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光の杖のアルス  作者: 伏神とほる
第9章 オアシス国家ダルウィン
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第82話 パームの話

【前回までのあらすじ】


路地の奥まで進んだギルアは、誰もいないのを確認すると、

鷲に自分の魂を乗せて飛行することに。

王宮の周辺で情報を得ようとしていたときに、

地下の方から有力な情報を得て、急いで路地へ戻る。

路地でカストルと合流したあと、王宮へ忍びこむことにするのだった。


 時は少し戻る――。


 地下牢でアルスと兵長たちを救出したジルは、隣の牢の女性から声をかけられた。


「私たち、陛下の親族の者なんですが……。

旅のお方、どうか私たちの話をきいてもらえないでしょうか? 」


「は、はい……」


 アルスとジルは互いに顔を見合わせつつ、隣の牢に歩み寄った。


「ありがとうございます。私は、パームと申します。

ジャラーハ陛下の弟、サラーハ・カラクームの妻です。

ここに捕まっているのは、私の家族と息子です」


 牢の中には初老の父母や兄弟、そして10歳くらいの少年の姿があり、(うつむ)いたり、アルスとジルを不安気に見上げたりしていた。


「パームさん、ですね」


 アルスとジルは同じ目線になるようにしゃがみこんだ。


「はい。私たちは罪を犯したわけでもないのに、数日前ここに連れてこられました。

陛下が突然癇癪(かんしゃく)を起こされ、理不尽な理由で入れられたのです。

あなたたち自身も……。どうして捕まえられたのか、わからないでしょう? 」


「は、はい。それはもう……」


 アルスとジルは顔を見合わせ、困ったようにうなずくことしかできなかった。

 その様子を見て、パームは話を続けた。


「地下牢にいる兵をすべて捕まえてくれたあなたたちを見込んで、真実をお伝えしましょう……。

この国の歴史のことです……」

 

 パームは話し始めた。

 


ーーーーーーーーーー


 この砂漠の各地に住んでいた人たちが、オアシスができたのを機に定住し、街を築きました。

 

 富を得たラハーリ・カラクームが、この街に秩序(ちつじょ)をもたらし、民からの要望もあって王になりました。

 王が亡くなったあと、息子のインクム・カラクームが即位しましたが、次第に欲に(おぼ)れていきました。

 富を民に分け与えずに、自分と親族たちで独占するようになったのです。


 民たちは貧しくなり、亡くなる者が増えていきました。

 キャラバン隊を利用して、国を出ていく者もいました。

 

 王はある時から、他国の人を利用し始めました。

 女性は強制的に結婚させられ、男性は奴隷で酷使(こくし)、または殺されていきました。

 そのため、故国へ戻る人は1人もいませんでした。


 その後王が亡くなり、今の王が後を継ぎました。

 有り余る富から自分を神同然と思い込み、悪政を敷くばかり……。

 民の唯一の救いだった神殿を破壊し、女神像をオアシスに投げ入れてしまいました。

 遺跡には、街に居場所をなくしたゴロツキどもが住み始めるようになり、誰も近づかなくなりました。

 さらに王は、ゴロツキたちすら利用しているという噂があります。

 

ーーーーーーーーーー


 話をきいたアルスとジルは、何も言葉を発せなかった。思い当たる節が山積みだった。

 

「これが、この国の真の姿なんです。

私の夫、サラーハ・カラクームは……。陛下の弟でありながら、陛下や父上のやり方に賛同できず、貧しい民に手を差し伸べてきた、優しい人でした。

民からの信頼はもちろん厚く、時期王として望む声が高まっていました。

しかし、陛下の怒りを買ってしまい、10年前、行方知れずとなりました……」


 パームは肩を震わせ、顔に両手を当てた。彼女の母と思しき人が、優しく背中をさすっている。

 パームは喉を震わせながら、話を続けた。


「私たちは王宮からも追放され、路地裏でひっそりと暮らすことになりました。

しかし、数日前に兵たちが押しかけてきたんです。

陛下が「命を狙われている」と思い込みになられて、わけもわからず、ここに入れられた次第です。

この子もまだ小さいというのに……」


 パームはそばにいる少年を抱き寄せた。

 

「ここに囚われている人は、全員無実の罪で入れられている人たちです。

中には見せしめのために片腕・片足を切断された人もいます。

私たちもいずれ、厳重な処罰を受けることでしょう……。

でも、愛する夫の元に行けるのであれば、それが一番の幸せなのかもしれません……」


 パームは涙をぬぐった。


「あなたたちは、これから上に向かわれるんでしょう?

ここの衛兵たちだけでなく、陛下の側近の親族たちも……。皆、何をしてくるかわかりません。

今までに、この国を抜け出せた旅の人はおりませんから……。

どうか、気をつけてください。


最後に、このような私たちの話を聞いていただいて、ありがとうございました。

あなたたちに、イレニア様の加護がありますように……」



 パームとその家族は、両手を組み、頭を地につけるように伏しかがんだ。

 大地の女神・イレニアに捧げる、この国独自の祈りの姿なのだろう。


 アルスは、パームから聞かされたこの国の歴史を思い返しながら、人々が代々受けた苦しみ、そして目の前のパームたちが味わった理不尽な苦しみに胸が痛んだ。

 それと同時に、ふつふつと怒りが湧き上がってきたのも事実だ。

 どうにかしてこの人たちを助けてあげたい。でも、僕たちに何ができるだろうか……?



「……いえ、まだ終わっていませんよ」


 ジルがにこやかに言った。


「え……? 」

 

 パームたちが驚いたように顔を上げた。

 ジルは鍵の束を取り出すと、パームたちの牢の扉を開けた。

 パームたち全員が開け放たれた扉に目を見開き、続いてジルを見つめた。


「あなたは、私たちを信じて大切な話をしてくださいました。

それは大変勇気のいることです。並大抵(なみたいてい)の人にはできません。

あなたのような勇敢な人たちこそが、この国を治めるべきなんです」


「え……? どういう、こと……ですか? 」


 パームはまだ事態が飲み込めず、うろたえている様子だった。

 ジルはパームの両手に鍵の束を包み込むように渡した。


「あなたに、この鍵を(たく)します。

どうか、ここに(とら)われている人たちを全員出してあげてください。

兵たちは牢に閉じ込めていますので、出てくることはありません。安心してください。

親族のラマッカンも、拷問室(ごうもんしつ)に閉じ込めています。


皆さんは、事が終わるまで、この地下牢に隠れていてください。

必ず……。必ず、迎えに来ますから」


「で、でも……そんな……」


 パームは鍵の束を受け取ったあとも、手が震え、動けずにいた。

 ジルは話を続けた。


「私たちは、これから陛下の部屋に向かいます。

大切な仲間を取り戻すために……。

旅人の私たちにできることは限られていますが、あなたたちの力になれるのならば、全力を尽くしたいと思っています」


 ここでパームはようやく理解し、涙をボロボロと流した。


「あああああ……。な、なんてこと……。

ありがとうございます……。ありがとうございます……。

必ず、言われた通りに、牢の人たちは解放しますので……。

どうか……。どうか、お気をつけて……」



 アルスとジルは何度も会釈(えしゃく)をし、その場を後にした。

 

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