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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第85話 ココの叫び

【前回までのあらすじ】


リンを救うためジャラーハの部屋に到着したアルスとジル。

意を決して中に入ると、そこには誰もいなかった。

と、そこへココたちが現れ、お香で眠らそうとしてくる。

アルスは大広間へリンを救出しに行き、ジルは1人で相手をすることに。

そしてココたちに問うのだった。

「……あなたたちの夢は、なんですか? 」

「は? ……何を言い出すかと思えば、“夢”ですって……? 」


 ココは(あき)れたように答えた。この状況でそんな馬鹿げた質問をするんじゃないわよ、とでも言いたげだった。

 それでもジルは気にせずに続けた。


「ええ。あなたたちには、夢があるんじゃないかしら?

好きな人と結婚したいとか、他の国に行ってみたいとか」


「そんなもの、ないわ! 」


 ココはキッパリと言い切った。早くジルを足止めしたくてたまらないのだろう。耳を貸す気はさらさらないようだ。


「あら、そう……。残念だわ 」


 ジルはさりげなく返事を返しながら、シュッと弓をひいた。

 矢はココが持つお香に見事命中し、器がゴトンと床に落ちて割れた。


「きゃっ!? 」


 落ちた反動で香りがぶわっと拡散し、ココと従者たちを包み込んだ。


「ううっ……!! 」


 周りの従者たちが痙攣(けいれん)を起こし、バタバタと倒れていった。

 唯一、ココだけが耐性を獲得しているのか、ふらつきながらも立っていた。

 香りの波はジルにも届き、若干のめまいと(しび)れに襲われたが、話を続けることにした。

 口元に布を当てているとはいえ、早めに決着しないと、いつ意識を失ってしまうかわからない。


「あなたたちは、どうしてこんなことをしているの?

……王に利用されてるの、わかってるんでしょう?」


「違うわ! これはあたしたちの意思でしてることよ!」


「……あなたたちの、意思ですって? 」


「そうよ! 何か文句ある? 」


 ココからは反発というよりも、必死さが伝わってきた。

 お香を吸い込んでしまったのか、膝がガクガク震え、表情も強張っている。

 耐性がついているとはいえども、これだけの量を吸い込めばさすがに影響が出るのだろう。

 意識を失い、倒れるのも時間の問題のはずだ。

 しかし、今倒れられては困る。まだ()()()()()()が聞けていないのだ。

 ジルはなおも質問を続けることにした。


「でも、それは本心じゃないんでしょう? 」

  

「……ハ? 本心に決まってるじゃない!

さっきからなんなのよ。夢がどうとか本心じゃないとか…….。

時間がないから、手短にいくわ! ちょっと痛い目にあってもらうわよ! 」


 ココは服の中から短剣を取り出した。

 感情の(たかぶ)りからか、お香の効用からか、ハアハアと呼吸が乱れている。

 おそらく視界も定まってきていないのだろう。何度も(まばた)きをしている。

 短剣を握る手もカタカタと震えている。


(……ここまでして、私を足止めする必要があるのかしら? )


 ジルは再び弓を引いた。矢は短剣に命中し、カランと床に落ちた。


「きゃっ!! ……なにをするのよ! 危ないでしょ! 」


(もう少し長引かせるつもりだったけど、その必要はなさそうね。

ココの意識も長くはもたないはず……。 )


「単刀直入に聞くわ」


「な、何よ! 早く言いなさいよ! 」


「あなたは……。王がいなくなれば、自由になれるんでしょう? 」


「……!!? 」


 ココは言葉に詰まった。口をギュッと結び、目を見開いている。

 その様子を見て、ジルの疑惑は確信に変わった。

 侍女をしているといえども、まだあどけなさが残る少女であることに変わりはない。

 確信を突かれると隠し通せなくなり、焦って冷静に判断できなくなるのだ。


「あなたたちは、本当はこんなことしたくないはずよ」


「そ、そんなこと……ないわ……。

あ……あなたに、何がわかるっていうのよ……? 」


 ココは明らかに動揺していた。

 ジルはなおも(たた)み掛けることに(てっ)した。


「もう終わらせましょう。あなたたちは、これ以上苦しむ必要はないのよ」


「…… わ、わけわかんないこといってんじゃないわよ!

どうしてそんなことが言えるの!? あたしの何がわかるって言うのよ!? 」


 ココは金切り声でまくし立てるように叫んだ。

 対してジルは冷静に返した。


「どうして、って……。あなたたち、気づかないの?

あなたたちは……。とても、悲しい顔をしているのよ! 」


「……ッ!!? …… 」


 ココはハッと目を見開き、無言になった。

 ジルはさらに続けた。


「こんなこと、本当はしたくないんでしょう?

……(おど)されてるの? 弱みを握られてるの? 捨てられると、どん底まで落とされるというの?

そうならないために、必死に王の命令に従って、すがりついて、やりたくもないことを、やらされてるんでしょう。


……そんなの、苦しいに決まってるじゃない!

どんなに強がったって、現状が良くなることはないわ!

今の王が王である限り、あなたたちはその身がどうなろうといつまでも利用され、その手を、心を、汚し続けることになるのよ!


