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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第84話 王の部屋へ

【前回までのあらすじ】


地下牢から上へあがろうとしたアルスとジルは、入り口のところで隊長と出会う。

隊長はカストルと接触したあと、同行の許可をもらうため、

王宮にきたところを捕まったのだという。

その後パームと隊長が昔からの知り合いだということがわかる。

アルスたちはパームに地下牢をまかせて、地上にあがるのだった。

 地下牢を抜け出したアルスとジルは、最上階にある王の部屋を目指した。


 おそらくそこにリンがいるはずだし、王とも接触できるはずだと踏んだのだ。

 今までの出来事から推察(すいさつ)するに、話し合いで解決できる相手だとは到底(とうてい)思えなかった。

 兵や従者など、この王宮にいる全ての人に王の息がかかっているのだから、あの手この手で妨害(ぼうがい)してくるのは目に見えていた。

 どうにかして杖を取り戻して、みんなでこの国を抜け出せれば……。

 あとは、苦しんでいる人たちも救ってあげないと……。


◇◇


 上の階に向かう間、ジルはどこからか聞こえてくる声に従って動いていた。

 アルスは初めこそ半信半疑だったが、兵や従者との接触を何度かやり過ごすうちに、やがて確信に変わり始めた。

 

「次の角から兵が来てる。そこの部屋に入れば見つからないわ」

「あの通路は従者がよく通ってるから、別のルートでいきましょう」


 果たしてそのとおりに、誰にも遭遇(そうぐう)することなく上の階に上がることができたのだ。

 そして今、2人は3階の王の部屋の前に到達している。

 ひときわ立派で重厚な扉。……ここで、間違いなかった。


「アルス、準備はいい? 」

「……うん、もちろんだよ」


 ジルは弓を、アルスもメラクからもらった短剣をいつでも出せるように構えていた。

 短剣を使うのはこれが初めてだった。()の部分には、何かを(かたど)った細かい装飾が掘られている。

 メラクがよほど大切にしていたものなのか、経年劣化(けいねんれっか)で装飾がところどころ消えかけている。


(そういえば…… )


 アルスは、メラクが一度だけこの短剣を使おうとしていた瞬間があることを思い出した。


 それは、アルスがまだ幼かった頃のことだ。

 真冬の夜に突然高熱を出し、生死を彷徨(さまよ)ったことがあった。

 普段はのほほんとしているメラクが、この時ばかりは人が変わったように慌ただしく動いていた。

 水瓶(みずがめ)から水を()んできたはいいが、床につまずいてぶちまけてしまったり。

 ホットミルクを飲まそうとして、スプーンを口に運ぶ途中で手が震え、何度もこぼしてしまったり。


 あのときのメラクは、明らかに動揺(どうよう)し、焦り、冷静さを失っていた。


 運悪く薬草も切らしていたので、まさに発狂寸前(はっきょうすんぜん)だったに違いない。

 翌朝、偶然通りかかった商人の馬車に声をかけ、遠くの村にいる医者に見せに行くことになった。

 馬車をとばしても半日はかかる距離だ。

 さらに、高い診察費や薬代を払えるだけの金も持ち合わせていなかった。

 ()むを得ず大事にしまっていた骨董品(こっとうひん)などを売り払って工面(くめん)するしかなく、馬車の中は大量の物で(あふ)れかえっていた。

 少しでも治療費の足しになればいいと思ったのだろう。

 その中にこの短剣も含まれていたが、移動中に何度も手に取ったり置いたりを繰り返し、相当悩んでいる様子だった。


 その後のことはよく覚えていないが、村の長老がメラクの知り合いだとかで治療費は全額免除(めんじょ)され、骨董品(こっとうひん)や短剣は売らずに済んだのだ。


 ……その短剣を、ついに活用するときが来たようだ。杖をなくした今、頼れるのはこの短剣しかない。



 ギィィィィ……。


 扉がゆっくりと開いた。程なくして、甘ったるい香りが鼻をついた。

 ジルがとっさに眉間(みけん)にしわを寄せ、鼻を抑える。


「この匂い……!アルス、気をつけて。なるべく()がないようにして。

……意識を奪われる可能性が高いわ……」


「……わかった」


 2人は警戒しながら、おそるおそる中に入った。中は静かで、そして真っ暗だった。

 広い部屋には、床に大きな絨毯(じゅうたん)が一面に敷かれていた。

 金の細工が施された大きなテーブルと椅子が置かれており、山積みの果物が盛られている。

 床には食べこぼしが散乱し、そうとう自由気ままで贅沢な暮らしをしている様子だった。

 部屋の奥には、金の縁取りが美しい大きな天蓋(てんがい)付きのベッドが備え付けられていた。

 枕やシーツは千切れてボロボロになっていたり、中の羽毛が散乱していたりして、王の性格の激しさを物語っていた。


 部屋の奥まで足音を立てぬように侵入したが、人の気配は感じられなかった。


「リン……? 」


 ジルが小声で探るように発してみたが、それは暗闇に吸い込まれるように消えていった。

 部屋には完全に誰もいない様子だった。


「リンも王もいないわ。……どこかに移動したのかしら」


「残念でしたー★ ここには陛下もリン様もいませんよ★ 」


 背後から若い声がした。バッと振り返ると、侍女のココが数名の従者を引き連れて立っていた。

 にやりと曲げた口元が、不気味さを(かも)し出している。


「……コ、ココさん……? 」


「陛下とリン様は、もうすぐ結婚式が始まるので、大広間に行かれました★

お二方ともとびっきり美しい衣装を身に(まと)って、大勢の親族の前で永遠の愛を誓うんです★

ま、後日あなたの式も挙げるわけですけども……。


でも、おかしくないですかー?

あなた……部屋で意識を失ってたはずでしょ?

あのお香で立っていられるのは、幾分か耐性がついてるあたしたちだけですもの★


そこの殿方(とのがた)も……牢屋に入れられたんじゃなかったでしたっけー?

あそこから出るのも不可能なのに、どうやってここまできたんですかねー?


……ま、ちょうどいいわ★ 2人まとめて、大人しく眠ってもらうから★」



 ココを含め従者たちは、それぞれにお香を手にしており、息が詰まりそうなほどの香りが部屋中に充満していた。

 それに、先ほどとは若干質が違う気がする……。

 肌がヒリヒリと(しび)れ始めた。弱い毒を混ぜているのだろう。

 ……長居は禁物だ。おそらく睡眠作用だけでは済まない代物(しろもの)だろう。


「アルス、ここは私に任せて! あなたは大広間へ行って、リンを助けてちょうだい」


「ええ……? ジルはどうするの? 」


「私は、この人たちに聞きたいことがあるの。止むを得ない場合、弓を使わせてもらうわ。

……だから私のことは大丈夫。終わり次第、すぐに向かうから」


「……わかった。くれぐれも気をつけて」


 アルスは駆け足で部屋を出ていった。すかさず従者が後を追おうとした。


「あなたたちの相手は私よ!」


 ジルは口元に布を巻き、極力(きょくりょく)香りを吸わないようにした。


「あなたたちに、聞きたいことがあるんだけど……」


「なあに? 今はそれどころじゃないんだけど……。ま、いいわ。 一応聞いてあげる★」


「そう、ありがとう……」


 ジルはそう言うと、弓矢を下ろした。そして、にこやかにこう聞いた。


「……あなたたちの夢は、なんですか? 」


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