第82話 パームの話
【前回までのあらすじ】
路地の奥まで進んだギルアは、誰もいないのを確認すると、
鷲に自分の魂を乗せて飛行することに。
王宮の周辺で情報を得ようとしていたときに、
地下の方から有力な情報を得て、急いで路地へ戻る。
路地でカストルと合流したあと、王宮へ忍びこむことにするのだった。
時は少し戻る――。
地下牢でアルスと兵長たちを救出したジルは、隣の牢の女性から声をかけられた。
「私たち、陛下の親族の者なんですが……。
旅のお方、どうか私たちの話をきいてもらえないでしょうか? 」
「は、はい……」
アルスとジルは互いに顔を見合わせつつ、隣の牢に歩み寄った。
「ありがとうございます。私は、パームと申します。
ジャラーハ陛下の弟、サラーハ・カラクームの妻です。
ここに捕まっているのは、私の家族と息子です」
牢の中には初老の父母や兄弟、そして10歳くらいの少年の姿があり、俯いたり、アルスとジルを不安気に見上げたりしていた。
「パームさん、ですね」
アルスとジルは同じ目線になるようにしゃがみこんだ。
「はい。私たちは罪を犯したわけでもないのに、数日前ここに連れてこられました。
陛下が突然癇癪を起こされ、理不尽な理由で入れられたのです。
あなたたち自身も……。どうして捕まえられたのか、わからないでしょう? 」
「は、はい。それはもう……」
アルスとジルは顔を見合わせ、困ったようにうなずくことしかできなかった。
その様子を見て、パームは話を続けた。
「地下牢にいる兵をすべて捕まえてくれたあなたたちを見込んで、真実をお伝えしましょう……。
この国の歴史のことです……」
パームは話し始めた。
ーーーーーーーーーー
この砂漠の各地に住んでいた人たちが、オアシスができたのを機に定住し、街を築きました。
富を得たラハーリ・カラクームが、この街に秩序をもたらし、民からの要望もあって王になりました。
王が亡くなったあと、息子のインクム・カラクームが即位しましたが、次第に欲に溺れていきました。
富を民に分け与えずに、自分と親族たちで独占するようになったのです。
民たちは貧しくなり、亡くなる者が増えていきました。
キャラバン隊を利用して、国を出ていく者もいました。
王はある時から、他国の人を利用し始めました。
女性は強制的に結婚させられ、男性は奴隷で酷使、または殺されていきました。
そのため、故国へ戻る人は1人もいませんでした。
その後王が亡くなり、今の王が後を継ぎました。
有り余る富から自分を神同然と思い込み、悪政を敷くばかり……。
民の唯一の救いだった神殿を破壊し、女神像をオアシスに投げ入れてしまいました。
遺跡には、街に居場所をなくしたゴロツキどもが住み始めるようになり、誰も近づかなくなりました。
さらに王は、ゴロツキたちすら利用しているという噂があります。
ーーーーーーーーーー
話をきいたアルスとジルは、何も言葉を発せなかった。思い当たる節が山積みだった。
「これが、この国の真の姿なんです。
私の夫、サラーハ・カラクームは……。陛下の弟でありながら、陛下や父上のやり方に賛同できず、貧しい民に手を差し伸べてきた、優しい人でした。
民からの信頼はもちろん厚く、時期王として望む声が高まっていました。
しかし、陛下の怒りを買ってしまい、10年前、行方知れずとなりました……」
パームは肩を震わせ、顔に両手を当てた。彼女の母と思しき人が、優しく背中をさすっている。
パームは喉を震わせながら、話を続けた。
「私たちは王宮からも追放され、路地裏でひっそりと暮らすことになりました。
しかし、数日前に兵たちが押しかけてきたんです。
陛下が「命を狙われている」と思い込みになられて、わけもわからず、ここに入れられた次第です。
この子もまだ小さいというのに……」
パームはそばにいる少年を抱き寄せた。
「ここに囚われている人は、全員無実の罪で入れられている人たちです。
中には見せしめのために片腕・片足を切断された人もいます。
私たちもいずれ、厳重な処罰を受けることでしょう……。
でも、愛する夫の元に行けるのであれば、それが一番の幸せなのかもしれません……」
パームは涙をぬぐった。
「あなたたちは、これから上に向かわれるんでしょう?
ここの衛兵たちだけでなく、陛下の側近の親族たちも……。皆、何をしてくるかわかりません。
今までに、この国を抜け出せた旅の人はおりませんから……。
どうか、気をつけてください。
最後に、このような私たちの話を聞いていただいて、ありがとうございました。
あなたたちに、イレニア様の加護がありますように……」
パームとその家族は、両手を組み、頭を地につけるように伏しかがんだ。
大地の女神・イレニアに捧げる、この国独自の祈りの姿なのだろう。
アルスは、パームから聞かされたこの国の歴史を思い返しながら、人々が代々受けた苦しみ、そして目の前のパームたちが味わった理不尽な苦しみに胸が痛んだ。
それと同時に、ふつふつと怒りが湧き上がってきたのも事実だ。
どうにかしてこの人たちを助けてあげたい。でも、僕たちに何ができるだろうか……?
「……いえ、まだ終わっていませんよ」
ジルがにこやかに言った。
「え……? 」
パームたちが驚いたように顔を上げた。
ジルは鍵の束を取り出すと、パームたちの牢の扉を開けた。
パームたち全員が開け放たれた扉に目を見開き、続いてジルを見つめた。
「あなたは、私たちを信じて大切な話をしてくださいました。
それは大変勇気のいることです。並大抵の人にはできません。
あなたのような勇敢な人たちこそが、この国を治めるべきなんです」
「え……? どういう、こと……ですか? 」
パームはまだ事態が飲み込めず、うろたえている様子だった。
ジルはパームの両手に鍵の束を包み込むように渡した。
「あなたに、この鍵を託します。
どうか、ここに囚われている人たちを全員出してあげてください。
兵たちは牢に閉じ込めていますので、出てくることはありません。安心してください。
親族のラマッカンも、拷問室に閉じ込めています。
皆さんは、事が終わるまで、この地下牢に隠れていてください。
必ず……。必ず、迎えに来ますから」
「で、でも……そんな……」
パームは鍵の束を受け取ったあとも、手が震え、動けずにいた。
ジルは話を続けた。
「私たちは、これから陛下の部屋に向かいます。
大切な仲間を取り戻すために……。
旅人の私たちにできることは限られていますが、あなたたちの力になれるのならば、全力を尽くしたいと思っています」
ここでパームはようやく理解し、涙をボロボロと流した。
「あああああ……。な、なんてこと……。
ありがとうございます……。ありがとうございます……。
必ず、言われた通りに、牢の人たちは解放しますので……。
どうか……。どうか、お気をつけて……」
アルスとジルは何度も会釈をし、その場を後にした。
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