もう一度言うわよ。本当は、こんなことしたくないんでしょう。

王がいなくなれば、自由になれるんでしょう? 」


「う……うわ……うわあああああ!!! 」


 ココはペタンと床に座りこみ、泣き叫んだ。その姿は幼い少女そのものだった。

 ジルは少し安堵(あんど)した。ようやく、()()を聞けたのだ。


「あああ……あたしだって……、ほんとは、こんなこと……。

し……したくない……。したくないよ……!

でも……親に捨てられた、あたしには……! 行く当てなんか、どこにもなくって……。

……サラーハ様が……運良く、拾ってくださらなかったら……! あたしは……今ごろ…… 」


「……サラーハ様ですって? 」


 ジルは思わぬ人の名前が出てきたので、ドキッとした。先ほど地下でその人の話を聞いてきたばかりだ。

 

〈陛下の弟でありながら、陛下や父上のやり方に賛同できず、貧しい民に手を差し伸べてきた、優しい人でした。〉


 ココも、サラーハに救われた1人だったのだ。


「あたし……、サラーハ様の、侍女として、仕えることに、なって……。

命の恩人のためなら……どんなに大変な仕事も……乗り越えることが、できた……。

サラーハ様に、喜んで……いただけるのなら……。

でも、10年前……サラーハ様が突然、行方不明に、なられて……。

そこに、陛下が来られて……。こう言われたんです……。

『捨てられたくないなら……俺様に従え! ……一生、可愛がってやる』って……!


あたしたちは……必死に食らいついた。ナツメも、ここにいる子たちも……。

王に殺されないために、みんな、必死に、必死に、必死に、必死に……。

あああ……うわああああああああ!!! 」


 ココは胸の内を打ち明けると、とたんに床に崩れて泣きじゃくった。

 もはや目の前のココは脅威(きょうい)ではなかった。ただのあどけない少女の1人だ。

 王に(おど)され、やりたくもない仕事をやらされている、可哀想な少女の1人なのだ。


 ジルは、煮えたぎる思いをどうにか沈め、絞り出すように言った。


「私たちが、……変えてみせるわ! 」


「……え? 」


 ココが顔を上げた。真っ赤に泣きはらした目が、ジルを見据えていた。


「私たちが、苦しみから解放してあげるわ! 」


「……そんなこと……。そんなこと、できるはずないわ!

陛下やこの王宮の人たちが、どれだけ厄介な人かわからないの!?

今までに、どれだけの人が命を落としてきたと思うの!? 」


「いいえ、大丈夫よ。きっと、物事はいい方向に進むから。私を信じて! 」


「……とても……信じられないわ 」


「うん……。ま、それでもいいわ。

だけど、信じてみて。私たちのことも。そして、あなた自身も。

人は、強く願えば必ず変われるものよ。

1人、2人、3人と増えれば増えるほど、大きな石をも動かす原動力になるんだから」


「…………」


「じゃ、私はいくわね」


 ジルは部屋から出ていこうとした。


「あの、ジルさん……」


 ココが呼び止めた。


「リンさんは……。大広間の隣の部屋で、ナツメたちと一緒にいるわ。

まだ意識が戻ってないけど、そろそろ効果が切れるはず…… 」


「そう……。教えてくれてありがとう。

……このお香、ずいぶん強烈よね。

扉を開けておくから、早く外の空気を吸ったほうがいいわ。

あなたもこの子たちも……。ここで死ぬような(うつわ)じゃないでしょう? 」


 この言葉に、ココは思わず笑顔になった。

 ジルはそれを見て微笑むと、部屋を後にした。


◇◇


 少しして、ココは床を()いずりながら、部屋の外に出ることができた。

 任務には失敗した……。完全な敗北だ。でも、心は不思議と晴れ渡っていた。


 「人は、強く願えば、必ず変われる……。あたしも、変われるかな…… 」


◇◇


「まずい……。お香を吸いすぎたようだわ……」


 ジルは2階に降りる階段の途中で、猛烈(もうれつ)なめまいに襲われた。

 もはや手足の感覚も麻痺(まひ)してきている。視界もぼやけ、何重にも重なった世界が見えている。


「ここで……倒れちゃ、だめ、なのに……」


 リンを助けに行かなきゃいけないのに。アルスの杖も取り戻さないといけないのに。

 カストルも。兵長も。地下牢のみんなも。まだ、誰も救えていないのに……。


 何度も意識を保とうとしたが、もはや限界を迎えていた。

 フッと目の前が真っ暗になり、階段を踏み外してしまった。


(あ……、落ちる……)


 ぼんやりした意識の中、そう思った。

 すべてがスローモーションに移り、ゆっくりと世界が反転する……。 

 もはや、これまでのようね……。

 


「――危ない!! 」


 薄れる意識の中、とっさに誰かが支えてくれた。

 手の温もりが伝わってくる。階段を転がり降りずに済んだようだ。


「ジル、よかった! 無事みたいだね! いやー、冷や冷やしたぁ……」


「……う、うそ……。どうし、て……戻ってきた、の……? 」


 目の前には、にこやかに微笑むカストルの姿があった。


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