようなものが落ちていた。

 表紙は立派なカバーだが、ずいぶん月日が経っているのかボロボロに破れている。

 破れているというよりも、火が燃え移ってしまい、必死に鎮火(ちんか)させて守り抜いたようにも見える。

 ページをめくると、ところどころ焼け跡などで読みにくいが、日記のようなものが書かれていた。


「……こ、これって……!? 」


◇◇


 一方、カストルとギルアは、大広間を目指してそろりそろりと進んでいた。

 ありがたいことに従者や兵とは一度も遭遇(そうぐう)しなかった。

 ここでカストルは、気になっていたことを口に出した。


「……ギルア。一緒に協力してくれるのはありがたいんだけど、本当に大丈夫?

君は一応一般人だし、場合によっては命の保証(ほしょう)はないかもしれないし……」


「ああ、そのことなら大丈夫です。

僕とエスペルは小さいときからずっと一緒ですから、ちょっとやそっとじゃ負けませんよ」


 ギルアは隊長の家でも言ったことと同じ言葉を返した。


「いや、うーん……。そうかもしれないけどさ……」


 この手の話になると、どうも会話が()み合わない。

 ギルアの「大丈夫」と言い切る自信も、一体どこから来ているのかもわからない。

 いろいろ不安に思う部分はあったが、これ以上話しても平行線になる気がしたので、カストルは深追いしないことにした。


「……わかった。でも、危ないと思ったら逃げるんだよ」


「はい。カストルも、危険だと思ったら逃げてくださいね。

なるべく僕もお守りするようにしますから」


「う……うん……」


 嬉しいようで、でも不安なような……。複雑な気持ちが渦巻(うずま)くばかりだった。


◇◇


 ジルと再会する少し前、カストルとギルアはラクダ小屋の隠し通路を通って、王宮に戻ってきた。

 先王の部屋は人気(ひとけ)もなく真っ暗で、ほこりっぽさとカビ臭さで満ちていた。


「ここが王宮の中ですね……」

 

 2人は扉の向こう側に誰もいないことを確認してから、部屋を出た。

 この時に、お互い真っ黒に汚れていることに気づいた。


「ギルア、君真っ黒だよ」


「ほんとですね……。あの通路を通るだけでここまで汚れるんですね。

でも、これで暗闇(くらやみ)(まぎ)れながら進めますね! 」


「……え? どうするつもり? 」


「こうするんですよ」


 ギルアは近くに灯っていたろうそくの灯りに息を吹きかけた。

 今いる部分がフッと薄暗くなった。

 夜だからこそ、真っ黒に汚れている身だからこそ、通用する手段であった。


「この調子で通路の灯りを消していけば、誰にも気づかれずに進めるはずです」


「なるほど、確かにそうだ! 君って賢いんだね! 」


「ありがとうございます」


「ピィ……」


 エスペルがささやくように鳴いた。


「カストル、エスペルが大広間の方から声がするって言ってます 」


「え……? 大広間から? 」


「大勢の人が集まってるみたいです。がやがや騒がしい……。

もしかしたら、そこで結婚式が行われるのでは? 」


「そうか! そこにいけば、リンを助けられるかもしれない! 」

アルスとジルのことも気になるけど…… 」


「そうだ、僕にいい考えがありますよ」


「え、なになに……? ……なるほど、それはいい考えかも!

……でも、大丈夫? 」


「なんとかなりますよ。僕を信じてください 」


◇◇


 ――そんなこんなで大広間へ向かっている途中で、ジルと再会できたわけだ。


「作戦、成功するといいね」


「そうですね。あとはエスペルの機嫌次第でしょうか……」


「な、なるほどね……」


◇◇


 一方、アルスは大広間の近くまでやってこれた。

 わいわいと騒がしい声が()れているのを聞く限り、大勢の人が集まっているようだ。


 入り口の周辺には、兵が等間隔(とうかんかく)に立って見張りをしている。

 厳重な警備を敷くのは当然だった。なぜなら、これから陛下の結婚式が開かれるのだから……。


「これじゃ近づけないなあ……。何か方法はないかな……」


 そのとき、背後からヌッと手が伸びてきて、いきおいよく後ろに引っ張られた。


「!!!(しまった……)」


 その力があまりにも強く、抵抗してもほどけないほどだった。

 そのまま近くの部屋に強引に引っ張って行かれ、ガチャリと扉が閉められた。



 ――果たして、アルスの運命やいかに……?

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